109・アネットの決断
前回のあらすじ
エルヴィラから騎士にはさせられないと告げられたラトリア。人生の目標を失い1人塞ぎこんでさ迷うが、そこに偶然ミストリアが通り掛かった。
「あれ以来ラトリアがギルドに戻ってこない」と、訓練生達はやきもきした日々を送っている。彼女の家庭の事情を垣間見た彼等だけど、その程度で関係がギクシャクする間柄ではない事にラトリアは気付いてくれるだろうか。
こう言う問題は時間が経てば経つ程戻りにくくなってしまうものだ。やっぱり生真面目な彼女の事だ。戻らないところを見ると1人で抱え込んでしまったのかもしれない。
気を揉んだ訓練生達も都合のついた時にラトリアを探してるみたいだけど、その足取りはようとして掴めないでいた。部屋の装備も生活用品も一切手をつけられてない。身1つでいったい何処にいるのやら・・・
「信じられないっ!! どうして父親のせいでラトリアが騎士になれなくなるのよっ!」
それでも訓練生の1人が騎士団に行った際その情報を持ち帰ってきた。それ以来彼女の姿を見ていないとも。
「ねぇ・・・もしかして ショックのあまり1人で旅立っちゃったんじゃないかしら 責任感の強い子だからさ」
「どうだろう 僕は物事を投げ出すようには思えないけど」
「じゃぁどうして見付からないのよ 私だってラトリアの行きそうな場所当たってるけど 彼女の姿を見たって人はいないわっ」
「・・・・・・・・・・」
目標を失ってしまったラトリアか・・・いったいどうなってしまうだろう。もし僕が目標を見失ったら・・・「無気力」「自暴自棄」「無意味」「無」「死」 いやいや考えすぎ。でも無気力はありそうな気がする。後は流されるまま流されて・・・
「ダメだ マルティナ 僕はやっぱり待つだけなんてできない ここにこうしている時間だけラトリアを裏切っている気がしてならないんだ ・・・こんな気持ち耐えられそうにない!」
「どうするのよ こんな状況で探しにでも行くつもり? 目が見えないのにどうやって彼女を探せるのよっ」
「それは・・・」
「焦る気持ちも分かるわ 私もあの時アネットの意見に賛同したんだもん あの選択は今でも間違ってないって思ってるし 違う意見なんて出せなかった
それに領主様の正式な発表が明日の正午って話だけど アネット狙う連中はそれまで諦めないと思うの 明日の正午が過ぎるまでは外に出るのは危険よ」
「・・・・・・・」
「・・・納得できないって顔してるわね 心配なのは私も訓練生達も同じだわ 皆だってラトリアを探して回ってくれてるんだから」
マルティナの言葉は正しい。でも自分を優先してラトリアを蔑ろにするのは果たして正しいと言えるのか。
愚かな選択だとは思う。
今まで動いてきたギルドの人達の全てを裏切る行為にも等しいのだから。でもこんな気持ちになってしまった以上動かないのは違うと思う。
「盲目さん ラトリアを探したいんだ・・・何とかならない?」
「ちょ アネット?」
『ん~・・ 難しい? でもできるような~ できないような~』
「盲目さんまでっ! ダメだからね!」
「お願いだマルティナ 1人でとは言わないよ 僕も一緒に探させてほしいんだ」
「忘れたの? 町中でも平気で襲ってくる連中よ? 期限が明日に迫っている中で それこそ何をしてくるか分かったものじゃないんだから! だから冒険者の人達もこの場所を厳重に警備してるのよ!?」
「・・・だったらもっと厳重にしてもらえば良いと思う 彼等の目がここに釘付けになればその分僕達の姿は薄れるからね」
「まさか・・・ここの冒険者達を囮にするつもり?」
「マルティナの言う通り貴族側が切羽詰まっているのなら それこそ強行手段に出かねないと思うんだ それにラトリアのお父さんと似た境遇の冒険者だって他に居ないとも限らない」
「それは・・・」
「深くフードを被って僕達だと悟られないようにしよう その間盲目さんにはバックの中に入ってもらって・・・ 僕の目は見えないけれど健常者と違えず歩く事はできると思うんだ
