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342・残せるもの

前回のあらすじ


敵のアジトに乗り込んだアネット達は、そこで薬に携わった人達を捕縛する。それに伴って組織は芋づる式に崩れていく。唯一の問題だったスプリントノーゼの一味も、ルディア・ルンドレンの活躍で無事潰す事ができたと報告を聞くのだった。

「静かなのって良いね」


「同じ人が集まるにしても お祭りと違って何か入れない雰囲気あるものね デモって」


〔物見遊山で参加してた人達も結構いたわよ あとストレス発散とか〕


「それを冒険者(私達)に向けるのは勘弁してほしいわ」



 僕達は今、デモの行われなくなった午後の大通りをゆったりと満喫している。お祭り騒ぎは年に数回間隔を開けて行われるのが良いのであって、連日大騒ぎは心が疲れる。


 もっともこの大通りは町の大動脈である以上、活気が失くなる事はないのだけど、活気と騒ぎはその性質が違う。



「そう言えばギルドで小耳に挟んだんだけど 今回の件に絡んでた商人達の店 潰れたところもあるんだって」


「自業自得よっ 確かどっかの貴族が裏でお金渡してたんだっけ? どうせ町に手を出すのが目的だったんでしょうけど ザマァ見ろっ だわ!」


〔でも元々ダンジョンに商人が拘わる許可が下りたのは 下手な貴族が町で好き勝手できないようにする為だったのでしょう? そうなる前に(すね)に傷のある人達が消えてくれた事は結果としてプラスよね〕


「家が燃えそうになったのは全然プラスじゃないわっ」


「で でも町の人達も復興と発展の熱量は凄いよね 結局その殆どをカストラ商会が担う形になったけど 今回の裏側が世間に伝わって再開発も順調って話だよ」


「あの商人こそ裏がありそうじゃない? 蓋を開けてみれば結局アイツの一人勝ちみたいなものだもの」


〔仕方ないわ 私達と彼等とではやれる事の規模が違うもの 冒険者がモンスターと戦うように 彼等にも彼等の戦場があるのだわ〕



 マルティナは釈然としないけど、ミストリアもミストリアで言葉とは裏腹に納得してない色を醸してる。何やら事情を知ってそうだけど、訊かないのが心の平穏には良さそうだ。


 さて。これから旧市街は生まれ変わる訳だけど、ではどう変わるのか。もちろんカストラ商会が好き勝手弄くり回す訳ではない。ちゃんと住民達との協議の上で方針が決まっている。


 それは昔の名残を残しつつ、住民と往来する人とが快適に行き来できる区画を目指す事。端的に言えば道幅を広く、やや迷路状に纏める。旧市街らしさを臭わせる町作りだ。


 雑多な面影を演出する為3階建てを基本とし、賃貸価格で規模の大小を決める。ただし元々住んでいた住民達にはお値段据え置きと言う事で彼等も納得した。順調な再開発の背景はこれが大きな要因を占める。


 そこで我が家はと言うと・・・



「そう言えばマルティナは良かったの? その・・・家の事」


「え う~ん・・・ そりゃ変わっちゃうのは悲しいわ でもこれからの事を考えればこのままってのも違うと思ったの ソフィリアだって大きくなるし 人が来るかもしれないし? 私は お母さんと話し合って決めたけど 2人は良いの?」


「僕の場合は元々真っ暗だからね それに僕にとっては建物じゃなくて家族がいる場所が家だから」


〔貴女のお母様は家族と言ってくれたけど 私は居候のつもりよ? 家主の意向に口を挟むのは野暮と言うものだわ〕


「・・・せめて要望とかあったら言ってよね 私は やっぱり皆で決める事だと思うからさ」



 僕の中でミストリアとの距離感は、普段の生活と冒険者活動を通じてマルティナと同じ位置にある。特別意識した訳ではないけれど、マルティナが家族なら同じ場所に立つミストリアも家族の一員だ。


 でも彼女は自分を居候だと言う。


 同じ時間、同じ経験を経ても人が違えば思いも変わる。当たり前と言えば当たり前だけど、何だか物悲しいものが心をつついた。



〔だったらアネット同じ部屋にして───〕

「それはダメ」



 まあ、平常運転っぽいのでミストリアはこれで良いのだろう。でも心残りはもう1つある。それはイザルス達を見掛けなくなった事だ。


 元々ザラに合う間柄ではなかったけど、外に出掛ける時にはちょくちょく見掛ける(仲間が)機会はあった。でもこの件が片付いてから彼等の姿は確認できないと言う。


 彼の家は犯人一味として特定されたらしいし、それに伴って家業は廃業。その後の経緯は不明。イザルス達の情報も(よう)として知れず。


 利用された人はお咎め無しと言う話だけど、だからと言って家族が瓦解した影響が響かない筈はなく。自分と似た境遇な分、彼等の足取りがどうにも気になってしまう。


 そんな蟠りが内に疼いても世界は回って明日が来る訳で・・・











「おい聞いたか カストラ商会が何か忙しなく動いてるんだってよ」

「そりゃ再開発で大忙しだもんな」

「いや どうも旧市街絡みじゃないらしい」

「まぁ大店だし そんなもんじゃないか?」

「ほら あの捕り物で暗躍してたって貴族がいるだろ どうもそいつがハルメリーに来るかもしれないんだとよ」

「はあ? ・・・あ~ その貴族からしてみれば裏切られたようなもんだからな 資金の回収にでも来んのか?」

「分からん もしそうなら それを口実に間違いなくダンジョン利権に手を出すよな」

「勘弁してくれ 貴族の私兵とか やり辛いったらありゃしねぇ」



 朝のギルドで情報を漁っていると、とある冒険者の会話から不穏な台詞が聞こえてきた。僕からしてみればあの一件、悪党が捕まったくらいなものだけど、物事とは往々にして裏があったりするもので。


 僕達の預かり知らぬところで色々と状勢が動いていたらしい。冒険者の嗜みとして情報交換は密にしてるつもりだけど、詳細まで仕入れる事はできなかった。世の中には市政の元まで下りてこない情報と言うのはあるらしい。


 陰謀の香りがプンプンする。



「お待たせアネット クリスティー連れてきたわよ」


「うん ありがとう おはようクリスティー 何かごめんね 急にこんなお願いしちゃって」


「フルフルフル・・・」



 彼女クリスティーは悪漢に奴隷にされて王都ダンジョンに放り込まれた3人の内の1人だ。ミストリアと同じ“失語さん”を連れた彼女は喋れない。だけど絵に才覚を見出だした彼女はその能力で今ではギルドの資料作りに励んでいる。


 今回そんな彼女にお願いしたのは、改築前の我が家を絵に残してもらおうと思い立ったからだ。クリスティーの絵には意思が乗る。つまり僕でも自分が過ごした場所を、この見えない目で確める事ができるんだ。


 そして家族にも思い出として形に残す事ができる。


 変わらないものはない。英雄に憧れて外を駆けずり回っていた幼い自分も。“盲目さん”に話し掛けて塞ぎこんだ自分も。そこから自らの足で歩こうと思った自分も。冒険者として立っている今も。これからも。


 記憶の中だけでなく形として置いとける物があるのって嬉しかったんだ。今ならマルティナが家に固執した気持ちも分かる気がする。





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