341・答え合わせ
前回のあらすじ
伝書鳩で呼び寄せられた騎士団と冒険者達は、一味のアジトを急襲する。順調に捕縛を成功させたアネット達は、ミストリアからの情報でスプリントノーゼにも魔の手が広まっている事を知り、更に貴族が囲ってる事も示唆した。その言葉にルディア・ルンドレンの名が過るアネットだった。
ミストリアの暴露によって色々な事が明るみになってきた。
まず彼等は何者かによる金銭的支援を受けている事。それから薬の製造と販路の開拓、アジトの拡充と、薬で儲けて町を買い漁る野望まで。
扱う品がご禁制に触れるものでないのなら、商人として真っ当? な思考なのかもしれないけど、何で危ない橋を渡ってまで犯罪に手を染めるのか。ミストリア曰く、その「真っ当」ではライバルに勝てないからとのお返事を頂いた。
人と同じ商売をしいても未来は明るくないとは聞くけれど、御上に楯突いてまで茨の道を歩くなら、そのベクトルを努力や工夫に回せば新しいアイデアだって思い付くかもしれないのに。
目の前にパッと出されたお金とチャンスを前に、人とはどうにも抗えない生き物らしい。
「今のところの製造拠点はこことスプリントノーゼと言ったところだが・・・ 鼬ごっこになりそうな気配だな」
「どうしてよ 拠点が見付かったら片っ端から潰してけばいいじゃない」
「知識が人の頭の中にあると 流出なんて防ぎようがないよね」
〔技術が止められない原因よ こうなるとマルティナの言う通りもぐら叩きしていくしかないわ〕
「今回の事で持ち込まれるモンスターや動物は詳しく検査されるようになるだろうし ダンジョン出口みたく外門も解体所も混むようになるね」
「うぅ・・・ 気軽に雑木林に行けなくなっちゃうわ」
〔あら それで雇用枠が増えるのなら良い事だわ 将来的にマイナス等級達の就職先になってくれればと思うわね〕
審査が厳しくなればなる程人手は必要になる。なので職を求める人にとっては朗報なんだろうけど、今度は検査官の質や作業行程で新たな問題が浮き彫りになりそうな予感はする。
理想はミストリアの言葉通りだけど、そこにスキルが伴わなければザルから溢れる水になりかねない。でも適所に配置できる適材の育成と言う方針が確立すれば、手探りの訓練施設運営にも現実味が増す。
「それで 一部とは言え捕縛はできた訳だけど これからどうするの?」
「当然やる事は一貫している こいつ等から真相を聞き出して一味もろとも捕まえる」
〔それに関しては協力できますわ ただし 尋問には私とエルヴィラ様のみ立ち会うのが条件となりますけど〕
「それは何故・・・」
と言いかけたエルヴィラさんは、何かに思い至ったかミストリアの提案を素直に飲んだ。マイナス等級には何かある。それを彼女は知っている。
その後───────
このアジトを利用するメンバーと規模を考慮して、捕り物の人数を縮小しての作戦続行となった。それに伴って僕達は解放される運びとなった訳だけど、ミストリアは志願して残ると言い出した。
「後はベテランに任せれば?」
と言っても〔彼等でも引き出せない情報はあるわ〕と返される。
「だったら僕達も残る」
と言っても〔家族を心配させてはいけないわ〕と諭された。
こうなると僕等から出せる言葉がない。ここは彼女の意思を尊重するのが正解なんだろう。心配ではあるけれど、精鋭達に囲まれた彼女はきっと安全な筈だ。
町に戻った僕達は早速ギルドに報告を入れた。事が事なだけに慎重に取り扱われたこれ等の情報は、直接ギルド長の部屋でのやり取りとなった。
訳だけど・・・
「冒険者ギルドは猛省せよー!!」
「冒険者は不当にワーカーを妨害しているー!!」
「────と言う訳でして 森のアジトには20人くらい残して後は撤退と言う事になったんです」
「ダンジョンでワーカーが行方不明が多いのは冒険者が商売敵を殺しているからだー!!」
「────その際にミストリアは残る事になったので 何かしらの情報は追加されるかもしれません」
「冒険者ギルドこそ 住民達の安全を脅かしているんだー!!」
「────ふむ 分かった」
「冒険者の暴挙で潰れた店が何軒あったか分かってるのかー!! お前達こそ庶民の敵だー!!」
「────それでイザルス達・・・ 事件に利用された人達の事なんですけど・・・」
「マイナス等級より我々を優遇しろー!!」
「あ~~~もう!! 外うるさいわね! 何なのよこいつ等!! て言うかまだやってんの!?」
森から戻ってみると大通りには数十人規模で人が集まって、有らん限りの大声を口々に張り上げていた。ギルド前が殊の外騒がしく、人も集中して固まっていて中に入るのも苦労した。
何をそんなに憤るのかとチラリと見た彼等だけど、罵声と同じく憎悪を滾らせる人間は意外なほど少なく、残りは心ここに非ずでただ立っているだけの人が大半を占めていたのが印象的だった。
多分お金で集められた臨時の人達なんだろう。間違いない。
「商人共の差し金じゃろうな」
「だからってほっといていいの!?」
「僕としてもここには小さな子供達もいるし 情操教育に良くないかと」
「ふぅむ 今回の件も片付けば潮目も変わるじゃろう」
何を根拠に言ってるかは分からないけど、ランドルフさんには確信めいたものがあるんだろう。外の雑音をあまり気にした様子はない。
「さて 問題は町中に巣食う連中の仲間じゃな 当然薬を持ち込んどるんじゃ 此方も迅速に対応せねばなるまい で 利用されとる連中に関してじゃな これはまたあの娘に頼るしかなかろう」
