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175・やるべき事

前回のあらすじ


ギルド職員に実体験して料理を作ってもらったアネット。失敗こそなかったものの喋れない事の大変さを身をもって痛感した職員達だった。


時刻は夕刻。食事時に父ジュレアスを探して娘のミオリネが食堂へとやって来た。そこでアネットと友達になりたい持ち掛けるのだが・・・

「お・・・おはよう 盲目さん・・」

『・・・・ ・・・・おはよう?』



 実体験教室から一夜明け、コルトアには自分のスキルさんへの挨拶から始めてもらう事にした。コルトア自身が“盲目さん”を拒絶していた事から返答は望めないものと思っていたけれど、辿々しいながらも挨拶は返してくれた。


 たぶんコルトアが前向きな姿勢である事がスキルさんにも伝わったからだろう。



「盲目さんも おはよう」

『おはよ~』


「なんかお前等仲良いな 会話がスムーズでさ 普通に友達と話してるみたいだ」


「コルトアだって友達みたいに話せるようになるよ ミストリアも言ってたでしょ? スキルさんは自分の一面だって」


「盲目的ってやつか・・・ それにしてもアネット 今って本当に朝だよな? こうも真っ暗だと眠たい時がお休みで 起きた時がおはようだ」


「今日は晴れてるから分かりやすいよ 肌にあたる日の暖かさで判断してるからね 曇りの日や雨の日なんかも それぞれ特徴があるから違いを感じるのも面白いよ?」


「今は・・・違いを楽しむ余裕はさすがに無いって それよか本当にスキルが使えるようになるのかが心配だよ こう目の前が真っ暗だとさ 皆があれこれ動いてるのに自分は何も出来ないって事に焦りを感じるんだ」


「僕も身に覚えがあるよ 盲目になってから 今まで出来てた事が出来なくなっちゃったのは悲しかったけど それでも僕は冒険者になる事ばかり夢見てたからスキルを覚えられたんだと思う コルトアだってやりたい事とか望んだ事とかあったんじゃない?」


「う~ん・・・ 俺はアネットみたいに何かになりたいとかじゃないんだよな 学園で威張り腐ってる貴族の鼻を明かしてやろうって思ってただけだし


 でも そうだなぁ 今は普通に生活ができるようになりたい・・・ まぁ欲を言えばやっぱマイナス等級とか言ってくる連中に目に物見せるスキルを覚えたいかな?」



 さすが“盲目さん”に好かれるだけはある。盲目的に普通以上の何かを求める心だけは手放せないでいるようだ。


 ただ漠然としてるのでどう言うスキルを得られるかは分からないけど、重要なのは盲目的に望むその心。コルトアが何らかのスキルを得られる可能性は十分にあると思う。



「皆さ~ん 朝食のお時間ですよ~ コルトア君は~・・今朝は大丈夫そうですね~」



 寝起きの会話をしていると盲目の僕達を案じて寮母さんが部屋まで迎えに来てくれた。何が大丈夫なのかは気にしないとして、僕は途端に口数が少なくなったコルトアを連れて食堂へと向かった。


 食堂はすでに多くの寮生でひしめいていた。席は仲良しグループがあるのか幾人かで固まって埋まっている。



「お アネット こっちこっち」



 その中の1つ。入り口で躊躇してる僕を見付けたウェグナスが声を掛けてくれた・・・が、僕が返事を返すよりも先、すぐさま反応したのがウェグナスの前に座っていた人物だ。


 晴天のように晴れ渡った空に暗雲が垂れ込めていく感じ。この反応は間違いなくユシュタファだろう。


 ウェグナスは知ってて声を掛けたのかな? どちらにせよ折角のお誘いを無下にする訳にもいかないので、僕は覚悟を決めてユシュタファと向き合う事にした。



「おはようウェグナス と・・・ ユシュタファ」


「へ~ 盲目で冒険者やるだけあって 目が見えなくても人を判別する事は出来るんだな」



 何処と無く尖った返事を返した彼は相変わらず嫌悪感を僕達に抱いている。見下すのではなく弱いから嫌いと言う事だが、それはどう言った心境からくるものなのだろう。


 マイナス等級差別ばかりを聞いてきたからいまいち想像がつなかい。



「アネットは人を判別できるだけじゃない 俺やラトリアとだって戦えるぞ? ギルド長に一撃入れた事も有名だ」


「それなら俺も聞いたよ どうせご祝儀だろ だが面白い ウェグナス達と戦えるなら俺とも戦えるよな だったらやろうぜ お前のお友達のディゼルのようにボコボコにしてやるよ」


