24・マルティナの卒業試験
前回のあらすじ
ディゼル達との揉め事は謹慎1週間で話が纏まった。
「私 このままでいいのかな・・・」
ディゼルが本格的に商人と関係を持っていた。しかもカストラ商会と言うハルメリーでは名の知れた大店と。アイツが威張る理由も分かるってものよね。
「はぁ~ アネットのピンチを助けたいから冒険者目指してるのに・・・」
「マルティナらしくないな 悩み事?」
「まぁね ラトリアはさ 自分の実力を不安に思った事はない?」
「不安なら持ち合わせてるさ でもその度に武器を振るうんだ そうすれば忘れる マルティナはそれを悩んでるみたいだけど 筋はいいと思うよ?」
「ん~~~~~・・・! 盾で守ってるだけだって 武器の扱いとなると ちょっと・・・だいぶ自信ない」
「でも盾持ちが攻撃を食らわないって正しいあり方だと思うけどな」
「私はっ ・・・大切な人を守りたいのよ 盾でも剣でも」
「だったら次は私と戦おう 武器を振ってれば気も紛れる」
今話したこの子はラトリア。髪は肩の辺りで切り揃え、性格もサバサバした利発な子だ。
彼女が使う武器はハルバード、連れているスキルさんは“長槍さん”。虚実を交えた変幻自在な槍捌きで相手に近付く事を許さない戦い方をする。
一方の私は右手に剣、左手に盾を持ち攻撃を防ぎつつジリジリと距離を詰めていく堅実な戦い方。
なので盾を構えて突っ込んでいくしかないんだけど、私が近付くと距離をとられて遠心力に任せた旋回で叩き斬ってくる。
オマケに武器の両端、斧刃と鉤爪部分を器用に使い分けて此方の構えを崩してくる。その隙を刺先で突いてくるものだから私は終始躱すしかない。
攻めきれない防戦一方でいつも最後は終わってしまう。正直防ぐのでいっぱいいっぱいってだけだ。
「よし じゃあ次は俺の番だ 見てて思ったんだが 盾を武器って意識して扱ってみたらどうだ?」
「武器ねぇ・・・」
そう指摘してきたのはウェグナスと言う男子。最近は私、ラトリア、ウェグナスで一緒に訓練所で訓練に勤しんでいる。
彼の武器は大剣。ガッシリとした体格から繰り出される一撃は、盾で真正面から受けても痛い。でもラトリアと比べると懐に入りやすくはある。
・・・あるのだけど、彼の大剣はその時になると盾へと変わる。攻めは力に任せた大振り。でも意外と器用に武器を扱うものだからやっぱり私は攻めきれない。
「どうだ? 何か掴めたか?」
「はぁはぁ・・・ そんな簡単に言わないで」
「頭で分かりそうにないなら とにかく体を動かせって親父もよく言ってたからな 納得するまで戦い続けるしかない」
ウェグナスの父親は現役で冒険者をやっている。アネットが懇意にしているジョストンさんの冒険者パーティーメンバー、ゴドウィンさん。
なのでウェグナスは私達がお外で駆けずり回ってた頃から鍛練を開始してたんだって。昨日今日やる気になった私とは意識が違う。
「待て待て ウェグナスはそんな大きな武器を振り回すからマルティナの確認にならないんだ」
「そうか? 実戦だとモンスターはこんなもんじゃないって言われてきたけどな」
「それはお前を鼓舞する為だろ」
「2人は戦い方が決まってるから良いよね 私は自分のスタイルってのが全然見えてこないよ」
「これは眉唾の域を出ない話なんだけど 自分に合った戦い方って スキルさんの性格に相似してるんだって・・・」
「え? 何それ」
「同じ種類のスキルさんでもそれぞれ性格があって 好きなものや嫌いなものってあるでしょ?
私の長槍さんは槍をクルクル回すと喜ぶし 他の人の長槍さんは突きにこだわる子もいて 私もどちらかと言うと突くよりも回す方が好きだから そういうところのフィーリングが合ったからこそパートナーになれたのかなって
つまりスキルさんが喜ぶ戦い方をすれば 逆算的にそれが自分に合ったスタイルなんじゃないか・・・ と言う不確かな噂もあるよって話」
「え~と・・・その話に当てはめるなら お昼寝してたいって言うこの子達は 一体どういう戦い方をすれば喜ぶのかな・・・」
「え~と・・・まぁ あくまで噂だから・・
真面目な話 誰かを守りたいって気持ちが根幹の部分にあるなら その守る誰かが居なくちゃ真価が発揮されないのかもしれないね あなたの場合」
「そう・・・なのかな」
「て言うか冒険者は基本パーティーで行動するもんだろ? 自分なんてものは実際の仕事と実戦の中で徐々に形作られてくんもんなんじゃないか?
