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318・ダンジョン内の実地調査

前回のあらすじ


仕事から帰宅すると家の前で住民とワーカーが言い争いをしてる現場に出会した。騎士が駆け付けた事でおさまったものの、現実の泥臭さをしる出来事となった。

「あら皆さん おはようございます・・・」


「おはようございます ポリアンナさん」

『はよー』



 翌朝を迎え、僕達はいつも通りギルドへ仕事を貰いに来た訳だけど、挨拶を交わしたポリアンナさんの声と心に少量の陰りが含まれてるのに気が付いた。


 何だろう。何かあったのかな。人が不安を抱く時には必ず何かがある。当たり前だけど。


 そんな彼女のわだかまりが直ぐ様不安を吐き出したくて仕方ない印象を受ける。これは間違いなく僕達に関係してる事だろう。



「ね ねぇ アネット君達って旧市街に住んでいるのよね その・・・大丈夫だった?」


「え 大丈夫って?」


「夜勤の職員に聞いたんだけど 実は夜中に旧市街で乱闘騒ぎがあったそうなのよ 住民通しのいざこざって事らしいんだけど 相手方はワーカーで 片方が冒険者だったんだって」


「その話詳しくっ 昨日私の家の前でも騒ぎがあったのよ 騎士団の人が来てその場は収まったんだけど 周りに住んでる人達は相当怒ってたわっ」


「そうなのね・・・」



 やっぱり旧市街が狙われてるのは間違いなさそうだ。騒ぎを起こす人も仕事なんだろうけど、こんな事して何とも思わないのかな。


 昨日会った人達も心に微塵のブレもなかった。人を思いやる気持は利益を前に霞んでしまうのだろうか。



「あの その事でギルドは何か情報を持ってたりしませんか? 僕達は商人達の地上げなんじゃないかって事で落ち着いたんですが」


「・・・そうね 私達もそう睨んでる でもこれは町と商人との話だから 今回みたいに直接トラブルが起きなければギルドが介入するのは難しいのよ」


「でも冒険者とトラブったんでしょ? だったら介入できるじゃない」


「ん~・・・ 報告によると夜中に騒いでた人達を冒険者達が注意しに行ったら乱闘になって でもその場所が既に商人に買われた土地で 逆に不法侵入だって言われて・・・」


「何よそれ! 近所迷惑も考えないで騒いでる方が悪いのに! ・・・で その後どうなったの?」


「相手側は訴えを起こすんだって息巻いてたそうよ」


〔もしかして そこまでがセットじゃないかしら 勝った負けたよりも住民の根負けを狙っているのかも〕


「最悪ね! 住処まで脅かされるんなら こんなの嫌がらせじゃなくって戦争じゃない!」


「騒動を起こした人にお金を出してる商人は 大店じゃなくて中小規模の商人なのかもね だから必死に土地の価値を落としに来てるんだと思う 安く買う為に」


「ギルドが今出せる情報として 町と商人達との間で話し合いをする方向で進んでるそうだけど 日程とかはまだ決まってないみたいなの でも事が起こっちゃったから 協議までそう時間は掛からないんじゃないかしら」


