340・洞窟強襲
前回のあらすじ
イザルス達の協力を得て悪党退治に乗り出したアネット達は、カルメンのスキルを活かして洞窟内の様子を窺った。状況を把握した一行は後続を招く為伝書鳩を放つのだった。
「首尾はどうだ」
「中は30人弱だそうだよ どうやら連中交代制らしく この一回で事は済みそうにないね」
「・・・ならば気取られぬよう迅速に制圧して 中で待ち伏せるのが良いだろう」
伝書を頼りに後続の制圧班が各狩人達の先行で続々と集まってきた。その数はおおよそ50人。狩人10人、冒険者20人、騎士団20人と言ったところか。大捕物を悟られないよう分かれての行進となった各班だけど、森に一堂に会したこの光景は一般の人には異様に写る筈。
森の中の行軍と言う事で、普段身に纏ってるガチャガチャ鳴る鎧を脱いだ騎士団の面々はどこか不服そうにしている。どうやらあの出で立ちには一定のプライドを持ってるらしい。
でもそのプライドを持ち込こむと、森ではたぶん生きられない。
「で どう攻めるんだい」
「地形が狭い洞窟なら 此方は壁になって一気に押す 連中とて襲撃を予想してない訳ではないだろうが 聞いた通りの内装なら大挙して押し寄せる事を想定してないのだろう その弱点を突く
狩人達は外で漏れた奴がいたら仕留めてくれ アネットとミストリアは我々のサポート 敵の妨害にあたれ 時間が惜しい このまま雪崩れ込むぞ」
エルヴィラさんの号令で各自一斉に、そして静かに動き始めた。そこは流石の経験者。阿吽の呼吸で粒ぞろいの息が揃う。
辿り着いたその入り口は、人1人が余裕を持って通れる程度の代物で、これに似た地形なら森に多く点在してる筈。
何故なら天然の隠れ蓑として優秀で、尾行されるか偶然見つけるかしなくては、こなれた人こそスルーしてしまいそうな場所に位置してるからだ。見張りがいないのがその証拠でもある。
そんな隠れ家を怒濤の勢いで突き進む一行は、早速敵との戦闘に移行した。
「なっ 何だテメェ等は! ぐはぁー!」
問答無用。徹底して制圧する事を念頭においた我々襲撃者側は、会話の余地などなく鋭い刃と勢いをもって襲い掛かった。
カンカンカンと緊急事態を知らせる警報が洞窟内を木霊しても、彼等のやる事は変わらない。次々現れる敵との戦闘を黙々と繰り広げていく。
「ミストリア! 上!」
そんな戦場に、色付いた小型の何かが頭上に飛んだ。見間違いでなければあれは伝書鳩。当然こんな僻地な訳だから相手側も何かしらの連絡手段は確保している筈。これを逃して外界に情報が漏れるのは避けたい。
水を操り顔に纏わせ、窒息による無力化を図っていたミストリアは僕の言葉に即反応すると、中空を飛ぶ伝書鳩に水の塊をぶつけ、見事に情報漏洩の目を潰した。
「凄い まるで吸い込まれてくみたいに当たったね 結構速かったのに」
『アネットもやるー?』
「うん」
僕の場合『プチダーク』は威力を気にしなくていいので、ただ漠然と相手の眼前に靄を張り付けるだけで動作は完了する。簡素な妨害でも緊張状態の中で想定外の状況に陥ればパニックになるのも当然で・・・
『プチダーク』を食らった相手方は「殺られてなるものか」と靄を払いながら逃走。真っ暗闇の中を無我夢中に突っ走って壁に激突。頭でも打ったのか転倒。終ぞ起き上がる事はなかった。
気合いと覚悟と油の乗った僕達は、勢い衰える事なく次々に敵陣を制圧していく。特に冒険者達は「何でこんなに慣れてるの?」と言う手際で淡々と処理していった。
その中に混ざろうとマルティナもあくせく奮闘してるけど、今一つ届かない感じで周りから浮いている。
相手は30人くらいとの事だけど、数の有利と腕前を前に敵は呆気なく捕縛されていき、制圧まで然程の時間も掛からなかった。目は見えずとも肌感覚で自軍の優勢を感じられる程僕達は強かったらしい。
精鋭の派遣。それだけギルドも本気だった訳だ。
「ふぅ 終わったわね・・・ 役に立てたのか分からないけど」
「僕だって似たようなものだよ」
