345・スキルさんを探す理由
前回のあらすじ
いきなり町にやって来たルディアは有無をも言わさずアネットを自身のスキルさん探しに引っ張った。ギルドも協力的で意図を汲んだアネットは渋々引き受けるのだった。
気を良くしたルディアは店の人に薦められるまま大量の買い物をした。服ってこんなに必要なんだろうか? お陰で僕達は本物の従者よろしく荷物持ちをさせられる羽目になった。
「あの・・・いったん家に行かない? これ持ったまま歩くのはちょっと・・・」
「それもそうね こっちよ 付いてらっしゃい」
貴族の移動と言えば馬車が付き物だけど、徒歩での散策をご所望のルディア嬢は、悪びれる事なく手ぶらで先導し始めた。貴族ってこれが当たり前の感覚なんだろうか。
重いと言ったら手伝ってくれるのかな・・・
彼女の住まいはバードラットさんが世話してると言う事もあって新市街の中に用意されていた。近間だったのは不幸中の幸いだけど、僕の任務は「スキルさんが見付かるまで」との事なので気が休まらない。たぶん体も。
「そこら辺に適当に置いといてちょうだい」
「お帰りなさいませ ルディア嬢」
「この声 もしかしてロダリオ?」
「そうよ 彼は私の派閥なの だから来てもらったのよ そうよね?」
「はい 父にも良く仕えろと言われていますので」
ロダリオもまた学園の生徒。でもそれ以前に貴族であるからか、僕達の知る友人知人とはまた違った距離感がそこにはあった。
彼は使命感を抱いているものの心の整理がついていないのか、幾分迷いのようなモヤモヤが内に巻いている。彼女に対して謙る事を忌避してると言うよりは、自分の置かれてる立場に納得いってない感じがする。
こう言うのも宮仕えと言うのだろうか。貴族も大変だ。
落ち着いたところで僕達は客間と思われる広めの部屋でお茶を振る舞われた。この家には既に複数人が働いているようで、聞けば実家から気の知れた使用人を引き抜いてきたと言う。
ここはハルメリーである筈なのに、完全に彼女のテリトリーに捕らえられた気持ちになった。
「ところで学園の方はいいの? 長期休暇って聞いたんだけど」
「それは大丈夫よ もう休暇期間は過ぎてるけど 実家が貴族の生徒は家の用事と言う理由なら特別に出席扱いになるの と言っても学業に差し障るしテストもあるから そう悠長にもしてられないのだけどね」
「・・・スキルさん探しって事だけど 具体的にはどういったスキルさんを探しているの?」
「そうね 権威を誇示できるような・・・人の上に立てるようなスキルさんが良いわ」
「それは・・漠然とし過ぎでは」
「そうかしら でもあの子はモンスターを支配していたわ だったら人を支配できるようなスキルさんだって何処かにいる筈よ」
「探せばいるかもだけど 僕はスキルさんに詳しくはないし 君の言うあの子のスキルさんだってマイナス等級って呼ばれてるんだよ? それに もしそんなスキルさんがいるとすれば とっくに誰かが手にしてると思うんだ」
「それはないわ 私が求めてるスキルさんは特別なスキルさん そう 精霊さんだからよ」
「・・・ん~~~」
“精霊さん”それはおとぎ話で語られる想像上の存在として一般に周知されている。もっとも王都ダンジョンで接触はできたけど、簡単に触れられるものではなかった。
思うに人がどうこうできる存在じゃない。あくまで僕の肌感覚だけど、あれは実体とか存在とか言うよりも現象に近いような、そこにありながらそこに居ない。そんな曖昧なモノのような気がする。
〔バカバカしい もし精霊さんなんてものを連れてる人がいたら それこそ話題に上がらない筈ないわ それがないと言う事は そう言う事じゃないかしら〕
「あの子に会う前までなら私も鼻で笑ってたでしょうね でも人知を越えるスキルさんが精霊さんの存在を肯定したのよ? あの子も精霊さんを探してた それを無視できる訳ないじゃない
場所の見当だってついてるわ ダンジョンよ あの子もダンジョンに固執していたし 貴方を連れ回したのもきっと精霊さんを探す手立てだからだわ」
間違ってはいない。間違ってはいないんだけど、今日明日で見付かるものでもない。本格的に“精霊さん”探しをするとなると、間違いなく学業に差し障るしテストにも間に合わない。それどころか生涯を描けての捜索となる。
つまるとこ彼女はロマンを追い求める事になる訳だ。
〔そんな夢を追い求めるより もっと現実に目を向けるべきね 授業でも習ったでしょう? スキルさんは本人の分身みたいなもの 内面が関係を構築するって スキルさんを探したいなら先ず自分を見つめ直す事ね〕
「水魔法さんを連れてるからって 上から偉そうに講釈垂れないで下さる? 貴女はもう学園の生徒でもないのよ」
