354・旧市街の息吹
前回のあらすじ
アネットとの勝負をもってルディアの機嫌を取ろうとしたロダリオだったが結果が伴わず作戦は失敗に終わった。“精霊さん”探しが上手くいかない事をバードラットに相談するルディアだったが色好い返事は貰えず逆に「現実に目を向けるべき」と諭されるのだった。
「建て替えまでの借家なのに家より広いって何か釈然としないわね」
「新しい家もきっと広くなるわよ」
「ねーねー こっちにちっちゃい部屋があるよー」
僕達の家もついに建て替え作業が始まった。完了までの宿として別の家が宛がわれて僕達家族は今、家財と一緒にそこにやって来ている。
家族にとって転換点と言っても差し支えない状況だけど、不安よりも期待が勝っているのか皆思い思いに今を楽しんでるようだった。
新しく建てられる新築住宅の転居先は基本抽選で決められたのだけど、僕達家族は元いた場所に戻る事が決まっている。
何故かと言うとギルドの意向が働いたから。
隣にあるマイナス等級育成施設。改めマイナス等級支援施設の本格的な稼働に僕達の存在は不可欠だとギルドは判断したらしい。
長年暮らした場所に思い入れのある人もいる中で声を大にしては言えないけれど、共に過ごしてきた場所と思いを手放さなくて済んだのは素直に嬉しい事だ。
ミストリアも施設には前向きだし家族もマイナス等級には理解がある。便宜を図ってくれたギルドの期待を裏切らないよう僕も出来る限り尽力していこうと思った。
〔それにしても外壁の時と言い 動く時は意外と早いものね もっと時間を掛けるものだと思っていたわ〕
「そうだね デモ活動とか活発だったし 抵抗勢力の妨害も予想してたけど 始まってみれば案外そんな事なかったね」
〔彼等は所詮金で動いてただけよ 新しい家が与えられるともなれば反対する理由なんか無い訳だし 自分の得にさえなれば何だっていいのよ〕
「ハハ・・・ まぁ全く無かった訳ではないけどね」
それは建て替え作業の説明会の折り、マイナス等級支援施設に対しての抗議の声が一部あがった事にある。冒険者ギルドと町が連携する事に不満があるのか、小規模とはいえ一色触発の空気を醸す場面があった。
ミストリア曰く彼等の正体は商売敵との事で、奴隷としてマイナス等級の運用が厳しくなる事への反発の意志が込められていたのだそうだ。
それで引くギルドと町ではないけれど、意外だったのは町の住民から施設を擁護する声が多数出た事だった。
「旧市街が新しくなる事で 住民の皆の思いも新しく変わっていこうとしてるんじゃないかな 人が売られるところなんて皆見たくなかったんだよ」
〔町の雰囲気って そこに住む一人一人が作り上げていくものなのかもね 勇気を持って声をあげてくれる人が現れたのは良い兆候だわ もっとも今までがダメダメだったって事でもあるのだけど〕
間違っている。明確な言語にし難いけど何か間違っている。それに気付いた時、その疑念をきちんと言葉にして発信していかなければ変わるものも変わらない。
今回のこの旧市街の建て直しは住民達の気持ちを入れ換える転機となるのかもしれない。新しく吹き込んだ風は溜まりに溜まった淀んだ空気を吹き飛ばしていく。
そんなちょっとした変化は僕の頭の中の地図をすんなりと白紙に戻していった。
と思っていたのだけど、その淀んだ空気には当然発生源がある訳で・・・
起きてる問題が明瞭にならない場合、大抵は目の届かない何処かで何かが自身の身に届いているからで・・・
一見すると何て事のない風景が、実は自分の首を絞めていた・・・なんて事もある訳で。そんな「かもしれない」光景を僕達は今目の前にしていた。
「─────と言う訳なの あなた達の意見も募集するわ」
「・・・ねぇ 何なのよこの状況」
〔空気が悪い事だけは確かだわ〕
世界は動いても自分達のやるべき事は変わらない。そんな日常を謳歌する為に今日も今日とてギルドにやって来た僕達だったけど、来て早々、待ち構えていたルディアと彼女を取り巻くギトギトした色の数々に、あれよあれよと取り囲まれてしまった。
この光景は端から見ても異様だったのか、誰も此方に近付こうとはしない。これから起こる出来事が決して綺麗ではない事だけは確信できた。
「だから この私が ハルメリーに堂々と君臨する為に必要な意見を訊いているのよ」
「あの ごめん 言ってる意味がよく分からないんだけど・・・」