「そうですね お咎めも無さそうで良かったです」
「そうも言っとられんぞ? 人間1度噂がたてば払拭するのは難しいからの もしそれが知人であるなら手を差し伸べるのも良いじゃろう ただし その矛先が自分に向けられる覚悟も必要じゃぞ?」
「なら僕が適任でしょう」
マイナスって語句に言葉が1つ付くだけだろうしね。今回の事件が解決を見ると言う事は、イザルスの家族が捕まると言う事だし、放り出された彼等に何とか助け船は出したいところだけど。
僕から掛けられる言葉は精々が「冒険者にならない?」だ。争い事を嫌う彼等には受け入れ難い提案だろう。仲間の1人に採掘師がいるようなのでルミウス辺りに紹介してみてはどうか。う~む・・・
「だったら冒険者ギルドにでも誘ったら? 戦士さん連れてたし やってられない事はないわよ」
「・・・どうだろう やりたい事とやれる事の解離ってあると思う こればかりは本人次第だよ 何とか軌道に乗ってくれれば良いんだけどね」
「ふ~ん やけに気にするわね」
「僕にはマルティナ達がいたからね イザルス達も仲間内で助け合うだろうけど 両親との決別ってところが どうにも・・・」
「・・・」
この話はマルティナにタブーらしい。僕の両親の話になりかけると彼女はいつも不機嫌になる。まぁここで深掘りする話題でもなし、今は今後の事に注力しよう。
ミストリア一行が帰ってきたのはこの二日後だった。成果は上々で述べ60人程捕縛して堂々の凱旋となった。
そこからの動きも素早く、騎士団は得た情報を元に町中に潜伏していた一味を捕らえに走る。受け取り先から売人に至るまで、全員でないにせよ、かなりの人数がお縄になったと聞かされた。
「膿は出すに限るわねっ」
〔でもまだ終わってはいないわ スプリントノーゼにも魔の手は伸びているし そこで巨悪に膨れ上がっても不思議じゃないもの〕
「そうだね ・・・ミストリア大丈夫? 無理してない?」
〔大丈夫よ 知らずに加担させられてた人は被害者だもの 冤罪なんて作ってはいけないわ でも驚いた コルトアも取り調べに立ち会うだなんて〕
「うん 他の人には言わないでほしいんだけど 彼も人の真偽に触れる事ができるから ギルドとしてもスキル向上の一環で同席させてるんだろうね」
〔・・・これ 気を付けないと 逆の意味でマイナス等級が目をつけられそうよね〕
「・・・だね」
言葉が喋れない。目が見えない。音が聞こえない。これ等が他者の内面に干渉するスキルを会得すると周知されれば、否が応にも忌避と搾取の対象にされかねない。
一応マイナス等級訓練施設は社会復帰を目指した訓練の場として運営される訳だけど、下手すると危険因子の量産を助長してしまう恐れも秘める。
今更ながら不安になってきた・・・
それとは関係ないけれど、その後は良い動きも報告された。まず薬の製造拠点が1つ潰れた事でデモが行われなくなった事。それに付随するようにスプリントノーゼのとある貴族の関与で組織の一味が捕まった事だ。
その立役者こそルディア・ルンドレン。その人だった。
★
物事がとんとん拍子で進むのは誰かの関与が働いているから・・・と言うのが人の本心を見てきた私の持論。案の定商人達の一連の行動にも誰かの後ろ楯があった訳よね。
今私の隣で完成に向かう建築物を眺めるカストラ商会の商会長バードラット。結局私達は彼の手のひらで踊らせれていただけだった。
「この分ですと町の再開発も恙無く済みそうですな」
〔あら 現場を見てない方には額面通りにしか写らないのですね それとも帳簿の記載に解体費用が明記されてなければ恙無い訳ですか〕
「報告はマデランから随時受けておりました しかし 終り良ければ・・・ですよ」
〔もしも冒険者ギルドのように商人にもランクがあるのなら 貴方は間違いなくダイヤモンドクラスでしょうね 町の人間も商人も貴族もギルドも利用したのですから〕
「お陰で町から汚れは取り除けたでしょう?」
〔ものは言い様ですわね 商人を焚き付けて土地を買いに走らせ そこにルンドレン家が金を貸す 裏で薬物製造に出資してアジトを作らせて町に卸す 元々黒い部分のある商人は当然のように薬に手を出し 期を見計らって討伐
今回はギルドの動きの方が早かったけど 本当はルンドレン家が組織を一掃する予定だったのでしょう? これによって土地を購入した商人は返済に困る事になる 元々苦しい財政のところに降ってきたお金で買った土地ですもの 後はその借金を安くなった土地と引き換えに肩代わりする
当然 裏ではルンドレン家と繋がっているんですのよね? スプリントノーゼに行っていたのもその為 そして計画前に私に知られるのを防ぐ為 そこまでしてマイナス等級に執着したいのかしら〕
「貴女様の事はミラハから聞いております 正しくその通り 同じ境遇の貴女には申し訳ありませんが そのスキルは稀有で危険だ だからこそ管理が必要なのです 町の人間にマイナス等級に悪感情を抱かせギルドとその力を折半する そう言う話です」
〔とてもアネット達には聞かせられない話ね 信用できるのかしら〕
「信用なんてものは存在しません あるのは利害関係だけです しかしその力の真髄を知る我々が そのスキルを裏切る事はありませんとも」
〔そう・・・町のお墨付きと言う訳ですか 人を操り町に火をかけさせた方の仰る事は説得力が違いますね ただ もし彼の家が焼け落ちていたら 貴方は火ではなく溺死していたところでしたよ?〕
「それは怖い 精々足元を掬われぬよう勉強させていただきます」




