表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/347

19・家畜番と新人4人

あらすじ


ミストリアを仕事に連れていくことにした。

 冒険者の仕事はギルドから始まる。と言う事で今日も冒険者ギルドにやって来た。


 僕達がギルドにやって来る頃には先達達は既にギルドに到着して余談の無い情報交換をしている。これが意識の違いなんだろう。


 冷え込む季節の朝方なのに、彼等の熱気にあてられそうだ。


 本来ならここで掲示板の仕事の獲得に乗り出すところだけど、僕は目が見えないと言う事で特別に便宜を図ってもらってる。


 僕とミストリアはポリアンナさんに会いにカウンターへと向かった。



「おはようございます」

『はよ~』


「あっ アネット君ちょうどいいところに・・・」



 ん? どうしたんだろう。ちょっと慌てた様子のポリアンナさんはカウンターを出てくると僕の肩に手を掛けた。



「アネット君に指名が来ているわ!」


「指名・・・ですか? 僕に?」



 このギルドにおいて指名とは依頼人から直接名指しされる事を指す言葉じゃない。同じ冒険者からお声が掛かる事だ。つまりパーティーの勧誘の事を言う。


 ちなみに依頼人からの指名は実のところ禁止だったりする。何故かと言うと特定の冒険者への優遇をなくそうと言う、多数決で決まった彼等の意思だからだ。


 それにしても僕を名指しした人は盲目だって事を知っているのだろうか・・・不安だ。僕達はポリアンナさんに案内されて当人の待つ場所まで移動した。



「君達 アネット君が来たわよ」


「えっと君がアネット・・・君? さん? 俺はルミウス で こっちはリッタにエデルだ よろし・・・く?」



 く? 何だろう。この「間違えました」みたいなニュアンスは。でも一応指名されたと言う事で挨拶はちゃんとしよう。礼儀だし。



「よろしくお願いしますアネットです 先日冒険者になったばかりです 頑張ります」

『がんばりまーす』


「あ あぁ 此方こそ・・・えぇと 1つ訊いていいかな 君・・目が」


「はい 見えません」


「え!? うっそ! 本当に!? それで冒険者やってるの!?」

「おぃおぃマジかよ じいちゃん達が言ってた ()()()()()が見れるってこの事か?」



 じいちゃん達?



「ちょっと君たち! アネット君はギルド長も認めた立派な冒険者なのよ!? 確かに最初は面食らうかもしれないけど 本人を目の前に言う言葉じゃないわっ!」


「え!? あぁ・・・すいません 俺達彼の事について詳しく聞いた訳じゃないんです うちのじっちゃんが彼と仕事を一緒にしたみたいで その時におもろい奴がいるって聞いて」


「もしかして僕が以前ジョストンさんと組んで護衛の仕事をした時の方ですか? 確か名前は・・・オルソンさん」


「あ! ですです! うちの親方が言ってました!」


「ん? うちの親方? 採掘師コミュニティなのに冒険者?」


「別に採掘師の家系だからって皆が皆 同じ採掘師になる訳じゃないよ 俺は単純に冒険者に憧れたからだし リッタなんか不器用だからって早々に見限られた口なんだ」

「うぐ まぁそうだけど~ 実際職人系のコミュニティって結構厳しいんだよね~ 才能がないって見られた時点で切りられるから まぁ 早めに切ってもらえた方が傷口は浅く済むんですけどー」