「はぁ 鈍いわね これから私がここを拠点にするにあたって 周囲から慕われる為にはどうするか それを庶民であるあなた達に訊いてるの 町を歩いていて石を投げられるなんてまっぴらごめんですからね」
〔一番良いのは雅な館の華美な椅子に座って 市井の目の届かない 高貴な存在であり続ける事じゃないかしら〕
「ケンカ売ってるの? 置き物になるつもりなんかないわよ」
「よ 要するに僕達みたいな平民に どうやったら好印象を持たれるかって事だよね? そこで1つ疑問なんだけど 今君の後ろにいる人達は誰?」
「ああ 彼等は私に助言をくれる商人達よ みんな私と庶民の為の店を出したいんだって」
「へ へぇ・・・」
貴族と庶民の両方を満たす店・・・字面は立派だけど、後ろに居並ぶ面々が満たしたいのは自分の懐であって僕達の欲求じゃない気はする。たぶんそれが顔にも出ているんだろう。マルティナもミストリアも彼等に抱く感情は訝しい。
〔ふぅん 貴女も変わったわね 以前なら庶民なんて道端の小石程度にしか思っていなかったのに 入知恵をした人間には思うところもあるのだけど 概ね良い方向に寄ってくれたのは良かったわ〕
「随分と上から目線なのね只のミストリアさん 以前の貴女なら兎も角 今は私に軽口叩ける身分ではないのよ? 平民なら平民らしく私に平身低頭して発言にも気を配る事ね」
石を投げられる理由は主にそう言うとこだよねって、周りの皆も思ってるんだろうけど、それを彼女に言っても意味ないんだなって思ってるから誰もそこに突っ込まない。
僕達の意見を聞く前から既に雲行きが怪しい気がする・・・
「まぁまぁそうピリピリなさらず 今は前向きな議論のお時間ですぞ?」
「そうです 我々は貴族様と それに広く庶民の意見を取り入れて より良いハルメリーを作っていく そのお手伝いをしたいのですから」
「その通り この取り組みが功を奏せば ご尽力頂いたルンドレン伯爵家 いえルディア様の名声も広く市井に響き渡るでしょう」
「我々平民も貴女様の意向に感謝し 常日頃からルディア様を賛美できると言うものですぅ」
「ふふんっ」
「・・・ねぇ 私達は何を見せられてるの」
〔気にしてはダメよ 貴族社会ではよく見る光景だわ 誉めて引っ張る屋台の客寄せとでも思えばいいのよ〕
「胸焼けしそうね」
話し合いの筈が既に空気は互いに反目しそうな雰囲気を纏わせている。何が彼女達を分かつのか分からないけど、ちゃんと話し合いができるよう軌道修正してかなきゃ。
「ぼ 僕達冒険者が喜びそうな事って言ったらやっぱり種類が豊富な屋台が増える事かな 毎日違った味に出会えれば日々の生活にも彩りが出ると思うんだ」
「だったら甘味が良いわね 疲れて帰った後の甘味は体に染みるもの」
「甘味は兎も角 ここの屋台の味はどれも単調だったわ もっと香辛料を効かせるべきよ 味にも深みが出るわ 私の味覚を満足させる為にも最低限のラインは確保しないと」
「君のお眼鏡に適うとなると 僕達の出せる金額から外れちゃうと思うんだけど・・・」
「何を言ってるの 良いものが値が張るのは当然だわ 人はより良いものを求める為に努力すんだから」
「うん そうだね でも皆が皆それができるとは限らないんだし・・・」
「自分の無力さを嘆いて動かない人間に価値なんか無いわ 必死さが足らないんじゃない?」
「それは そう かもだけど・・・」
彼女の言ってる事は的を射てるとは思う。だけどその言葉には優しさが足らない。努力したくてもできない人や、結果が出せない人にも救いはあって良いように思うんだ。
それができるのは互いに支え合うか、持つ者の施ししか解決法が無いように思う。結果が全ての世界じゃ生きにくい人もいるだろう。
〔どうしてそう貴女は他者を押さえつける事しかしないのかしら ここには意見を聞きに来たのでしょう? アネットの言う事も1つの意見として数えれば良いだけじゃない〕
「これは質の問題よ」
「はぁ!? アネットの質が悪いって言うの!?」
「ちょっ マルティナも皆も落ち着いてっ」
これは話が纏まる雰囲気じゃないな。他に何か話題を反らせればいいんだけど・・・話題話題・・・ん~・・・
「まぁいいわ ここに来たのももう1つ目的があったからだし ねぇ この前ダンジョンで一緒にいたアーキア人 紹介してくれない?」




