346・突貫ダンジョン
前回のあらすじ
スキルさん探しの手伝いを要求してきたルディアだが、本当の目的は“精霊さん”だった。良くに突き動かされたルディアは翌日にはギルドに押し掛けダンジョン行きを決定するのだった。
スキルさんを探す場合、大半は自分の足で好きなスキルさんにアピールする。稀にフィーリングが合った場合スキルさんから近付いてくるケースもある。僕と“盲目さん”はこれに当てはまる。
ダンジョンへの道中、実は何度かルディアに近付いてきたスキルさんがいた。本人は拒絶してたけど、こんな頻度で接近してくるパターンは珍しいと思う。
ユシュタファからは「そいつでいいじゃん」とか揶揄されてたけど、彼女はあくまで“精霊さん”に拘るらしい。実利より見栄を選ぶようだ。
「・・・以前来た時よりも 入り口大きくなってない?」
「うん 商人がダンジョンに拘わる事になって色々改築されたんだ 中はもっと凄いよ」
ルディアとロダリオは以前学園の授業の一環で、ここコドリン洞穴に来た事がある。授業と言う割にはとんでもないアクシデントに見舞われてしまったけど、その時の恐怖は克服できただろうか。
それとも目の前の栄光に盲目になってしまってるのかな。ともあれ、今度こそ授業の続きとしてのダンジョンを堪能してもらおう。
「何よ これ・・・こんなのもう 町じゃない」
入り口に聳える厳重な建物を通った先、通路を抜けて目に入っただろう光景にルディアは驚嘆したようだ。僕が造った訳ではないけれどちょっと誇らしい。
「凄いじゃない ねえ 少し見て回りたいわっ」
「おい スキルさん探しはいいのかよ」
「そんなの後でもできるじゃない 何してるの 早く案内なさいっ」
「・・・こいつ」
言いたい事は分かるけど、ダンジョン利権に絡むなら知っておいた方が良い事もあると思う。ので、僕は皆にお願いして彼女の望みを聞いてもらう事にした。
ここが気に入ればルディアも出資なり協力なりしてくれるかもだし、ダンジョン街の繁栄は冒険者にも利がある。それに僕もここの全てを把握してる訳ではないので純粋に知りたいと言う欲も満たせる訳だ。
「ねーねー ここにも甘味処があるよー 寄ってかなーい?」
「甘味? 私 甘味にはちょっとうるさいわよ」
「っておい 寄ってくのよ」
〔まぁいいんじゃない? 本人も興味ありそうだし ここは貴族様の顔をたててお付き合いしましょうよ もちろん懐の深い彼女の奢りで ね? ルディア様?〕
「え マジ? 奢り?」
「俺ハチミツのが良いな」
「だな 貴族様なら庶民の扱い方も学習しねぇとな」
「ちょっ・・・ ま まぁ いいわ 私は慈悲深いですからね 雇い主として施しくらい与えてあげるわ」
「あっ あっちに焼き菓子売ってるよー」
「お 良いね~」
「俺3つ!」
絶対分かってやってるリッタを先頭に、僕達はスキルさん探しそっちのけで立ち食い屋台を渡り歩いた。何かもうこれだけで今日はお腹一杯な気がする。
「そう言えば貴女 装備とかしなくていいの? 武器も持ってないし」
「私は護衛対象よ 装備とか私の仕事じゃないわ」
「って言ってもダンジョンだしなぁ 最低限簡単なのでも防具ぐらい装備してもらわないと 安全の保証はできないぜ?」
「そうだな 前は騎士団が居ても瀕死の重傷を負ってしまった訳だしな ・・・ルディア様 ここは彼等の指示に従った方が賢明かと」
「・・・はぁ 仕方ないわね」
採掘師コミュニティから職人が派遣されるようになって、ここでできる事の幅も広がったと聞く。販売は言うに及ばず修復に至るまで、装備に関するあらゆるものがここで足りるのだそうだ。
なので物見遊山で訪れたお貴族様が「記念に装備品を買っていこう」と思えば、一式揃える事ができるお店が出店している。言い換えれば観光地化してると言えなくもない。ダンジョンとは・・・
「うお これすっげ!」
「うっ なかなかいい値段するのね・・・」
「ルディア嬢 こちら等は如何ですか 軽量克つ動きやすさに重点が置かれてるように思いますが」
「何よこれ 地味で庶民感丸出しじゃない 全然可愛くないわ それよりももっとこう 優雅で美しいものはないの? あっ あれなんかどうかしら」
まるで服でも買いに来た感覚で装備品選びをする彼女は、機能面よりもあくまで見た目を重視したいらしい。でも彼女のお眼鏡に適う品があると言う事は、そう言う立場の人向けに準備しる店と言う事だ。意外と需要があるのかも?
