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181・ミオリネの思惑

前回のあらすじ


無事ダンジョンから帰還したアネット一行。しかし怪我を負ったラトリアは入院する事となる。ダンジョンであった事を秘匿するよう迫るランドルフだったが、寮ではディゼルがある事ない事を方々に言い触らしていた。


「ちょっとディゼル それは言っちゃダメなんだ」


「はぁ? 何でだよ」



 案の定ディゼルはこう言う態度だ。ここまできたら絶対に言うのをやめないだろう。むしろほったらかしておいて「ディゼルの戯言」と言う形で自然消滅を期待した方が賢いかもしれない。



「それは・・・人のプライバシーに触れる事だからね」


「はぁ!? 伝説が手の届くところにあるんだぞ? それを目指さないで何が冒険者だよ! アネット ビビッたんなら黙っとけ 俺が代わりに精霊さんを見付けてやるからよ」



 以前あれだけ冒険者を忌避してたのが、訓練所での課程を経たお陰か今は物凄く前のめりだ。ディゼルを駆り立てるものが何かは分からないけど、このまま調子づかせては武器を片手にダンジョン奥地へと特攻しかねない。



「そうだなディゼル 目標を持つのは良い事だ だがその前にお前は怪我をキチンと治すところから始めないとな 幸い傷跡が残っても勲章として見せてれば 案外箔がつくかもしれないぞ?」


「おっ それ良いな!」



 ウェグナスは無理に止めようとはしなかった。抑えれば抑える程反抗心を滾らせるディゼルの心情を理解しての事だろう。



「だがその前にもっと強くならないとダメなんじゃないか? 名誉の負傷が多すぎるのもどうかと思うぞ 顔面傷だらけじゃ怖くて誰も近付きたがらないからな」


「そっ ・・・そうだな!」


「取り敢えず表層を余裕で歩ける事を目標にすれば良いんじゃないか? そうすれば次の層でもある程度の余裕がうまれる」


「表層の雑魚なら俺1人だって余裕だぜ お前の言う目標だってすぐに達成して見せてやるっ」



 誉めておいて落としどころにもっていく。ウェグナスは意外と人を動かす事に長けているのかもしれない。パーティーならリーダー役がピッタリなのではないだろうか。


 ウェグナスが手綱を引いてくれればディゼルも暴走はしないだろう。


 ひとまずディゼルの件は何とかなりそうなので、僕は一旦家に向かうべくミストリアとソフィリアを迎えにいった。


 ギルド職員育成の為に宛がわれた部屋ではコルトア達がそれぞれ訓練に明け暮れていた。一口に職員育成と言っても具体的な「やり方」にはまだ辿り着けていないので、今自分達の出来る事と普通の生活を送れるようにと奮闘している最中だ。


 やっぱり自分の人生が掛かっているので皆真面目に取り組んでいる。でも進展具合はかんばしくないようで疲労だけが蓄積されてるようだった。



「ミストリア 今日はマルティナが来れないから僕が迎えに来たよ 一緒に帰ろう」


〔あら どうしたの? 今日は仕事に行ったんじゃなかったの? マルティナに何かあった?〕


「ううん マルティナじゃなくってラトリアがダンジョンで怪我をしちゃってね 結構重傷なんだ ダンジョン内の治療院で入院する事になっちゃってさ マルティナは付き添い」


「怪我したってモンスターにやられたのか?」


「王都に喋るモンスターが居たでしょ? ここにも居るんだよ それで戦う羽目になっちゃってね」


〔喋るモンスターって私達が以前遭遇した奴かしら〕


「今日来たのは僕達が戦った方のモンスターだよ 正直ランドルフさんが助けに入ってくれなかったら全員無事には戻れなかったと思う」


「そうなのか 大変だったな」



 コルトアはアッケラカンと返したが、王都ダンジョンで直視してきた3人はブルりと心を震わせた。



〔そうね そろそろ良い時間だし 今日はここまでにしておきましょう〕


「僕は一旦家に戻って家族に報告してから寮に戻るよ」


「ああ 分かった」



 部屋を後にした僕はミストリアを連れて託児所へと向かう。その最中〔あの犬っころみたいに教育が必要なのかしら〕と文字に起こしていたところを見ると、ミストリアも喋るモンスターに何か憤りを感じているのだろう。



「あっ お兄ちゃん!」


「ソフィリア 迎えに来たよ」



 託児所に到着するといち早く僕を見付けたソフィリアはステテテテと一目散に走って思い切り抱き付いてきた。僕も中々会いに行ってあげられなかったので寂しかったのか中々離れようとしない。


