337・容疑者アネット
前回のあらすじ
冒険者が近所の警備にあたってくれる事で気分転換に外に仕事を求めたアネット達。仕事中森でイザルス達と出会した彼等は獲物の運搬を手伝う事となった。町に戻った一行は解体所にてモンスター解体を依頼したが、作業員からは怪訝な文言が飛び出した。
「おい・・・何だ こりゃ・・・」
作業員の動揺を隠せない声色に一同台に置かれたモンスターに意識が集中した。何だろう・・・何があるんだろう。何かはわからないけど、その何かを見た人から順に困惑色へと染まっていく。
開かれた内臓の中に手を入れた作業員の手元から、本来聞こえる筈のないガサガサと言う人工物の袋のような音がしていた。
「これが何にせよ ・・・密輸だな お前等 自分達のした事分かってんのか」
「ちょ ちょっと待ってよ こんなの・・・ イザルス これどう言う事? 何なのよこれっ」
「し 知らないよ 俺達・・・俺達はただ言われた通りにモンスターを運んでただけだ! 何も聞いてないし 俺達だって知らなかったんだ!」
「そうか だから直接持ってこいって・・・クソ!」
「俺達・・・利用されたのか? どうなってんだ」
「そうだ店 俺の家に連絡してくれっ」
「ああ そうだな いずれ連絡はいくだろうよ だがその前に お前等には行くとこがあるだろ」
完全な敵意を向けられた僕達は現場の作業員達に周囲を取り囲まれてしまった。町中で、しかも普段お世話になってる解体所の人達相手に大立ち回りなんてできないだろう。
ここは大人しく従った方が後の身の為だ。
ガシャン──────
と、響いたこの音は牢屋の鉄格子で、ここは騎士団の詰所の中。つまり皆仲良く捕まった訳だ。
「イザルス これはどう言う事なの」
「だから知らないって! 知ってたら解体所になんか持ってかねぇよ!」
〔状況証拠にはなるんでしょうけど 実際に不審物が見付かっては現行犯だわ 黒幕が捕まらない限り潔白を証明するのは難しそうね〕
「そんな・・・」
「なぁ俺達 ホントに利用されたのか? あいつ等も もしかして何も知らないのかも」
「んな訳ないだろ 耳にタコができるくらい直接持ってこいって言われたんだぞ 知らない訳ねぇよ」
「ところでアレ 何だったんだ?」
人生初だろう牢屋に囚われてイザルス達はげんなり萎れてしまっていた。彼等の言葉に嘘はない。本当に何も知らないんだ。知らされないまま利用されてしまったんだ。
暗く気まずい空気の中、時間だけが異様にゆっくりと進んでいく。みんな突然の出来事にショックを受けたのか、それ移行会話らしい会話が流れる事はなかった。
長い沈黙の中、部屋の扉が開かれるとガチャガチャガチャと鎧の奏でる音が牢屋に響く。
「出ろ これから事情聴取を行う 先ずはアネットからだ」
「この声 エルヴィラさん?」
知り合いが来た事で幾ばくかの安堵を得たけれど当の彼女は神妙だ。これは僕が思っている以上にマズイ方向に向かってるのかもしれない。
「アネット!」
「大丈夫 僕達はみんな巻き込まれただけだよ」
〔・・・そうね〕
エルヴィラさんの後に付いていくととある部屋へと通された。そこにあるのは必要最低限のテーブルと椅子のみ、装飾品の類いは一切なく尋問の為だけに設えた部屋なのが分かる。
言い難い緊張の中、どかっと腰を下ろしたエルヴィラさんからは大きなため息が出た。
「まったく 何てものを持ち込んでくれたんだ」
「・・・袋みたいな音のやつですよね アレ何だったんですか?」
「誘引剤だ 粉末に加工されたな」
「誘引・・・ なる程 外から持ち込まれていたんですね しかも臭いを誤魔化す為に他の臭いに紛れ込ませて だからキツい臭いのモンスターの体内に仕込んだ・・・」
甘味処で作ったり売買に工夫を凝らしたり、彼等は抜け道を見付ける事に驚くほど長けている。この才能を良い方向に向けられないのかと、悪事に染まる傑物を見る度にしみじみ思う。
「お前はこの件に絡んではいないのだな?」
「はい 僕達が今日狩った獲物はフォレストウルフが1匹です 他のモンスターはイザルス達の・・・ワーカーのものですが 彼等は店の方針で別のワーカーの狩った獲物を町まで届ける仕事をしてました
それに彼等が拘わっていたのなら わざわざバレるような行動はしないと思います 僕の誘いで今回は解体所を利用しましたから 普段は店の方に直接持っていってるみたいですけど」
