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17・ミストリアの事情

あらすじ


領主様が僕に会いに来た。

「今日君に会いに来たの理由があってね 実は今隣にいる私の娘ミストリアの事なのだ 


 この子はとある事情からマイナス等級に指定されている“失語さん”と言われるスキルに魅入られてしまってね 以来 声を失くしてしまったのだよ


 それからと言うもの心を閉ざして部屋で塞ぎ込む様になった 私もあれこれ手を尽くしたが 思う様に成果が出せない


 そんな時に 同じマイナス等級の“盲目さん”に魅入られながらも モンスターに立ち向かい冒険者にまでなった少年の噂を聞いた 


 今日ここに来た理由は そんな君に助力を乞いに来たのだ どうか娘のミストリアに 君の力を貸してほしい」



 領主様の声は切羽詰まった感情が込められていた。隣にいる彼女、ミストリアに引きずられる様にして父親である彼もまた憔悴している。


 このままではいずれ彼も娘さんの後を追ってしまう気がした。とは言え・・・僕にできる事なんか冒険者ぽっく剣を振り回す事しかできないんだけど。


 ・・・先程から一言も発しない彼女は、本当にそこに居るのかと思うほど希薄な色になっている。おそらく無気力、感情そのものが薄れているんだろう。


 彼女にとって“失語さん”に魅入られた事が相当ショックだったらしい。でも対処は簡単、元気付ける事・・・言うだけなら簡単だ。さてどうしたものか。



「僕は目が見えなくなる前から冒険者になるのが夢でした 盲目になってもその夢を諦めきれず愚直に追い掛けてようやく手が届いた出発地点です


 ただ同じマイナス等級のスキルさんを連れている者として掛ける言葉があるとするならば 頑張ってください としか言えません・・・


 僕は冒険者になる事しか頭に無かったので あれこれ下向きに悩むより 今の自分の状態で何ができるかを必死に模索したに過ぎません


 起きた事を悲観するなとは言いませんが それを足枷にするのではなく 地に足をついて歩くための起爆剤にしなくては 人は前に進めないと思います


 何ならミストリアさんも冒険者を目指してみてはいかがですか?」


「なっ!? 無茶を言わないでくれ そんな危険な事させられる訳ないだろうっ」


「でも“失語さん”以外にも隣に別のスキルさんが居ますよね」


「何故わかる・・・目が見えてないのだろう?」


「確かに目は見えていませんが これも盲目さんのスキルなのでしょうか 何となく分かるんです あの・・・もしかしてですが そのスキルさんって魔法系統の?」


「・・・そうだ」



 そう言う事か。聞いた話では魔法を使う際には呪文のようなものを言わないといけないとか。言葉を封じられると言う事は魔法が使えないと言う事。


 それがショックだったんだ。僕に例えれば冒険者の夢が断たれる事と同じ。そりゃ絶対に受け入れられない訳だ。



「ひとつ聞くが マイナス等級でもスキルを扱えるものなのか?」


「ええ 詳細は省かせてもらいますが使えますよ マイナス等級と言われてもスキルさんですから 恩恵を受ける事はできる筈です 実際僕でも使える訳ですからね」


「そうか・・・」



 僕でも使えると言う事に彼は安堵を覚えたようだ。一歩前進と言った感じだろう。問題は彼女の一歩が途方もない距離にある事だけど・・・


 でも彼女が“失語さん”に魅入られた事には必ず理由がある筈だ。それを紐解いていかなければ自分を受け入れるなんて不可能だろう。


 困難な道のりだけどやるしかなさそうだ。



 ★



 私がその魔法を目にしたのはまだ幼い時分。あれは忘れもしないお祭りの日の事だった。噴水のある広場で水を操って見せたその人は、まるで魔法を見てるようだった。


 宙を舞って形を作って次々に変化していって。水しぶきから生み出される虹が今でも忘れられない。私の綺麗な思い出。


 純粋に憧れた。


 私も水を操りたい。その思いが両親に駄々をこねた理由だったっけ。でもそのお陰で今の私がいる。


 魔法適性診断を受けて魔法に適性が見付かって、更に水との相性が良いと言う。私が水魔法に惹かれたのもこれが理由なのかもしれない。


 それからは早く水魔法を操りたい一心で、そこらじゅうを駆け回ったわ。広場の噴水、井戸や池。水に関係するところはくまなく探し回った。何なら水の中だって。