「まぁ待て 単純に戦うだけじゃ芸がない どうだろう 同じ冒険者通しなら仕事の成果で決めないか? そうだな・・・ウサギ狩りだ 初心者にはちょうど良い 何より肉がテーブルに並ぶし 寮母さんも助かるからな」



 あれ? 食事時の何気ない会話な筈なのに僕が口を挟む間も無くあれよあれよと戦う流れになっていく。ウェグナス?



「ハッ お前の提案だ乗ってやるよ」


「と言ってもアネットにだって予定はある 互いに都合がついた日って事でどうだ?」


「いいぜ 俺がウサギ肉を大量に並べてやるよ」



 何が彼を掻き立てるのか分からないけど、勝負に意気込んだユシュタファは朝食を掻き込むと足早に食堂を出ていってしまった。僕はまだ何も返事してないのに・・・



「このノリ・・・ 学園を思い出すなぁ」


「ウェグナス・・・どうしてあんな事を・・」


「悪い悪い ちょっとお前を利用させてもらった 訓練所にいるとどうしても同じ奴とばかり戦う事になるだろ? たまには毛色の違う奴と競うのも良いと思ってな


 それに色んな武器を臨機応変に使い分けるユシュタファなんて中々お目にかかれないぜ? お前にとっても良い経験になると思ったんだ 


 アイツはあの気性もあって自分を曲げる事を知らない ここでも勝ちが多いせいかそれに拍車を掛けている 有頂天になってると判断を曇らせる事もあるからな」



 なるほど。面倒見が良いウェグナスらしい答えだ。まぁ僕も彼に迷惑を掛けてしまっているのだから、ここで文句を言うのもあれなんだけど・・・



「でもそれって 僕が勝たなきゃ彼の為にならない的なやつだよね・・・」


「昨日名前が出たカルメンって 確か狩人の子だよな その子から森の歩き方に太鼓判を押されたんだろ? ウサギは音に敏感だ 何とかなるって」



 何だか投げやりな気もするが何とかするしかないのだろう。ここで負けたらウェグナスの顔に泥を塗る事になる。そして大声で話してくれたものだから周囲にまで話が及んでいる。


 僕にだってそれなりに面子と言うものはあるので益々負けられなくなってしまった。



「分かった 色々予定の調整が出来次第声を掛けるよ」



 周りが色めく中、僕はまた1つ課題を抱えた事に肩を落としながら朝食をパクパク摘まんでいった。


 食事の後は僕達専用に宛がわれた部屋へと向かう。するとそこには女性陣が待機していた。おそらく混雑する時間帯を避けて早めの朝食をとったのだろう。


 ユシュタファと遭遇していたらきっと今みたいに平穏ではいられなかった筈。彼女達の選択は正解だ。



「おはよう皆」

『おはよ~』


「お おはよう」


〔おはようございます〕

『〔おはよう〕』

『おは~』


「職員の人はまだ来ていないみたいだけど 今日はどうする? って言っても他の人達と違って先駆者がいないから手探りで進めてくしかないんだけど・・・」


〔アネット達は昨日はどんな事をしていたの?〕


「僕達はまず自分達の部屋の間取りを覚えるところから始めてるよ それこそ手探りで ミストリア達は?」


〔私達は相手に自分の言葉を伝える手段を探したわ やっぱり相手とのコミュニケーションが出来ないと言うのは嫌だもの 満場一致で決まったわ〕


「ギルド職員育成の名目だけど まずは基本的な対話が出来るようにならないと 人と同じ目線に立つなんて難しいもんね だったら────」


「ミッ ミストリアさんはっ ど どうやってスキルを覚えたの? その・・水の魔法とかも凄かったし 失語さんのスキルだって使えるんでしょ?」



 僕の言葉を遮ってコルトアは意を決しって思っていた事を吐き出した。たぶんずっと聞いてみたくて堪えられなかったのだろう。学園での彼女はとても優秀だったと聞いたし。


 であるなら僕より教え方が上手かもしれない。



〔話すのは吝かではないけれど 伝える手段が・・・ アネット 代弁してくれるかしら〕


「うん 分かった 僕が声に出すね」


「あ あぁ 分かった 頼む」


〔あれはスプリントノーゼで悪漢に───〕


「えぇと・・コホン あれはスプリントノーゼで悪漢に襲われた時の事だわ 卑劣な手口でアネットの体の自由を奪った男達は その汚らわしい手をアネットの肢体に這わせようとしていたの?


