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12・マルティナの1日

あらすじ


アネットが狩りに出掛けた。

「まったくもぅ!」



 アネットがカルメンに腕を組まれて雑木林の奥へと連れてかれてしまった。帰ったら何があったか詳しく聞き出さねば!



「よし! 私も頑張りますか!」

『ギルド行くの~?』

『おめめグルグル~』



 今日から私は正式にギルドの仕事を受け持つ事になる。と言っても子供のお世話係だけど。でも妹との生活を経てきた私はその重要性を理解してるつもりだ。



「ごめんね2人とも でもお仕事しないと強くなれないのよ お願い! 2人とも協力してくれる?」

『そう言う事なら~』

『ら~』

「ありがとう! それじゃ今日も1日頑張りましょ~! お~~~~~~!!」

『お~』

『お~』



 子供は目を離すとすぐ何処かに行ってしまう。目を離した隙に危ない事になってしまう。アネットの世話をしてきたお陰で痛いほど身に染みている。正直目が見えるソフィリアもあまり大差なかったりする。むしろなまじ元気なだけにホント目が離せない。


 そんなモンスター達をこれから大勢受け持たねばならないのだ。


 とは言え・・・私達家族の前では自由奔放なソフィリアだけど意外と人見知りだったりする。家に帰ってソフィリアを連れてギルドに行こうとしたんだけど何だかシュンとなってしまった。「行きたくない!」と泣いて駄々をこねないだけマシだったけど、妹が託児所でお友達を作れるか不安になってしまう。上手く皆と打ち解けてくれたらいいんだけど。


 見知らぬ場所に行くのってやっぱり怖いのかな。歩いてる最中ちょくちょく私の顔を見上げてくる。何か可愛い。



「ソフィー ギルドで沢山お友達ができると良いね 大丈夫よ 私も一緒だから 頑張ろう?」

『ボクも~』

『も~』


「う~・・・」



 う~ん元気がでない・・・こんな調子でもし託児所デビューを失敗したらどうしよう。妹が変なトラウマを抱えないか心配になってくる。うん・・そうだ。頑張るしかない。幸い受け持つ部屋も同じなので全力でサポートをしよう!


 ギルドに到着するとそこにはむくつけき男達が掲示板やカウンターの前で団子になっていた。中には精神衛生上よろしくない程肌を(あらわ)にした布面積の少ない女性までいる。


 これにはソフィリアも目が点だ。正直純粋無垢な子供が見て良いものじゃない。毒だ。ダメなやつだ。でも託児所に行くにはこの沼地を越えていかなければならないのよね。正直考えものだわ。とっとと抜けてしまいましょう。私はそそくさとカウンターの横から中に入って職員の人達に挨拶した。



「おはようございます! 今日からよろしくお願いします!」



 そう言うとカウンターとは別の事務所の方から、この前私を案内してくれた女性が出てきた。



「来たわね 自己紹介がまだだったかしら 私はメルタナ ギルドでは経理を担当しているわ その子が妹さんね クラスはあなたのところで良いかしら?」


「はい 私もそれをお願いしようと思ってたんです この子ちょっと人見知りだから・・」


「そうなの──────あ そうそう あなたの稽古の件なんだけど 仕事が終わってから訓練場に行ってちょうだい そこで訓練生として他の子達と一緒に訓練を受けてもらうわ」


「そうですか わかりました あっ あの・・仕事が終わった後に妹を1人にさせる訳には・・・」


「大丈夫よ あなたの受け持つのは午前中 午後からは別の人にシフト入ってもらうから 訓練が終わるまで預けてもらってて構わないわ ギルドも託児所も24時間やってるの ほら 冒険者って何日も帰って来ない事あるでしょ?」


「なる程 充実してるんですね」



 ギルドホールにいた面々を見て疑ったけどギルドの運営はしっかりしてるらしい。でも・・・冒険者って何日も帰って来ない事もあるんだ。いったいどんな仕事なんだろう。


 まぁでも私の今の状況を考えれば渡りに船な訳だし、お金を稼げて妹に気兼ねしないで稽古に打ち込めるなら最高の環境よね。


 クラスに着くと部屋の中の子供達はこの時間からそれなりにいた。何でも冒険者は朝の争奪戦? なるものに打ち勝つ為に早朝から来てるんだそう。あんな見てくれの人達も案外苦労してるんだ。


 それはそれとして・・・



「戦士さん 盾さん お願い」

『分かった~』

『た~』



「ソフィリアのクラスで美味くやっていく為の作戦」昨日一晩考えてスキルさんにはソフィリアの側にいてもらう事にした。スキルさんは可愛い。子供は可愛いのが大好きだ。案の定ソフィリアの側の「可愛い」に子供達が引き寄せられていった。フッフッフどうやら作戦は成功のようね。


 それからクラスにやって来る子。迎えが来る子を見送ってから子供達の世話して仕事の引き継ぎを済ませると、昨日のように元気一杯挨拶をした。



「皆ちゃんといるわね よし! では朝の挨拶をしましょう! さぁ皆で元気良くっ!