 こう言う生々しい話を聞くと人生の厳しさを痛感させられる。スキルさんは一度選んでしまうと交換する事ができない一生のパートナーだ。


 だからこそ才能を見極めてスキルさんとの契約前に引導を渡すんだろう。身内だからこそ厳しく・・・か。



「それで僕に指名と言う事ですが 仕事の内容はどう言ったものでしょう?」


「えぇと 今回は町の外れにある牧場に出現したキラーラビットの討伐 どうにもかなりの数が確認されてて 他の冒険者との合同 3チームで動く事になってるんだ」

「で 俺達新人チームは家畜の番って訳」

「ま 楽でいいじゃん」



 キラーラビット。大きさは普通のウサギと変わらない。でも群れで動いて性格は獰猛。食欲も繁殖力も旺盛なモンスターとして知られる。


 そして露店に並ぶお肉の定番となっていたりもする。


 今は紅葉影シーズン。毎年この時期を楽しみにしている人達に怪我人が出てはまずい。なので早急に手を打ってもらえるのはありがたい。



「ところで 隣にいるのは君の冒険者仲間? ・・・その 見間違いでなければ 失語さん だよね でもって片方は魔法さん」

「どゆ事?」

「リッタ!」



 まぁ~察しちゃうよね。でもそう言う事なんです。



「えぇと 彼女は冒険者じゃないんです でも訳あって行動を共にしたいんですが・・」


「ごめんなさいね ギルドとしても理由があるのよ 詳細は明かせないんだけど 彼女をご一緒させてもらえないかしら」


「ま まぁ 護衛対象が1人増えるだけ・・と考えれば なぁ?」

「私は別にいいよ~」

「ああ 俺も問題ない それに今回は家畜の護衛だしな」


「ありがとう」



 でもチラリと見たミストリアの色は沈んだ酷い色をしていた。こんな話の流れになればそうなっちゃうよね。でも変われなければそれが生涯の命題になってしまう。


 頑張ってもらわねば。



「うさぎパーティー そろそろ出発だ」



 時間になって声が掛かった僕達は牧場へと移動する。他2パーティーの気合いも十分だ。何せその牧場からとれる牛の乳は飲んでよしチーズにしてよしで町でも人気がある。







 牧場に到着すると討伐班2パーティーは分担して巣の駆除と敵の(あぶ)り出しのため雑木林へと消えていった。


 残された僕達は作戦通り家畜を牧場の中央一ヶ所に集めていく。周囲にはぐるりと囲いがあるみたいだけど、パニックになってあっちこっちに走り出したら大変な数はいる。


 更に開けた場所でも以外と起伏があって気を抜くと転んでしまいそうだ。敵の目の前で倒れようものなら僕は全身噛み跡だらけになってしまう。


 牛達だってひとたまりもない。


 とは言え・・・今日は風1つ無い良い日和だ。お天道様もあたってポカポカする。他班は捜索に明け暮れてるけど、此方はこうも平和だとあくびも出る。


 リッタとミストリアに至っては寝息までたてている。時折揺れる草の音と鳥のさえずりが夢の世界へと誘うのだろう。


 どのくらいの時間が経ったのか。無音が続いた牧場は少しずつ少しずつ賑やかになっていく。風でもない、鳥でもない、牛でもない。遠くで草がカサカサする音。


 それが一ヶ所から地平に広がってくのを感じた。何だろう・・・この普段では絶対に出会わない感じの音は。



「盲目さん・・・これって」

『いっぱい集まって来てる~』

「確か群れで行動するんだったよね キラーラビットって・・・ルミウス! エデル! リッタ! 僕の前方に敵! かなりの数いるよ!」


「本当かっ! ・・・何も見えないが」

「どれ・・・ん~・・・」

「あっ 待って・・・遠くで音がする」 



 リッタは僅かな音に気付いたようだけど、残り2人には聞こえていないみたいだ。それでも時間が経つと音も大きくなってくる。つまり接近されている。



「待て待て・・・この音 何処からしてる?」

「何か囲まれてるみたい・・・」


「ううん 前方にいるよ ただし横に広がってる」

『奥にもねー』


「キュッ・・・」



 僕達が音に警戒していると草むらから1匹の動物が色を覗かせた。それは何かを探してるみたいに心をスンスンさせている。そして・・・