「商人か 厄介な連中だ 利益の為なら法も省みない ・・・最近どこの商人も羽振りが良いと聞いているが これとも連動しているのか? ・・・う~む」
彼女も商人達の一連の動きには疑問を呈してるみたいだ。アーキア人集落から町の商人へと販売ルートが移行された誘引剤。ダクプリと言う集団にメスが入っても衰えない薬物問題の裏にいるのが素人組織の筈がない。
「とは言えだ 身の潔白が証明されない以上 お前達を解放する訳にはいかない しばらくはここで監禁させてもらう」
「やっぱり そう なりますよね・・・」
叔母さん達に何て言おう。そもそも連絡とれるんだろうか。そんな事で頭をいっぱいにしていると突如後ろの扉が勢いよくバン! と開かれてビクッとした。
「何だお前達はっ!」
「待て待て 俺等は冒険者ギルドのもんだ ウチのバカ共を引き取りに来たんだよ」
「引き取りだと? 無実である事が証明されるまでここを出す事はまかりならんっ」
「待って下さい! 誘引剤の件はギルドでも調査中ですが アネット君の最近の行動はギルドで証明できますし 解体所の方も連れて来ました! と言うか そもそもアネット君がこんな悪事に拘われる訳ないでしょうっ?」
この声はポリアンナさん。それにジュレアスさん。それと作業員の人。この3人が僕達の為に騎士団詰所まで乗り込んできてくれた。
「そうだな しかしこれが事件である以上アネット達は容疑者だ つまり関与が否定される証拠がないとなると容疑は晴れない 従って引き取らせる訳にはいかない」
「待ってくれ あんたの言う証拠は物的証拠だろ? その証明は難しいが 解体に従事する者として言わせて貰えば モンスターの傷跡と武器を照合させればいい」
「曖昧だ それでは証拠として弱い」
「肛門部には縫合の跡が見られた 恐らくそこから内臓を取り出して中に薬物を詰めたんだろう 極力バレないようにあれはその道のプロの手際だ スキル無しで熟せる仕事じゃない」
「そんなもの金で雇えばいくらでも取り繕える」
「ならば血痕を調べればいい 彼等が狩ったのはフォレストウルフ1匹だ それだけ切り口が違うからな 持ち込まれたモンスターはそれぞれ違う種類 つまり血液の成分も違う それを薬剤で調べればいい」
「・・・武器を変えれば偽装は可能だ」
「かぁ~~ったく! 頭が固いなぁ! モンスターの一匹はトライデントフォックス ここら辺にはいないやつだ スプリントノーゼを越えた山向こうにいるモンスターを ひょろいコイツがわざわざ運んで来ると思うか? んなわきゃねぇだろ!
そもそも目だって見えてねぇのに そんな器用な真似できっかよっ それにコイツは誘引剤の売人捕まえる貢献だってしてんだぜ それでも足りねぇってのか? もしかしてお前 コイツ等を犯人に仕立てて幕引き計るつもりじゃねぇだろうな」
「見損なうな ! 得体の知れない相手だからこそ確実な証拠が必要なんだ ! 只でさえ今はマイナス等級への風当たりが強い 中途半端な事をして揚げ足を取られれば 更に厄介な事になるかもしれないんだぞ!」
「揚げ足だぁ? 冒険者を舐めてくれんなよ 俺達は自己解決が基本だぜ 相手が敵ならモンスターも人も関係ねぇ もし狙われてんなら真っ向から受けて立つのが俺達だ そうだろアネット」
「・・・はい!」
「ってな訳だ 無実は自力で勝ち取るぜ」
「頭が固いのはどっちだ その自己解決を力で歪める連中が国を動かしてるんだ だからこそ騎士団のお墨付きが必要なのだ」
エルヴィラさんは貴族の横やりを気にしてるんだろう。規模が規模だしこの事件、彼等が裏にいる可能性は高い。
ルディア・ルンドレンに動きあり────
まさかね・・・
「まぁいい 私もアネット達が加担してるとは思っていない だが事件に巻き込まれた以上 背後の人間は何かしらの行動を起こすだろう 冒険者は仲間内で動けても残りのワーカー達は別だ 首謀者一味であるなら尚のこと命を狙われる 連中は出せん」
「そうですか そう ですね・・・」
世の中利益の為なら家に火をかける人だっている。町中なのに矢を放つ人もいる。イザルス達が家に戻ったら二度と日の目を見れない可能性もある。
残念だけど騎士団の庇護の中にいた方が安全だ。
ジュレアスさんに促された僕達冒険者組は、その日の内に騎士団詰所を出る事ができた。その際後に残されたイザルス達の色が恨めしそうに僕達を捉えてたのが心に残る。
後ろ髪を引かれる思いのまま僕はギルドまでの道のりを歩く事となった。