「ふ~ん これ 良いわね・・・ でも結構するのね」
お貴族様に高いと言わせる見た目装備とは何だろう。宝石でもあしらわれてるのかな。
「お客様はお目が高い そちらの装備は新進気鋭の職人が若者のニーズに応え作られたデザイナーズアーマー 昔気質の装備も趣があるのですが 如何せん固い これからは見た目にも重きを置いた装備の時代です」
何処からともなく現れたお店の人は、ここぞとばかりに商品の説明を始めた。結構なお値段な筈なのにルディアの貴族然とした佇まいから「いける」と思ったんだろう。心は「絶対に売ってやるぞ」と言う気構えで満ちていた。
「そうなの?」
「はい ここハルメリーのダンジョンも 入り口が拡張された事によって外から仕事を求める方々の流入が絶えません そうなれば皆同じような見た目で個性がない
それだけでなく自分が何者であるか それを一目で裏付けるものこそ外見なのです 最近では既存の装備に少し手を加える加工や 色を変えるといった手法が人気なのですが それでもまだ弱い
そこで現れた最新のファッションこそ 根底からその在り方を見直すこのデザイナーズアーマー まさに時代の最先端をいく一流の装備品と言えるでしょう」
完全にファッションとか言っちゃってるけど大丈夫なんだろうか。主旨違ってません? 流行りとか興味はないけれど逆の意味で見てみたい気はする。
「お客様のような見目麗しい方が着てこそ この装備も映えると言うもの これ等一式を装着して人前に立てば 皆の衆目を一身に浴びる事請け合いです」
「ふーん それ 良いわね これいただくわ────」
「お待ち下さい 防具である以上見た目の華やかさより頑丈さに重点を置くべきです」
「黙りなさい 貧相な装備なんてこのルディア・ルンドレンには相応しくないの 華美で優雅な見た目こそ私には似合ってるのよ」
「おお! 貴女がルディア・ルンドレン様で御座いましたか! お噂はこのハルメリーにまで伝わっておりますぞ! 凶悪なモンスター共を沈め 悪逆非道な闇の組織を叩き潰した! まさにハルメリーの英雄! いや女神!」
「フフン それ程でもないわ」
「何と言う事だ きっとこの装備は貴女様に着られる為に天からもたらされたものに違いありません!」
「そう? そうかしら オホホホホ」
「ワハハハハ」
何で商人って本人を目の前にこんなつらつら言葉が出てくるんだろう。しかもこの歯の浮くような営業トークに本人も満足気に悦にいっている。止めるべきなんだろうけど、これにはロダリオも諦めモードのようだ。
「流石は商人 そこら辺・・・心得てるよね」
「はぁー・・・」
買った装備一式を纏って表に出たルディアは確かに周囲の注目を浴びた。本人はそれを自慢気に誇っているけど僕から見た周りの人達の本音は、彼女の思ってるものとは違うような気がする。
まぁ波風たてたくないので言わないどくけど・・・
入り口でどの位の時間費やしたか定かじゃないけど、ルディアが満足した事でようやく本格的なダンジョン探索へ乗り出す流れとなった。中には既に気疲れしてる人もいるけれど、今回はそう奥には進まないので多分大丈夫だろう。
「さあ 行くわよ!」
散々僕等を連れ回してもまだ元気が残ってる彼女は「守りなさい」と言っていたのに、後先考えず先陣切って進んでく。願望が頭を支配すると活力の泉は無限に湧くらしい。
僕達の忠告も右から左で、どうもお買い物の延長としか思っていないみたいだ。勢い任せに適当に突き進んでいく。
「前方に敵 曲がり角の先だよ 多分3体」
「さあ あなた達の出番よ!」
「敵」と聞いた瞬間、僕達の背後に回ったルディアは後方から揚々と指示を飛ばしてきた。この人を顎で使う感覚、まるで近所のガキ大将でも居るみたいだ。
「段々イライラしてきたな・・・」
表層もまだ1階の入り口付近と言う事もあって、サクッと片付けたユシュタファは今回の仕事に苛立ちを覚えてしまった。「仲間」と言う存在を重く受け止める彼女は、自分勝手なルディアとは水と油らしい。
分かっていた事だけど、不和によるダンジョン内での仲間割れだけは避けたいところだ。でもこれも1つの教訓になるのではないだろうか。
依頼は選べても依頼主は選べない。今後護衛の仕事で気に入らない相手であっても、そつなく仕事を熟せる精神を養うには、今回の仕事はうってつけなのかもしれない。




