343・◯◯◯◯が来る
前回のあらすじ
町が落ち着いた事でアネット達は住み慣れた場所の思い出にとクリスティーに家の絵を描いてもらう事にした。
「これが僕達がずっと暮らしていた家なんだね」
外から外観を描いてもらった紙の上には幼い時分、おぼろ気ながらも頭の中に残ってる懐かしい風景が描かれていた。当時は小さかった事もあって見上げる程の大きな建物に写っていたけど、この絵はクリスティー目線だからかこじんまりとした平屋が置かれている印象を受けた。
どうやら子供と大人とでは物の捉え方が違って見えるらしい。
せっかくなのでその絵に僕達家族の姿も描き足してもらう事にした。絵って凄い。この世界にある実物を描写する事もできるし、想像を形にする事もできるんだから。
僕も頭に地図を描く要領で紙に記憶を元に線を描けないものか。今度試してみよう。それにしてもこの背が低くて線の細い女の子は誰だろう? まさかとは思うけど・・・僕?
実際マルティナとミストリアに身長で届いてない訳だから・・・にしたって小さくない?
「凄い! 私達そっくりね!」
〔正確に模写されているわ さすがギルドが資料作りを任せるだけあるわね〕
「正確・・・なんだね ・・・ハハ ねぇ 頭を丸めてみたら僕も少しは偉丈夫に見えるかな」
「・・・何言ってるの? 冗談でもそう言う事言うのはやめてっ」
〔そうよアネット アネットは今のままでいいの〕
「コクコクコク!」
彼女達は僕に男らしさを求めてはいないらしい。そう言えば最近朝の走り込みとかサボり気味だった。成長しないのはきっとそのせいに違いない。
外観を描いてもらってから各部屋の記録もお願いした。クリスティーは何故か僕の部屋だけ異様に張り切ってたけど、長年過ごしたこの部屋には相応の思い出も染みてるので、真剣に取り組んでもらえるのは有難い。
建て直した後また同じ場所に住める事にはなってるけどまだ先の未来、過去を思い出して懐かしんだ時に、絵の中にある記憶に触れる事ができる彼女の絵は僕にとっての魔法のアイテムだ。
過去を形に残せた事でマルティナの憂いも晴れたみたいで、悲しくて寂しくてもそれを感謝と言う気持ちが包み込んでいる。新しい家、新しい形、僕達の人生に一区切りついた思いがした。
幾日か経つと燻っていた火も新しい風に吹かれて鎮火するのが人社会。でもその風は残念な事に良いものだけを運んでくるとは限らない。今ギルドでは「これどうなるんだ?」と言う議論が巻き起こっていた。
それは新たな火種が灯った事を意味する。
「聞いたかアネット あの噂どうやら本当らしいぜ」
「貴族がハルメリーに来てるって話?」
「ああ んでカストラ商会が世話してるんだとよ あの一件で名実共に町一番の商会になったからな ここぞとばかりに取り入ろうとしてんだろ」
「ここに来るって事は間違いなくダンジョン狙いだよね そう言えばユシュタファ その貴族が誰なのか聞いてる?」
「いや 名前までは流れてこねぇな 普通貴族は貴族街に屋敷建てるだろ? それが商会の世話になるって事は木っ端貴族なんじゃねぇかって話」
「そうなんだ そんな立ち位置の貴族がカストラ商会の贔屓になるとなると いい感じでバードラットさんに利用されちゃうかもね」
「ハッ そりゃいい 私兵なんかがのさばられたんじゃ仕事もやりにくくてしょうがねぇ おまけに町の空気まで悪くなるしな」
「ワーカーって存在も結局のところ商売敵な側面が大きいし 心配なのは商人と貴族がガッツリと手を結ぶ事だよ」
「あ~ その線も有りそうだよな 上手いこと仲間割れしてくんねぇかな」
火の無いところに煙は立たずで、それが出始めた頃にはもう貴族の来訪は決定してたんだろう。そもそもダンジョン資源の確保は貴族にとっての納税方法の1つでもある。僕達がざわつく理由は、その人物が有害か無害か。厄介者だとまず間違いなく市政に影響が及ぶので歓迎されない。
そこで今回ハルメリー入りした貴族はどんな奴なのかと言う話で冒険者界隈は賑わいを見せていた。今のところは「要警戒」と「大した事ないだろ」派に分かれている。
僕としては「警戒するに越した事はない」に1票なんだけど、権力者相手に警戒したところで一般人には回避のしようもない・・・と言うのが持論だったりもする。
「あ アネット君 丁度いいところに ちょっとギルド長の部屋まで来てもらえる?」
「え あ・・・はい いいですけど・・・」
何だろう。僕を呼びに来たポリアンナさんは至って普通を装ってるけど内面は不安を滾らせていた。最近あそこの常連になってるけど、そもそも普通の冒険者はギルド長の部屋とは無縁だ。
これは何かあるなと思いつつ僕はランドルフさんの部屋まで歩いた。
「来たわね」
部屋に入って第一声で聞こえてきたのは彼の声ではなく、うら若い女の人の声だった。そして僕はこの人の声に聞き覚えがある。
「ルディア・・・さん?」
「そうよ お久し振り」
確か彼女とは王都ダンジョンの入り口を隠す為造られた集落へ行く道すがらに分かれた時以来だ。その後は少女の使役するモンスターに拉致されて王都ダンジョンに連れ込まれたまでは知っている。
何故か“魔物さん”を連れた少女を討伐した功績が彼女のものになったけど、名前が上がると言う事は無事だった訳なので「助かったんだな」とは思っていた。
そんな彼女が今、僕の目の前に居る。じゃあハルメリーに入った貴族ってルディアさん?
