336・運搬物
前回のあらすじ
ギルドと冒険者の強力で火災現場の片付けを終わらせたアネットは一旦ギルドに赴く事にする。するとポリアンナからロダリオからアネット宛の伝書を受け取る事となった。
チュンチュン・・・チュンチュン・・・
「おはよう盲目さん」
『はよー? アネットまだ時間早いよ?』
「う~ん 寝付きが悪かったみたい・・・何だろう 不安が心をグルグルするんだ」
ルディア・ルンドレンに動きあり────
あの伝書が気になって心の中に微かな不安がうずいてる。動きって・・・何だろう。詳細は分からないけど、ロダリオが知らせてくるって事は僕達に関係する事なのかな。
引っ掛かる・・・
そんな不安を誤魔化す為、僕は台所で朝食の支度に取り組む事にした。問題が本当の解決を見てないので叔母さん達にはまだギルドに居てもらってる。なので家事全般は僕達の仕事だ。
カチャカチャと食器やら食材やらの準備をしていると、まだまだ早い時分にも拘わらず珍しくミストリアが起きてきた。
〔おはようアネット 早いのね〕
『おはー』
『〔おはよう〕』
「おはようミストリア」
『はよー』
「ミストリアも早いね もしかして眠れなかった?」
〔そうね あんなのを見てしまっては あの子が何かしてくるんじゃないかってちょっと心配になるわ〕
「・・・僕も不安には感じるけど そこまでの事ができるのかな」
〔アネット 立場と言うのはその立ち位置によっては権威でもあるの たった一言でも周りが嬉々として動く事だってあるの 本人に意図が有ろうと無かろうと でも あの子の性格を知ってる身としては・・・ね〕
「・・・・」
ミストリアがここにいる理由を作った一人と考えれば、彼女が直接手を出さずとも他者を利用する事は十分に考えられる。考えたくはないけれど、いったい何をしてくる事やら。
〔私 不安だわ〕
そう言うとミストリアは不安とは程遠い色合いですり寄ってくる。どうやらルディアさんの事は歯牙にもかけてないみたいだ。
「私も不安よ!」
〔あらマルティナ おはよう 今朝は早いのね〕
「生憎と朝は強いのよっ 日も明けきってない時間に部屋を出ていったと思ったら まったく油断も隙もない!」
「おはようマルティナ みんな集まった事だし ちゃちゃっと朝御飯の支度を済ませちゃおう」
皆でやれば早く終わる。マルティナの不安も朝のゴタゴタで吹っ飛んだみたいだし、これはこれで良い傾向なんだろう。
「それで 今日はどうするの? 片付けも終わって私達のできる事はもう無いわよ?」
「だね 昨日マデランさんとちょっと話したんだけど 建設期間中はギルドに護衛の依頼を出す事に決めたんだって」
「じゃあ 私達はその仕事をするの?」
「ん~・・・ 最近は町の事でてんやわんやだったから 気分転換に外に出てみない?」
〔そうね ここに冒険者達がいてくれれば大丈夫でしょう 昨日来た連中 勝てないと踏んだのか 怖じ気づいてそそくさと逃げ帰っていったもの〕
「じゃ決まりねっ」
いわゆるモンスター討伐は事前に依頼を受けずとも、本体ないし特定部位を解体所に持ち込めば幾らか報酬を貰える。それは僕達が食べられる動物(肉)の確保と言う意味で利益に繋がるからだ。
ギルドに立ち寄る必要がないと言う事で少々ゆっくりしてから家を出た訳だけど・・・
「冒険者ギルドは商人と結託して我々の家を奪おうとしているー!!」
「マイナス等級を過度に優遇しているのがその証拠だー!!」
「優先順位を間違えるなー!! 困窮しているのは我々住民の方だー!!」
「ギルドは即刻手を引けー!!」
「まだやってるの・・・呆れるわね」
〔昨日の・・・私達への意趣返しだったりね〕
