335・復興の兆し
前回のあらすじ
火事現場での嫌がらせを懸念したアネットは仲間と一緒に夜番による自宅警備に当たる事にした。
チュン・・・チュンチュン・・・
鳥達の囀りと人肌の温もりで意識が現実へと引き戻されていく。僕の場合、朝起きて目を開けてもその景色は瞑った目蓋と同じように真っ暗なまま。
だから音と感触とにおいと思考とで、夢と現実の境界を計る。
「ん ん~・・・」
「ア アネット・・・起きたか・・・?」
「ん ・・・ウェグナス? おはよう」
『はよ~』
「お おはよう・・・いや それより 腕・・・」
「あぁ・・ごめん 暖かくて抱き付いちゃってたみたいだね・・・ 着替え着替え」
「着替っ・・・ 俺は先に部屋出てるからな」
「? うん ・・・ウェグナス大丈夫? 何か心臓バクバクしてるけど」
「だっ 大丈夫だ 問題ない・・・」
いそいそと部屋を出ていくウェグナス。朝は弱いのかな? 意外な一面を見た気がする。彼がこうして僕のベットで寝ていたと言う事は、どうやら真夜中の襲撃はユシュタファの読み通り無かったみたいだ。
それでも今日はどうなるか分からない。無事朝を迎えられたからと気を抜く事はできない。朝はこんなに静かなのに、人の営みが太陽の上昇と共に活発になってくと改めて考えると良くも悪くも感慨深い。
取り敢えず着替えて台所へ。ウェグナスは外の空気でも吸いに行ったのか台所に彼の姿はなかった。
皆はまだ寝てるみたいなので今の内に朝食を作ってしまおう。僕の体内時計によると朝食の準備に掛かる時間と僕の起きる時間とで整合性がとれる事で、オフェリナ叔母さんはこの時間からもう生活の準備をしてくれている。
有り難い事だ。
今度は僕が皆に思い遣りを提供する番だ。
「おはようアネット」
〔おはよう皆 アネット朝食を作ってくれたのね〕
「くあぁ~・・ あ~メシメシ」
夜番をしたとは言え何事も無かった為か、皆それなりに休む事ができたみたいだ。僕の用意した朝食も冒険者らしく豪快に掻き込んでいく。
「で 今日はどうすんだ?」
〔取り敢えずはギルドへ行きましょう 一応冒険者をここに派遣してくれる事にはなってるけど 私達も昨日あった事を早めに報告しといた方が良いと思うし〕
「そうだな 実際問題 規模は町単位になっている 抵抗しようにも私達だけなのは現実的ではないだろう まぁそこで冒険者が動いたら動いたで また新しい火種になりそうな予感はするがな」
「こう言う場合の最善策は市民の要望に早急に応える だよな 不満さえ解消されれば皆普通の生活に戻ってく訳だし」
「だね」
みんな特別な何かを期待してる訳じゃない。ウェグナスの言う通り、ただ普通に生活してその日その日を無事に過ごせればそれでいいんだ。
朝食と片付け、それに各々準備を済ませると、しんみり染みる寒さの中、僕達はギルドへ向かい歩きだした。朝の独特なこの静けさは昨日の出来事を嘘のようにさえ感じさせる。
同じ場所なのに静かだったり騒がしかったりで何とも不思議な感覚だ。
「で? 昨日出てったきり帰ってこないで 何で爽やかな顔で朝帰りしているの?」
「マ マルティナ・・・? おはよう・・・」
早朝のギルドの扉を開けるとホールで待ち構えてたマルティナに呼び止められた。少々言葉にトゲがある感じだけど、どうやら僕が昨日の内に戻らなかったのがおきに召さなかったらしい。
「大丈夫だマルティナ 言われた通り夜の間はちゃんと見張っていたぞ」
「夜の間見張る・・・それって 同衾したって事?」
「そ・・・そんな事は ないぞ」
「下らねぇ たかだか一緒のベットで寝たからって・・・べ 別にどうって事ねぇだろ・・・」
〔あら歯切れが悪いわよ? いつものつっけんどんとした口調はどうしたのかしら〕
「うっ うるせえなっ!」
「・・・ねぇあんた達 昨日本当に何もなかったんでしょうね」
「そ それよりも マルティナ 近所の人達と話をしてきたよ みんな急な不幸で気が立ってたけど 話をしたらちゃんと分かってもらえたと思うんだ・・・だから」
