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108・ラトリアの逃避

前回のあらすじ


訓練生に周囲を囲まれたラトリア父は自分の娘と会話をし、自分に味方でいてくれなかった事に動揺する。その隙にアネットがラトリア父を取り押さえるが背中を数ヶ所刺されてしまう。


何とか一命をとりとめたアネットはラトリア父が連行された事を知る。そしてラトリア本人を心配するのだった。

「お アネット ちゃんと寝んねしてお利口にしてるな?」


「ジョストンさん」



 怪我の程度は冒険者から見て大した事がない部類らしい。厳しい世界だ・・・ 僕は療養中と言う事で大事をとって今は仕事を休んでる。暇をもて余しそうとも思ったけど、折りを見て知人や友人が訪ねてくれるのは有難い。



「聞いたぜ? 身を呈して小さい子を守ったそうじゃないか まったく冒険者冥利に尽きるってもんだぜ 刺されたって傷もいずれは勲章になるさ ま お前も男なら野郎じゃなくって 女に刺されるくらいにならないとなっ」


「どちらも結構ですよ 僕にとって男女の違いは有って無いようなものですから」


「そんなもんかねぇ・・・ あれだっ お前歓楽街辺り行って女の温もりを肌で感じてこい そうすりゃそんな事言って・・・」

「ちょっとジョストンさん! アネットに変な事吹き込まないで下さい!」


「何だ嬢ちゃん居たのか・・・」


「居たのかじゃないですよもうっ ・・・それより警備の方は万全なんですか?」


「そいつは問題ねぇよ 経歴の白い奴しか配置してないからな じじいのお墨付きだ信用して良いと思うぜ?」


「でも何だか残念です 冒険者同士でも事と次第で刃を向けてくるなんて・・・ 困窮してるから仕方なく と言うのは分かりますが 子供の頃に憧れた彼等の記憶が陰っていってしまう気がして不安です」


「何事も良い面悪い面はあるさ人間のする事だからな 肝心なのは周囲に振り回されない事だ 要するに信念を持って生きろってこった


 まぁお前の言いたい事も分からんでもないけどな 実際子供の頃夢見た通りに生きられない奴の方が多い 過度に期待する奴ほど現実に突き飛ばされた時に立ち直れないもんさ


 だからお前も歓楽街に行ったからって高望みはするなよ? 良いようにたぶらかされて財布の中身どころかケツの毛までむしり取られるからな」


「アネットはそんな所行きませ・・・! い 行っても変な事なんかしないんだからっ! しないわよねっ!」


「おいおい行った事あんのかよ・・ あぁ まぁ バードラットとつるんでりゃ そう言う事もあるわな」


「ジョストンさん! ・・・そ それよりもラトリアのお父さんはどうなってしまうんでしょうっ?」


「そりゃぁ 子供人質にとって冒険者に怪我を負わせたんだからなぁ しかも理由が金に困ってだろ? 情状酌量の余地は無いわな」


「それどうにかならないの? 目的はアネットを連れ去る事だったのよ? 貴族の私兵に脅されてやったに決まってるじゃない!」


「そりゃ嘆願書を送るくらいはできるだろうが そもそも質の悪い冒険者を甘やかしたら次から次に似たような奴が出てきてキリがなくなる 減刑は厳しいんじゃないか? まぁこの町で裁かれるとなると 洞穴送りが妥当だろ」


「そう ですか・・・」


「でも洞穴で作業するなら冒険者とそう変わらないじゃない ラトリアも会おうと思えば会えるんでしょ?」


「一応犯罪者は奴隷扱いだから自由はそれほど無い筈だぜ 洞穴で採掘作業してる犯罪者はちらほら見る事もあったが こっちから近付く事なんか無かったからなぁ」


「となると問題はラトリアですね・・・ あれ以来会ってないけど大丈夫かな」


「寮にも戻ってきてないらしいわ やっぱりお父さんの側についていてあげてるのかしら」



 あの一件以来数日が経っている。刺された背中もまだ少し痛むものの、順調に回復に向かっている。お陰で体を自由に動かせる程には回復した。それは良いんだけど・・・


 やっぱりどうしてもラトリアの事が頭から離れない。寮に戻ってないって事だけど大丈夫かな。そもそもお金の話が出た時点で素直に打ち明けておけばこんな事にはならなかった筈。そうすれば親子の絆も僕の傷と同じように回復していけだだろうに・・・



「おいアネット・・・ 事の経緯(いきさつ)は聞いたが もしかして・・・なんて考えるなよ? そもそも金が無きゃ借りれば良いなんて安易な発想する奴は 金持たせたところで録な使い方はしねぇんだからな」


「・・・・・・・・・はい」



 ラトリアはそんな父をどう思って過ごしてきたんだろう。彼女の父親への言葉からまだ諦めてはいないようだけど。ここ数日戻らない彼女の抱える感情が、おかしな方向へ突き進まなきゃいいんだけど。