 適性があると言われるだけあって“水魔法さん”とは早々に出会えたと思う。それからは朝昼晩と水魔法に夢中になったわ。私だけの魔法、私だけの綺麗なもの。


 みんなは将来を見据えてスキルさんと契約するみたいだけど、私は好きだからこの子を選んだだけ。正直「将来が」とかどうでもよかった。


 そんな日々はあっという間に経つもので、私も王都の学園に通う歳になった。


 さすがにこの年齢になると、自分の事だけに構うのは憚られるのを自覚したわ。他の子達がどんなスキルさんを連れてるかも気になるし。


 だけど残念な事にスキルさんを連れてきた子はまだいないみたい。貴族の家の子が多いから慎重になってるのかしら。


 でもそんな中で私だけが稀少な魔法系“水魔法さん”を連れてる事に優越感を覚えるのは仕方のない事だわ。


 そこから更に月日が経って学年も上がり始めると、ポツリポツリとスキルさんを連れる子が現れ始める。話してみると「叶えたい夢があるんだ」と言われた。


 夢・・・私の夢って・・・


 皆が自分を自覚し始めると色んな意見が飛び交った。貴族・平民・スキルさん。熱く語り合ったりぶつかったり。それだけみんな好きな事ができたのね。


 でもそれは良い方向にばかり向かうものではなかったわ。


 ある日ナデュ・・・何とかさんと言う子が私と同じ魔法系“火魔法さん”を連れてきたの。その子は私と同い年、同じ家柄、同じ系統のスキルさん。


 幾つもの「同じ」が重なって私達は周囲から比べられるようになったわ。

 

 容姿、学業、性格、人気。本人には関係なく無慈悲に槍玉にあげられる。正直いってどうでもいい。どうでもいいけど周りがどうでもよくしてくれない。

 

 その声は周囲に言っても先生に言っても止む事はなかった。

 

 いつの間にか私の知らない別の私の話が作られていた。以前は何人もいたお友達も気付けば数人しかいない。

 

 どうしてこうなったの?


 ある日の放課後。私は委員会の仕事で書類を纏める作業に追われた。手伝ってくれる友達は皆無。とっぷりと暮れる頃まで時間が掛かってしまった。


 仕事を終えて教室に戻ろうとすると、まだ誰か教室に残っているのか扉の硝子戸から光が漏れていた。そこから数人の女性徒の声も漏れてくる。



「ねぇねぇ 次どうする?」

「次って言ってもねぇ あの子に何か弱味があればいいんだけど」

「なければ作ればいいんじゃない? 職人志望の〇〇と()()()() とか?」

「あぁ~ あいつもムカつくもんなぁ 醜いくせして妙に目立つから目障りなんだよねぇ 

 じゃぁ丁度いいか 次はあいつと()()()()()がいい関係って噂流しちゃおうか」

「アッハハハハハうける~ これからさ もしクラスの決め事で多数決になる事があったら 皆で協力してペアにしてあげない?」

「それいいね ムカつく連中通しお似合いじゃん」







「ねぇ 何を話しているの? 噂を流すって何? 次どうするって言ってたけど・・・ 今まで噂を流してたのってあなた達だったの? どうして・・・」



 気付けば教室に飛び込んでいた。そして聞かずにはいられなかった。だって周りがみんな離れてく中で、貴女達だけは側にいてくれたんだもの。



「普通に話をしてくれてたのに・・・ もう貴女達しか友達はいないって思っていたのに・・・ 何故・・・ どうしてそんな事するの!? 私が何かした!?」



 ねぇどうして? 今までの全てが嘘だったの?


 でも・・・彼女達の答えは沈黙。


 私はその時間に耐えきれずに教室を飛び出した。そしてその日を境に私は周りから完全に孤立した。


 そのくせ噂だけは執拗にこびりついてくる。離れても離れても離れない。どうすればいいの。私にどうなってほしいの・・・


 ・・・・・・ ・・・


 ・・・・違うわね。


 皆私の存在そのものを否定してるんだわ。だったら・・・どうなってあげたりしない。私と皆は別。気にするだけ無駄なのよ。


 大丈夫。私には“水魔法さん”がいるもの。


 それから私の世界は私と“水魔法さん”の2人だけになった。“水魔法さん”以外誰もいらない。それでも学園生活には支障がない。何の問題もない。


 お昼休みは人の少ない校舎裏へ。気付けばそこで自分のスキルさんとお話しするのが日課になっていた。誰にも邪魔されない2人だけの空間。最高だわ。でも・・・


 やっぱり寂しいのか道行く人をついつい目で追ってしまう。本当はこのままじゃいけないって分かってるんだけど、どうしても一歩が踏み出せない。周りにはこんなにも人で溢れているのに・・・あら?