彼女どうも「特別」と言う肩書きに固執している気がする。立場がそうさせてるのだろうか、物事を客観的に見れないでいる。これでは僕達がいくら言葉を重ねても説得するのは難しいだろう。だったらもういっそ現実を実体験してもらった方が早い。
「じゃあ 直接ダンジョンに行くしかないよね そこで精霊さんが見付けて そのまま契約すればいいと思う」
「そうそう 従者なら素直に主をたてるものよ」
〔本気?〕
彼女も自分の言ってる事が途方もない事だと理解すれば諦めもつくだろう。でも人生を生きてく中でスキルさんは必須と言える存在なのだから妥協しろとも言えないしで・・・
これ下手したらルディアのスキルさんが見付かるまで、僕はずっと解放されない可能性まである・・・
「─────と言う訳で あなた達は私のスキルさん探しに協力してもらうわ ギルドから言われてると思うけど この私を安全に目的地まで護衛する事 それから指揮は雇い主である私がとるわ だから自分勝手な行動は禁止 いいわね」
「・・・なんだコイツ」
ルディアは欲望に忠実で、翌日にはダンジョンに敢行するべく冒険者ギルドに突撃してきた。僕が行くとなるとマルティナとミストリアは付いてくるとして、残りを募集したところで世間知らずのお嬢様にかまける冒険者は見付からず。
仕方ないので友人に声を掛ける羽目になってしまった。
人員はユシュタファと、そのグループでワリード、ラフィー、ターヒル。採掘師コミュニティ繋りでルミウス、リッタ、エデル。それとロダリオだ。
ルディアの第一声に顔をしかめてそうな皆だけど、今のところは我慢してくれている。でも取り分けユシュタファとは相性が悪そうで、冒険に出る前から関係が拗れてた。道中何事もなければいいんだけど。
「何かごめんね 急に仕事誘っちゃって」
「別にいーけどさー ダンジョンにスキルさん探しって 変わってるねー」
「はん 頭の沸いたお貴族様が まともな事言う訳ねぇだろ 金払いが良くなきゃ頼まれたってゴメンだね」
「ま 護衛の仕事って思えば俺達にとっても経験になるんじゃないか?」
「この際 ものほんの貴族に触れてみんのも面白そうじゃん」
「お前等前向きだな・・・ で? 具体的に目的地ってダンジョンの何処なんだ」
「それについてはアネットが知ってるわ」
「・・・え」
急に話を振られたせいで、みんな一斉に僕に意識を向けてくる。でも言いにくい「もしかしたらそこ ダンジョンの最深部かも」だなんて・・・
〔そもそもダンジョンは誰も踏破した事のない前人未踏の未開の地よ 目的の場所が深部なら私達ルーキーでは とてもじゃないけど無理よ〕
「そんなのやってみないと分からないじゃない それとも何? 冒険者って冒険しないのに冒険者なんて名乗ってるの?」
「ああ!? テメェ~ いい度胸してんじゃねぇか だったら俺た─────」
「まぁまぁユシュタファ 実際にダンジョン探索をしたら自分の言ってる事の無謀さが分かるだろうし ね?」
「・・・それもそうだな どこで音を上げるか見てやるよ」
こんなギクシャクパーティーで間が持つんだろうか。口論の末、瓦解する未来しか見えない。まぁ今回のダンジョン探索は“精霊さん”探しと言うよりも、彼女に現実を知ってもらうのが目的だし、そう考えれば幾分気も楽になる。
「さあ 行くわよ こんな所で立ち話してる時間が惜しいわ」
此方の気も知らず彼女は大手を振って前を歩き出した。この自信は何処から沸き上がってくるのだろう。もう成功した気になっている。悪いお手本なのは分かるけど、この能動的な探究心はちょっと羨ましいと思った。
「すまないなアネット 同じ派閥でも伯爵家と子爵家とでは格が違う そう言う立ち位置を彼女はことさら鼻に掛けてるんだ」
「お気持ちお察しします・・・ でもどうして急にスキルさん探しなんて言い出したんだろう」
「性格もあるが おそらく成功を手にしたからだな 本来それは家の功績か当主のものになる だが魔物さんの魔の手から逃れ 討伐に貢献したのは彼女自身だし 薬物組織解体に率先して尽力したのも彼女だったんだ 一度名前が売れるとそれを持ち上げようとする者の手で表舞台に立たされる ルディア嬢はそう言う立場だからな
だから内心焦ってるんだろう そもそもプライドが許さないし 成功し続けなければ見限られると・・・ 今回のスキルさん探しだって自分を飾る為の箔つけの為だろうな」
「・・・貴族も楽じゃないんだね ちょっと誤解してた」
「親や祖先から継いだものを自分の代で潰す訳にはいかない そう言う意味では皆必死だ やりたくない事もやらなきゃいけない時もある」
背負うものがあると言うのも息苦しそうだ。でも軽い人生と言うのも味がないように思う。目標とか大切な人とか、何かしら心に秘めておくのは、もしかしたら人生を豊かにするスパイスになるのかもしれない。




