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352・アネットvsロダリオ

前回のあらすじ


ダンジョンから救出されたルディアは報告義務の為ギルド長の部屋に連れてこられた。その際みんなのスキルさんによる能力の片鱗に触れ不満を募らせていたルディアは終に爆発を起こしてしまうのだった。

「不愉快ね! 私は見たままをちゃんと証言したわ! 信じないなら信じないで結構! 用も済んだしこれで失礼させてもらうわっ!」



 時折「自分の役割とは何か」と考える事がある。学園で友人と共にある時間と貴族を意識しなければならない時間。もっと言えばやりたい事とやるべき事、その2つの混在が曖昧な自分を形作って日々をうやむやにしている気がする。


 ルディア・ルンドレン。ここは同派閥であり爵位として目上の彼女を立てなければならない場面だろう。しかし同時に「諌めなければ」と言う思いも渦巻いて言葉に詰まる。



「ル ルディア様 まだ依頼完了の手続き等済んでおりませんので・・・」


「はぁ~? そんなの貴方がやればいいじゃない! その為の従者でしょう!」


「ですがここは爵位を預かる貴族家として 立場に見合う振る舞いを──────」

「ああ! もう! 分かったよ うるさいわねっ!」



 何だか精神的に辛いものがあるな。心なしか周囲も引いてる気がする。今後もこれが続くとなると心労だけが蓄積していきそうだ。何とか心穏やかに過ごしてもらわないと俺がもたない・・・



「そうだアネット この後時間空いてるか?」


「え うん 特に用事とかはないけど」


「そうか だったら俺と一戦交えないか?」


「え? 僕と?」


「ああ お前に負けたままでは貴族としても収まりが悪いからな それにあれから俺もダンジョンで修行したんだ」


「面白そうだな 俺もコイツとは白黒つけたかったんだ」


「ユシュタファまで・・・」



 まぁいつか戦いたいと思っていたし、それが今である必要はないものの「貴族が平民に勝つ」事でルディア嬢の溜飲が下がってくれれば御の字だ。アネットには悪いが今回利用させてもらおう。










「へぇ ハルメリーの訓練所も結構本格的に整備されてるんだな」


「そうみたいだね 直接見る事はできないけど訓練の為の武器は揃ってるし広さも十分確保されてるっぽいから それに戦闘訓練だけじゃなくって冒険者に必要な知識のあれこれも教えてくれるんだ」


「王都で言う学園みたいなものか まぁあそこで習う剣術なんてお遊戯みたいなものだがな やっぱり本場の訓練施設は空気が違う気がするよ」


「そうなんだ えぇと 使う武器は訓練用のでいいんだよね」


「それで構わない」



 さて・・・改めて対峙した訳だが、相変わらず押せば倒れそうな見た目をしてる。おまけに目も見えないときたもんだ。本来負ける要因なんて何も無い筈なんだがな。


 だが冒険者として仲間からの信頼を得ている以上、マイナス等級だなんて思わない方がいい。やはり何らかのスキルを使うんだろうか。



「んじゃ2人とも 準備はいいか?」


「うん」


「ああ構わない 合図をくれ」


「よし では始めっ」



 以前戦った時はどうだったか。確か攻めあぐねた挙げ句、騎士に止められて終わってしまった。その時受けた印象は剣術の上手さ・・・いや俺の弱さだった。


 負けてからダンジョンに通うようになってそれを痛感した。実戦でウィンスター流は通じない。幼い頃から積み重ねてきたものは、結局貴族の嗜み程度の宮廷剣術だった訳だ。


 でも捨てられない。捨てたくない。諦めた瞬間、自分のやってきた事が無意味になってしまう。そだけは耐えられない。だからこそ実戦で矯正してきたんだ。


 それを今日お前で試させてもらう!



「────んで アネットって実際のとこどうよ」


「どうって 強いかって事か? 強いんじゃないか? 俺も訓練所で模擬戦やったけど勝てなかったし」


「プチダークだっけ 黒いモヤモヤ出して周り見えなくされられるしー」


「それもだけど たぶん私達の動きとか予想がつくんだと思うわ アネット自体誰かに剣を習ってる訳でもないのに妙に(こな)れてる感があるのよね」


〔マルティナの言う通り感覚的なものでしょうね 私も魔法は手足を動かす感じで使ってるから それと似た感じで周囲を把握してるんじゃないかしら〕


「手足同然って訳だ あれこれ頭で考えてる内はアイツに届かないって事だわな」

「でもさ 無理やり押せば倒れそうじゃね?」

「分かるわ~」


〔そうね私もちょっと見てみたいわ ユシュタファ次やっちゃって〕


「そのニヤけた顔見たらやる気失せるわ」



 くっそ! 届くイメージが湧かない! 俺の太刀が全部いなされる! まぁ真っ向から切り結ぶのは体格的に不利と分かってるからだろうが、それにしたってここまで翻弄されるとは・・・


 いったい何が足らない。勢いか? てかこの動きで目が見えないとか絶対嘘だろう。それどころか要所要所で俺の嫌なところに剣が降ってくる。完全に手玉に取られてしまってる。



「もっとガンガン攻めてけー!」



 やっている! さっきから圧してる筈なのに手応えを感じないんだ! いっそ体ごと掴みかかるか? それならいけそうな気がしなくもないが、それをやったら剣術とは呼べない。


 俺は剣で勝ちたいんだ!



