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357・ユシュタファ達に起こってる事

前回のあらすじ


ユシュタファ達を探しに旧市街奥地にやって来たアネット達は、ギガンティスと名乗る不良集団に絡まれる。口論に発展し一触触発かと思われたその時、ユシュタファの声が後ろから聞こえたのだった。

「・・・ぐ ・・・チッ クソが」

「おい 行こうぜ」



 数の不利を一瞬で判断したギガ何とか達は、恥も外聞も捨ててそそくさと退散していった。やっぱり数は偉大だ。人と人とが繋がる意味も分かる。


 でも厄介者を追い払って得意気に余裕を浮かべると思われたユシュタファ達だけど、その胸中にあったのは全く別の感情だった。敵を払った高揚感よりどこか疲れた感じで辟易している。僕の知る刺々しいユシュタファはどこかに鳴りを潜めていた。



「お前等こんな所で何してるんだ」


「お 俺達は兄貴を探してたんだ」

「ああ 俺等も兄貴を手伝いたいっ」



 窮地を救われた少年達は感極まって、ここぞとばかりに感情を吐露する。でもそれを受けたユシュタファの心は微動だにしない。


 心ここにあらず。


 彼等にも不測の何かがあったのか。揃いも揃って心がカラカラに乾いていた。



「危ないだろ 状況分かってんのか」


「分かんないよ でも・・・俺達に何が起こってるのかちゃんと知らなきゃいけないと思ったんだ だから兄貴達を探してたんだっ」


「はぁ 兎に角 お前達が思ってる以上に ここら一帯殺伐としてんだよ 戦えない奴は足手まといなんだ」


「うぅ・・・」



 冷たい言い方だけど戦える人と戦えない人との差は大きい。ルシュディー君達はまだ幼いし先がある。ここで大怪我をしたんじゃ今後の人生に支障をきたすだろう。今回ばかりはユシュタファの意見は正しい。



「でも兄貴 だからってそれで引いたらアーキア人じゃないっ いつでも戦える覚悟を持てって教えてくれたのは兄貴じゃないか!」

「そうだぜ 俺も戦う!」

「俺も!」

「俺もだ!」


「お前等・・・ 分かった そうだったな それでこそアーキア人だ で? アネットとそこの女 珍妙な組み合わせでこいつ等連れて何してんだ」



 彼等の覚悟を真正面から受けて折れないと察したユシュタファは、それを取り繕うように怪訝の矛先を僕達に向けた。下手な事を言おうものなら拳が飛んできそうな声色だけど、僕には取り繕ろう余地がない。


 覚悟を決めよう。



「ぼ 僕はユシュタファに用があるって言うルディアと一緒に君を探しに来たんだ ルシュディー君達とはその 成り行きで・・・」


「兄貴気を付けろ この女貴族なんだって」


「知ってる どうせ録でもない用件なんだろ で? 何だ その用ってのはよ」


「不遜な態度が鼻につくけど まぁいいわ 喜びなさい 私が困ってるあなた達に福音を授けに来たの 皆大人しく私の配下になりなさい」


「はぁ?」



 ギガ何とかとのやり取りの時から不安に思ってたけど、ルディアの思惑ってユシュタファ達を配下にする事だったんだ。


 彼女は彼等との距離感を計れないんだろうか? それとも貴族と言う肩書きには「全ての平民が頭を垂れて当然」と思い込んでるのだろうか。この謎の自信が何処から来るのか僕には謎だけど、疑いなく言ってのけるルディアの思考自体がもはや謎だ。



「ハッ ハッハッハッハッハ! お前そりゃ勧誘する奴間違えてるぞっ お望みのアーキア人が欲しかったらなぁ こんな状況でも何もしないで地べたに座り込んでる奴に声かけろよ」


「冗談 要らないわよそんなゴミ」


「はぁ いいか? 俺達はな 貴族に飼われた集落から抜け出してきた奴等ばかりなんだ 何が楽しくてその檻に戻る? お前が俺等をどう見てるか知らねぇが 鳥でも飼うみたいに俺達を囲えると思うなよ」


