350・ウォルガルの真意
前回のあらすじ
モンスターの集団を前に1人逃げ出したルディアは助けにきたアネットと合流した。喉がかわいたと注文をつけたルディアのお願いをきいたアネットは途中で見付けた水場まで案内をする。しかし水に口をつけようとした矢先、それを止めるアネットがもう1人姿を現したのだった。
「もう! またこれー!!」
〔マルティナ 前みたく止められない?〕
「やってみるっ キャッスル・オブ・プロテクション! ・・・ ・・・ダメ こいつ等ちゃんと自分の意思で止まってる! 突っ込んでこないわ!」
以前誘因剤に誘われて半狂乱に突っ込んできたモンスター達と違って、今回はきちんと自前の頭で状況を判断しスキルの壁を前に進行を止めた。
2階ともなれば周囲から与えられる情報が全ての赤子から、自意識を認知できる程度には成長を見せるらしい。それともこれもウォルガルのスキルの成せる技なのか。
どちらにせよ盾を構えて塞がるマルティナと、スキルの隔てを境に睨みを利かせるモンスター達。双方動けない状況に留まるしかない。
「で こっからどうすんだ」
「どうって そりゃ逃げる一択だろ 相手の数が多過ぎるぜ」
「なぁマルティナ もしかしてだけど そのスキルだけ固定して移動できたりとかは・・・」
「できないわよっ」
「マジか」
〔また逃げながら数を減らしてくしかないわね〕
「それはそれとして 先に逃げ出した貴族のお嬢様はどうすんだよ あんなのでも何かあれば責任問われるのは俺達だぜ」
「逃げながら探すしかないんじゃね?」
「いっそ全員でバラけるか」
「誰かが犠牲になるかもってのは反対ー」
「だな 全員無事の帰還が冒険者の鉄則だ アネット お前後追えるか?」
「音を捕ませれば見付けられるとは思う」
「・・・頼めるか?」
「ちょっとルミウス! アネットを1人で行かせる気!?」
「この中で音に敏感なのはアネットだ 反響するダンジョンの中で戦闘しながらお嬢さんの足音探せるか? それにモンスターから身を隠すって条件ならアネットが1番適任だろ 俺達の勝利条件は全員無事に戻る事 だろ?」
「・・・そう だけど」
「分かった 僕がルディアを探しに行くよ 皆も無理しないで安全第一で逃げてね」
「おうっ」
ここ表層2階は冒険者にとって庭みたいなもの。道案内なしでも帰ってこれるだろう。問題はモンスターの大群だけど、逃げるだけならミストリアの魔法とユシュタファの弓がある。アドバンテージは皆無ではない。それを信じて僕は自分の役割を全うしよう。
とは言え出鱈目に逃げた(かもしれない)ルディアの足取りを追うのは困難だ。これが冒険者なら出口に真っ直ぐ向かう筈だけど彼女はコドリン洞穴2回目。正しい帰り道なんて分かる訳もない。
「引き受けたはいいものの どう探そう」
『直感に頼ってみればー?』
「直感?」
『うん 必死になって逃げると急な横道に曲がるより 走れなくなるまで真っ直ぐ進むと思うんだー』
「なる程 その気持ちは分かるかも」
真っ直ぐか。だとするとこの道を真っ直ぐ行く事になるんだけど、出口方向からは若干反れるんだよね。疲れて立ち止まってくれてると有難いんだけど・・・
「ルディア! ウォルガルから離れて!」
「は!? ウォ・・・え? アネット?」
音に注意しながら走っていると微かに響く女の人の声を拾った。けたたましい叫び声とは違う何やら言い争う物言いが耳に届く。反響していまいちルディアと判別し辛いけど、今は消去法で可能性をしらみ潰しにあたっていくしかない・・・
そんな賭けに勝ったは良いものの、これはどう言う状況だろう。彼女はウォルガルが目の前にいるのに何故か僕の声に困惑する。モンスターを前に僕にまで不審な感情を向けるなんて。錯乱でもしてるんだろうか。
「何でアネットが2人もいるのよ!」
「え 僕が2人って 何を言って・・・ まさか 人にまで変身できるの!?」
「お 正解 何だよ やっぱお前は騙せないみたいだな その見えない目には別のものが写ってるってところか 厄介だなぁ」
彼女の元に駆け付けた時ウォルガルはまた小柄な色の塊に戻っていた。てっきりウォーボルグの姿でいるものと思ってたけど、実際は予想だにできない現実で舗装されてたみたいだ。
正体を見破られたウォルガルはすんなりとそれを認めると、またグニャリと姿を変形させる。容姿の詳細までは分からないけど増幅した色の幅から長身である事は理解できた。連れてるスキルさんが宙に浮いてる事から、目の前に立つこの姿こそ彼本来の姿に違いない。
「ひっ! な ななな 何で・・・ っ! それ 裁縫さん・・・」