「うわぁ ありそう」
事前にデモの告知をしていれば商人達の耳に入らない訳がない。それが今回露店が出陣してないと言う事は突発的で無計画なデモなんだろう。チラリと参加者に目を向けると怒りと悪意に満ち満ちている。
意趣返しの線・・・ありそうだ。
しかし今日はデモにかまけるつもりはない。むしろ今は目を背けたい。と言う訳で怒号をあげる集団を尻目に僕達は町の外へと出ていった。
「アネット! そっちに行ったわ気を付けて!」
「うん!」
外に出て僕達がやれる事は精々薬草採取と肉の確保な訳だけど、凍てつく冬の寒さの中運良くモンスターであるフォレストウルフと遭遇する事ができた。彼等は冬本番に差し掛かる事もあって食に飢えている。
つまり彼等にしても運良く肉にありつけた訳だ。食わせるつもりはないけれど。
「盲目さん!」
『プチダーク!』
さてこの『プチダーク』。自在に動かせるようになった事で色々汎用性が効く事が判明した。まず単純な目眩ましから始まり、此方の行動に形を変え合わせる事で不意を突く事にも成功している。
野生を生きるモンスターと言えど、目端からヌッと現れる奇怪な影を無視する事はできず、気が反れてる間に綺麗に剣を突き刺す事ができた。
勿論ただ見せれば良いと言う訳ではなく、例えば攻撃の瞬間とか相手の意識の代わり際に展開する事で効果的に混乱を与える事ができる。
つまり相手の意識が色として見える僕におあつらえ向きの使い方と言う訳だ。
『だんだん慣れてきたねー』
「うん もう少し的確に形にできると やれる事の幅も広がりそうだよね 人型とかにできないかな」
「やめて 黒い人影とか完全にホラーじゃん」
〔水の滴る音とか合わせれば効果覿面ね〕
ガサガサ・・・ガサ・・・
倒したフォレストウルフを抱えつつ慎重に前進を続けると、不意に藪を掻く音が僕の耳に届いた。それは僕達の向かう先の方向から。音の反響具合も1匹じゃない。複数が同じ場所に固まっている。
「2人とも 慎重に・・・」
「え えぇ」
僕達は狩人の歩方に習い音を立てず引き続き慎重に前進を続けた。音の発生場所に近付くにつれてその正体が明らかとなっていく。フォレストウルフよりずっしりと重く、特有の軽やかな足取りとは似つかない。
加えて口から出る音吐は獣のそれではなくまるで人の・・・声。
うん・・・人でした。
〔あら? 前方にいる人 見覚えがあるわ〕
近くに来たところでミストリアが知ってる顔だと言う。でも曖昧な物言いに冒険者仲間でないのは確かだ。僕は意を決して藪から頭を出すと彼等に向かって歩いた。
この場合コソコソして襲撃と思われるのは危険だからね。
「・・・ ・・・何だ アネット達か 驚かさないでくれよ」
「この声はイザルス 仕事中なの?」
「ああ 毎度の如くモンスターの運搬だ」
〔結構あるのね 見た事ないのまで混じってるけど これだけの量を狩るだなんてワーカー達も優秀なのかしら〕
「そうなんだろうな 実際狩るところ見てる訳じゃないけど 本職のお前等がそう言うって事は そうなんだろ」
「大変そうね・・・ねぇ提案なんだけど 私達の狩ったフォレストウルフも一緒に運んでもらえないかしら 代わりに此方は人員を3人貸すわ」
「え んー どうする?」
「取り敢えずこの道で台車転がすの 俺達だけじゃキツい」
「決まりだな ここまでだって限界だったんだ あいつ等ももうちっと量考えてくれたら良いのに」
「話は纏まったみたいだね」
討伐パーティーから獲物を受け取って町まで運搬する仕事をしているイザルス達。僕も彼等に加わって台車を引いてみたけれど、愚痴の通りこれが中々の重労働。でもそれに見合う給金は得ているのが職を変えられない要因の1つと答えてくれた。
