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173・3人の教育係

前回のあらすじ


アネット達がスキル習得の為の訓練に勤しんでいると困った様子のラトリアがやって来た。どうやらマルティナとディゼルがまた揉めてるらしい。


何とか両者をなだめたアネット達の元に、教育係3名を連れたジュレアスがやって来た。

 ジュレアスさんが教育係になる3人を連れてきたので、僕達は一旦訓練を中止しミストリア達の居る部屋へと赴いた。


 彼等とは初対面であるのと自分がマイナスと揶揄されている自覚もあってか、コルトアも“失語さん”を連れた3人も相手からどう思われるのかと、緊張に混じって不安と恐怖とが色濃くなっていく。



「さて ギルドが用意した教育係は3人だ まぁ試験的な試みであるのと人員的な問題でこの人数になった


 だがギルドが選抜した訳ではなく自ら志願した連中だ それぞれ思うところがあっての事だろうから手抜かりなどしないだろう それを踏まえて自己紹介でもしてくれ」



 ジュレアスさんに話をふられて困惑気味の3人だが、決心がついたのか優しい声の女性が自己紹介を始めた。



「えぇと・・・ では私から イメリアと言います ギルドでは子供達のお世話をしてました 今回の話を聞いて志願したのは・・・ 奴隷として連れてかれる子供達を見てきたからです


