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107・父と娘

前回のあらすじ


冒険者と貴族の私兵のいざこざに辟易としたアネット達はギルドの宿舎でしばし休息をとる事にした。


夜中“盲目さん”と男性の声に目が覚めると、ソフィリアを人質に取られている状況になっている。そしてその男性とはラトリアの父親だった。

 食堂から脱出するには表玄関と寮母さんが使う裏口の2つしかない。騒ぎを聞き付けた訓練生のした事は真っ先にこの2点を塞ぐ事だった。


 迅速な行動に各々武器も忘れない。日頃から叩き込まれてる訓練の賜物と言ったところだろう。ラトリア父の逃げ場はこれで完全に塞がった。



「父さん 襲う場所を間違えたな 彼等は決して弱くない」


「そうそう ここから逃げられると思うなよ・・・って え? 父さん?」

「聞き間違えか? このおっさんラトリアの父親って聞こえたんだけど・・・」

「マジかよ いくら親子喧嘩だからって 子供を人質はないだろ~」


「うるっせえぞガキ共! とっとと道を開けろっ!」



 彼からしてみれば楽な仕事だったのかもしれない。だけど思い通りにはいかずどんどん自分が追い詰められていく事で情緒が不安定になっていく。このままでは何をしでかすか分からない。危険な状態だ。



「父さん まずその武器を置いてくれ それからちゃんと話し合おう」


「話し合う? 話して解決する問題じゃないんだよこれは! もうこうするしか後がねぇんだよ!」


「お金の事なら私が何とかする だからお願いだ もうその子を放してやってくれ!」


「訓練生のお前が? 子供がどうにかできる額じゃねぇよ 利子が・・ 利子がかさんで・・・ それにもう逃げらんねぇ あいつらはきっと何処までも追ってくる 町の騒動を見たろ 冒険者やギルドと正面切って喧嘩すんのもかまわないって連中なんだよ! ・・・どうしろってんだ!」


「そいつらに借りてる額は分からない でもお金ならあるんだ この前話したろ 私達の抱えていた問題は解決したって 実はそれまで払い続けていたお金は 全額返ってくる事になったんだ」






「・・・・・・・・は? ・・・何だそれ 聞いてないぞ・・ どう言う事だ・・」


「すまない・・・ 本当は話すかどうか迷ったんだ でも酒浸りの父さんには言うべきではないと判断した もう一度ちゃんと冒険者に復帰して 自分の足でしっかりと歩けるようになったら話そうと そう思っていたんだ」


「何だよそりゃ・・ 俺は信用できねぇってか・・・・・・・・・


 まぁ・・・


 そうだよなぁ 本当は分かってたさ いつの間にかお前の俺を見る目が変わってて・・・ 俺だって現状を変えようと頑張ったんだ! でもやる事なす事全部裏目にでちまう 


 もう分からねぇんだよ 正解って何だよ! 何をどうすりゃぁ元に戻せるんだよ・・・ なぁ・・金があるなら寄越せよ・・・ それは・・・・・ 俺が払い続けた金だろぉ~~がぁ~~!!」



 混乱して自暴自棄になった彼は怒りの矛先を自分の娘に向けた。ソフィリアにあてていた刃物もラトリアに向ける。刃が離れたそのタイミングに合わせて僕は彼に思い切り体当たりした。


 僕に大人の男性を押し倒す力はない。だけどソフィリアを逃がす時間なら稼げる筈。力及ばずながらも必死で彼にしがみついた。



「誰か・・! ソフィリアをっ!」


「テメっ! ガキがぁ~~~!!」



 背中に数度何かが当たる感触。そして周りで取り囲んでいた訓練生達もこの状況を好機と捉えて一斉に飛び掛かった。彼も必死に抵抗を試みるけど日頃から鍛え困れた訓練生に不摂生が祟る彼が太刀打ちできる筈もない。



「がぁああぁぁああぁ~~~ 離せ~~!!」



 なおも叫び続ける彼の感情は憎しみに支配されていた。それはもうここに居る全ての人間に向けられている。だが印象的だったのは他人以上に自分を呪っていた事か。



「父さん・・・」



 少し離れた場所でラトリアはただ立っている事しかできないでいた。普段しっかりしている彼女もこの時ばかりは茫然自失となっている。戸惑いと悔恨の情は事件を起こした父親よりも自分に向けられていた。



