180・ウェグナス達のこれから
前回のあらすじ
ランドルフとディーテの死闘に割って入ったアネットは「アイ・アンノウン」で2人を止める。説得の末去っていったディーテだったが、アネット達のパーティーは手痛い傷を負うのだった。
「すいません 勝手に話を進めてしまって」
「・・・まぁ仕方がなかろう あのまま成り行きに任せとったら確実に取り返しのつかないとこまでいっておったしの むしろこれで良かったのかもしれん」
驚異は去り、僕達は辛うじて明日への切符を手に入れた。「こうだろう」「かもしれない」と言う僕の判断がこうまで結果を悪化させてしまうなんて・・・
ディゼル達は最悪のダンジョンデビューとなってしまったに違いない。
「マルティナ! ラトリアは大丈夫?」
「えぇ・・・ 血は止まったみたいだけど傷が・・・」
傷を負ってから時間も経ち、マルティナの声からも相当酷い状態である事が容易に想像できた。ラトリアは相変わらずの息づかいだ。きっと苦悶の表情であるに違いない。
「むぅ これはいかん すぐにでも入り口にある治療室に運ばねばならんな」
「は はいっ」
僕はランドルフさんに促されマルティナと一緒にラトリアを担ぐと、ダンジョン入り口にある治療室へと向かった。
備え付けの治療室。
道中ランドルフさんに聞いたのだけど、ダンジョンは当然危険な場所なので、すぐにでも治療を施せるようにと医療施設が併設されているらしい。
裂傷。切断。毒。あらゆる状況に対応する為、相応の設備は揃っているのだそうだ。希望に満ちた冒険と美味しそうな屋台のにおいにばかり気を取られて全く気付かなかった。
入り口まではランドルフさんが護衛についてくれた。もっとも彼の手にかかれば表層のモンスターなんて赤子も同然で、実際僕達の歩みが止まる事は1回もなかった。
僕達は無事治療室まで辿り着けたのだが、そこに至るまでかなりの注目を浴びてしまった。何せギルドマスターが同行してるなんて、まず何事かがなければ有り得ない状況なんだそうだ。
そんな訳で「ギルマスと一緒にいるのは誰だ」とか「何かあったのか?」等々、方々で飛び交っている。
彼等にしてみればランドルフさんと一緒に仕事・・・と言うのがハルメリーでのステータスになるとかならないとか。中にはランドルフさんに羨望の眼差しならぬ感情を向ける者までいる。
まぁ僕達は良いように利用されただけなんですけどね!
「ぎゃぁああ! 痛ってええぇ! もっと優しく治療しろよっ!」
「ところで ・・・助けてくれるならもっと早く来てくれても良かったんじゃないですか?」
「だから! もっと優しくってっ!」
「人の冒険に水を差す程 野暮じゃないわい これでダンジョンにピクニック気分で行く阿呆が減れば ここの薬を無駄にしなくて済む」
「いぎぃ! おい! おまっ! わざとやってんのか!?」
「それにしても 相手のスキルが出血スキルで良かったです もしこれが毒だったら今頃ラトリアはどうなっていた事か・・・」
「うんぎっ! そこっ! 触んなって!」
「そうじゃな 今回は運が良かった じゃが次は無いと思え? ま あんなのはワシでもあってほしくないが・・・」
「あぎぎぎぎぎっ!」
「はい」
ランドルフさんと語らってると神妙な色を宿した1人が治療室から出てきた。ラトリアに何かあったのだろうか。その感情からは判断が難しい。
「あの傷・・・ありゃ誰にやられたよ なんてぇかよ 傷口からつけた奴の技量を感じんのよ」
かなり年配のしゃがれ声の男性が僕達の元に来るなりそう聞いてきた。何だろう・・・まさか手遅れ的な?
