25・アネットvsマルティナ
前回のあらすじ
マルティナがギルド訓練所の卒業試験に挑んだ。
マルティナがスキルで僕の剣を弾いた。
彼女はディゼルの一件以来思い悩んでるみたいだ。無理もない。僕は子供の頃からマルティナには色々と心配をかけさせてしまっている。
安心させる為にも早く一人前にならなければならないのだけどこの体たらくだ。彼女も不安を募らせる一方だろう。
謹慎中そんなモヤモヤした思いで過ごしていると、僕の元にギルドから仕事の依頼が舞い込んできた。内容は謹慎明けにギルドの訓練場で訓練生との模擬戦をする事だそうだ。なお相手は匿名希望との事。
誰だろう・・・
それにしても模擬戦か。ちゃんとした対人戦はジョストンさんとしかしてこなかった。僕ももう冒険者。これからの事を考えると経験は積める時に積んだ方がいい。
そう思った僕は素直にその依頼を受ける事にした。
そして1週間が過ぎ──────
「来たかいアネット これも冒険者の仕事の1つだ 手加減は望んじゃいない あんたはあんたのするべき事をキチッと熟しな! それと依頼時に説明した通り 諸事情で相手の名前は明かせないよ」
との事だけど、その諸事情がマルティナだったなんて。今僕の前には彼女が立っている。
何故分かるのかって? 分かるものは分かるのだ。
やっぱり僕の不甲斐なさが彼女をそこに立たせてしまったのかな。何だかやるせない気持ちになる。でもこれは歴とした冒険者の仕事だ。
マルティナも手加減とか望まないだろう。それはこうして向かい合った時の色から伝わってくる。彼女は本気だ。
思えば幼い頃から取っ組み合いのケンカとかもした事なかったっけ。普段とは違う色のマルティナに僕はどう返すべきか。
やっぱり真っ向から受け止めるしかないよね。
マルティナが全力で突っ込んでくる。防いだその攻撃に勢いと全体重が乗っかって僕は後ろに押されてしまった。
これは力じゃ敵わない。
そればかりか膂力、体力、スピードと僕より勝った部分を幾つも備えてる。できれば付き合いたかったけど、それじゃ負けてしまう。
なので打たせよう。
ポイントは相手に「あれ? これ勝てそう?」って思わせる事。そうすれば調子にのってどんどん打ち込んでどんどん体力を消耗てくれる・・・筈。
その分僕も神経をすり減らすんだけど・・
それでも数合打ち合えば僕の意図にも気が付くかマルティナの動きが止まった。わずかに息も上がってる。目標は達成できたかな?
この機を逃さず僕はすぐさま反撃に移った。相手がマルティナとは言え今は対戦相手。敵を休ませてあげる必要はない。
ここまで戦って分かったのは、彼女の素直な性格が戦いにも表れてる事。それは僕にとって「よく分かる動き」でしかない。なので彼女の嫌がるやり方をする。
攻撃をすると言うより相手を惑わす。
彼女の攻撃の目を潰す事で追い詰めていく。それにいちいち反応してくれるマルティナは対応しきれず僕の攻撃を防ぐしかなくなる。
・・・筈だった。
『う~~~ ブロック~~~!!』
カァァァ~~~~ン・・・・・・
追い詰められた土壇場で“盾さん”のスキルを発動したのか、僕の剣は腕ごと上に弾かれた。
これが話に聞いた「ブロック」か。ただ盾に触れただけで弾かれてしまう。これで相手の威力を殺す事ができるんだろう。
そこからはブロックを多用してくる。
ずっと隠してたって訳ではなさそう。もしかしてたった今覚えた的な? でも厄介だ。僕からしたら手に2本の武器を持ってるのと同じなんだから。
しかも片方は触れただけで効果がある盾。う~ん・・・
せっかく壁際まで追い詰めたのに中央まで押し戻されてしまった。
ならば。
★
よしっ! 何とか中央にまで押し返せた! どうやらこう言う戦い方は有効なようね。
アネットが私の攻撃を警戒し始めたのが分かる。明らかに手数が減った。これで攻守交代ね。
いくら相手の動きを読む力に長けたアネットでも、スキルの有無、虚と実を交えた戦法には弱かったみたい。ラトリアとの戦闘を繰り返させたイゼッタ先生の読みは正しかったようね。
体力は私の方が上。ここは焦って勝ちを拾いにいく必要は無い。じっくり辛抱強く相手の動きを封じてダレたところを刺す。
活路は見えた!
フフフフフ・・・覚悟なさいアネット!
この二刀流と化した私の攻撃からは逃れられないわ。今度は此方が攻撃の隙を与えない。私の猛攻にたまらずアネットは横に避ける。
逃がさない!
剣、盾、剣、盾、盾、力で押せない、押しても弾かれるなら避けるしかないわよね。でも逃げてるだけじゃ勝てないわよっ。
もう逃げの一手。勝てる!!
でも流石はアネット。普段から見えない目で歩いてるだけあって、私の攻撃が当たらない。それどころかちょこっと手を出しては避ける。また手を出しては避ける。この繰り返し。
しかも一定方向、私から見て右側の剣を持つ手の方向に・・・・
私の回りをグルグルと回って・・・
あれ?・・・・
これって・・・
まさか・・・・
・・・・そう言う作戦!?
後ろに退こうとしてもその瞬間には攻撃がやってくる。策に乗せられまいと足を止めても右から攻撃がやってくる。気付いた時にはまた右にいる。
結果私は巧みにグルグル回され続けて、その攻撃の対処に追われ自分でも防げているのか攻撃できているのかさえ分からなくなっていた。
目が・・・・・わま・・
おえぇぇえぇぇぇええぇえ・・・・
もちろん吐かない!!
