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104・暗黒街ハルメリー

前回のあらすじ


大通りでデートに興じるアネット達に貴族の私兵が絡んできた。助けに入った冒険者達といざこざになった隙にその場を離れたアネットだったが、以前雑木林で遠距離から狙われた時と同じと思われる人物から再度矢を射られる事に。


路地に入ったアネット達だったが、そこで待ち伏せていたと思しき連中から追われる事になった。


 マルティナに先導を任せたけれど後ろに写る追っ手の数は進めど進めど数が減らない。それどころか路地からどんどん現れる始末。人1人にアプローチするのにどれだけ本気なんだろう。貴族系列の人達も大変だ。


 それだけ怖いと言う事なのか。後ろから追ってくる人達は必死の中に恐怖が宿ってる。仕事を失敗したともなれば降ってくるのはゲンコツではなく刃物かも・・・でも捕まってあげるつもりはない。



『アネット~ また見られてる~』



 “盲目さん”の声にチラリと後ろを振り返ると今まさに矢が飛んできてる最中だった。僕の後ろにはお仲間も追ってきてるのにお構い無しらしい。冒険者以上に危ない職場だ。



「マルティナ! 右に逸れて!」



 僕の声にマルティナは通りを右に右折した。その後、後方で複数の矢が地面やら壁やら屋根やらところ構わず突き刺さる音がする。悲鳴が・・・聞こえてこないところを見ると人に当たってはいないらしい。怖くないんだろうか追っ手の人達は。


 もしかしてこの狙撃手を信頼している?



「ねぇ! アネット! さっきから矢を射ってきてるのって弓兵なんじゃない?」


「弓兵?」


「ギルドの座学で習ったんだけど とにかく遠距離に矢を飛ばす事に長けたスキルさんを連れてるんだって! それにさっきから曲がり角に差し掛かると射ってくるんだけど! これってどこかに誘い込まれてるんじゃないかな!」



 要所要所で的確に狙って放たれる矢は、僕達を仕留めるものではないらしい。追い詰める為の作業であるなら相手の意図しない道に逸れた場合その限りではないかもしれない。


 それを無視して強行したら無関係の人に被害が及ぶかもと思うと、無闇に人通りには出られなくなった。どうしたら良い。


 ここは狭い路地、遮蔽物も多い。



「盲目さん! プチダークを続けざまに撒ける?」



 ここらが真っ暗になれば狙撃も追撃もあったもんじゃない。僕達から認識が外れてる間に強行突破する以外逃れる術は無い。



『撒けるけど もっと良いスキルがあるよ?』

「え? それってどんな・・・」

『闇の口腔 ダークミスト~ 全部が真っ暗 雲の中~』



 その瞬間ひんやりとした湿気のようなものが“盲目さん”を中心に広がったのを感じた。



「きゃっ! え!? 何? アネット!? なんか途端に真っ暗になったんだけど!?」



 突然の事で驚いたマルティナは急に立ち止まってしまった。僕からしてみればちょっとひんやりしてるだけだけど、マルティナには今世界が黒くなってるらしい。ようこそ闇の世界へ。



「大丈夫だよ ここからは僕が先導するからね」


「え えぇ・・・でもあまり早く走らないでね ホントに真っ暗で転びそう」


「盲目さん このスキルはどのくらいの範囲で広がってるの?」

『結構広い~? でも風に流されたり温かくなったら消えちゃうと思う~』



 結構と言うのがどのくらいの範囲を指すのかは分からないけど、風下に進めばこのスキルの恩恵を最大限活かせるのは理解できた。幸いギルドも同じ方向だし闇に乗じて進める所まで進んでしまおう。


 生憎ここらの地図は頭の中に持ってはないけど大体の位置は把握している。一か八か大通りに抜けてしまうのも有りか。道中、追っ手か住民かは分からないけど視界が暗くなった事に困惑してるようだった。何だか手探りで進んでる人達ばかり。人間目が見えなくなるだけで真っ直ぐ歩く事さえできなくなるようだ。


 でもお陰で誰も僕等に気付いている人はいない。と言うより皆それどころではないのだろう。あの射手も視覚に頼っているようでそれ以降矢が飛んでくる事はなかった。これで心置きなく大通りに向かえる。