僕達だって冒険者だ 感情の赴くままに無策で突っ込むつもりはないよ 期限が迫るこの時期だからこそ姿をくらますには良い頃合いだと思う どう? 同じパーティーメンバーとして作戦を提案したんだけど」
「何だか取って付けたような作戦だけど・・・ でも実際に襲われた身として信憑性は感じるのよね・・・ ん~~~~ だったらこれもありっちゃありなのかなぁ~~~~・・・ ん~~
・・・・分かった その提案に乗ってあげる でも私達だけで事を進める訳にはいかないわ まずはポリアンナさんに手紙を渡してそれをギルド長に届けてもらう 実際に事が起こって現場が混乱するのだけは避けたいからね
後はどうやってここを抜け出すかよね 当然冒険者達に気取られる訳にはいかないし・・・
・・・うんアネット ちょっと私の服 着てみよっか」
「え?」
マルティナに無理やり着せ変えられた僕は自分のお見舞いに来たお友達と言う体で訓練生の寮を出る事に成功した。
頭にリボンを付けられ髪を色々いじられた僕は、目の前のポリアンナさんに「あら可愛い子ね」と言われるだけにとどまって正体を見破られる事はついぞ無かった。
男性に向かって「可愛い」はないと思うけど取り敢えず第一関門は突破したようだ。でも問題はここからだ。訓練生達が探し回っても見付からないと言う事は、人目のつく場所にはいないと言う事だ。
「さて 取り敢えず何処行こうか ラトリアの行きそうな場所ってあらかた行ったのよね」
「もし彼女が僕達や訓練生を避けてるなら 見付かりやすい場所は避けると思うんだ でもそうなると尚更行方の見当がつかなくなっちゃう」
「そうよねぇ ・・・まさか本当に遠くに旅立ったんじゃないかしら 確かお金は戻ってきてるのよね」
「でもラトリアの性格上自分の家族を見捨てるとは思えない まだハルメリーに居ると思う 何と無くだけど・・・」
『うん ボクもそう思う~』
「盲目さん?」
『んとね ボクはアネットに届く意識を線のように認識する事ができるんだ~ だから逆にアネットが強く意識してる人の元にボクの意識を飛ばせるかな~って思ったの
そしたらね 何と無くその人が居る方向が分かった気がする? でも合ってるのか間違ってるか曖昧~』
「他に心当たりがないなら 今はそれを当てにするしかないよね これもスキルの効果なら当てずっぽうに歩き回るよりはずっと良い筈だ」
「そ そうね・・・ 何だか盲目さんってトンデモスキルの揃い踏みな気がするわ・・・」
『あっちの方向~』
僕は“盲目さん”に言われるがままその方角を目指した。町の様子は酷いものだった。何かが壊れるとかそう言うものではなく、普段見ている人の感情が「警戒しているぞ」と無言で訴えかけてるような雰囲気だ。
それもその筈。貴族の私兵達はもう後がないのか、だれかれ構わす僕の情報を聞いて回っていたのだから。
「よぉお嬢ちゃん達 ちょっと聞きたいんだけどさ 君らの友達にミストリアって子か アネットって名前の盲目さんを連れた少年がいない? 俺等その2人を探してるんだけどさ 何か知ってたりしない?」
「知らないわよ!」
「そう警戒すんなって 俺達ちょっとそいつらに用事があってな? 勿論ただでとは言わねぇよ 相応の謝礼はするぜ 金貨5枚 居場所知ってたらここで教えてくれるだけで良いんだ な? たったそれだけでもっと良い服買えるぜ?」
「しつこい! 知らないったら!」
「ちっ! そうかよ ツンケンしやがって可愛くねぇ」
「やっぱ気の強いのはダメだな」
「それよりも隣の子の方が可愛いかったぜ」
「あぁ 俺もあっちの子の方が好みだな」
もうなりふり構わなくなっているな。これならギルドの寮に辿り着くのも時間の問題だ。出てきて正解だったようだ。
「ちょっとあいつ等殴っていい?」
「ダメだよマルティナ」
吐き捨てるように文句を言いながら去ってく彼等を殴り掛かろうとするマルティナを止めるのが大変だった。悪感情に染まる悪感情。どうやら感情とは伝染するものらしい。