15・そして冒険者へ
あらすじ
ギルド長と決闘する事になった。
訓練場で戦った相手は自分をここのギルド長ランドルフと名乗った。そのランドルフさんは僕の手をムンズと掴むとギルド内の一室に連れ込んだ。
「それで? こいつは合格かい?」
どうやらここは談話室らしい。そこで当のランドルフさんとジョストンさん、そして何故かポリアンナさんにまで囲まれる。何だろう手続き的なやつなのかな? 怖い・・・
「小僧 ワシの動き どこまでわかっておった?」
「そう・・ですね 正直初撃は盲目さんが教えてくれなければ躱せもしませんでした それから槍の音を確認して
柄の部分も金属で出来ていることを理解して ランドルフさんが指先で槍を操っている事が分かりました
それに突きの動作がとても分かりにくかったので 間合いを取るより突かせない近距離に持ち込んだ方が有利と思った事と
あなたが僕の動きに合わせているだけと分かったので スキルを駆使した攻撃を仕掛けました 流石に最後の技は避けることも防ぐことも敵わなかったですが・・・」
「あの僅かな時間でそこまで把握したのか なまじ目が見えるより分析能力は長けていると言う事か」
「まっ 普通のやつじゃ最初の一撃でビビっちまって 間合いを詰めようなんざ思わねぇんだけどな」
「もう! そんな風にこの子を試さなくったっていいじゃないですか! 年齢的にアネット君は希望すれば冒険者になれるんですからね!」
「そんな事は分かっとる だが聞けば目が見えんと言うではないか 本人がいくら希望したところで危険なダンジョンに行かせる訳にはいかん・・・
と 切る捨てるつもりで相手してみればどうじゃ ワシの予想を見事に裏切りよったわい それで・・・アネット お前は本当に冒険者になりたいんじゃな?」
「はい! 冒険者になる事は子供の頃からの夢でした ですから・・・」
まぁやっぱり目が見えない事は大問題だった訳だ。それはそうだよね。敵と戦う事はおろか外に出てそのまま迷子なんて事もありえるんだから。ランドルフさんの攻撃は優しさと捉えるべきか。
それでも僕は勝ち取った。ここは満を持して「冒険者になりたいです!」と言おう。今なら誰にも反対されない筈だ。
「僕は冒険─────」
「ぇぇぃ 離さぬかっ!」
意を決した宣言は無情にも「バン!」と言う扉を開ける音と共に掻き消された。何事かと思ったけど部屋にいる人達はこの声の主が誰なのか分かっているようで、これから面倒事になりそうな予感にため息をついた。
「ギルド長! ランドルフはいるかぁ!!」
遠慮と言う言葉が無いのかその人物は我が物顔でズカズカ踏み入ってくる。それにしてもこの声・・・聞き覚えがある。確か今朝方ギルドの前で叫んでた人だ。間違いない。
「これはこれはデュダル町長 そんな大声を出してこの老いぼれめに何かご用かな?」
「何が老いぼれだ! 非常事態に何故町長である私に情報を流さなかった!!」
この人がハルメリーの町長なのか。と言う事はディゼルのお父さん・・・
「それは事態を知らせに来たのが冒険者で 兵士の各詰め所に職員を派遣したのと 朝方に帰った冒険者に問題の解決を要請したからじゃよ
ワシも事態の収集に出向いたが どうやら行き違ってしまった様でな 警報を鳴らすタイミングが遅れてしまったんじゃ」
「真っ先に私に知らせておれば警報をもっと早く鳴らす事が出来たと言うに!! これだから血の気の多い冒険者は駄目なんだ! 優先順位と言うものをまるで分かっとらん!!」
「まったく そこを突かれると耳が痛いわい ワシの至らぬところじゃな ところで・・・倒されたワイルドウルフだが あれの素材はどうした?」
「どうしたも何も倒したのは冒険者ではないのだからな 貴殿にとやかく言われる筋合いは無い!」
「そうかそうか しかしな・・・その討伐した本人に何も言わず 勝手に決めて良いものなのか? ちゃんと本人の了承は得たのじゃろうな?」
「当然だ! 倒したモンスターは好きにしろと言われている!」
「だそうだ・・・アネット この町長から素材の分配に関して 何か聞いておるか?」
「い・・・いいぇ・・・」
「は? 何故そこでその子供が出てくる」
「それはそのワイルドウルフを討伐したのが このアネットだからだ」
「こんな子供が!? それに・・・そのスキルはマイナス等級の盲目・・・ 嘘をつくな! その子は目が見えていないではないか!! そんな盲に何が出来る!!」
「嘘ではない ちゃんと証言者もおる」
「何ぃ!?」
「それでだアネット あのワイルドウルフなんじゃが ギルドに納入するのはどうじゃろう あれは中々に良い素材でな こっちに入れて貰えると正直助かる