〔町と経済は切れない間柄だわ 既得権を得るチャンスを商人達が諦めるかしら むしろ経済を盾に脅してきそうね〕


「まさか・・・だって商人だよ?」


〔法を無視して いけない薬にだって手を出す人もいるのよ 私達が普段接してる商人も皆が皆 善人ではないわ〕



 実例がある以上否定はできない。それに他者の思考を読める彼女は、僕達とは違う視点で世の中が見えてるのだろう。それはそれで生きづらそうだ。



「あっ お前等! ちょうど良いとこにいた もう仕事は受けたのか?」



 現実を突き付けられてどんよりしていた所に空っ風のようなユシュタファの声が吹いた。でも彼女も何か抱えてるのか言葉に怒気を孕んでる。



「ま まだだけど」


「じゃ 俺達とダンジョン行くぞっ」


「ちょっと 何なのよ急に」


「ワーカー共の監視だよ あいつ等人目のないのを良い事にダンジョンを私物化しようとしてるんだ それだけじゃねぇ まだ誘因剤が出回ってるらしいんだ」


「そうなの? ダクプリ捕縛で一応は落ち着いたと思ってたけど」



 もしかしてアーキア人の密売人を引き入れたルディアさんが動き出したとか? 他の町にまで薬を蒔いてまでお金儲けがしたいのかな。



「でも製造施設とかはまだ見付かってないのよね・・・ まさかダンジョンに?」


「かもしれねぇ 商人共が我が物顔でダンジョンに入り浸ってるからな それも含めて俺達冒険者で目を光らせようと有志を募ってんだ」


「私達も参加しましょう! ワーカーをこのままのさばらせちゃいけないわっ!」



 マルティナが異様に乗り気だ。無理もない。彼女にとっては自分のテリトリーにまで害敵が侵入したのと同じなんだ。敵は倒すが原則の冒険者にとって適切な対処法と言える。


 僕としても平穏無事に過ごせる自分の居場所は是非とも守りたい。そんなユシュタファの声掛けで集まったメンバーは僕とマルティナとミストリア。


 ユシュタファ一行ことターヒル、ラフィー、ワリード。忘れてはならないウェグナスに、恐らく引っ張られてきただろうディゼルの9人だ。


 ちなみにルミウス達は実家が忙しいらしく手伝いに駆り出されてるとの事。ラトリアは家族との時間を優先したいと言われた。



「それにしてもユシュタファ結構やる気だね」


「誘因剤は完全に撲滅しないとな いつまで経っても俺達アーキア人の悪評は払拭しない」

「俺等が積極的に動けば 全てのアーキア人が敵って訳じゃないアピールができるだろ?」

「偏見の目はできるだけ摘んでかないとな」



 今でこそ誘因剤の出所はダクプリだったと世間では囁かれてるけど、元はアーキア人が自分達の集落で密造していた代物だ。でもその事実だけは消せない。


 だったらターヒルの言う通り1つ1つ善行を積み上げていくしかない。アーキア人の今後を憂うユシュタファ達が躍起になるのも頷ける。



「ところでディゼル あんた何か聞いてないの?」


「はぁ? 知らねぇよ」


「お父さんは町長なんでしょ? 町の事とか商人の動きとか 何かないのっ?」


「俺は今冒険者やってんだ 最近は家にも帰ってねぇし 親父とも会ってねぇよ」



 以前はあれだけ町長の座に拘ってたのに、人とは変われば変わるものだ。もっとも聞いたマルティナはディゼルの返答に納得してない様子だけど。



「まあ落ち着けって お偉方が親族だからって 政に口出しできる訳じゃないんだ 俺達は俺達で自分にできる事をしてこうぜ」


「そうかもだけど・・・うぅ~」



 さすがはウェグナス。たった一言で話を纏めてしまった。



「つまり僕達はダンジョンにあるかもしれない薬の製造所を探しつつ ワーカーの動向に目を光らせればいいの?」


「だな 大体そんな感じだ」


〔でも 人目につかないからといって モンスターが徘徊するダンジョンにそんなの作るかしら 壁からも産まれてくるのよね〕


「言われてみれば確かにそうよね そうじゃなくても普通にモンスターは徘徊してるんだし 臭いに誘き寄せられるんなら守りようがないわ となるとますますダンジョンなんかで作れなくない?」


「うっ ・・・で でも採掘現場の独占の阻止はできるかもしれないだろっ」



 ユシュタファとしては他に理由をつけてでも誘因剤の阻止に努めたいらしい。僕としても町の平穏に繋がるなら協力するにやぶさかではないのだけど。



「でも可能性はゼロではないな 同じダンジョン内でも入り口付近でモンスターが沸いたなんて話は聞かないし もしかしたら内部の別の場所にも同じようなスポットがあるかもしれない」


「それだ! きっとそうに違いない!」


「確かに ギルドだってダンジョンの全てを網羅してる訳じゃないんだから そんな不思議空間は存在しない だなんて言えないよね


 でもそんな場所が本当にあったとしてギルドも把握してないとなると それって相当奥って事にならない?」


「少なくとも ちょっと行って見付かりました なんて事にはならないだろうな 本気で探すつもりなら入念な準備が必要だ」


「そんなのダンジョンで会ったワーカーに片っ端から訊けばいいじゃないか 簡単で一番手っ取り早いぜ」


〔平和的に・・・じゃないわよねそれ いらない禍根を残すわよ〕


「そうは言っても悠長にしてる時間なんかないだろ 現に薬はこうしてる間も出回ってんだから 町に外壁ができて検問だってしてんのによっ」


〔もしくは門番が買収されたか 奴等の仲間 って線も消えないわよ〕


「「「・・・・・・」」」


「疑い出せばキリがないな とは言え見回りを密にすればワーカーの動きを抑制できるのも事実だ 今回の事は他の冒険者も憂慮してる筈だから 図らずとも俺達にとってはプラスに働く」


「僕達は僕達で 自分のできる事をする 冒険者は実直であるべきだよね」



 僕達は各々準備をし終えるとダンジョンに向けて歩き出した。今回の作戦内容は密売人の隠しアジトがないかの調査。


 人があまり立ち入らない場所を既存の地図と照らし合わせて入念に見て回り、可能なら見付けしだい制圧、無理そうなら報告。


 僕個人として新人だけの本格的なダンジョン探索となる。不謹慎かもだけど、そんな所感に少し気分が高揚した。





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