103・大通りデート
前回のあらすじ
バウゼン伯爵に狙われると感じたアネットは、ミストリアをバードラットの元に預ける事にした。
翌日。怪しまれないようにと普段通りの行動をしようとマルティナはアネットをデートに誘うのだった。
「ねぇアネット この被り物なんて良いんじゃない?」
様子見のつもりで大通りを歩いている僕達だけど、いつの間にかそんな事を忘れて普通に楽しんでしまってる。人混みとはいかなくてもそれなりに人流はあるので僕等を狙う人達も声を掛けてこないせいだ。遠巻きにイライラされても困る。
「ね 次はあっちのお店に行きましょう!」
「マルティナ 待って・・・」
そんな事など気にする様子もない彼女はグイグイ僕の手を引っ張っていった。そう言えば・・・まだ幼い頃はこうしてマルティナが僕の手を引っ張っていったっけ。純粋に楽しそうなマルティナにフッと童心の頃を思い出した。
「アネット ほらっ あ~んしてっ」
「え あ~ん ・・・・むぐっ」
「えへへ 美味しい?」
まぁたまにはこう言う時間もあっていいかもしれない。僕が冒険者になってから色んな事がありすぎた。しばらくはマルティナと2人。大通り巡りを楽しもう。
『アネット~』
「うん」
でも残念。物事って本当に此方の都合に関係なく進んでいくんだなって・・・
「マルティナこっち」
「わっ ア アネット?」
今度は僕がマルティナの手を引く。足早にこの場を離れると追っ手もその後を付かず離れずついてきた。“盲目さん”の指摘した通り彼等は我慢の限界を迎えたらしい。心が本気になっている。
「アネット・・・ 手」
「え ごめん痛かった?」
「ち 違うのっ 今までアネットに手を引かれた事ってなかったなって でも・・・うん 悪くはないわね 互いに一緒の時間を過ごしてるって感じがするわ」
繋いだ手に熱がこもっている。マルティナは何だか嬉しそうなのでもう少しだけこの時間を過ごせたら良かったんだけど、軽く身を隠せる場所に入ってみよう。「適してる場所」に着くと僕はマルティナを引き寄せた。
「ひゃぁ~~っ・・・!」
「どうだろう・・」
「ど! どうって!? べっ 別に悪くはないわよっ!?」
「いや 追っ手の人達ね? 彼等はいつまで後を追ってくるつもりかなって」
「あっ! 追っ手! 追っ手ね! どうかしらね!」
もしかして1日中付きまとうつもりなのかな。貴族の命令で動いてるなら気が変わったから帰るとかもなさそうだし。だったら家に戻るのは危険か。
『ダメ~ 意識が途切れない~』
「どうやら今日も家には帰れそうにないね」
「え・・ 家に? じゃ! じゃぁ! 2人で泊まれそうな所・・・探す?」
「そうだね でも下手に宿に泊まると店の人にも迷惑かけちゃいそうだから 手堅くギルドに戻る事にしよう」
「ギルド・・・ うん 分かってた」
せっかく普段無縁の宿にお泊まりできたのに、それがよっぽど残念だったのかマルティナがションボリしている。僕達がギルドに戻ろうとした時に事は動いた。今まで遠くから見張っていた人達がゾロゾロと集まってくる。僕達だけ遊んでいたのがお気に召さなかったらしい。
「よぉ イチャついてるとこ悪いんだけどよぉ ちょっと顔かしてくんねぇか」
「なっ 何ですか あなた達は・・」
「込み入った話になるかもしんねぇからよぉ 取り敢えずあっちの路地行こうか・・・・分かるよな?」
そう言った追っ手の1人は脅しのつもりか意識が腰の剣に伸びた。
「おいおいおい 何やってんだ? お前ら 往来の真ん中で大の大人が子供から金を無心するなんざ やってて恥ずかしくなんねぇのか?」