お主も冒険者になる身じゃし 仕事の完了としてカウントしても良いのじゃぞ?」
「まてまて! ここは町に引き渡すべきだ! そうすれば助かる人達もいる! そうだ! お前の家の税金を暫く無しにしてやってもよいぞ? どうだ・・生活も幾分楽になるだろう?」
「ふん 町の人の事を考えているなら税収をもっと下げれば良かろうに」
「何を言うか! そもそもギルドが素材をこっちに高値で売り付けるからいけないんだろうが!」
「それは冒険者にも生活と言うものがあるからの 彼らの保証で金が入り用なのじゃよ そもそも誰のお陰でその素材にありつけてると思っとる」
「そうか! それを言うなら誰のお陰で良質の武具が手に入ると思ってる!」
何だろうこの2人は。人前にもかかわらず平気で獲物の取り合いをしている。こう言う場面を見せられると長年の夢も冷めてしまうと言うものだ。
犬猿の仲はなるべくしてなったのかもしれない。
「もう! お2人共アネット君の前で何て言い争いしてるんですか! この子が冒険者になったら私が担当するんですからね! そういう話はまず私を通してからにして下さい!」
「何を言う小娘が! まだ冒険者でないのならお前ごときがしゃしゃり出る幕ではないわ!」
「そうじゃぞ? これはギルド長とアネットとの話し合いだ 受け付け係が横から口出ししていい話ではない で・・どうじゃ? 決心は付いたかの?」
「アネット君! この2人の事はおいといて アネット君はアネット君のしたい様にしていいんだからね!?」
「まてまてまて! あんたらなぁ こんな子供相手に大の大人が欲望丸出しにして詰め寄てんじゃねぇよみっともない! アネット 別に今すぐ答えを出す必要はねぇ 家に帰ってから良く考えて答えりゃいい」
僕が返答に困っていると横からジョストンさんが助け船を出してくれた。けど答えが決まっていない訳じゃない。
「あの・・・ですね 僕はお金の事とかまだ良く分かりません ですが今回かなりの人に被害が出てしまってるらしいので 素材から得られたお金は両者で話し合ってそちらの方々に回してください」
「だそうだ 今回一番の功労者の言う事だ各々ちゃんと守れよ?」
「むぅ・・・・」
「仕方無いのぉ」
「でだアネット 冒険者の仕組みについてはどこまで知ってる?」
「え・・えと 冒険者はまずギルドに登録する事によって 正式に冒険者を名乗る事ができます」
「それなんだが ギルドは国によっても違うんだ 何せその仕事は主に資源の獲得になるからな おいそれと他国の人間に立ち入られたくはないんだよ
この国でも他国の冒険者には税という名目でかなり踏んだくってんだ 俺も若い頃 他の国のダンジョンに行った事があるが 各所手続きは面倒だわ取り分は少ねぇはで 結局旅費で全部消えちまったんだよ
んで 後知ってる事は?」
「それからギルドからも補助金が貰える様になると」
「まぁな でも仕事の報酬は半分になるけどな 内訳としては国が20%持ってって ギルドが30%持ってくんだ
でなんでギルドが30持ってくかって言うと 冒険者が死亡した場合の家族の補償や ダンジョンで負った傷のせいで冒険者家業が続けられなくなった人達の補償に当てられる
後はそれらのせいで孤児になった親が冒険者の子供達の保護にも当てられるんだ」
「後は家賃や装備品なんかにも当てられるんですよね?」
「あぁ ただし冒険者のランクによっても額や種類も違ってくるからな? それに審査基準も厳格だから 好き放題あれもこれもって訳にもいかないんだけどな?」
と言いつつジョストンさんはギルド長をジト目で見た・・・気がした。
「仕方なかろう 冒険者の入れ替わりは実のところ早い 多少取り分を多く持ってったとしても保証の為には貯えなくてはならんでな 危険な仕事であるが それが資源獲得ともなれば誰かがやらなくてはならん」
「ふん! それなら町にこそ税を納めるべきなんだ! お前らギルドが金を溜め込んで吐き出さんから町が潤わんのだよ! 国は国で役にもたたん兵士共を町に配置してるくせに税だけはキッチリ取っていきやがるからなっ!」
どうやら町長はギルドにも国にも不満があるみたいだ。町を纏めるのも大変なんだな。でもそう言った不平不満を家庭にまで持ち込むからディゼルは冒険者を嫌うようになってしまったのではないだろうか。
「あの・・・ 町長さんは冒険者はお嫌いなのですか?」
「あぁ? 町中で問題さえ起こさなければな! ケンカっぱやくて店の物を壊すは 自分の女に手を出されただの カツアゲされたのと そんな苦情ばかりが私のところに届く!