「あのっ ラトリアは? ラトリアは大丈夫なんですか!?」
「ん? そりゃ大丈夫だ 何せ傷口が綺麗だったからな痕も残らんよ だが暫く入院」
「そう・・・ですか 助かるのなら良かったです」
「それよか ありゃ誰の仕業だ」
「モンスターじゃよ 人の言葉を話すな」
「はぁ? ・・・ははっ そうか 眉唾だと思ってたが噂は本当だったか お前がここにいるって事は・・・戦ったんだな? どうだった」
「どうもこうも この坊主に助けられんかったら 確実にどちらかが死んどったわ」
「それ程か まったく・・・ダンジョンには夢が詰まってるな この歳になってもたぎってくるわ ヘッヘッへ」
「おい爺さん! 俺も入院か!? 酷い怪我だぜっ これ見ろよ!」
「あぁ? そんなもんは唾つけて包帯巻いときゃ治る」
ディゼルはギャァギャァと喚いていたが、ここに来るまで喋らなかった軽傷のウェグナス。何と無く此方の方が重症に思えた。処置は施してもらった筈だけど、窮地を脱した彼の心は未だに沈んだままだった。
「ウェグナス大丈夫?」
「あ あぁ・・・何だか色々ありすぎて ダンジョンに対する見方と言うか 認識が変わってしまった気がするよ」
「気が合うの ワシもじゃ」
何とか言葉にしたウェグナスだけど、心には重荷のようなものがわだかまっている。時間の経過と共に軽くなっていってくれれば良いのだけど・・・
「アネット 私はラトリアの側についててあげたいの 悪いけどお母さんに知らせておいて」
「うん ・・・マルティナもお疲れ様」
意外とマルティナはサバサバしている。こんな経験は2度目だからか友人が重傷だからか「まだ気を抜く時ではない」と言った感じだ。ここは彼女に任せれば大丈夫だろう。
それぞれが治療を終えたところで、僕達はダンジョンを後にした。
それぞれ何かしらの傷を残した今回のダンジョン探索は、無事とは言わずとも全員帰還と言う形で幕を閉じた。
ウェグナスの心情をよそにディゼルは晴々とした感情で大通りを歩いている。さながら名誉の負傷を負いながらも堂々の凱旋と言った感じだ。
ギルドに到着後。負傷したディゼルを残し僕達はダンジョンで起こった事についてランドルフさんの部屋に呼ばれた。
「ま あれじゃな 端的に言うとあそこで起きた事について他言は禁止じゃ」
「そう ですね・・・」
「俺も言うつもりはありません・・・ でも納得出来ない ・・・ここだけの話 あれは何ですか 精霊さんとか鍵とか 俺達は何に巻き込まれたんですっ」
ウェグナスにしてみればちょっとダンジョンの様子を見てみるつもりが、いきなり強敵に遭遇して命の危険にさらされて、それがランドルフさんと互角に渡り合える相手で、しかも人の言葉を話すモンスター。
あまりにあまりな展開にどうしてこうなったのか苦心するのも理解できる。
それを何とか耐えていたウェグナスだったが、ここに来て堰を切ったように言葉が溢れ出た。
「むぅ・・・」
さすがのランドルフさんも知ってる事を話すか話さないかで決めあぐねている様子だ。不可抗力とは言え今回は完全に僕が原因となってしまっている。
もし1人でダンジョンに潜っていたら被害は僕だけで済んでいた筈だった。正直ディーテが来るとは思いもしなかった。もっとも『予見の目』が向こうにもある以上、ダンジョンでの出来事を決める選択権は僕には無いのだけど・・・
つまりダンジョンで僕の側にいると言う事はとても危険と言う事だ。ならば話せる部分は話さなければならない。
「ウェグナスも見たと思うけど 喋るモンスターって言うのが居るんだ それが・・・ある事情で僕が狙われる事になって
詳細を話してしまって大丈夫なのか分からないけど 彼女の言っていた『鍵』と言うものに僕がなってしまったんだ ディーテとは王都の学園の依頼でダンジョンに行った時に出会ったんだけど そこで戦う羽目になってね
