356・旧市街の奥地
前回のあらすじ
ユシュタファに用があると言うルディアにせっつかれて本人を探す羽目になったアネット。ルシュディー達がアジトにしていた場所で彼等の仲間と遭遇した一行は、そこで情報を共有するのだった。
「ディゼルの兄貴まで出刃ってきてるのか 大事だな・・・」
ルシュディー少年をディゼルが助けた事で彼のディゼルに対する株は高い。今回の件で何故ディゼルが動いてるのか分からないけど、ユシュタファとも普通に話をする間柄だし彼等に協力しても不思議はないか。
「うん ここ最近特に危なくてさ 俺 変な奴に声かけされた事があるんだ」
「声かけ?」
「ああ 何か自分達のグループに入れとか そんな事言われた」
「何だそれ 同じアーキア人か?」
「ううん 違う」
「周りから良く思われてない俺等にまで声かけるなんてな 誰なんだそいつ」
「分かんない でも誰でもいいって感じだったな 何かちょっと適当だったし 他にも俺達みたいなのに声かけて回ってるんじゃないかな」
「・・・もしかしてだけど 旧市街が生まれ変わるに従って ここら一帯のコミュニティが統廃合してるのかもね ダクプリも主要メンバーは捕まったらしいけど 末端とか接点があった人達とかは健在みたいだし」
「つまり兄貴達がやりあってるのはそいつ等って事か・・・ぐぬぬ」
町の形が変われば縄張りにしていた場所も変わる。当然そこに住む権利があるのは正規の手続きを踏んだ住民達なので、彼等との対立は兵士や騎士達との対立を意味する。となれば必然的に空いてる土地を探すしかない。
彼等だってスキルさんと言う絶対的な才能が人生をサポートしてくれてる筈なのに、何故真っ当な道を歩まないのかと問題が浮上する度に思う。
「それで? ここにお目当てのアーキア人はいないって訳?」
「そ そうみたいだね・・・」
歩きに歩いて目的も遂げられず、ついに我が儘の蓋が爆発するかと思ったルディアの釜だけど意外や意外、その中で渦巻いてたのは打算と欲で混ぜ合わされたドロドロしたものだった。
「だったら・・・ 探さないとダメよね?」
「そう・・だね そうだけど む・・無理して探すより彼等に伝言頼んでさ ギルドに来てもらった方が良いと思うんだ」
「それじゃ私の誠意が伝わらないじゃない」
「・・・誠意?」
忠実とは縁遠そうなルディアの口から誠意なんて言葉が出るなんて。彼女はいったいユシュタファ達に何の用が・・・もとい、何を企んでいるんだろう。
「ル ルシュディー君はどうする?」
「・・・ ・・・俺も探すよ 自分でできる事は自分で探す 俺達もその時が来てるんだと思う」
「だな うん 俺も手伝うよっ」
「ここで何もしなかったらきっと怒られちゃうもんなっ」
ユシュタファを兄貴と師事するルシュディー君とそのお友達ならではの回答だ。正直これ以上首を突っ込むのは野暮だとは思うけど、ヨダレを垂らした肉食獣から希望を抱く少年達の純情を守れるのは今のとこ僕だけだ。
「でも探すつったって どこ探しゃいいんだ?」
「そりゃ 町中走り回るしかないだろ」
「・・・だったら ちょっと奥まった場所に行かない? 人があまり来なさそうな所 ユシュタファ達だったら問題が起こりそうな所を警戒すると思うんだ」
「確かに」
「でも俺達が行って足手まといにならないかな」
「重要なのはさ 自分達はお前達の思い通りにはならないって 意思を見せる事なんじゃないかな」
「俺達アーキア人の意地を連中に刻むんだな やってやるぜ!」
「おう!」
「目にもの見せてやるっ」
そんな訳で一致団結した僕達は、普段ルシュディー君達でさえ立ち入らない場所まで足を運ぶ事にした。
ところが再開発の波は荒廃した暗部にまで光を照らしたみたいで、暗黒世界と思っていたその最深部は、生活者に配慮した空間へと生まれ変わっている。それだけに人の少なさが逆に異様な雰囲気を際立たせた。
ここもいずれは住民達で賑わうだろうけど、たまにすれ違う人の心はどれも暗く浮かない雰囲気だ。たぶんここで暮らせど住居とは無関係な人達なんだろう。幾分ユシュタファ達を見付けやすそうになってるとは言え、この落差はハルメリーらしくないとさえ思わせた。
「建物は新しいのに人がいないとか 不気味だよな」
「ちゃんと働ければ俺達だって住めるのに」
彼等は「働く」には少々幼い。スキルさんもまだのようだし、それが孤児ともなればいよいよ絶望的だ。残念ながら才能があって当たり前の社会に才能を身に付けてない者の居場所はない。