「えぇと 僕に用があるから呼ばれたと思うんですけど・・・何 でしょう?」
「あぁ・・・すまんの しばらくそのお嬢さんに付き合ってやってもらえんか」
「・・・え」
「光栄に思いなさい 一般人である貴方が 栄えある私の手助けができるんですからね」
「・・・はぁ で 具体的には何をお望みでしょう」
「スキルさんよ」
「え」
「だから 私のスキルさん探しを手伝いなさいって言ってるの」
確かに彼女の周りにはスキルさんらしき色はない。そう言えば前から居なかったんだっけ。僕も半ば拉致された身だったのでその事を指摘する余裕はなかった。
「あの 何故僕なんでしょう」
「そんなの決まっているわ あの子供が貴方を連れ回していたんですもの きっと特別な何かがあるに違いないのよ だから 貴方は私に相応しい特別なスキルさん探しの手伝いをするの」
「・・・いや あの 僕は特別とかそんなのじゃなくって 特別と言うならそれこそあの子の事を言うのであって・・・」
「あの子? あの子ならもう居ないじゃない」
ん~真面目な話。僕は特別とかそんなのじゃない。特別。特殊。稀有。そう言う意味では『予見の目』とか人知を超えたスキルを指すのであって、誤魔化し、まやかしを扱う僕は当てはまらない。
けど何だかギルドとは話がついてるようで、ランドルフさんはルディアさんの無理難題に助け船を出してくれる事は終ぞなかった。いったい裏でどんな交渉が行われたのやら。
〔ちょっと これはどう言う事かしら〕
「あらあらあら みすぼらしい姿だったから目に入らなかったけど よく見たらミストリアさんじゃないですの でもおかしいわ 確か公爵家のご令嬢であられる彼女は療養の為 遠い地で安静になされてる筈なのに 他人の空似なのかしら?」
〔白々しい〕
ギルドからの命とあっては僕に断れる筈もなく渋々ホールまで戻ってくると、はたと出会したミストリアと会った瞬間、2人は誰に憚る事もなく一触即発の空気を辺りに撒き散らした。
「あ あのねミストリア 実はルディアさんにスキルさん探しをお願いされたんだ」
〔・・・分からないわ 何でアネットが彼女のスキルさん探しを手伝う事になったのかしら〕
「簡単よ 特別な私には特別なスキルさんが相応しいから だから特別な彼に協力をお願いしたの」
〔アネットが特別なのは認めるわ けど凄いわね 自分で自分を特別と言えるその厚かましさは とても普通の人には真似できないわ〕
「失礼ね 多大な功績をあげた私は同列貴族よりも有力よ? これを特別と言わないで何と言うのかしら それに彼の協力はもうギルドと確約済みなの 貴女にとやかく言われる筋合いはないのよね ただのミストリアさん?」
〔ギルドが・・・? どう言う事かしら〕
「何かランドルフさんに呼び出されたら彼女が部屋に居て スキルさん探しの協力をしろって・・・言われて・・・」
〔・・・文句言ってくるわ〕
「無駄よ 町もギルドも私に期待してるんだから 町に入った時の私への歓迎ぶり ここのギルド長も冒険者を貸し出すとまで言ったのよ?」
〔はぁ? ギルドがそんな事を・・・まさか〕
その疑念は僕も抱く。そもそも商会にダンジョン権を与えたのは貴族に引っ掻き回されるのを防ぐ手立てなのにギルドが協力するのはおかしい。オマケに冒険者まで貸し出す? 何故。
バードラットさんも協力的と言うし。
あ・・・
何と無く分かったかも。