「なっ ちょっ・・・話は最後まで聞きなさい!」


「付き合ってらんねぇな 行くぞお前等」



 そう言うとユシュタファは周りを先導して歩き出した。周囲の人達も彼女に同調する者は1人もいない。ルディアの説得は完全に失敗に終わった。この様子だと取り付く島はなさそうだ。


 まぁそれは兎も角として、今のユシュタファ達は重荷を抱え込みすぎてるきらいがある。彼等の原動力が同胞の人権と名誉の為とは言え、このまま突き進めばいつか力尽きてしまいそうな雰囲気を纏っていた。



「ユシュタファ せめてギルドには顔をだそう・・・」



 説得したところで立ち止まりそうにもないし下手な言葉は響かないだろう。ではなんと言って休ませようか。あまり作為を含ませた言い方は得意じゃないんだけど致し方なし。



「ギ ギルドにもさ 有益な情報が入ってると思うんだ それにユシュタファに協力してくれそうな人もいるかもしれないよ? 人手は多い方がいいと思うし・・・ね?」


「これは俺達アーキア人の問題だ 無関係の奴巻き込めるかよ それに そんな悠長な事してる暇はねぇ こうしてる間にも───」

「まぁまぁ ギルドに協力してもらうっての俺はありだと思うぜ?」



 やや投げ槍なユシュタファにターヒルが助け船を出してくれた。彼はユシュタファとは違い柔軟性に富むのか、意図を汲んで僕の話を訊いてくれるみたいだ。


 正直此方も彼等の抱える問題は正確に知っておきたい。



「ねぇターヒル 君達はいったい何に巻き込まれてるの? 何かいつもの君達じゃないみたい」


「毎度いつものいざこざさ 旧市街が急激に変わり過ぎたせいだよ それに適応できない連中が右往左往してんの」

「正しく言うと中途半端に金持ってる奴が中途半端に自己主張し始めて あっちで決起こっちで抗争 それにアーキア人も巻き込まれてんだ」

「ダクプリが壊滅しても幹部連中が資産を管理してた訳じゃないみたいでな 結局黒幕は商人 今回もバカ共使って私腹を肥やそうと画策してるって訳」

「まぁバカ共つっても連中だって生活かかってるからな 必死なのが厄介なんだ 正直言うと手が足りないんだわ」



 ターヒル、ラフィー、ワリードは、いっぱいいっぱいな現状を軽口でも叩くような口調で教えてくれた。持つ者持たざる者の間で生じる問題は、どうあっても人を逃してはくれないらしい。