 なのでしばらく抱き締めてあげていると不意に「お姉ちゃんは?」と聞いきた。やっぱり普段と違う事を機敏に察知したのだろう。



「えぇっと マルティナは怪我しちゃったお友達のところについていてあげる事になったんだ だから今日は僕がお迎えに来たんだよ」


「お怪我しちゃったの?」


「うん ダンジョンに潜ったんだけどね ちょっと大変な事に巻き込まれちゃって・・・」



 そう言った途端、ソフィリアは悲しみと恐怖で心がいっぱいになってしまった。そして「うぅ~・・」と洩らしながら僕にしがみついてくる。


 う~ん。良かれと思って正直に話をしたのだけど、それが見事裏目に出てしまった。まだまだ小さいと思っていたソフィリアだけど、感受性はもう立派に成長を遂げていたようだ。


 すっかり怖がってしまったソフィリアはギルドでも帰路でも僕から離れようとしなかった。なので抱っこして帰る事になったのだが、何故かミストリアまでくっついてくる始末。


 ソフィリアもソフィリアでしばらく離れていた内に体の方も成長したのか家路はとても難儀した。


 自宅に到着するとオフェリナ叔母さんは食事の準備をしていた。まだ数日しか離れていないけど、何だかとても懐かしい気持ちになった。



「ただいま叔母さん」


「あらアネット君 ソフィリアもミストリアちゃんもお帰りなさい マルティナは一緒じゃないの?」


「それが─────」



 ソフィリアをこうまで不安がらせてしまったので包み隠さず話してしまっても大丈夫かと思案したが、家族に隠し事はよろしくないと思った僕はダンジョンで友人が怪我を負った事を正直に話した。


 叔母さんは終始無言で聞いていたけれど胸中には複雑な思いが渦巻いた。



「そうなの・・・大変だったわね ダンジョンは危ないんだから・・・無理な事はしちゃダメよ?」



 そう言いつつも言葉に詰まった叔母さんは、きっと「行ってはダメ」と言いたかったに違いない。そう思うとダンジョンと言う場所が途端に遠い場所のように感じられた。


 何処と無く後ろ髪を引かれる思いで僕は自宅で食事をし、折を見て寮に戻る事にしたのだが、不安が拭えないソフィリアはずっと僕にしがみついて放そうとしない。


 仕方がないのでソフィリアがベットで寝付くまで側にいてあげる事にした。何故かミストリアまで同じようにせがんでくるので、ソフィリア同様眠るまで手を繋いであげる事でようやく納得してくれた。



「それじゃ叔母さん 僕はもう行きますね おやすみなさい」


「えぇおやすみなさい もう夜も遅いから気を付けてね?」


「はい」



 優しく送り出してくれたオフェリナ叔母さんだったけど、心の蟠りは別れ際になっても晴れる事はなかった。


 自分の命を曝す冒険者とは身近な人間を不安にさせちゃう仕事なんだと改めて認識させられた。


 叔母さんの言った通り、大通りは深い夜の雰囲気を醸していた。早朝とも夕暮れとも違う空気の中をギルドまで歩いていく。


 冒険者ギルドはその運用体制から真夜中でも入り口が閉じる事はない。なので普段と違う大通りを肌で感じつつ歩いていると、不意に聞き覚えのある声で呼び止められた。



「あっ アネットちゃ・・・じゃなかった アネット君やっと帰ってきた!」


「えっと・・・この声は確かジュレアスさんの娘さんの・・・ミオリネ さん?」


「おっ 正解! よく分かったね」


「どうしたの? 何かあった?」


「アネット君に相談にのってもらいたい事があって待ってたんだ」


「相談? 取り敢えずここじゃなんだし ギルドに入ろう」


「ダメ! ギルドだと誰が聞き耳たててるか分かんないもん それにパパにだけは絶対に聞かせたくないのっ」



 何だろう何だか面倒事の予感がする。そんな此方の気持ちを知ってか知らずか彼女は淡々と説明を続けた。



「あのね 私お婆ちゃんに会いたいの」


「お婆・・・ちゃん?」


「うん お爺ちゃんはねお婆ちゃんを何十年もずっと探してるの 私もね 居なくなっちゃったお婆ちゃんに会ってみたいんだ


 でも私がそれを言うとパパは絶対にダメだって言うのよ? それにダンジョンに入る為に冒険者登録したって パパが手を回して勝手に登録を抹消しちゃうの 酷くない?」


「う うん・・・そうだね」


「それでね アネット君にお願いがあるの 私をダンジョンに連れてってほしいの」


「・・・・・・・え?」


「ダンジョンって許可が無い人は入れないでしょ? だから私 冒険者じゃなくって薬学士の免許で入ろうと思ってるの」


「薬学士・・・」


「うん だからカルメンちゃんにお願いして森の中とか薬草を採集して回ってるんだ 元々カルメンちゃんのお母さんが狩人で 小さい頃からギルドにカルメンちゃん連れてきてたから それで仲良くなったんだけど


 私って正直戦闘とかは不向きなんだけど 森の歩き方なら合格点は貰えたわ」


「そう なんだ・・・お婆ちゃんに会いたいって気持ちを否定する訳じゃないんだけど どうしてそこまでこだわるの? その・・・ダンジョンは君が思っている以上に危ないんだ 今日だって友人が怪我をして入院する事になっちゃったし・・・」


