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101・公爵と伯爵

前回のあらすじ


領主のハルメリー訪問の日時を聞き直接会う事を決めたアネットは、ギルドから用意された馬車に乗り貴族街の領主別邸へ行く。


そこでバウゼン伯爵の馬車が停まっているのを知ったアネットは、2人の会話を聞くために1人別邸へと忍び込むのだった。


「それで 手紙にも書いてあったが私自ら陣頭指揮をとるべきとは バウゼン卿らしからぬ提案だな 貴公の事だ 私が動くのを渋るものと思っていたが?」


「閣下 私はこの町の平穏を望んでいるだけなのです 貴方ならお分かりと思いますが 貴族には国に忠誠を誓いつつも 自らの利益と保身の為に派閥と言う隔たりを作る 悲しいから今はそれがいらぬ分裂を招いているのでございます」



 僕は窓の外から聞こえてくる2人の会話に集中して耳を傾けた。その文言からまだ話の核心部分には触れていないみたい。ちょうど良いタイミングに間に合ったようだ。



「今この町を包む環境は あたかも冒険者と貴族の対立のような様相を呈しておりますが その実 先の軍部の早急な動きと言い どうやら一部の貴族が彼等と通じ(はかりごと)を企てていた様子でして


 残念ながら彼等は 子飼いの私兵を使い砂山の奪い合いをしている始末 私も長年このハルメリーを愁いてきましたが 昨今それが現実のものとなっております」


「その企て 貴公が手紙を送ってきた事実も含めて 私はてっきりそなたが裏で糸を引いているものと思っていたのだが? そう言う工作は得意とするところであろう」


「確かに工作は致します しかしそうでもしなければ欲の皮が突っ張った者共を纏めるなど とてもとても・・・ 今回の件は彼等にとってあまりにも条件が揃いすぎたのです


 虎視眈々と機を狙っていた者には さぞ好機と写った事でしょう 誓って申しますが私はこの件 全く預かり知らぬ事 天地神明に誓い そして王の御膳で身の証を立ててもよいと・・・ そう思っているしだいでございます」


「・・・つまり自分ではどうにもならない事態ゆえ 私を頼ったと言う事か その方が貴公にとっても得であると踏んだ訳だな」


「いえいえ 滅相もございません これまで貴族間の事ばかり述べましたが 動揺は市井の者にも広がっておるのでございます そのどさくさに紛れ不敬な輩も現れる始末


 お聞き下さい数日前の事 私はこの件に関して冒険者ギルドの長の元を訪れましたところ なんと 閣下の愛娘ミストリア様と瓜二つの娘がおるではありませんか


 私も はて見間違いかと思いましたが もし御当人であるなら下位の者が挨拶もしないとは失礼にあたると思い その娘に挨拶申し上げたのです


 しかしどう言う訳か口頭での返事ではなく なぜか水を操り文字をおこしての会話となりました ミストリア様は確かに水魔法に長けた方と聞き及んでおりましたが・・・


 その時思い出したのです確かあの方は今 重度の病を患ってここより遠い地にて療養中の筈だと・・・ にもかかわらず あの娘はあたかも自分がミストリア様であるかのように振る舞い 私とそして周囲の者達を謀ったのでございます


 なんたる事か・・ よくよく思い出してみると あの娘の隣に居たのはマイナス等級のスキルさんがいるではありませんか


 もしこの事実が王の耳に入れば 間違いなく首を斬られる事になりましょう 私としても民がそのような目に合うのは忍びなく できる事なら穏便に事態が収拾するのを期待するばかりです・・・」


「!!・・・・・ ほぅ・・・ 穏便にか それで・・・? 貴公はどうしたら穏便に済むと思う」



 ギルドでバウゼン伯爵と出会った時、ミストリアは咄嗟に貴族然とした態度で返してしまった。急な出来事につい昔の癖が出てしまったのだろう。でもそれは責められる事ではない。ないのだけれど、よりにもよって1番知られたくない人物に格好の餌を与える形となってしまった。


 それを聞いた領主様の声色は誰が聞いても変わっている。心の色なんて見るまでもない。



「そうですな 貴族の事はやはり閣下におすがりするしかなく・・・ ただ市井に関して私にちょっとした権限を頂ければ 不幸が起こらぬよう上手く纏めてご覧にいれましょう」


「・・・・そうか ・・・しばらく考えたい 返事は・・・数日中に出そう」


「ははっ 賢明なご判断 お待ち申しております」



 そう言うと用事は済んだと言う足取りで、バウゼン伯爵はそそくさと部屋を出ていってしまった。しばらくした後、隣の部屋から「バン!」と何かを叩く音が聞こえた。


 どうする・・・今なら領主様にお目通りが叶うけど・・・・うん。元々直接会う為に来たんだ。僕も彼も話し合わなきゃいけない事がある。僕は今いる部屋を出て領主様のいる部屋の扉をノックした。



「何だっ」



 苛立った声が扉を越えたが僕は無言で部屋へと入った。



「! お前は・・・」


「お久しぶりです」


「どうしてここに・・・」


「そうですね お互いに話さなければならない事があると思ったので・・・ 申し訳ないと思ったのですが お二人の会話は隣の部屋で聞いていました」


「何! どう言う事だ なぜその様な事をしたっ」


「バウゼン伯爵の手が僕達にも伸びていると感じたからです 間接的ですが 彼のした事に対して被害を受けた者は多くいます 僕の友人の中にも・・・


 本当はギルド職員の方と直接お会いする筈だったのですが 入り口にバウゼン伯爵の馬車が止まっていたので 不敬かとも思ったのですがミストリアの事もあります なので忍び込みました」