 今回の出来事の責任の一端は僕にもある。それをちゃんと伝えて僕も一緒にこの問題と向き合わなければならない。自由に動くこの体で今すぐにでもラトリアを探しに行きたいのだけど・・・絶対に止められるんだろうな・・・



 ★



「ラトリア・・・お前を騎士にする事はできない・・・」


「そんなっ! エルヴィラ様っ! 何故です! ・・・・・・騎士は その血筋においても清廉潔白でなければならないからですかっ!」


「そうだ 騎士は王の剣 国の盾 そして象徴として汚れがあってはならない・・・ ラトリア・・ お前は自身の身可愛さに父を捨てる事ができるか?」


「それは・・・!」


「お前の性格は知っているつもりだ 例え父を捨て騎士になっても お前は自分に胸を張って生きていく事はできない それどころか生涯癒えない傷となってお前を苦しめるだろう 人生の分岐点にも等しいその選択を 一度選べばくつがえす事はできないんだ」


「・・・・・・・・・・・・・・」


「まさかこんな幕引きとなるとは・・・ 残念だ・・・」







 私は目標を失った。煌めいていた憧れは光を失い目に写る世界はくすんで灰色だった。


 これから先一体私はどうしたら良い。


 これを機に冒険者にでもなるか? でもギルドには戻れない。あんな醜態を晒し、あろう事かアネットに怪我まで負わせてしまった。


 いや・・目を背ける事は出来ない。まずは戻って皆に謝ってアネットにも謝って・・・それからまたいつもの日常に戻って・・・今まで通りの日々を送って・・・


 送れるのか? また元の関係に戻せるのか? 仮に皆が許してくれても私はもう今までのような顔でアネットや皆と接する事ができそうにない。


 ダメだ・・・今のこの気持ちのまま戻ったところで、その毎日は上辺と言う名の仮面を被った偽物になってしまう。そんなのは私じゃない。


 ただ謝るだけではきっと足りないんだ。これを反省と捉えるならきちんとケジメをつけなければならない。それをどうつけるかはまだ分からないけど、今はまだ戻る時じゃない。



「不甲斐ないものだ・・・ いつかはこんな事になるかもしれないと 心のどこかで思っていた筈なんだけど・・・」



 不思議と父を恨む気持ちにはなれなかった。あの人もよく選択を間違える人だったけど、必死に足掻く姿を見てきた私としては、父の背中が哀れで切なくて支えてやらねばと言う気持ちにさせられた。


 見捨てると言う選択肢は最初から無かった。これから先の自分の姿は想像できないが、父に寄り添っていく自分は容易に頭に浮かんだ。



「あぁ・・・ そうか もしかしたら私も選択を誤っていたのかもしれないな 騎士になるべく邁進するのではなく・・・」



 もっと父の側についていてあげたら、誰も傷付く事はなかったのかもしれない。夢を追いかける自分に酔う事で現実から目を背けてきたのは私も同じだった。


 そう。こんな自分だからこそケジメが必要なのだ。


 しかし参った・・・ギルドに戻れないとなると私には居場所が無い。こうなると1つの事だけに埋没してきた事が仇になる。いや・・・努力はしてきたんだ。それは無駄じゃない。


 それにしても急な事だったので持ち合わせも無いな。装備一式も自分の部屋だ。まぁ幸い今は町が混乱しているので私に注目する者など居ないだろう。


 季節は冬に差し掛かる。夜は冷え込むだろうが取り敢えず野宿でもして気持ちの整理をしよう。先の事はそれから考えるとして、取り敢えず身を隠せる路地にでも行くとしよう。










〔貴女・・ 確かラトリア・・・よね どうしたの? こんな所に座り込んで 具合悪いの?〕



 どのくらいボーッとしていたのか、ふと声を掛けられた時自分の体が冷たくなっているのに気が付いた。



「・・・・・・君は・・ 確かアネット達と一緒にいた」


〔ミストリアよ それよりも本当にどうしたの? 顔が酷い事になってるわ〕


「酷い顔になってるのか・・・ 無理もない 私の状況は酷い事になってしまったからな」


〔もしかして・・・行く所がないの? もしそうなら私が厄介になっているお店に来ない?〕


「いや しかし・・・」


〔1人で思い悩んでいても答えが出るものではないわ まずは落ち着いて それからゆっくりと考えましょう〕


「・・・・・・そう だな・・・ すまない 少し世話になる」



 よくよく見ると以前見た印象と少し違って見えた。私に差し出された手は温かく表情は慈愛に満ちている。こう言う時に手を引いてくれる人にありがたみを感じる。私も本当はこんな存在になりたかった。でも今の私にはそんな余裕はない。



「ところで・・ 君は妊婦だったのだな」


〔えぇ アネットの子よ〕


「そうか・・・・




 ・・・・・・・・・え?」





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