 ─────おはようございます!」


「「「「おはようございます!!」」」」


「それと今日から新しく 皆と一緒のクラスに入ったお友達がいます! さぁ 皆にご挨拶して」



 見るとソフィリアは不安そうに私を見上げていた。やはり注目されると怖いのだろうか、私の服の裾を掴んで離さない。それでも勇気を振り絞り恐る恐る何とか声を出してくれた。



「ソフィリア・・・・・ぅー」



 それだけ言うとソフィリアは私の後ろに隠れてしまった。たぶん元気一杯な皆の「おはようございます!」が効いたのだろう。どうやら振り出しに戻ってしまった様だ。


 私の受け持った時間は午前中だけだけど、ただ部屋にいれば良いと言う訳ではない。教育の一貫として熟さなければならないメニューがある。


 具体的に言うと庭になっている場所で運動とか字を教えて一緒に読書したりとか。でも最初にやるべき事は子供達との信頼を築く事だと思ったので、急遽予定を変更して皆に自己紹介をしてもらう事にした。


 しかしこうやって自己紹介を聞いてると、それぞれ性格の違いが見えてくる。積極的な子。引っ込み思案な子。キョロキョロと落ち着きの無い子と実に様々だった。


 こんなバラバラな子達を纏めるのだから、それはそれは簡単な事ではない。しかし私には秘密兵器「可愛い」がある。と言う訳で“戦士さん”“盾さん”お願いします。


 でもこうして見ると子供達の興味さえ引ければ1つの事に取り組む事もできるんだ。後はその様子を観察してあぶれない子を出さないようしてあげれば良いのでは・・・


 うん。攻略の糸口が見えた気がした。


 ごっこ遊びをしていた子供達もお昼ご飯を食べたら眠くなるのか、布団を敷いてお昼寝の時間に突入する。子供達を寝かしつかせて私の仕事は終了。


 ここからは訓練生の時間だ。


 事務所に顔を出してメルタナさんに報告をするとギルド裏手の練習場に案内された。そこでは年頃の少年少女達が思い思いに練習をしている。その中でも木剣で戦ってる様は意外と本格的なものだった。まぁ本格的な戦いを望んでるんだから当然か。



「イゼッタさん この子が以前話してた子よ」



 ここの教官だろうか。イゼッタと呼ばれたその女性は背が高くがっしりとしていて何より筋肉が凄かった。正直そこらの男より見た目から絶対強いと思う。これが戦士の最終形態。私も鍛えたらこうなっちゃうのかな・・・



「へぇ 本当にスキルさんを2人連れてるんだねぇ」


「マルティナです! よろしくお願いします!」


「元気な子じゃないか で? どこまで仕上げれば良いんだい?」


「あの! 私冒険者になりたいんです!!」


「本物の剣を持ったことは?」


「いぇ ありません・・・木の棒で素振りをしたくらいしか・・・」



 それを聞くとイゼッタと呼ばれた女性は壁に幾つか立て掛けてある剣と盾を持ってくると私に手渡した。



「重っ・・・!」


「それでも軽い方だよ お前はそれを片手で扱えるようにするんだ 利き手は右だね じゃ左に盾を持ちな」


「重っ・・・!」


「まずはその重さに慣れる事だ 世の中にはシールダーと言う盾に特化した職業もあるが お前は剣と盾 両方を使いたいんだろ?」


「はい!」


「それじゃ生半可な事はやってられないよ? 何せ剣と盾の2つを習得しなきゃいけないんだ それじゃ盾を体の前へ その時視界は塞ぐんじゃないよ 剣を構えて────突く! ホラ! 突きだ! 剣で突いて!」



 私は急かされるまま持っていた剣をおもむろに突きだした。



「もう一回!」



 剣を戻して突く。



「まだまだもう一回!」



 それからイゼッタさんに言われるまま何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も剣を突きだした。



「盾が下がってる! その盾は自分を守る為かい!? それとも誰かを守る為かい!?」



 盾を上げて剣で突くんだけど、これはもう突くと言うより前後に動かしてるだけだ。腕もパンパンになって自然と下がってくる。



「はぁはぁはぁはぁはぁ・・・・」



 剣を持つ手に震えがきた。も・・・限界・・・ 体は完全に止まってしまったけど、剣と盾だけは維持でも放さなかった。



「まだやれるかい?」


「は い・・・ やれますっ」



 と言って一所懸命腕を振っても、もうこんなの突きじゃない。重いものを振るうのがこんなに体力を奪うなんて思いもしなかった。ダメだ・・・動かせない。私はとうとう地面にへばってしまった。



「まぁ 普通の女の子でもこれくらい出来りゃ良い方かね 体力はある方だが やはり筋力が無いな それでも足腰はしっかりしているね 良いかい? 例え剣は手放しても盾だけは死んでも離すんじゃないよ? それが盾持ちの宿命だからね」


「はい ・・・イゼッタさん はぁはぁ・・」


「ここでは先生と呼びな」


「はいっ ・・・先生」


「それとこれを・・・」



 イゼッタ先生はおもむろに4つの布を手渡してきた。手渡された瞬間まさかの重さに手が少し下がった。何これ?



「それを両手両足につけるんだ 今日からそいつがお前の恋人だ 寝るとき以外に外すんじゃないよ?」



 言われた通りに装着すると動作に負荷が掛かる。この状態で私は普段の生活を送らなければならないらしい。食事もトイレもアネットの送り迎えもギルドの仕事も・・・


 周りを見ると私より年下の子が私より大きい剣を振っている。中には女の子もいてスキルさんも連れていない子も居た。つまり私は基礎の基礎、土台も出来ていないと言う事だろう。



「さて 初日にとばしすぎるのも何だから 今日はこのくらいにしとこうか その重りは寝る時にはちゃんと外すんだよ? 体はしっかりと休めなくちゃいけないからね」


「はい! ありがとうございました!」



 稽古を終えてソフィリアを迎えに行ったけど体が重い。帰りの道はソフィリアが元気だった。どうやらギルドで上手くやっていけそうね。それに引き換え私は歩くのが精一杯。こんなんで体がもつかしら・・・


 家に帰るとアネットの頬が腫れていた。え・・・何で? 今日1日アネットに何があったのか根掘り葉掘り聞き出すのと、ギルドの仕事と鍛練と家事の手伝いで3倍疲れる1日でした。





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