 よく見たら人の他にもスキルさんがこんなに居るじゃない。


 そう思ったら止めようもなく私はスキルさんと戯れるようになっていた。人間なんかとは違う。純粋で可愛くて。そもそもどうして人と関わらなくちゃいけないのかしら。



「言葉なんて不用だわ 言葉があるから人は誰かを傷付けるのだもの」



 それをそのスキルさんの前で言ってしまった。本心から思ってしまった。









 それが私と”失語さん“との出会い。


 言葉を失ってどうなったか。自分でもよく覚えていない。スキルさんと話ができなくなって魔法が使えなくなって泣いて絶望して・・・


 気付いた時には家にいた。この時間は授業なのに。両親はもう学園には行かなくていいと言う。そうか・・・そうなんだ。


 でも魔法は? 魔法はどうなるの?


 その答えを何故か両親は触れようとしない。つまりそう言う事なのね。でも正直清々したわ。あんな学園にいなくて済むのですもの。これからは家で・・・家で・・・何をしたらいいの?


 社交界は? 私は出なくていいの? お客様かしら? 私はご挨拶しなくていいの? 私はどうすればいいの?


 私は・・・







 両親のささやき声が聞こえる。手を掴まれて・・・手・・・私の手こんな細かったかしら。



 どうでもいい・・・・・・・



 馬車に揺られて何処か行くのかしら。父は何やら外の風景をあれこれ言っている。



 どうでもいい・・・・・・・



 あの町に私と同じマイナス等級に憑かれた少年がいると言う。だから何? その子とお友達になれと? お父様まで私を馬鹿にするの?



 不愉快極まりない。



 今では目に映るもの聞くもの全てが私の心に突き刺さる。私の事を想ってくれるならどうかそっとしておいて。そうすれば少なくとも傷口が広がる事はないのだから・・・


 でもそんな私の気持ちなんてどうでもいいのか建物の中に引っ張られた。



 もうほっといてよ・・・



 父が誰かと話してる。何なの・・・私をどうしたい訳?


 扉がノックダウンされて1人の少年が入ってくる。チラッと写ったその子は何故だか目を瞑っている。この子がマイナス等級持ちの子?


 

「同じマイナス等級の“盲目さん”に魅入られながらも モンスターに立ち向かい冒険者にまでなった少年の噂を聞いた


 今日ここに来た理由は そんな君に助力を乞いに来たのだ どうか娘のミストリアに 君の力を貸してほしい」



 盲目でモンスターと戦う? 何の冗談かしら。そんな事できる訳ないふざけてるの?


 あぁ・・・そう言う事。


 こうやって話をでっち上げて私のご機嫌取りをしたいのね。私の幸せを願うならもう構わないで。



「僕は目が見えなくなる前から冒険者になるのが夢でした 盲目になってもその夢を諦めきれず愚直に追い掛けてようやく手が届いた出発地点です」



 それは私への当て付けかしら。頑張ればまたできるようになるって? 詭弁だわ。



「起きた事を悲観するなとは言いませんが それを足枷にするのではなく 地に足をついて歩くための起爆剤にしなくては 人は前に進めないと思います」



 前に向かって歩いた私の人生の先に一体何があると言うの? 今の私には最も必要のない言葉だわ。



「何ならミストリアさんも冒険者を目指してみてはいかがですか?」


「なっ!? 無茶を言わないでくれ そんな危険な事させられる訳ないだろうっ」



 全く何を言い出すかと思えば、私が冒険者になんてなれる訳が無いのに物事が見えてないのかしら。


 あら失礼。目が見えていないのだったわね。



「でも“失語さん”以外にも隣に別のスキルさんが居ますよね」


「何故わかる・・・目が見えてないのだろう?」


「確かに目は見えていませんが これも盲目さんのスキルなのでしょうか 何となく分かるんです あの・・・もしかしてですが そのスキルさんって魔法系統の?」


「・・・そうだ」


「ひとつ聞くが マイナス等級でもスキルを扱えるものなのか?」


「ええ 詳細は省かせてもらいますが使えますよ マイナス等級と言われてもスキルさんですから 恩恵を受ける事はできる筈です 実際僕でも使える訳ですからね」



 マイナス等級から恩恵を受ける? 何を言っているのっ? 自分も周りも不幸にして。言葉を視力を奪っておきながらそれが恩恵? 信じられない! 頭どうかしちゃってるんじゃない!?






 気付けば私は彼に手を引かれて人の行き交う町中を歩いていた。目が見えない筈の彼は人と人との間をまるで縫うように避けて私をエスコートした。


 不思議な光景だった。


 盲目なら普通に歩く事だって大変な筈なのに。そんな事を思わせない足取りでワタシを何処かへ連れていく。


 これは何? スキルなの? 本当に・・・本当にマイナス等級でもスキルが使えるように? でも貴方にとってそれが良くても魔法は詠唱無しでは使えないの。言葉が無ければ魔法は使いない!



 そんなの私じゃないっ!!



 悔しい。憎い。嫌い。もう全部いらない。





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