「それはお気の毒に・・・ でも遊びじゃないわ 私だって危険は承知しているもん


 私の家はさ お爺ちゃんがずっとダンジョンに通い詰めてるせいでパパとよく口論になるの ギルドでのお爺ちゃんはギルドマスターとして振る舞ってるけど お家じゃ寂しそうなんだ


 だからさ 私はお婆ちゃんを探すお爺ちゃんのお手伝いがしたいの パパにとっても実のお母さんなんだよ? 本当は会いたいに決まってるもん」


「まぁ 家族が何処かで無事に生きているなら 会いたいって気持ちは分からなくもないけど 君の・・・お婆ちゃんが確実にダンジョンに居るなんて保証は・・・無い・・・んじゃないかな?」



 エレフィーネさん・・・ダンジョンの巫女として今も健在なのだろう。しかしこの子が協力したところで無事に彼女の元まで辿り着ける可能性はゼロだ。


 気持ちは分かっても同意は出来ないので言葉を濁す以外答える事ができない。



「保証ならあるもん! アネット君って『鍵』なんでしょ!? 冒険者の人が言ってたもん」


「え? 鍵って・・・誰がそんな・・・冒険者? まさかディゼルから聞いた!? えぇと か・・・彼はよく物事を誇張すると言うか デタラメを吹聴すると言うか・・・彼の言葉に信憑性は無いと思うよ? ・・・うん」


「でも他の冒険者達もダンジョンでお爺ちゃんと一緒にいたアネット君達の事話してたよ? お爺ちゃんと互角に戦うモンスターがいたとか そのモンスターは喋るんだ とか耳にしたって」



 聞いた? 誰に? ・・・いや。診療所には他に人は居たし僕達の会話を誰かが聞いてたって不思議じゃない。


 ましてやギルド長の言葉とあっては聞き耳をたててる人がいてもおかしくない。それに加えてディゼルの話を真に受けたんだろう。


 むむむむむ・・・何と言って聞かせれば諦めてくれるんだろうか。「危険だからダメ」は、たぶん家族から耳にタコができるくらい聞いてる筈。


 ここはある程度強めに言った方が良いかもしれない。



「僕達が戦ったのは冒険者達から一目おかれるランドルフさんと互角だった相手だ 友人もそのモンスターに怪我を負わされてる


 そんなモンスターがいっぱい居る奥地に普通の冒険者が列を成したところで 目的地に辿り着く事はできないと思う」


「でも『鍵』になったアネット君と一緒なら平気って聞いたわ お爺ちゃんと互角なモンスターとも和解したって」


「和解? ・・・なのかは分からないけど モンスターは彼女1人じゃないんだ 話の通じないモンスターだって他にもいる 悪いけど僕に期待されても君の希望には答えられないよ」



 まったく・・・彼女は今回の件をどう理解してるのだろう。何だか自分に都合のいいように解釈してる気がしてならない。



「ねぇアネット君 お爺ちゃんと互角のモンスターって本当にいたんだね それに話の通じないモンスターって・・・モンスターに普通話なんか通じないよ? それにアネット君の事を『鍵』って言っても否定しないんだね」


「うっ・・・」


「ふ~ん そっか~ ダンジョンにはやっぱり何かがあるのね ディゼルって人が言い触らしてた『精霊さん』って言うのも あながち間違いじゃなさそう?」


「さ さぁ 分からないなぁ?」


「アハハ アネット君顔に出過ぎっ!」



 むぅ~・・・僕は肯定してない。肯定していないのだから認めた事にはならない筈。困った。どうやったら諦めてくれるだろうか・・・



「話は聞かせてもらったぜっ」



 僕が内心焦っていると突如横から粗暴な声が飛んできた。この声は・・・



「ユシュタファ・・・だったっけ?」


「あぁ お前の帰りが遅いから外で張ってたんだ」


「僕を? 何で・・・?」


「決まってんだろ勝負だ勝負! ウェグナスから聞いたぜ今日の事 お前に助けられたってな だから俺はお前に勝たなきゃなんねぇ」


「あのさ・・・ウェグナスの事が気になるなら普通に声かけてパーティー組んだらいいと思うんだけど」


「う うるせぇ! 俺の事はいいんだよっ! 俺は実力でそれを証明するんだっ そうだな・・・俺が勝ったらアンタをダンジョンに連れてってやるよ」


「え? 本当?」


「ちょっ ちょっと待って どうしてそうなるのっ 君も安請け合いしちゃダメだっ」


「ハッ 要は強けりゃ問題ないって事だろ? 冒険者の仕事ってのも物足りなかったからな これからは方向性を護衛じゃなくてダンジョン攻略に切り替えようと思ってたところだ」



 何だろうこの既視感。まるで以前誰かと同じ事を話したような気がする。あ・・・ディゼルだ。やっぱりこの2人は何だかんだ気が合うんじゃないだろうか・・・もちろん悪い意味で。





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