 大通りに出るとそこは阿鼻叫喚の地獄に見舞われていた。子供の泣き叫ぶ声にその子を探す母親の叫び。物にぶつかって盛大に転ぶ音。自分の現状にパニックに陥る人。ここまでそれなりに走ってきたけれど、さすがに広がりすぎじゃない? このスキル・・・


 この惨状。僕がやった事がバレたら怒られるどころじゃ済まない気がする。


 無事? にギルドに到着した僕達は一部始終を一部はしょってギルド長ランドルフさんに報告した。



「バウゼンめ 本気で狙っているとみえる・・・ 話は分かった お主達には見張りの者をつけるとしよう すまないが明日も引き続き囮になってはくれまいか」


「それは・・構いませんが ギルドは何か動いてるのですか? 冒険者の先輩方が皆貴族になっているのですが・・・」


「ん? なぁに 平民が貴族を名乗るのが不敬と言うなら いっそうやむやにしてしまおうと思ってな 貴族共に一矢報いてやれると皆乗り気じゃったわい 肝心なのはお主等が捕まらない事じゃ 今日の動きで警戒していた事がバレているだろうから 明日はちと大変かもしれん」


「・・・はい」



 力業を地で行く冒険者ギルド。作戦らしい作戦はなかった。僕が頭を捻ったところで妙案など浮かぶ訳もなく、結局今日と同じように立ち回る事にした。ギルドとしても下手な事されるより、その方が都合が良いのかもしれないし。


 ギルド長の部屋からホールに戻るとそこには地獄の釜から流れ出たような色をした人達でごった返してた。「町に闇が広まった」「モンスターの襲撃か」「天変地異の前触れか」等々、不安に思った人達がこぞってギルドに押し掛けている。



「ねぇアネット・・ どうすんのこれ」



 何か・・・すいません。



 ★



「ミルティーちゃん こっちの桶に水を入れておいて それと食堂の方にも水お願いね」



 私は言われた事をテキパキと熟す。ここでの私の立ち位置は突如“失語さん”に魅入られて家族に捨てられた身重の女の子。と言う事で“水魔法さん”をお腹に隠し身分を偽って女中として歓楽街のお店で働いているのである。


 前髪を顔の方まで垂らし絶望的な表情を作る。以前の死んだような目をした経験を活かして不幸を演出すれば、誰も私をミストリアとは思わないわよね。ここのお店にしても事情を知る者はごく僅か。


 バードラット・・・だったかしら? 胡散臭くても腕は良い商人みたいね。


 私はお店の娘が離れた隙に魔法で桶に水を張った。井戸から水を汲むのは人が見ている時だけよ。だって疲れるもの。それにしてもここでの生活は刺激的だわ。学園にいた頃には想像もできない世界。


 特にめくるめく夜の営みなど新たな扉が開いた気がしたもの。もちろん直接見た訳ではないわ。他の娘から話を聞いただけ。部屋から洩れる男女のアレコレを聞いただけ・・・十分な睡眠がとれなくてもお釣りはくるわ。


 時刻は朝を迎え夜に働く女性達はそろそろお休みの時間らしい。大量の水に大量の洗濯物と女中の仕事は中々にハードだ。


 それに加えてチーフと言われる役職の人からも叱咤が飛ぶ。そこまで怒鳴らなくてもいいのに、他の娘達は恐々としながら一心不乱に手を動かしていた。働くって大変ね。


 今まで気にもしなかったけど家で働いていた人達もこんな感じだったのかしら。もっとも怒鳴られてるところ見た事ないし皆顔が生き生きしてたんだけど。でもここが地獄と言う訳ではないわ。倒れるまでこき使われる事はないし、ちゃんと休憩時間は割り当てられる。まぁそうなると娘達はここぞとばかりにチーフの陰口に花を咲かせているんだけど。


 身重の私まで同じ様に扱われるものだから彼女達の同情も集め上手い事打ち解ける事ができた。でも・・・ここでも陰口は存在するのか。


 私はちょっと疲れたと言い、その場を離れる事にした。


 今は休憩時間なので、いわゆる本館と呼ばれる場所に行ってみる。上客相手の場所と言われるだけあって私の目から見ても相当力を入れてる事が分かる。良質の材質に調度品それに空気に至るまで、文字通りの別世界がここにはあった。


 そんな別世界を上から降りてくる1人の女性。不覚にも私はその容姿と立ち振舞いに目を奪われてしまったのである。





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