「ん~ アネットのヤツ上手くなってないか?」


「て言うか 相手の動きぎこちなくなーい?」


「そうか?」


「うん ほら 何もないのに変に攻撃防ぐように動いてたりさー」


「そう言う剣術なんじゃないか? お貴族様なんだろ?」


「貴族の剣術なんて知らないよー」


「そっちのお嬢さんはどうなんだ? 確かウィンスター流 とか言ってたっけ」


「知らないわよ 剣になんか興味ないし 学園の男子は何でか盛り上がってたけど」



 心なしかアネットの攻撃が速くなってる気がする。さっきまで押していたのが今では立ち止まっての斬り合いに変化している。華奢で盲目なのにどうしたら対等に渡り合えるんだと、今更ながら疑問で頭がいっぱいだ。


 いったいその見えない目に、この盤面はどう写っているんだ?



「・・・ん~ やっぱ変くない?」


「だよな 俺もそう思う」

「ありゃフェイントに引っ掛かってる時の動きだわ」

「あ~ 思わずビクッて反応しちゃうよなアレ」


「フェイント・・・アネットがかけてるようには見えないけどな」


「こう言うのって戦ってる本人しか分からない事多いからね 私もラトリアと戦った時にやられたわ」



 いやいやいや・・・待て待て待て。明らかにおかしい。こんな・・・こんな動きが人にできるのか? アネットの姿が何かブレて見えるぞ。どんだけ速く動けばこんな芸当ができるんだ!


 しかし速いは速いが妙な違和感を感じるな。言葉では説明し辛いが「普通じゃない」そんな感覚だ。



「おーい! ビビってないでガツンといけー!」



 ビビる? 俺がビビってるように見えるのか? こんなデタラメな攻撃を目にして何とも思わないのか? それともこれが冒険者の平均だとでも言うのか・・・冗談だろ。


 何にせよ、まともに付き合っていても勝ちの目は見えないな。ならばどうするか・・・



「お 距離をとったな 仕切り直しか?」



 ウィンスター流は貴族間の決闘に特化した対人用の剣術だ。モンスターが相手でないのだから対人戦でこそ光る。以前は無駄な動きと言われたが要は使い方1つ。


 力で叩き伏せるのではなく要所を狙っていけばいい。端的に言えば剣を持つ手。そこに当てる事を意識してフェイント絡ませる。これしかない。



「ん 戦い方変わったな ・・・にしては動きが・・・」


「・・・おい 剣先でつつき合ってじゃれてんじゃねーぞっ」


「でも本人達はいたって真剣みたいだぜ? 何て言うかロダリオも持ち直したって言うか」



 攻撃は突き主体で構成する。そして無駄に踏み込まない。狙いは手だけに集中。だがこの考えは無駄ではなかった。


 現にアネットのあの異常な動きは鳴りを潜めている。これは勘だが彼の攻撃は俺に反応してただけじゃないかと今は確信に変わっている。


 そもそも目が見えないのに戦えてること事態にもっと注視するべきだったんだ。アネットは目以外の何かで周囲を認知している。例えば音とか。それがどれ程の精度かは分からないが、戦い方を変えた事で俺達の攻防は拮抗している。


 そして剣先で牽制しつつ絶妙なタイミングで踏み込んで手に一撃。それこそがウィンスター流の絶技だ。



「へぇ ウィンスター流ってのは突きが主体だったんだな 動きが滑らかだ」


「でもあれじゃモンスターには通用しねぇだろ」

「ああ そっか 貴族はモンスターと直接戦う訳じゃないからか」

「ん~ 乳繰り合いにしか見えねぇんだが?」


〔私も剣術には詳しくないけど 貴族間では決闘と言う制度があったわね 学園の授業でも剣を握る機会はあったけど モンスターを想定してのものではなかったわ〕


「ハハッ 平和な事で・・・」



 フェイントによる牽制は我が流派の華。相手の剣をシスで拾い隙を突くコントルシクスト。相手の剣を防御するパラード。その直後攻撃に転ずるリポスト。そして見せ掛けの攻撃フォースアタック。


 それらを複合的に組み合わせ相手の剣がブレたところに剣を突き出したまま突進するフレッシュ!


 これで終わりだ !!











「まぁ何だ 気にすんな」


「アネットにフェイントとか通用しないわよ そう言うの分かるらしくって 私も以前追い詰められたからね」



 負けた・・・隙を突いての一撃が、逆にカウンターを喉元に突き付けられてしまった。しかしフェイントが通じないとかどう言う理屈だ? 目が見えなくても俺の動きを把握できるなら通用してもいい筈だが・・・



「ともあれ ウィンスター流にとっては天敵だった訳だ」


「ふん マイナス等級に負けるとか使えないわね 貴族の恥だわ」


「申し訳ございません」


「そう思うならもっと悔しそうな顔しなさいよ」



 ・・・悔しいか。どうだろうな。負けはしたがそれ程嫌な気分じゃない。自分でも不思議だ。それよりも驚嘆。スキルの持つ可能性を垣間見た気がする。それならば俺だってまだまだやれる筈だ。


 そして次は勝つ!


 もっともあのユシュタファとか言うアーキア人みたく、力で吹っ飛ばして馬乗りになるような勝ち方はごめん被るが。





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