ここの卒業生でも訓練と実戦とでは違ったって 自分の在り方を疑問視する声も結構耳にするぜ?」
「そう・・・なんだ 実戦か・・・ うん 分かった 私1週間後に試験受けてみる!」
「そう・・・・・・・・・・え?」
「おいおいおいおい いきなりだなっ!」
「実は試験の内容は決めてあるんだ ただね・・・ちょっと決心がつかなかっただけ」
やっぱりあれこれ頭の中で考えるよりも体当りでぶつかっていく方が自分の性に合ってる気がする。
守りたい人を守る決意に私は躊躇わなかった。だったら試験だって只の通過点。迷う事は無い。
私は勇気を振り絞り意を決してイゼッタ先生の元へと向かった。
「イゼッタ先生! 試験を受けさせてください!」
「ほぅ で? 内容は・・・」
「現役冒険者との模擬戦でっ! 指名する相手はアネット! こちらは匿名希望でお願いしますっ!」
「相手は目が見えないから・・・って理由じゃなさそうだね 分かった こちらで話は通しておくよ! と言うかアイツは確か町長のとこのバカ息子とやり合って 今は謹慎中じゃなかったかい?」
「はい 試験の日程は謹慎が解ける1週間後で!」
「よし! それまでの間 ミッチリと仕込んでやる!! 覚悟しときなっ!!」
「はいっ! よろしくお願いしますっ!!」
ここで言う試験とは訓練生卒業試験の事を指す。と言っても訓練生自体なるのも自由、やめるのも自由なんだけど。
実際冒険者には年齢さえ適齢なら名前さえ登録すれば誰だってなれてしまう。じゃあ何で訓練生がいるのかって言うと、それこそ意識の差だ。
取り分け卒業試験を彼等が意識するのは、ベテラン冒険者に認められた自負が心の支えになるから。
それから1週間、私は先生にそれこそミッチリとしごかれた。
ラトリアのようなスピードタイプ、それも武器の扱いが達者な相手を中心に戦闘をひたすら繰り返した。とっさの攻撃を捌けるような戦い方が身に染みるまで連戦連戦連戦・・・
でもアネットってどう言う戦い方をするんだろう。ギルド長と戦えて「盲目なのに凄いな」とは思ったけど。けど戦えたって事は、弱いって訳じゃないよね。
うん・・・取り敢えず私の目標はアネットに私が必要と思わせる事。その為にもキッチリ勝たないと!
そして1週間後────────
普段は同じ訓練生が立っている場所にアネットがいた。
「来たかいアネット これも冒険者の仕事の1つだ 手加減は望んじゃいない あんたはあんたのするべき事をキチッとこなしな! それと依頼時に説明した通り 諸事情で相手の名前は明かせないよ」
「はい わかりました よろしくお願いします」
私はその言葉に無言で返す。これは模擬戦なので得物は木刀、私は左手に盾。これは普段から使い慣れてる武器なんだけど、相手がアネットだからか、どうにも手に馴染まない。
どうしよう・・・緊張してるのかな。心臓がバクバク言ってる。それに比べて目の前で木刀を構えるアネットはとても自然だ。
今・・・何を考えてるんだろう。
いけない! 集中しなきゃ。先生やラトリア達の視線が刺さる気がする。
開始の合図はない。互いに自由にやれが流儀。
行って・・・良いのよね。
来ないなら・・・行っちゃうよ?
全力でアネットに突っ込む! ぶつかった武器と武器の音が響く。その衝撃でアネットは後ろに押された。
軽っ!
思えば駆けっこで私の方が速いし体力もある。背もちょびっと大きいし力も強い。ここのところの対人戦で場数も踏んだ。
これ負ける要素なくない?
★
戦いが始まってからアネットは防戦一方だ。マルティナはさぞ気持ちよく打ち込めているだろう。
端から見ててもマルティナの方が動きにキレがあり力も強い。それでも攻めきれないのはあいつの動きをアネットは完全に見切っているからだ。
つまり打ち込まされていると言った方が正しいか。あの娘も状況がおかしい事にそろそろ気付く頃合か。
「先生 このままいけば彼女・・・勝てるんじゃないですか?」
「しかし盲目とはいえ良く防ぐものだよなぁ でも力も弱そうだしスピードも遅いし・・・ あれなら俺でも勝てるんじゃないか?」
マルティナの名を出さないと言う条件で見学を許可した訓練生からは「勝てそう」と言う意見が多数を占めたが、どうやらコイツらの卒業はまだ先のようだ。
「でもさ マル・・・アイツなんか疲れてないか? まだ戦って間もないぜ?」
「あぁ 何だか様子がおかしい・・・相手のスキルか?」
「スキルって マイナス等級にスキルなんてあるのかよ・・・」
「スキルさんなんだから有るんじゃないのか? 知らないけど・・・」
何かあればスキルのせいにする。悪い兆候だ。コイツらには後で特別メニューをくれてやろう。
「けどあの盲目 さっきから防いでばかりでちっとも攻撃しやがらねぇ まさかこっちが疲れるのを待っているのか? きたねぇなぁ」
「バカをお言いでないよ 明らかにそう誘導させられてんのさ
小娘からしたら後もう一押しで勝てそうって思っているだろうね だから後先考えずにがむしゃらに剣を振り回してんだ」
「でもこれ試験ですよね やっぱり勝てなきゃ不合格ですか?」
「別に勝ち負けだけを見ている訳じゃない 絡まったクモの巣から抜け出せるか それができなきゃ死ぬ
いいかいお前ら 冒険者の相手はモンスターだ お上品な騎士同士の決闘じゃないんだよ どんな策だろうが最後に立っているものが勝ち 負けは死を意味すんだ
言葉も通じないモンスターに 疲れたから待って なんて理屈が通用すると思っているのかい? 罠にかかったあいつが悪い それだけさね」
さてマルティナ、あんたはこの状況をどう切り抜ける?