完全な和解って訳ではないにせよ敵意は取り除く事ができたと思う。元通りの距離とまではいかなくても徐々に挨拶からでも始めていって、ぎこちなくても普通に会話ができるところまでは戻せる筈だ。
だって今まで培ってきた時間に嘘はなかったんだから。
「・・・そう ・・・そうよね 誰だって何かに当たらなきゃ治まらない時もあるわよね うん 今日から 家に戻るわ あんた達だけにさせてたらどんな間違いが起こるか分からないものねっ」
良かった。気の強いマルティナがここまでへこむなんて見た事なかったからどうなるか心配してたけど、彼女らしい前向きさで立ち上がれたみたいだ。
問題も1つ解決したし、昨日あった出来事をギルドに報告しなきゃ。
「結構集まったな」
「だね・・・ でもちょっと過剰なくらいだけどね」
ギルドに報告を済ませた後、火事跡の片付け募集をかけたところ、現場にはかなりの冒険者が集まった。思った以上にこの事件に冒険者達は関心を寄せていたみたいだ。それは旧市街を守りたいと願う有志がかなりの数いた事になる。
情報通の彼等にはこの火事が偶発的なものではないと直感的に感じてるのかもしれない。つまり明日は我が身。そう言う事だろう。
「お早う御座いますアネット様」
「お早う御座いますマデランさん 小耳に挟んだんですけど 片付けと同時に家を建てるって聞いたんですけど」
「はい 何事も早いに越した事はありませんからね 迅速な対応こそ信頼の証しと言うものです それにしてもかなりの冒険者が集まりました これなら不逞の輩への抑止にもなるでしょう」
「そうなると良いんですけどね・・・」
こう言う人間関係の問題は一過性のものでなく後に尾を引くから「今が良い」だけで判断できないのが難点だったりする。となるとこの問題は何をもって解決と見るかが焦点となる訳だけど・・・
「そう言えば旧市街の建て替えって最終的にはどの位の規模になるんですか?」
「それは今後の人口動態と町の経済力によるところが大きいですが 今回は旧市街の5分の1程度と見込んでおります もっとも他の商会や個人事業主の財力を全て把握してる訳ではありませんので」
「旧市街はかなり広いと思うので 5分の1でも相当ですよね」
「そうですね ただ如何な旧市街とて決して安くはありませんから ダンジョン資源に手を出せるようになったからと地権に噛んでこれるのが少々疑問と言いますか」
「今回の商人達の動き 本職の方でも腑に落ちない感じなんですか 僕達も火事を含めて数々の嫌がらせは 土地の価値を下げるのが目的と踏んでるんですけどね」
「昨今のデモと言い 利用できるものは何でも利用すると言うやり方は後々禍根を残すと分からないのか それとも力で踏みつけるつもりなのか どの道距離はおきたい連中であるのは確かです」
屈強な冒険者達の中に混じってカストラ商会の人達はもう測量から作業を始めている。僕達も残りの片付けに参加する中で、周囲に良くない色を見付けたけど、さすがに作業を邪魔する勇気はなかったみたいだ。
分が悪いと踏むと静かにこの場から離れていった。
「凄いわね この前見た時はもうダメかと思ったけど 1日2日でこんなに綺麗に片付けちゃうなんて」
「みんなのやる気の成せる業だよね 人の思いはこんなにも力になるんだ」
この分なら嫌がらせも少しは落ち着くんじゃないかな。何せこれだけの人員が作業に従事してるんだ。ここに手を出すと言う事は後から彼等がやって来ると言う訳で・・・
このハッタリが上手いこと効いてくれればいいんだけど。
組織的人員が導入された事で火事現場は嘘みたいに片付いたらしい。建物の建設も明日から着工されるとの事で住民達は一様に安堵したみたいだ。
要警戒はまだまだ必要だけれども、一段落ついた事で僕達は一旦ギルドに戻る事にした。
「お帰りなさい アネット君に伝書が届いてるわよ 宛名は・・・ロダリオって人からね」
「え ありがとうポリアンナさん 伝書・・・何だろ」
触った感じ質の良さそうな便箋にはこんな言葉が添えられていた。
〔ルディア・ルンドレンに動きあり ですって〕