 私も悪党との戦闘から逃れられない状況で ついに男達は彼の無垢な体へと到達したわ? 嫌な筈なのに武骨な手が体を這うと口から声が漏れて? 卑猥な言葉を浴びせられる度に感情が昂って・・・って ミストリア? 一体何を言わせたいの?」


〔違ったかしら?〕


「確かにあの時は相手に手も足も出なかったけど ミストリアだって止めたのは卑猥な言葉じゃなくって敵の魔法の詠唱でしょ?」


「アネット・・・ミストリアさんって実は結構・・お茶目・・? でも相手の詠唱を止めるって喋れなくするって事だよな 失語さんらしいスキルだね」



 口を封じる。その効果を聞いて3人の感情はうつ向いた。まぁそれだけを聞けば用途は限られるし、人の役に立つ場面は想像できない。


 でも下を向いたままでは自分を変えられない。



「それこそスキルは未知数だ ミストリアの水文字だって水魔法さんと失語さんの合作なんだよ? 僕の盲目さんだって意思の可視化みたいな事が出来るんだ


 失語さんにだってまだまだスキルはあると思う 皆にとって必要ならきっとスキルさんはその気持ちに答えてくれると思うんだ だから自分とスキルさんを信じて訓練してほしい」



 確実性の無い事を言葉にするのはどうにも苦手だ。保証されてもいない事を「信じろ」だなんて無責任この上ない。


 でもそれで少しでも気持ちが上向いてくれるなら、何とかも方便で言い続けるしかない。気乗りしないけど・・・


 しかしスキルを覚えるとなると私生活の中で何とかするしかない。僕が初めてスキルが使えるようになったのはいつ頃だっただろう。


 うろ覚えだけどスキルさんを心から受け入れてからの習得は早かった。最近では次々とスキルを覚えている。やはり心が重要なのだ。


 だったら自信を付けさせるのが一番。でも自信ってどうやったら付くんだろう? 人よりも上手に出来る。きちんと熟せる。結果を出せる。


 どれもやれる事をやった後に付いてくるものだ。ならば目標を持つ・・・でも“失語さん”の出来る事が不明瞭だから目標の持ちようがない。


 じゃぁ私生活の中で・・・? う~ん堂々巡りだ。これは思った以上に時間が掛かるかもしれない。



「今日はどうしようか コルトアは引き続き空間把握になるだろうけど」


〔私達も筆記による意志疎通になるわ でも私が失語さんの能力を使えるようになったのは追い詰められた時よ〕


「能力もそれぞれ 引き金もそれぞれって事か・・・ これは益々自分が何を望むかが重要になってくるね」


「それこそ今すぐには決められないよ アネット・・・今日は俺1人でギルドの人達と一緒にやってみようと思うんだ」


「え・・・? うん でも・・・良いの?」


「あぁ さっきも言ったけどやりたい事なんてすぐには決められない だからゆっくり探そうと思うんだ それに俺はお前を頼ったけどベッタリ寄り掛かりたい訳じゃない お前はお前のやるべき事をやってくれ」


「コルトア・・・ うん 分かったよ」



 彼なりの気遣いだろうか。まぁやる事は他にもあるのでお言葉に甘えるとしよう。


 しかし自分のやるべき事か。現状優先すべきはウェグナスに任せきりにしているディゼルだだろう。話を聞いてる感じ冒険者活動を嫌々やってる訳ではなさそうなので、仕事に関しては分相応なものを選ばない限り問題はなさそうだ。


 でもマルティナとは相変わらず不仲だし、町長の望みはディゼルを真っ当な人間にする事。やっぱり人間関係の改善を念頭に取り組んだ方が良いのだろう。


 ディゼルを真っ当に・・・キレイなディゼル。想像つかない。これもきっと一筋縄ではいかないんだろうな。





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