「あぁ!? 何だてめぇ あっち行っとけよ」
「おぅどうした兄弟 揉め事か?」
「適してる場所」僕は冒険者達の集まるエリアに来ていた訳だ。追っ手の人達ももう少し周囲を見れば良かったのに注意を欠く程頭に血が上ってたらしい。目論みは上手くいったみたいだ。
「なんか子供にタカっててよ どう見てもガラじゃないよなぁ子供と遊ぶには 一旦鏡見て自分の顔と相談しろよ」
「冒険者風情が 俺達はとある貴族様の命で動いてんだ 公務の邪魔するのは犯罪って知ってるか?」
「おうおうおっかねぇ~ だが問題はねぇなぁ 実は俺も貴族でよ その貴族様が待てつってんだ 私兵ごときが御上の言う事に逆らっちゃ~不味いよな?」
「ふかしこいてんじゃねぇぞド三流が! 平民が貴族と語るのは立派な不敬罪だぞ 分かってんのか?」
「まてまて そいつはどうだか知らないが 俺は正真正銘本物の貴族様だ ここで言い争うのは往来の邪魔になるからよ お前らちょっとあっちで話そうか」
「てめぇら正気か!? ふざけてると権限使って叩き斬るぞ!」
「穏やかじゃない会話をしているなお前ら ここは貴族であるこの俺が 直々に仲裁に入ろうじゃないか」
「あぁ!? どっから出てきたてめぇ!」
何かもうメチャクチャだ。喧嘩さえできれば理由は何でも良いらしい。まぁ冒険者から不等にお金とってギルドの仕事にまで影響を与えたんだから仕方ない。案の定喧嘩にまで発展した訳だけど冒険者達の鬱憤が晴れるならこれはこれでいいか。
僕達はどさくさに紛れてこの場を去る事にした。
『アネット~ またあの視線を感じるよ~』
「ん? あの視線って?」
『ず~~っと 遠くから見られてるやつ~』
「それって・・・ どっちの方から?」
『あっち~』
“盲目さん”が声で示した方を注視すると僕達のいる場所に向けて一筋の光が伸びた。それはまるで流れ星のように降り注いでくる。
「マルティナ危ない!」
「えっ?」
僕は急いでマルティナを引き寄せると彼女の足元にあった壺か何かに矢が突き刺さる音がした。すると更に上空。幾つもの流れ星が僕達の方向に不規則に飛んでくるのが写る。それらは僕達の周り広範囲に撒き散らされた。
「わっ! 何だ!」
「きゃーー!」
「何だこりゃ! 矢か!?」
「どいつだ! こんなもん町中で射ったバカは!」
周囲の人達の悲鳴と怒号など関係なく矢は次々と降り注いでくる。でも何か違和感を感じる。森で放ってきた矢は正確に僕を狙ってたのに今は不規則だ。
「そうか・・・わざとやってるんだ どうやら僕達を路地裏に追い込みたいらしい」
「え? ちょっとアネット どう言う事!?」
「ここから離れないと無関係の人が巻き込まれる」
ギルドまでは遠い。どこか店の中に逃げ込むか? それだと私兵達に捕まってしまう。やっぱり路地を逃げるしかないか。細い小道なら少なくとも飛んでくる矢に気をとられないで済む。
「マルティナ悪いけど ギルドまで路地裏の道案内をお願い 大通りに出たらまた狙ってくるから」
「え えぇ 分かったわ!」
マルティナに引っ張られて僕はすぐ近間の小道に入った。それにしても狙撃主は冒険者ではなく貴族の私兵だったのかな。これだけの腕をしてるんだ。お金に困ってるとも思えないし。
狭い路地に入ると矢による攻撃は止んだ。変わりに・・・
『今度は建物の影から見てる人達がいる~』
大通りの彼等で駄目なら裏に追い込んで獲物を捕まえる。初めから二段構えだったらしい。どのみち遠距離狙撃の彼が出てきた時点で、こう言う結果になっていたのかもしれない。
つまり他の冒険者がいるから大丈夫と高をくくった僕達の落ち度と言う訳だ。