★
おかしい・・・さっきから何度も何度も斬り込んでいるのにちっとも有効打がキマらない。それに何だか剣と剣がぶつかった時の感触が変だ。
ウェグナスと打ち合った時は、木刀を壁に叩き付けた衝撃がある。ラトリアとだって物と物がぶつかった感触がちゃんと手に伝わってくる。
なのにアネットのこれは、まるでやわらかいクッションに木の棒を叩きつけたような沈み込む感触が・・・
これって・・・まさか・・・わざと? だとすると何で? もしかして・・・最初から誘われていた?
むっきいいいいいい!! アネットのクセにカワイくないいいいい!!
「はぁ・・・はぁ・・・」
なる程。最初の一撃で勝てないと踏んで、私の体力を奪おうって魂胆ね。足らない部分は知恵と工夫で補う。訓練所で習ったわ。
ふ~ん。ちゃんと冒険者やれてるんだ。
でも私はその工夫ができない。だったら力で押しきるしかないじゃない・・・ん? アネットが動いた。
・・・って! 遅っ!!
こんな遅くて相手を倒せるとでも思っているの? 違う・・・私が慣れたんだ。対人戦がこんなところで活きるなんて。
イゼッタ先生の特訓は無駄じゃなかったわね! ・・・なのに。
何で私の方が押されてるのよおおおお!!
体の動きも剣の動きも全然遅く感じるのに、私は攻撃どころか防ぐしかなくなってる。躱してもその先には剣がある。
技巧派の訓練生とも戦ってきたけど、そのどれとも違う。こんなの知らない。私の知ってるアネットじゃない!!
「おい あの2人ふざけてるのか? まるでお遊戯じゃないか」
「お~~い!! 何ちちくりあってんだ~~~!?」
冗談じゃないわよ!! そんなふざけてる暇なんかある訳ないでしょ!! 攻めても防がれる! 攻められたら押し返せない!!
どうなってるのよもおおおおおおお!!
「アネットか・・・ありゃ~相当なもんだねぇ 感覚だけを見りゃ 達人クラスなんじゃないか?」
「え? お言葉ですが先生 私にはその とても彼が強そうには見えないのですが 自分で言うのも何なんですけど 私の槍はあんなのより全然速いですし 彼女も私の槍をことごとく防いでいました それがあんな・・・」
「戦わせてもらえないのさ 正確に言えば 動く前に行動を潰されている 攻撃しようと思った時には既に相手が動いているから防ぐ事しかできない 小娘の動きは予知にも似た速度で掴まれているのだから尚更だろう」
「予知・・・ですか? それが彼のスキル?」
「と言うより 幼い頃から暗闇の世界で生きてきたんだろ? きっと私らには無い感覚でモノが見えているんだろうさね
それに老いたとは言え ギルド長の初撃は余程の動体視力と俊敏性がかね備わってなきゃ避けられない
アネットは盲目でかつ華奢な体でそれを熟して見せたんだよ? これを達人の域と言わず どう表現するんだい」
「・・・・・・・・・・・・」
嘘っ! もう壁際!? 子供が木の棒でも振り回すような動きで私を隅まで追い詰めた。
何でこんな事に・・・少しでもアネットに近付けるようずっと頑張ってきたのに・・・
私じゃ彼に追い付けないの・・・・?
でもここまでしてきた努力を無駄にする訳にはいかない! 何か 何か手は無いか!
一旦距離をとって手数で攻める? でもそれじゃさっきの繰り返しだ。きっとアネットは私から離れないだろう。
ならば後先考えず力任せに攻撃しようか? う~ん・・・いなされて終わる気もする。
おそらくアネットには私の動きは全部読まれている。だから攻撃をさせてもらえない。その見えない目で見えているから・・・
何か無いか!
動きを読まれていようが関係無い攻撃手段! 攻防一体の理想形!
「あ・・・・・」
アネットの剣が迫る・・・
もう・・・ダメ・・・・
誰か・・・・・
・・・・・・助けて!!
『う~~~ ブロック~~~!!』
カァァァ~~~~ン・・・・・・
そのとき私の手に伝わるべき衝撃が伝わった。訓練場でよく聞く聞き慣れた音が響いた瞬間だった。
“盾さん”のスキル・・・・
前を見ると剣を持つアネットの手は大きく後ろにのけ反っていた。
あった・・・・起死回生の一手が・・・
その時私の中で何かを掴みかけた気がした。
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