「おうよ お前は頑なに否定してたが そう捨てたもんでもねぇだろ?」
「何でこんな・・・何なのよアンタ! 私を騙すような真似をして! バカにしてるのっ!?」
「いやいや これは俺なりの誠意だぜ? お前が直接関与したかは別として 結果ダンジョンで起きてる問題の解決に寄与した訳だからなぁ」
「・・・誠意? こんなっ 私を騙しておいて これが貴方の誠意だって言うの!?」
「お前と話してピンときたんだ こいつは俺と同類だってな」
「同類・・・? あ 貴方なんかと同じにしないでっ!」
「いぃや似たか寄ったかだぜ 実力も伴わねぇのに言う事だけは一丁前 自分をどこか特別と思って周りを見下すとこなんてよ 昔の俺にそっくりだ
そんな勘違い野郎は往々にして姿を消すんだよなぁ 俺は運良く巫女様に救われたけどよ 得体の知れない特別なんか手に入れたって振り回されるだけだぜ?」
「だからっ 貴方なんかと同じにしないで! 私は絶対に手に入れるのっ 私の特別なスキルさん 精霊さんをっ!」
「精・・・クッハッハッハッハ! そりゃあ霞を掴む話だなぁ 特別特別言うからどんなもんかと思ったら 言うに事欠いて精霊さんかよ 俺でもここまでバカじゃなかったぜ」
「なっ! バカですって!?」
「あぁバカだ 大バカだね なぁアネット お前が今日ここに来た理由の想像ができたぜ おおかたそいつに無理やり連れてこられたんだろ? 金とか立場ってのを並べられてよ」
「・・・・・・」
「へへ 図星か だがまぁ気持ちは分かるぜ 誰だって特別になりたいって感情は持つらしいからなぁ 夢見るのも大事だがよ そればかり追ってると いつか何も残ってない自分に気付くんだ もうちょい周りを見てみるんだな 意外と落ちてるもんだぜ? 自分に必要な自分だけの特別ってものがよ」
ルディアに毒水を飲まそうとしたのに言ってる事は至極真っ当だ。と言うより悪意も善意もウォルガルの中で混然一体の色となって纏まっている。きっと彼は気分次第で善悪がコロコロ変わるんだろう。しかも無自覚で無頓着に。
それは自分本意で自己優先的なルディアの言動と被るところがある。それに気付くと確かに「同類」と言われても妙に納得できてしまう。
「それで 貴方はいったい彼女に何をしたかったの」
「礼と忠告さ 俺の経験上 自分にとっての1番の財産は形の無いものだって自覚があるからなぁ あ そうそう 欲を持つのは結構だが せいぜいそれに呑まれねぇこった 境界線を見誤ると いつの間にか周りに振り回される事になるからよ」
ウォルガルは最後にそれだけ言うとすんなりと姿を消してしまった。意外と律儀な性格なのかもしれない。まぁモンスターをけしかけられたのには驚いたけど、彼からは殺意のような感情は最初から無かった。
もっともそれで油断したのは言い訳できない。僕がここに到着するのが遅れていたらルディアは毒水を飲んでいたに違いない訳だし。
これは気を抜いた僕の落ち度だ。
とは言え今回は相手がウォルガルで助かった。これがディーテなら出血しながらダンジョンを走り回る羽目になったに違いない。ともあれ窮地は脱せた。
「・・・ふぅ ルディア 皆と合流しよう」
「・・・・・」
「・・・? ルディア?」
「ダメ 私達だけで戻るわよ」
「どうして? 合流した方が安全に帰れるよ?」
「い いいからっ」
彼女の中に焦りの色が見える。確かにモンスターが人に化け、しかも目の前で変身して見せたのだから、それはとても驚くべきものだろう。もっとも僕には色が増幅しただけの事だから、実物を目の当たりにしたルディアの心情は推し量るしかないのだけど。
「もしかして僕も偽者なんじゃないかって思ってる? 大丈夫だよちゃんと隣に盲目さんだっているし あ それとも怪我とかしちゃった? 逃げてる最中に転んじゃったとか ウォルガルに襲われたとか」
「違うわよ いいからこっち来ないでっ」
「でも離れてたんじゃ護衛はできないよ 無事に戻る為にも側にいてもらわなきゃ ん? ・・・クンクン この臭い ルディア 君 漏らし─────」
「してないわよっ!! 信じらんない! 臭いを嗅ぐとか最低ね!!」
「ご ごめん」
どうやら怪我を負ったのは彼女の心の方だったらしい。これどう見ても皆との合流は絶対に拒否られるやつだ。ここは大人しく出口に向かった方が色々とスムーズだろう。
モンスターに追われた仲間達も曲がりなりにも冒険者。逃げるだけなら十分勝機はある。となると問題は今後のルディアの行動だ。
まだ“精霊さん”を諦めるつもりはないのだろうか・・・