 もし世間で言うマイナス等級のスキルさん持ちの子供達に何らかのスキルが備われば 例え奴隷にされてしまったとしても待遇が改善されるかもしれないと思ったからです


 アネットさん・・ですよね? 貴方の存在がギルドを動かしました これは凄い事です 私も貴方のように社会の役に立てるよう頑張ります」


「は はい よろしくお願いします」



 やっぱり奴隷と言う存在に疑問を呈する人は居たらしい。ただ奴隷がこの世界では当たり前で社会の一部として機能してしまっているので中々声を出せずにいたのだろう。



「次は私の番ですね」



 次いで声を出したのは成人男性だった。声の感じから何と無く理性を感じる言葉使いで雰囲気も落ち着いている。


 淡々と仕事を片付けていくような、そんな印象がその一言から感じ取れた。



「名前はキュレオ 主に裏で事務をやっていました 志願した理由は冒険者の生存率向上にも繋がると思ったからです」


「奴隷にされた人達は分かりますが 冒険者もですか?」


「はい 下世話な話 奴隷と言う存在はお金さえ払えば誰でも購入する事ができます なので冒険者も荷物持ちとして奴隷を同行させる事も少なくありません 


 しかし奴隷は訓練されてる訳ではないのです 気持ちの問題からかスキルも有効に活用出来る者は少ないと聞きますし


 ですから言い方が悪いですが いざと言う時には足手まといにしかならないのです しかし資源を求めてダンジョンに潜る訳ですから戦利品は手放したくない


 横着した冒険者が判断を誤って奴隷ごと命を落とすケースも少なくはありません それに奴隷を囮にする事も時にはあると・・・」


「冒険者がそんな事を・・・」


「アネット 元奴隷の身から言わせてもらえば奴隷に人権なんて無いぞ 呼び方だって名前じゃない おいとか お前とか それ だぜ?」


「私はこの国に奴隷制度が根付いてる以上 個人で抵抗してもどうにもならないと思っています ですので 奴隷に価値を与える事でしか彼等を救う事ができないと考えました


 今回はギルド職員の育成と言う事ですが この目論見が上手くいけば これをお手本にする有力者が現れると思っています」


「なるほど ・・・高い志だと思います これからよろしくお願いしますね」


「はい 此方こそ」


「えぇ・・・ この2人の後だと名乗り辛いなぁ」



 最後の1人はばつが悪そうに答えた。前の2人に比べると普通と言った印象を受ける。



「私の名前はエマリエ ギルドでは雑務を熟してました できれば専門的な事をやりたかったんだけどレベルが高くて


 悩んでた時に今回の話が舞い込んだので思わず立候補した形です なんでもギルマス肝いりの案件だとか ここで成功すれば私の株も上がるかなぁ~と・・・」


「そう・・・なんですか こ 向上心がある事は素敵だと思います よろしくお願いしますね」


「何か・・・すいません・・・」


「まぁしゃーないだろ ギルドもパスパスのとこでやってんだ 人員に関しちゃこんなところだな」



 3人の自己紹介も終わったので今度は僕達の紹介を行った。ここでもミストリアの水文字は好評で、彼等が携わる仕事の重要性を再確認させるに相応しい芸当となった。



「さて 問題はどの様に教育を施していくかと言う部分なのですが・・・」


「はい それなのですが 私は子供達に普段の遊びから学べるように工夫していました 字を書くお勉強となると 直ぐに意識が散漫になってしまって続きません


 ですので積み木きに絵と文字を書いたり 数字を使ったゲームとかですね 何が言いたいかと言うと 学びそのものより自分のやっている事が楽しいと思ってもらえる事が大切だと思うのです


 楽しいと思えれば自発的に行動してくれるのでスポンジのように水を吸収してくれますよ?」


「確かに興味を持てるならそれに越した事はないですが 問題はどの年齢が対象かです それにギルド職員の養成となると楽しい事ばかりではありません


 体の不自由な人間にギルド職員と言う大役が勤まるのか それを見極められないと計画を軌道に乗せる事はできません 必ず頓挫します」



 目指す方向は同じでも少し路線が違うだけで意見が食い違ってしまうらしい。この段階から感情に解離が見え隠れした。



「貴方の言いたい事は分かりますが それを明確にしますと自信を失わせる事に繋がりませんか? 職員どころか普段の生活ですら後ろ向きにさせてしまいます」


「全ての不遇な人達を救うと言う名目なら差異は無いに越した事はないのでしょう しかしギルド職員の育成となると話は違います


 残念ながらこの世界は能力主義です 救われたいなら社会に能力を示すしかありません それに職員の枠にだって人数制限はある 全てを掬い上げる事はできないのです


 エマリエさん 貴女は同じギルド職員としてどう思いますか?」


「え? え・・私!? えぇと う~ん・・ まぁ 経験談で言うと中枢にいるような人達って専門色が強いんですよね 私は逆に雑務なんかを卒なく熟すって感じで


 でも体が不自由ってなると健常者と同じ様に動くってやっぱり難しいと思うんですよ だからいっそ1つの事を徹底的にやってもらった方が良いんじゃないかなって・・・」


「なるほど 確かに理に適っている」


「しかしそのやり方は長続きするでしょうか 望んでもない事を延々やり続けなければならないのは中々に酷ですよ?」


「これは強制ではありません ギルド職員になりたいから志願するのです 単にやる気の問題です 楽しいだけが心を支える訳ではありませんよ?」


「そうかもしれませんが────」



 さすが教育係に立候補するだけあってアイデアがスラスラ出てくる。と言うより自己紹介でも言ってた通り、普段から思っている事を吐き出す場となっているのだろう。


 熱意もあってか会話はどんどんと加速気味に進んでいった。



「だからその様な方法では────」

「ではどの様にすれば─────」


「待て待てお前等 白熱するのは良いがまだ正式に始動してる訳でもないし これと言った規定も無いんだ まずは様子を見ながら手探りでやってけば良いんじゃないか?」



 僕達を置き去りに話を進める彼等をジュレアスさんは制した。



「う 申し訳ない つい・・・」

「私も ごめんなさい」


「イメリアも子供達の世話をしてきたが 目が見えない口がきけない人間を相手にしてきた訳じゃないんだろ?


 それに 今回有志を募ったのは当の本人から直接教えを乞う為 つまりお前達は生徒の立場でもあるんだ まずはアネット達がどうしてきたかを聞けば良いんじゃないか?