気持ちが急いて人生設計を誤らなければいいんだけど・・・ でもきっとその猶予も余裕も与えられないのが現実なんだろう。
「・・・ ・・・どうやらおかしな人達に目を付けられたみたいだね 後ろから数人 少し前から付いてきてるよ」
「げっ どうする」
「とっとと逃げようぜ」
町の形は変わっても病んだ人の心は変わらない。僕達が早足で歩いてもガッチリマークした彼等は獲物を追うハンターよろしくしっかり付いてくる。絡まれるのも面倒なので『プチダーク』でも撒いて退散するのが吉だ。
後ろの方で「おい!」とか聞こえたけど構わない。知らない。関わりたくない。
「プチ────」
「ちょっと! 私達に何か用かしらっ」
ところが空気とか状況とかの諸々を、謎の自信で読む気がないルディアが不意に不審者へと向いた。相手方はドキッとしたけど、それ以上にズキッ!っと心臓にきたのが僕達だ。
「ルディア!?」
少年達から敵意すら向けられる年上お姉さん程厄介な存在はない。とは言え女の子1人置いて逃げる訳にもいかなし・・・
「おいっ お前何考えてんだよ!」
「ふざけんなっ」
「クソッ コイツのケツ蹴りあげてぇ!」
息をあげながら近付いてきた人達は全部で5人。皆揃って苛ついてまともな色を宿してない。少なからず初対面の相手に向けてよい感情ではないだろう。それは最初の言葉にありありと表れていた。
「チッ 待てつったろうが 無視してんじゃねぇよ」
「んだテメェ等!」
「口の悪いガキだな まぁいい お前等俺達の仲間になれ ここらは俺達ギガンティスの縄張りだ 拒否権はねぇぜ」
「ギガ・・・ またかよ しつこいな」
「アーキア人には渡りに船だろ 何せお前等はこの町の厄介者なんだからな 俺達に囲われてれば普通に暮らせるんだぜ? 良い話じゃねぇ」
「ケッ 何が良い話だ 体よくパシリにしたいだけだろっ」
「どうせお前等ダークプリズンの残党か何かだろ 後ろ楯が無くなった途端 俺達まで勧誘とか節操ねぇよなぁ」
「んだガキが調子に乗りやがって」
「こりゃあ入団前に ちとしつけが必要みたいだなぁ」
此方が子供数人と盲目と女の子だけと踏んで感情任せに怒りをぶつける大人の図。これじゃパシリどころか行く行くは奴隷にされかねない。ここは何としても拒絶しなきゃならない場面なんだけど、同じく感情丸出しのルディアは臆する事なく前に出た。
「ギガントスでもギガンミスでも何でもいいわ 丁度いい あなた達こそ私に仕えなさい」
「あ? 何だテメェ」
「私はルディア ルンドレン伯爵家の長女 ルディア・ルンドレンよ」
「ルンド・・・てめっ 最近ハルメリーに来たって言う噂の貴族かっ?」
「何っ!?」
「・・・待て待て そんなお貴族様がお供も連れずに ガキと一緒にこんな場所まで来るか? 大方こいつもどこぞのチームの一員だろうよ」
「あ~なる程 ・・・だな 納得納得 おおかた女を武器に人集めってとこか この売女が」
「貴族の名前を持ち出そうが その貧相な体じゃ 釣れるのはガキと盲目だけってか」
「嘘もいいけどよ 見栄はるなら自分の体型と相談してからにしろやっ」
「「「ギャッハッハッハッハ」」」
「あ゛あ゛っ!?」
今まで周囲から肯定されまくってきたルディアにとって容姿まで貶される機会は皆無だったようで、「貧相」の一言が琴線に触れた彼女の心は、まるで熱した鉄のように真っ赤な色になっていた。
「不敬よっ! せっかくこの私が声掛けてやったのに平民風情がっ! あんた達はお仕舞いっ! アネット! やっちゃって!」
「「「・・・プッ ギャハハハハ!」」」
「コイツ真正のバカだぜ!」
「盲目けしかけてどうすんだってぇのっ」
「胸も無けりゃ脳みそも空っぽってかぁ!?」
「気ぃ付けろぉ 次はお前等ガキ共がバカ女の盾にされちまうぞ~」
「「「ギャッハッハッハッハ!!」」」
「・・・~~~~~~~~~~!!」
ポカッ!
「痛いっ」
「あんたがそんな体たらくだからナメられるのよ!」
「えぇ~・・・」
ぶ ぶたれた・・・
面倒なんで煙幕張って逃げたいとこだけど、逃げたところで彼女の晴れない怒りの矛先は僕に向けられるんだろうな。それに彼等の存在はルシュディー君達の今後の問題となって降りかかるし。どちらにせよ答えは出さなきゃならない。
遅いか早いかだけだ。
「だったらよ それ 俺達が肩代わりしてやってもいいぜ」
対峙する覚悟を決めた矢先、僕達の後ろから聞き覚えのある声が建物に反響した。振り返って目端に写ったのはざっと見10人程。皆深刻な色してそこに並んでいた。
「ユシュタファ?」
「兄貴っ!」