てっきりその時の用事は済んだものと思ってたんだけど それがまさか今日に限って僕に会いに来るなんて・・・ ごめん 今回の事は僕が原因だ」
「・・・・・・・・」
この場の全員が無言になる。それぞれ何と話したら良いのか分からないのだろう。僕も分からない。
僕はもうダンジョンには潜らない方が良いのだろうか。今回ディーテは引いてくれたけど、あの日やって来た喋るモンスターは彼女以外にもいる。
なのでそいつを打ち倒したミストリアや参戦したマルティナ。エデルとリッタも狙われる可能性もあるし、噂を聞いた他の喋るモンスターが僕達を狙う事もあるかもしれない。
「お前の・・・せいじゃないだろう 冒険者がモンスターと戦うのは自明だし 襲い掛かってきた理由があっても それは向こうの都合だ
俺達は冒険者なんだ 今日も明日も明後日も やる事は変わらない」
ウェグナスに嫌煙されるかもと心のどこかで思っていたけど、彼は「冒険者だから」と言う括りで片付けてくれた。
そう言ってもらえるのは有り難いけど、現実問題これからどうするかだ。僕もそうだけどランドルフさんも目的はダンジョンにあるのだし。
「エレフィーネが 連中の手綱を握ってると信じる他あるまい あのディーテとか言うモンスターも坊主の価値は認識したんじゃ 私用で出てきたらしいが公私混同はもうせんじゃろ」
「そう だと・・・良いですね」
王都のモンスター達は自身の持つ意見の不一致で見事に割れた。ランドルフさんの奥さん。エレフィーネさんが彼等に付けてるのが手綱か首輪かは分からないけど、あまり期待はしない方が良いのだろう。
何せ私欲ではなく相手を思う気持から突き動かされる衝動もあるのだから。
結局ランドルフさんからは今後気を付けるようにと言われただけだった。ダンジョンと言う場所が思った以上に危険だったとしても、人々の生活に欠かせない資源と天秤にかけて封鎖はできないと言う事らしい。
僕達はどこか釈然としない面持ちで部屋から退出した。
「ウェグナス これからどうする? ダンジョンへはしばらく近付かない方がいいんじゃないかな」
「・・・そうしたい気持ちと それではダメだと言う思いがせめぎ合ってる感じだ ギルド長と同格の相手となんか戦っても今の俺では勝てる訳がない だけど強くならなくてはいつまで経っても勝つ事はできない
それに・・・そうだな ここで引いたら逃げ癖がつきそうな気がする だから俺は 次もダンジョンに潜ろうと思う」
「ウェグナス・・・」
そうだね。僕も王都のダンジョンで無力さを痛感したじゃないか。自己鍛練だって今後の課題にもあるんだし。今目をそらしたら今後言い訳しながら生きてく事になりそうな気がする。
「うん 僕達は冒険者だもんね 未知や苦難を乗り越えるのが本懐だ」
「ああ」
何処と無くウェグナスと分かり合えた気がした僕は、彼と一緒に寮に戻る事にした。取り敢えず家に行ってから今日はゆっくりと休んで、明日はラトリアのお見舞いに行こう。
彼女にもダンジョンで見聞きした事は他言無用と言っておかなきゃいけないし。
「─────でよぉ 俺は他の連中が罠に掛かりそうなところを身を呈して守ってやったって訳よ
でな? その喋るモンスターが言ってたんだ 精霊さんってな お前等も御伽噺とか噂で聞いた事くらいあんだろ? その精霊さんだよ
何でそんな話になってるかって言うとよ その喋るモンスターってのがめっぽう強くてな さすがの俺達もあわやってとこに ここのギルマスが駆け付けて来たのよ
何でもギルマスの嫁さんがダンジョンの奥に居るって話でよ 俺達はあいつ等の話をバッチリ聞いちまったって訳よ」
「おぉ それマジかよ」
「マジだって 本人に直接聞いてみろって」
「いやぁ さすがに教えてくれねぇべ」
「なぁなぁ だったら俺達で精霊さん探すとかどうよ」
「お それいいねぇ!」
寮に戻ったら早速ディゼルが秘密を周囲にばら撒いていた。
どうするの・・・これ。