「忍び・・・ はぁ 意外と行動力があるのだな しかし成る程 奴は思った以上に君達に影響を及ぼしているのか」


「貴方がここにいる理由となった件で 僕もミストリアも貴方に会いにテオテリカまで行ったのですよ? それがまさか あんな形で追い返されるなんて・・・ ミストリアはとても傷付いていました」


「それに関してはすまないと思っている しかしそうするしかなかったのだ」


「王様が望まないからですか? でも貴方の実の娘でしょう いくら何でも酷ではありませんか」


「事はそう簡単ではないのだ 王には逆らえない それは真実だ」


「だからと言って重篤と偽って彼女を突き放すなんて いくらなんでも度が過ぎてると思います」


「ではどうすれば良い どうすれば正解だった 王はマイナス等級を嫌っている それは周知の事実だ 私だって娘をちゃんと自分の子として抱きしめたい でも駄目なのだ!


 王には逆らえない 何故なら貴族は王の言葉には抗えないからだ 王より叙爵されると言う事は そのスキルの影響で文字通りの人形になる事を意味するからだ


 王がミストリアを殺せと命じれば 私はあの子を殺すだろう 私がどう思うかなど関係ない! それが我々貴族と王との関係なのだ 私には・・・ 私だからこそどうにもできないんだ・・・・」



 最後のなど本当に消え入りそうな声だった。正直貴族の事はよく分からない。でも娘を思う親の気持ちは伝わった。



「分かりました・・・ 僕も今のお話を聞いて即座にどうすれば良いか浮かびません 一旦帰って考えます・・・ ミストリアにも話すかもしれません ですが・・・僕が帰る前に彼女のここでの生活を聞きませんか?」



 僕は領主様にミストリアを預けられた後のこれまでを話した。初めて仕事を手伝ってもらった事。“失語さん”と水文字を通じて会話ができるようになった事。コドリン洞穴の出来事を通して学友とも打ち解けられた事。それから彼女に目標ができた事。これまで彼女に沢山助けられた事。


 それを彼は遮る事なくただ黙って聞いていた。



「そうか・・・ 変われたんだな あの子が家にいた時は本当に脱け殻だった 方々手を尽くしたが我々ではあの子を救えなかっただろう ありがとう 君には感謝しかない・・・ ならば 後は父としてあの子にとって何が1番か 決断をしなければならないな」



 互いにどうするか。もう僕達の間にわだかまりは無かった。ただ自分のすべき事をする。彼の中で渦巻いていた感情は決心と言う形で固まっていた。


 領主様に連れられ僕は玄関から馬車へと向かった。戻った時はそれはそれは驚かれた。どうやら僕が囚われたと思っていたらしく、救出の算段をたててたらしい。申し訳ない。


 馬車はその足でギルドまで戻ると、僕はそのままランドルフ(ギルド長)さんの元に通された。僕はそこで語られた2人の会話をかいつまんで彼に報告した。



「バウゼンめ まさか公爵を脅すとはのぉ」


「僕は初めて王と貴族の関係について聞きました 確かにスキルさんの力は凄いです ですが王の前に貴族は操り人形同然だなんて・・・」


「そうじゃの しかしそれでも良い面だってある 内乱が起きても王の一声で終わるからな ゆえに心配な事もある そんな王に媚びへつらう者も少なからず存在している事実じゃ 今後の動き次第でお前達が狙われる可能性だってある」


「何だか変な気持ちです 僕も目が見えていた頃は 道行く冒険者達はとても輝いて見えていたのに 今は泥に囚われている感覚です」


「冒険者だろうが何だろうが 人社会の中で生きるとは そのしがらみと付き合うと言う事じゃ お前の目に写った者達はきちんとそれに向き合っていた連中なのじゃろう 周囲に流されるなとは言わん しかし自分の中に揺るがぬ信念は育てておくのじゃぞ?」



 年長者からアドバイスを貰った僕はそれを噛み締めながら帰宅の途についた。覚悟はした。でも気が重いのも事実だ。知り得た全てを包み隠さず打ち明ければこの気持ちも多少は晴れるのかもしれないんだけど・・・



「お帰りアネット それで薪割りの仕事はどうだった?」


「え? 薪割り? あっ! あぁ~・・ それがその・・・ 残念だけど間に合ってたみたい」


「ふぅ~ん そうなんだ 私もね アネットが中々帰ってこないから 薪割り場に行ったんだ そこでモーリスさんと会ったんだけどアネットは来てないって言われたんだ で? 本当はどこに行ってたの?」


「え えっと・・・ その・・・ ごめんなさい実は領主様の別邸に行ってました」


「はぁ~!? 何でそんな事をちょっとお友達に会いに行ってきますみたいな感覚でするのよ! 確かテオテリカでは追い出されたのよね 信じらんない!」


「だからだよ 多分普通に面会したんじゃ話をはぐらかされたかもしれないし」


「普通って・・・ ねぇちょっと何してきたの・・・」


「えぇと・・ 渦中の貴族と思われる人物がちょうど来てたようなので ちょっと忍び込んで会話を盗み聞きしてました」


「ばかーーーーーーー! 捕まったらどうするつもりだったのよーーー! 何考えてるの!?」


「お 落ち着いてマルティナ 収穫はあったんだ それに領主様にもちゃんと会えたよ? 話もした それで その事とかこれから事とかをミストリアも交えて話し合いたいんだ」


「・・・・・いいわ 今はそう言う事にしといてあげる でもそれが終わったら説教の続きだからねっ!」


「・・・・・・はい」





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