「これで洞窟内の悪党は全員だなっ 外の狩人達に伝令! 指示があるまで隠れて待機 我々はここに留まる 出口付近に人員を配置しろ 冒険者は捕らえた輩の見張りだ 騎士団は辺りの捜索!」
「「「「ハッ」」」」
規律正しい騎士達はエルヴィラさんの号令で洞窟内に散っていく。残された冒険者達は「やれやれ」と言った感じで肩をすくめた。これも1つの功績になるものを彼等は「俺達の手柄だ!」と主張する事はせず、どうやらこの件、誰持ちかを事前に決めているのだろう。
冒険者は悪党の見張りな訳だけど、僕が居らずとも手練れのベテラン達でこの場は足りる。少し気になる事もあったので、僕なりに辺りを散策してみようと出歩いてみる事にした。
騎士達は報連相を厳格に守るよう訓練されているのか、ただ歩くだけで次々と情報が耳に飛び込んでくる。長期滞在をするよう造られた洞窟にはカルメンの報告の通り居住スペースが設けられ、少し歩くと調理済みと思われる料理のにおいがフワリと香った。
そこから更に先に進むと事件の証拠となる現場へと辿り着く。そこは厚い壁と扉で区切られた奥にあるようで、洞窟の中間層とはまた違った音の響きとなった。それだけ厳重に管理してた証拠だろう。
中ではエルヴィラさんを中心にあくせく騎士達が動いてる。それにしても・・・中は処置前のモンスターが積まれているのか、誘引剤の臭いと混ざりあって酷い悪臭だ。ここの扉が厚いのも頷ける。
「アネットか どうした 何かあったか?」
「あ いえ・・・僕の知ってる人物が ここと関係してるか気になって」
「ほう 犯人の一味に心当たりがあるのか」
「はい アーキア人で名前はナイームと言います ダクプリ・・・町の不良集団ダークプリズンと暗躍して誘引剤を密売してるようで 一時は追い詰めたんですけど逃げられてしまって そのまま・・・」
「なる程 その痕跡が気になるのか」
「はい 誘引剤関連ならここに何かないものかと 僕の友人も彼の事を気に掛けてるようなので 早く解決できたらいいなって」
「そう言う事なら探す場所を間違えてるぞアネット 犯人の行方は共犯の頭の中にある」
「・・・え」
そう言うとエルヴィラさんは感情を嬉々とさせ、捕まえた捕虜達の元まで駆け歩いた。
「おい貴様等 ナイームと言う者に心当たりはないかっ」
捕虜達の前に立つと彼女は濁す事なく直線的に質問した。やや高圧的な態度にも怯まない彼等も、内に秘める感情まで誤魔化す事はできないようで、座らされてる彼等の内、何人かの心が揺らいだ。
でも彼等も彼等で彼等なりの矜持があるのか、態度に出すのをグッと堪え口元もギュッと閉じたまま。彼女の問いに応える者はない。
〔そのナイームと言う人物 どうやらここに来た事あるようね むしろ指揮していた内の1人のようだわ 腹立たしい事にテオテリカにまで手を出してるだなんて・・・〕
彼等にとって公然の秘密を暴露したミストリアに一同はギョッとする。恨めしいような感情を彼女に向けるけど、態度に出すには至らない。けどそんな彼等の内面などお構いなしにミストリアは先を続ける。
〔どうやらこの人達の身内に商人がいるみたいね 皆ハルメリーの土地を手に入れようと躍起になってるみたい 色々な方法で土地の価値を落とそうと奮闘しているそうよ ぽっと出の商人にはまだまだ手が出せる価格じゃないのかも〕
「呆れた連中だな 他者を貶めてまで手にしたものに誇りなど持てる訳なかろうに それとも貴様等には理解できない価値観なのか?」
多分そうなんだろう。エルヴィラさんに詰められても呵責より焦りの感情が上回る。きっと僕達とは根っこの部分が違うんだ。となると「分かり合う」は困難を極める。
〔はぁ 最悪ね スプリントノーゼにも彼等の拠点があるようだわ 誰かまでは分からないけど 何処かの貴族が囲ってるそうよ〕
「それ もしかして・・・」
ルディア・ルンドレン・・・と声に出掛かったのをグッと堪えて我慢した。確定ではないにしろ時期的に疑わざるを得ない。




