22・町の兵舎で
あらすじ
ミストリアの魔法がディゼル達に炸裂した。
ディゼル達がグッタリしたまま動かない。心も変な色してる。これ・・・まずいやつじゃ・・・
「と 取り敢えず兵舎・・ 町の兵隊に報告しなきゃっ」
正当防衛だったとしても、これはちょっとやり過ぎだと思う。周囲には散った水で水溜まりもできてるし、相当な量ディゼル達に飛んでったんだ。
僕は急いで救護を頼んで、そのまま兵舎に付き添った。
『アネットお家は~?』
「しばらく帰れそうにないね・・・」
兵士の人達に「あれはお前達がやった事」と判断された僕達2人は、仲良く牢屋に拘留されてしまった。「明らかに過剰防衛」とまで言われた辺り、よほど酷い惨状になっていたんだろう。
こうなるといつ解放されるか見当もつかない。早く帰らないとマルティナに怒られるのに。先行きが不透明だと心臓もバクバクいってくる。
おかしな緊張状態から逃れようと、僕はチラリとミストリアに向いた。
「ミストリア もしかして魔法が使えるようになったの?」
「・・・」
しばらく返答を待ってみたけどフルフル首を振るばかり、さっきのは偶然だったのか? でも何らかの切っ掛けはあった筈だ。
だって今の彼女には鮮やかな色が咲いているのだから。
やっぱりスキルさんとの関係で大切なのは感情なんだ。もしミストリアがこのまま自信を取り戻していければ、また魔法が使えるようになれるかもしれない。
それどころか“失語さん”のスキルだってきっと・・・
スキルと言えば。
「ところで 盲目さんは何であの道が良くないって分かったの?」
『ん~ 何となく~?』
まぁ感覚ってそんな感じだよね。言葉で説明し辛い。基本的なスキルさんのスキルは、特定のスキルを使い続けたり、状況によって芽生えたりするらしい。
それは人によってまちまちだけど、その人にとって必要なスキルが与えられるんだとか。ならば是非とも筋骨粒々になるスキルを授かりたい。
「でもあれだね こう言ってはなんだけど この一件が無かったらミストリアが魔法を使う切っ掛けが掴めなかったかもしれないね」
『いい事~?』
「ミストリアにとっては・・・ね ただ被害にあったディゼルを思うと・・・」
色々手遅れになってなきゃ良いんだけど。それとなくミストリアに顔を向けると彼女もそれとなく顔をそらした・・・気がした。
★
アネット達の帰りが遅い・・・何やってるのよ。受けた仕事に手間取ってるの? それとも優しいアネットの事だから、あの子を元気付けようと町中デートをしてるんじゃ。
それとも何かあったとか・・・
コンコン・・・
やきもきしながら家事を手伝っていると家の扉がノックされた。
「?」
家族ならノックの必要はない。お客さんかな? そう思って扉を開けると一般宅には似つかわしくない格好をした、いわゆる兵士がそこに立っていた。
私はその瞬間とても嫌な感覚がドロリと心臓を包むのを感じた。
「あの・・・うちに何か・・・?」
次第に動悸が激しくなる中で、私は何とか言葉を絞り出した。でもこの兵士の口から出たものは「アネット・・トラブルに・・大怪我を・・今兵舎に・・・」断片的なそんな刃が私を刺した。
私は家事をホッポリだして兵舎に向かい走り出す。
トラブル? 大怪我って何!? 仕事中に事故にでもあったの!? それとも凶悪なモンスターに襲われた!? 目が見えないのに無茶なんかしてっ!!
でもいつかこんな日が来るんじゃないかと思ってた。だからそうならないように、私がアネットを守れるようにとギルドで訓練を受けているのに。
私がもっと早く強くなっていれば!!
焦る気持ちが彼の元へと急がせる。家から兵舎まではそれなりに距離がある。でも気が急いているせいか不思議と時間を感じなかった。
「アネット!? アネット!?」
兵舎の詰所に飛び込むと中には幾人かの兵士達が詰めていた。いきなり入ってきて大声で叫ぶ私に一同「何だ?」という顔を揃えていたけど、私は構わずアネットの名前を叫び続けた。
「アネット!!」
「マルティナ?」
必死に彼を探していると不意に後ろから私の名を呼ぶ声が聞こえた。反射的に後ろを振り向くとアネットがキョトンとした顔で立っている。
「え・・? アネット? 大丈夫!? 怪我をしたって聞いたからっ!!」
私は急いで怪我の安否を確認する。普通に立っていられる辺り大怪我という訳ではないらしい。見た感じ擦り傷も打撲も着衣も破れた様子もない。
どう言う事・・・・・?
アネットの状況に困惑していると詰所の入り口からガシャガシャガシャと鎧が上げる金属の悲鳴が聞こえ「や・・・やっと・・追い付いた・・」と、息を切らした兵士が駆け込んできた。
見ると私の家の扉をノックした兵士・・・だと思う・・・多分・・・分からないけど・・
「あの・・! アネットが怪我をしたって!」
「いや・・違うよ アネットという少年がトラブルに巻き込まれて 数人の男達が大怪我を負って 今兵舎に拘留されているって・・・」
紛らわしい・・!!
でもトラブルって?
「アネット 仕事で何かあったの!? 数人の男達が怪我したって何!?」
「それは・・・その・・・」
「この少年が町の裏通りを歩いていたら 複数の男達に絡まれたそうなんだが そこの少女が魔法でボコボコに返り討ちにしたらしいんだ
一応相手の様態が様態なだけにすぐに帰すわけにもいかなくてね ご家族に連絡を入れた次第なんだよ」
「そう・・ですか・・ミストリアが助けてくれたのね・・・ でもなんで町中で・・・・
まさか・・・! ディゼル・・・・・?」
アネットは言葉でこそ答えなかったけど首を縦にしてうなずいた。この町で盲目のアネットに平然と酷い事をする人間なんてディゼルしかいない。
「おいおい 今ディゼルって言ったのか? 町長の息子の? あの問題児をボコボコにしたのか? それは良くやった!
いやっ! 良くない! 良くないぞぉ!
しかし面倒な事にならなきゃいいがな 最近は商会の連中と良く一緒にいるところを見かけるが・・・ それも評判の良くないヤツらとだ」
兵士の人も揶揄するくらいだ。この界隈でも有名な悪ガキなのだろう。
そうなのだ。
昔であるなら嫌なガキ大将とでも思えばよかった。でも今や毛色の違う男達を連れ家の周辺を歓楽街に変えてやると豪語する程、脅し文句に拍車が掛かっているのだ。
町長の息子という立ち位置にどれ程の力があるのか分からない。でも今のディゼルの側にいる人間は周りに影響力を持った人達かもしれない。
そんな連中が出てきた場合、私はアネットを守る事ができるのだろうか・・・
その心配が的中するかのように、商人風のニヤけた笑みがこびり付いた男が、のそのそと兵舎の詰所の扉をくぐってきた。