「キュッ・・」

「キュッ・・・キュッ・・」

「キュッキュッ・・・キュッ・・・」

「「「キュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッキュッ」」」


「おい~嘘だろっ!?」

「ちょっ 多すぎぃ~・・・」

「討伐班 打ち漏らしたか?」



 1匹出たらざっと30匹以上は出てきたモンスターに一同驚愕した。相手は言うまでもなく家畜を探して来たろうから僕達は戦うしかない。



「はぁー・・ 分かってると思うが 最優先は家畜だ 牛が傷付いてミルクが出せなくなったら肉にされる 牛の数が減る ミルクが高くなる・・・それ 分かってるな?」

「責任重大だな」

「失敗したら後ろゆび指されるやつだ~っ」



 感じ方がちょっとズレてるけど、僕も本格的な戦闘に身が引き締まる。



「ミストリアさんは牛達の中に隠れてて 俺とエデル リッタは前衛! アネットは・・・抜けた敵を頼むっ! 無理そうなら逃げてくれ!」


「りょ 了解っ」

『分かったー』



 う~ん・・・まぁそうなるよね。期待されてないのは仕方ない。盲目だし。でも任された以上は頑張らないと。


 敵もルミウスの声を皮切りにこっちへ突っ込んできた。走りながら「キュッキュッキュッ」と近付いてくるそれは、まるで音の壁だ。


 牛も人も肉は肉・・・と言う事で、キラーラビットは前菜としてルミウス達に群がった。


 彼等も食べられまいと刃物を振り回すけど、惹き付けるには一味足らないようでキラーラビットの何匹かは彼等の間を抜けてくる。



「盲目さん!」

『ぷちだーく!』



 僕は敵とルミウス達を囲うよう両サイドにプチダークを展開させた。全ての敵をとうせんぼするよりは、一ヶ所だけ抜け道を作った方が彼等も楽だし僕も倒しやすい。


 スキルを警戒したキラーラビットは僕に向けて一直線に走ってくる。ここからが冒険者としての腕の見せ所。


 ・・・失敗したら謝ろう。



 ★



 今日も無意味な朝がきた。食事を食んでギルドに連れてかれる。本当だったら木々に囲まれた並木道を学園に向けて歩いてるのに。


 ギルドの中は更に嫌。


 みんな自分のやるべき事に熱心で、役割があって、必要とされていて、毎日を生きる事が許されてて。社会から認められてる姿をまざまざと見せ付けられる。



「ところで 隣にいるのは君の冒険者仲間? ・・・その 見間違いでなければ 失語さん だよね でもって片方は魔法さん」



 そうよ。文句ある? 私だってなりたくてなった訳じゃないわ。いらないでしょ? こんな足手まとい。



「ま まぁ 護衛対象が1人増えるだけ・・と考えれば なぁ?」



 何でよ・・・


 到着した牧場で無意味に過ごす。同じ無意味なら人のいないこの環境の方が好ましいわ。もう人と比較するのもされるのも嫌。このままずっとこうしてたい。



「確か群れで行動するんだったよね キラーラビットって・・・ルミウス! エデル! リッタ! 僕の前方に敵! かなりの数いるよ!」



 え? 敵? 何処に? あれだけ静かだった周りが音に支配されてる。草の上を何かがカサカサ迫る音が大きくなってくる。え・・・本当に敵なの?



「ミストリアさんは牛達の中に隠れてて 俺とエデル リッタは前衛! アネットは・・・抜けた敵を頼むっ! 無理そうなら逃げてくれ!」



 言われなくても逃げるわよ! て言うか盲目の彼に任せて良い訳ないじゃない! もっと考えてもの言って!



「盲目さん!」

『ぷちだーく!』



 え・・・


 それは黒い靄だった。


 学園でも習った。マイナス等級に魅入られた人はスキルも使えず、誰からも必要とされず、孤独に死んでいくんだって。


 それがどうして・・・


 彼の出したそれは光も遮る黒い靄だったけど、私にはそれがとても輝いて見えた。





感想 評価 ブクマ よろしくです(*´ω`*)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