 今回(てのひら)で踊る人達があのダクプリの残党ともなると、なる程ユシュタファ達だけじゃ人手不足だ。と言うより彼等だけでどうにかなる規模じゃない。


 意地で突っ走るユシュタファを上手く諌めるターヒル達で今は均衡を保ってるけど、崩れるのは時間の問題みたいだ。



「騎士団とかに頼めないの?」


「騎士がいるような場所で問題は起こさねぇよ 捕まるだけだし そう言う点ではやり方を熟知してんだよな あいつ等」

「ゲリラ戦つーの? チマチマやって来たかと思うといきなり大勢で現れたりよ 少数だからって気ぃ抜けないんよ」


「それは・・・怖いね」



 なる程、鍛練もない烏合の衆なんて思ってたけど、考えてみたら町の環境に適応している組織なのだから、騎士団にはない強みがあっても不思議じゃないのか。


 誉める訳ではないけれど、組織体を維持運営してきたノウハウがここで活かされている訳か。ユシュタファ達の神経が削られるのも納得だ。


 そんな人達が相手となると・・・これ単純な喧嘩と思ってたら足を掬われそうな気がする。



「ウフフ 困っているようね 私が協力してあげましょうか? もちろんタダと言う訳にはいかないけど 私の提案に乗っておけば あなた達にもプラスになる事が───」

「お貴族様の出る幕はねぇよ 下々の事は下々で解決するから お貴族様は高みから見物でもしてろよ」


「なっ・・・!」



 ここぞとばかりに会話に混じるルディアを一蹴するユシュタファ。ほんと取り付く島もない。説得材料があるのかもしれないけど空気は読むべき。



「で ディゼルは何してるの?」



 ターヒル達と会話をしてる最中、遠巻きにディゼルの声が聞こえていたので、話の折を見て声を掛けてみた。


 性格は粗暴であるけれど子供の頃はよく皆を引き連れて遊ぶ中心的存在でもあったので、協調性を発揮してユシュタファ達と行動を共にする彼は、その気質がここにきて良い方向に発揮できているのかもしれない。



「何でテメェにそんな事説明しなきゃなんねぇんだよ 面倒くせぇ」



 良い方向に・・・



「ディゼルの兄貴もユシュタファの兄貴を手伝ってるのか?」


「チッ 元々は親父の手伝いしてたんだよ ユシュタファ達とはその途中で合流したんだ 商人共には顔が効くからな あいつ等纏めないと直ぐ悪巧み始めやがるからよ」



 ナイス少年! さしものディゼルも無垢なルシュディー少年の眼差しまで無下にする事は敵わなかったようだ。


 それにしても商人達の価値基準が物事の道理ではなく損得勘定のみと言うのも考えさせられる。もし全ての商人がこれら価値観で形成されているとしたら、いつも通う露店の串焼きも味が変わると言うものだ。



「コイツの顔は裏でちょっとは知られてるからな 町がついてるって肩書きは俺等に有利に働くって訳よ」



 悪い噂も使いようか・・・でもそれどうなんだろ。このやり方は誰かを利用したり利用されたりする因果関係をディゼル自ら根付かせてる気がする。



「まぁ丁度いいじゃん ここらで小休止しとこうぜユシュタファ 流石に連戦はキツいって」


「・・・仕方ねぇ ついでにギルドにも顔出してやるよ 闇雲に走ってもどうしようもねぇし こっちも何か対策考えねぇとな」



「殴って解決が正義」みたいなユシュタファを悩ませる相手となるとその厄介さが伝わってくる。個の強さより数の暴力を目の当たりにして、さしものユシュタファもここにきて頭を抱える事になったようだ。


 僕達も他人事ではない。何せ日常の裏では一般市民が知る由もない戦争が、見えない境界線の向こうでとぐろを巻いているのだから・・・






 ギルドまでの道中、疲弊した彼等から無駄話が飛び交う事はなかった。自信たっぷりに息巻いていたルディアも暗い雰囲気に呆れ・・察して、余計な一言が口から漏れる事もない。


 静かで平和な帰り道だけど、これを平和とは言いたくはないかな。


 居場所のないアーキア人の同胞の事もあるし、ユシュタファ達の心は少し休んだ程度で晴れるものではないだろうけど、ギルドと言う接点から何か解決策が見出だせれば御の字なんだけど・・・厳しいだろうか。


 そんな事を考えながらトボトボ彼等の後を歩いてると、ギルドの扉を開けたユシュタファは何かを視認したのか足を止めた。次の瞬間その何かに反応して黒々とした憎悪に身が包まれていく。



「ユシュタファ?」


「・・・何でテメェがここにいる」



 彼女のドスの効いた低い声が敵意と共に何かに向けられた。その存在に気付いたターヒル達も同様に嫌悪と敵愾心で溢れている。ギガ何とかだろうか。



「お前達か 久しいな」



 その声には僕も聞き覚えがあった。ユシュタファ達が育ってきた場所。その集落で族長を名乗り仲間の為にと僕に刺客を差し向けた張本人。


 族長ワッハーブ・・・


 冒険者とは縁遠そうな人物がギルドホールの片隅にポツリ1人で佇んでいた。





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