 そう言やぁ 俺達が来た時もお手々繋いでたが 何かやってたのか?」


「はい コルトアに寮の道を覚えてもらっていたんです そうしないと色々と不都合も出てきますので」


「あぁ なるほどな まぁ最悪トイレの場所は覚えとかないと 人前で垂れ流す事になっちまうもんな」


「お おおおお おい! ハッキリ言う事ないだろっ もっとオブラートに包めよっ!」


〔男の子がお手々繋いで2人でトイレ男の子がお手々繋いで2人でトイレ男の子がお手々繋いで2人でトイレ・・・〕


「コルトア落ち着いて ミストリアも・・・」


「あの~ 今更なんだけど質問いいですか?」



 コルトア達があたふたしていると恐縮した様子でエマリエさんが口を挟んだ。



「何で今になって支援活動を? 今までこう言った取り組みをする機会なんて幾らでもあったのに・・・」


「あぁ それな ぶっちゃけるとこいつ等のスキルが有用である事を証明したからだな 特にアネットは盲目で冒険者だ 信じられるか? 盲目で冒険者だぜ?


 つまり世間でマイナスなんて呼ばれてても可能性も能力も未知数 研究と言う意味でも投資する価値はあるって判断だそうだ」



 と言う事らしい。しかしジュレアスさんはそのマイナス等級のスキルが少女を呼び寄せる可能性まで話す事はなかった。


 まぁ真実を語った場合。イメリアさんは立候補しなかっただろうし、冒険者の安全と災害を秤に掛けるであろうキュレオさんの賛同も得る事も難しかった筈だ。



「当面はギルド職員の育成を念頭に進めていくが もしかしたら冒険者を育成する方向に舵を切るかもしれないな その方がギルドにとってプラスになる人間も量産できるし」



 つまり僕みたいな人間を増やすって事か。僕にとって冒険者は子供の頃からの夢だったけど、他の人にとっての冒険者って何だろう。


 実際あまり良く思ってない人も居るし危険なんだよね・・・う~ん・・・



「俺は学園に居たからギルド職員の道が狭き門なのは知ってるし生徒にも周知だったけど 冒険者ってあんま人気無かったんだよな


 只でさえ危ないのは分かってるのに 体が不自由な奴がなりたいと思うか? 奴隷だって行き着く先はダンジョンってオチなのに それじゃ~ご主人様がギルドに変わったってだけだぜ


 まぁアネットみたく動けてモンスターも倒せるってなったら自信も付くかもしんないけど それまでが・・・なぁ」



 確かに。行き着く先が死地ともなれば嫌煙されたって不思議じゃない。それではやる気も起きないだろう。スキル習得も遠ざかってしまう。



「このアイデアはダメか? 現に当人が冒険者になってるし イケると思ったんだがなぁ」


「ぼ 僕が特殊なんですかね・・・ ともかく 人のやる気を削いでしまうのはそれこそマイナスです


 僕が言える台詞じゃないですけど 辛い思いをしてきた人が望むのは幸せとか 平穏とか 普通である事とかだと思うのです


 だからギルド職員になると言う事は それら未来への安全の保証なんだと思います」


「安全の保証ねぇ・・・ そりゃ部所にもよるわなぁ 有事の際は表を駆けずり回らなにゃならないし 受付だって礼儀のレの字も知らない無頼を相手しなきゃならないし・・・


 そうなるとやれる事は限られるよなぁ 後はそれこそ専門性を高めるか」


「それはまだ先の段階での話です まずはスキルを得る為の下準備 スキルさんとのコミュニケーションです 皆さんは自分のスキルさんとの会話は ちゃんとしてますか?」


「いやぁ してないな・・・ 目が見えなくなった元凶って思っちゃうと ・・・どうしてもな」



 これにはコルトアを含め“失語さん”を連れた3人も反論は無いようだった。正直僕にも身に覚えがある。当時はただただ枕を涙で濡らし部屋に閉じこもっていたものだ。


 でもそれでは前には進めない。


 今後の方針は決まった。自分のスキルさんを受け入れる。そして仲良くなる。月並みかもだけどそれしか信頼関係を築く方法を僕は知らない。





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