“戦士さん”はその性質上、力を必要とする動作全般に作用するので、戦い・運搬と共にその効力を遺憾なく発揮する事ができる。それに比べて僕とミストリアは力作業とは無縁のスキルさん。
マルティナは3人の力と表現したけれど、実質役立ってるのは彼女だけで僕とミストリアはその限りではない。イザルス達には悪いけど早々にへばってしまった。
「そう言えばイザルス達はデモについて何か聞いてたりしないのかしら 商人側の裏話とか知ってるなら聞きたいわ」
「俺達はこの仕事があるから参加はしてないけど 他の連中は上から言われて渋々参加したって奴はいたぜ」
「それ俺も聞いた 確か金貰ったって」
「え 良いな~ 歩いてるだけで金貰えるんならそっちのが良いぜ」
「で でも・・・町の 人達の 分断に 繋がる 事だから・・・ハァハァ あまり 拘わらない方が いいかも・・・」
「まぁ 連中の言ってる台詞考えるとなぁ ・・・てか 大丈夫かアネット」
「だ 大丈夫・・・ハァハァ・・・」
ゴロゴロと重たい音を響かせながら、僕達は疲労困憊の体で何とか町中に台車を運び入れる事ができた。こんな重労働を毎回やってる彼等には頭が上がらない。
持ち込まれたこれ等の獲物は、誰かの手で加工され町に流れて誰かの手元に届いて経済が回る。やっている事の本質は冒険者と何ら変わらない。
ワーカーとか冒険者とか他の職業も含め、誰かの助けになっていると考えれば、職業に垣根なんて無いように思う。何故か貴賤だけは肩で風切って歩いちゃってるけど・・・
「やっと・・・着いた ハァハァ・・・」
〔いつも この作業を しているの?〕
「まぁ慣れっこってやつかな」
「あ そうだ たまには・・・こっちの解体所で・・・解体して もらえば? 見ないモンスターも・・・いるみたいだし 何のモンスターか教えて・・・くれるかも フゥー・・」
「ん~ でも直ぐに持ってこいって言われてるしなぁ」
〔今日は皆デモ活動に明け暮れてるからか 解体所は埋まってなさそうよ 直ぐに解体してもらえるんじゃない?〕
「んー ・・・そうだな そうしようか」
台車を引いて解体所に来るとミストリアの言う通り何時もは人のたかる解体所には、まばらに椅子に座って歓談にふける作業員が数人いるだけだった。漂う臭いの感じから持ち込まれた肉も無さそうだ。
「解体かい? こりゃ結構あるな」
「はい お願いします ちなみに 解体した後の部位は・・持ち帰れますか?」
「ああ 何が必要なんだい?」
「フォレストウルフ以外は全部 なんですけど・・・」
「そりゃ構わんが 商人に売るとなると足元見られるぞ?」
「それは・・・大丈夫そうです」
「ま いいさ ちゃちゃっと終わらせるが 量があるからな それなりに時間は貰うぜ?」
「はい あの 見学しててもいいですか?」
「見学? ・・・お前さんが? まぁ 見てたいなら好きにすればいいさ あ 作業中の邪魔だけはしてくれるなよ?」
「はい」
彼等は台車から慣れた手付きでモンスター達を作業台に運び込んでいく。一連の作業に決められた流れがあるのか、置かれたモンスターは躊躇われる事なく切り開かれていく。
動物の場合は血抜きの工程で冷やされたりしてたけど、モンスターは別物なんだろうか。
「ん? 何か妙な感触だな・・・」
モンスターの手触りに違和感を覚えた作業員は体のあちこちを押したりと色々触診し始める。しかし確証を得ないまま刃をモンスターに滑らせた作業員は疑問から確信へとその認識を変えていった。
「おい・・・何だ こりゃ・・・」