でも気分を言葉にするとこんな感じ・・・
もう目で追えているかすら怪しい。頭はぐらぐらで景色が回って見える。私はたまらずその場に倒れ込んでしまった。
急激に体温が下がり変な汗がにじみ出てくる。回る世界の中イゼッタ先生の何か言ってる声が聞こえた。
「そこまでっ!」
アネットの攻撃は来ない。
どうやら私は負けたらしい・・・
しかもこれ結構間抜けな負け方・・・
アネットは仕事が終わるとそそくさと練習場を去っていった。
未だ気分が優れない中、残された私は敗因について1人物思いにふける。最初は壁際まで追い詰められたけど“盾さん”のスキルで押し返せた。
剣と盾を巧みに使った攻撃で追い詰める筈だった・・・
力と体力なら勝ってた。アネットの作戦に対処するには足運びがまずかったのかな。
やっぱり走り込みが足らなかったんだ。だったらもっと・・・
・・・頑張って・・・・・
・・・・・・・・
・・・グスン
「先生・・・私はアネットに本気を出させる事ができたんでしょうか」
「本気かどうかは兎も角 少なくとも手は抜いちゃいないよ ただ・・・あの子の感覚が私の見立てよりも上をいっていたって事かね」
「それで・・・やっぱり私は不合格・・・ですか?」
「そうさね もし壁際で勝負がついていたら・・・だが 状況を見て盾スキルを攻撃に転用した気転は褒めてやろう ギリギリ及第点ではあるが 合格点をやる」
「え?・・・あ ありがとうございます」
「おお! やったなマルティナ!」
「くそ~ 先を越されたか~」
「おめでとうっ!」
色々と課題の残る内容だったけど何とか合格を頂けた。苦楽を共にした仲間達に祝福されやっと合格の実感が湧いた。
「だが気を抜くんじゃないよ! 洞穴の下のモンスターはしたたかだ 今日のアネットとの戦い方は決して無駄ではない 命のやり取りをやってんだ キツイ 汚ない 卑怯 は当たり前
実戦じゃ誰も助けには来ないんだ むしろ盾持ちのあんたがパーティーを守る要 どんな事があってもあんたは倒れちゃいけないよ!」
「は・・・はい!」
イゼッタ先生からご指導を賜った。でも私の心はようやくアネットの隣に立つ事ができる思いで一杯だった。
案外ラトリアが言ったスキルさんとの性格の符号性は的を射ていたのかもしれない。
それは私が冒険で何かを勝ち取る事よりも、アネットの側にいられる事が何より大切であるのと同じように、”戦士さん“と”盾さん“も自分の大切なお昼寝スポットを守る為なら戦う事も辞さないと言う理由が全く同じ感情だから。
ともあれ・・・
今は冒険者のスタートラインに立てた事を素直に喜ぶ事にしよう。
★
少しやり過ぎてしまったかな。でも相手がモンスターなら、相手が悪漢だったなら「卑怯卑劣 疲れたから待って」は通じない。
でも多少意地悪な事をしてしまった自覚はあるので、お小言の1つや2つや3つや4つは覚悟しよう。
お詫びのしるしと言っては何だけど、僕の手作り料理で迎えようと思う。何と言っても謹慎中やる事もないので家事を手伝い料理も覚えたのだから。
「ただいまっ!」
『ただいまー』
『まー』
僕が人数分の食事を作り終えたところでマルティナが帰ってきた。落ち込んでると思ってたけど、声に張りがあって普段通りのマルティナだ。
「お・・お帰り・・・」
「おねーちゃん おかえり~」
試験はどうだったのだろう・・・ 家族揃っての夕飯時だけど、何も言わないマルティナが気になって料理の味がしない。
「あっ!」
「なっ! なに・・・?」
「それ塩じゃなくて砂糖だよ?」
「えっ あぁ・・うん ありがとう」
・・・僕から声掛けた方がいいんだろうか。話題。何処かにこの場に合った話題でも落ちてなものか。
「ねぇ・・・」
「なっ なに・・?」
「私 冒険者になるからね」
「そ そうなんだ おめでとう・・」
どうやら試験には合格したらしい。ここは何かお祝いをしてあげた方が良いだろうか。しか手放しで喜びたいのも山々だが不安は残る。外では本物の牙がマルティナに向けられるのだから・・・
「アネット その・・・気付いてた?」
「え・・・何を?」
「今日の 事・・とか」
「なん の事だろう? わ 分からないなぁ~・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「ねぇ やっぱり気付いてたでしょ」
「・・・・・・・・・・・・・ぅん」
おかしい。ボロを出したつもりはないんだけど。
「アネットってさ 気まずい事があると顔を背けて言葉に詰まるよね」
そっ! そうだったのか!
「いつ気付いたの? どうして相手が私って分かったの? もしかして・・・私だから 分かった・・とか・・?」
「そりゃ分かるよ だってマルティナの匂いがしたもん」
「おっ 女の子に匂いとか言うな~~~~~~!!」
怒られた・・・
スキルのせいなのか盲目の僕は嗅覚も鋭いようで、何回か会った人ならば匂いで嗅ぎ分ける事ができる。したがって毎日顔を合わせているマルティナが分からない訳がない。
と言うニュアンスを匂わせたのだけど上手く伝わらなかったようだ。
女の子は難しい・・・・