「ラトリア 自分を責めないで お金の事を秘密にしようと言ったのは僕だ 責任なら僕にある」


「違うそうじゃない・・ 私が父を変えられなかったから・・・ だからこんな事に・・」



 彼女の性格上自身を苛んでしまうかもしれない。もしかしたら生涯抜けない釘となって心に刺さり続けるかもしれない。でもあの時彼女は言った「自分が挫けそうになったら相談にのってくれないか」と。なら今がその時だ。



「大丈夫 君のお父さんは居なくなる訳じゃないほ 時間は掛かるかもしれないし 難しいかもしれないけどやり直せない事はない ラトリアが諦めないなら僕はずっと君の力になる・・・ 頼りないかもしれないけど ただそれだけは伝えておきたくて・・・・・・・・」



 何か冷や汗が溢れて意識が朦朧としてきた。あれ・・? 何で・・・? 何だか気を抜いた瞬間から背中の辺りが痛くなってきて・・・ 背中が濡れてる感触が・・あ これ 刺され た?


 まずいな これ ラトリアまで傷付けちゃう やつだ



「アネット!?」



 でも目覚めたら ちゃんと話し 合おう


 そうすれば 分かって



「アネッ───────」



 もらえる




 筈














 意識が混濁している・・・でもそれを認識できると言う事は一命はとりとめたと言う事だろう。たぶん今はベットの上かな? 状況が分からない。今の僕は横になっているの? 体の感覚が変だ。


 体を起こそうとしても腕に力が入らない。手さえも動かせない。ここは何処だろう。周囲に誰か居ないかな・・・



『アネット? 起きた~?』


「も・・もく・・さん・・・」



 言葉も上手く口から出ない。僕の声は“盲目さん”に届いているだろうか。



『アネット~~~ 良かった~~~!』



 “盲目さん”は安心したのか僕に体を刷り寄せてきた。心配してくれた“盲目さん”を撫でてあげたいのもやまやまだけど、今の僕の体は言う事を聞いてくれない。


 それでも何とか首を動かすとすぐ近くで寝息をたてて突っ伏しているマルティナが居た。僕の介抱で疲れてしまったのかもしれない。意識を取り戻した僕に“戦士さん”と“盾さん”はマルティナを揺すって起こしてくれた。



『マルティナ~ アネット起きた~』

『た~』


「ん・・・ んん~~・・ どうしたの2人とも・・・」


『アネット起きたよ~』

『よ~』


「え・・ アネット・・・?」


「マルティナ お早う・・・ 僕はどうなったの? ここは何処?」


「あぁ・・ アネット 良かった・・ ちゃんと生きてた・・・ うぅ・・・」



 マルティナは僕が目覚めた事に感激したのか思い切り抱き付いてきた。相当心配させてしまったらしく彼女の心は苦しみと悲しみと嬉しさとでグチャグチャだ。



「マルティ ナ痛い・・・」


「あぁ ご ごめん!」


「そうだ・・ それよりもラトリア は? あの後 どうなったの? ソフィリアは 無事?」


「え えぇと・・ ソフィリアは大丈夫よ 怪我とかはないわ 私達はアネットが出ていった後しばらく動けなかったの でも寮が騒がしくなって・・・


 そしたら訓練生からアネットが刺されたって聞いたから急いで応急処置をして専門の人に見せたの 幸い深手ではないって・・・ しばらくしたら動けるようにはなるって・・・でも私心配で・・・


 ・・・・・・ラトリアのお父さんはあれから捕まってそのまま連れてかれたわ ラトリアも騎士団の人達と一緒についていったの・・・」


「そう・・なんだ・・・」



 生真面目なラトリアが1人で抱え込まないか心配だ。僕もしばらく動けそうにない。自分に何ができるのかは分からないけど、ただ待つしかないと言うのももどかしい。


 彼等親子のこの先がどうなってしまうのか心配ではあるけれど、この騒動に終止符が打たれなければ彼等のように不幸になる人が増え続けていきそうな気がする。





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