そのくせギルドは問題に対する対処をしようともしない! 中には巡回の兵士に金を掴ませる輩までいると言うではないか!」
「それに関してはワシらのところでも発覚し次第 降格など厳正に対処しておる」
「それでは生ぬるいわ!」
「アネット 冒険者をやってりゃいずれ分かってくると思うが 冒険者には色んなやつがいるんだよ いわゆる事情ってやつか?
例えば別の国で犯罪を犯したり問題を抱えてるやつらが此方で冒険者になったりな・・ そう言う奴ってのは普通の職業には中々就けねぇ
そこで冒険者になる奴ってのは実際多いんだよ 補償もつくし資源を取ってくる奴は多いに越した事はないからなぁ そこら辺は国も目を瞑ってるのさ」
実際に生の声を聞くと、とても根の深い問題である事が窺えた。それが社会の根幹にも絡んでくるのだから尚更だ。
その様相をずっと近くで見てきた町長は彼なりに思うところもあるのかもしれない・・・だけど。
「僕はあなたの息子さん ディゼル君とは個人的な知り合いです 話を聞く限り冒険者を受け入れられないのは分かりました
でも・・・彼が冒険者を目指した事を そして自分のパートナーに戦士さんを選んだ事を否定しないであげてくれませんか?」
「ん? それは家庭の問題だ 知り合いとは言え口出しされるいわれは無い」
「そうかもしれません でも親に否定されて迷い続けて 自分と言うものを見つけられないまま成長しても きっと中途半端な大人になってしまう気がするんです
それでは彼の為にもあなたの家族の為にもならないでしょう あなたが町の事を一心に考えられる様に 彼にも自分に誇れる何かが必要だと思うのです」
「ふん 随分とアレの事を気にかけるじゃないか お前の様な奴が友人にいるなど聞いた事が無いが」
人間何かしら打ち込めるものがあった方が人生は充実できると思う。少なからず行き場に惑い自暴自棄になる事は無いだろう。
自分と他人を比べるなとは言わないけど、人に八つ当たりしたところでそれが実りに繋がるとは思えない。
彼も冒険者への憧れはあったのだろうから、是非とも自分の心に正直に人生を満喫してもらいたいものだ。
「流石私のアネット君 言うことが違うわ!」
「いつから嬢ちゃんのものになったんだよ」
こうして今回の事件は一応の解決を迎えた。
それから数週間後───────────
モーリスさんの怪我の回復を待ち、僕は晴れて冒険者に登録をしたのだった。
★
盲目の少年アネットが冒険者になった。
と言う事実は色々な意味で衝撃となった。それはギルドを通したり、或いは人伝に広まって徐々に認知されるものとなっていった。
事実マイナス等級と言う負の呪いを受けた者の末路は悲惨なものだ。それ故に人生そのものを諦めてしまう者も少なくない。
そんな忌み子の様な少年が冒険者になったと言う事実は、ある者へは希望へある者へは嘲笑へとなり染み渡っていった。
「ルドマン その少年の話は本当なのか?」
「はい ギルド伝手に聞いた情報なのでほぼ間違いは無いと思います 何でもハルメリーのギルド長ランドルフと決闘し太鼓判を押されたとか・・・・」
「ほぅ あの堅物がか・・・ それで人柄はどの様な者なのだ?」
「はい 性格は至って温厚 家族構成は親戚の家に引き取られて叔母と従兄弟の2人と暮らしているとか 町の人達やギルド内での評判も良いと聞き及んでおります」
「そうか・・・それなら娘と会わせてみるのも問題は無さそうだな」
「・・・しかしミストリア様はお口が」
「だからこそだ 失語などと言うスキルに魅入られてしまってからと言うもの 娘の顔から笑顔が消えた
私や使用人達がいくら励まし元気付けてやろうとも 日に日に顔から生気が消えていってるではないか
その目の見えない少年もきっと苦難の道を歩んだに違いない しかしたゆまぬ努力の末ランドルフに気に入られたのだろう
スキルが外せないと言うのなら せめて自らを諦めない彼の背中を見せる事で あの子にも希望を持たせてやりたいのだ」
「旦那様・・・・・」
「ルドマン 旅の支度を整えてくれないか 出立はできるだけ速い方が良いだろう」
「はっ 畏まりました」