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100・領主の別邸

前回のあらすじ


貴族の私兵のやり口に影響を受けたアネットは、中々仕事にありつけない中、偶然にも木こりのモーリスと出くわした。そこで薪割りの手伝いをする事になったのだが、入り口付近で冒険者と貴族の私兵の言い争いを耳にするのだった。


 薪割り場の一件から数日。ギルドホールで聞き耳をたてて情報を集めた結果。いよいよ領主様が来る話が信憑性を帯び始めた。それによって冒険者達の息も上がってきたけど、私兵達が余裕を崩さないのがどうにも気になった。


 貴族は時として突拍子もない事をしでかすのは身をもって知っているので、冒険者も僕も気が抜けないのである。イザコザは続くよどこまでも。領主様の御下知が下されるまでは平行線と言う訳だ。


 それでも時間が経つにつれ物事はあれよあれよと進んでいってしまう。最初は単なる噂話も次第に形が見始めていくも。つまりは領主様のハルメリー訪問の正式な日時が発表されたのだ。これでようやくこの町も落ち着きを取り戻すのだろう。


 僕の得た情報によると領主様はハルメリーにある貴族街の別邸に滞在なされるそうだ。大勢のお供を連れるのではなく少数で、大佐の処遇と今後の方針を伝えて早めに引き上げるらしい。


 なぜ領主様の動向に詳しいのかと言うと、意を決してランドルフ(ギルド長)さんにミストリアの事を相談した時に聞かされた情報だからだ。一通り話を聞いた彼はそれとなく言葉を漏らし、僕が「ちょっと行ってみたい」なんて言うと「冒険者として地理に詳しくなくては」と言う名目で馬車まで出してくれると言う。


 ミストリアが家を追い出された件をランドルフさんも重く受け取ったみたいだ。問題はその時にミストリアを連れていくべきかどうかなんだけど・・・



「マルティナ これからモーリスさんの所に行ってくるよ また薪割りの仕事が無いかちょっと聞いてくる」


「そう? 私も行こうか?」


「大丈夫だよ 表の小道も片付いたし むしろ前より広くなって歩きやすいくらいだ」



 良くしてくれる彼女に嘘をつくのは申し訳ないけど、極秘と言う事で僕の行動を誰にも教える訳にはいかなかった。結局当日までミストリアを連れてくかウジウジ悩んだけど、公爵家の事情を知らないまま彼女を引き合わせるのはよろしくないと言う結論に至り、僕は皆に気取られないよういそいそとギルドに向かう事にした。







 ギルドに到着するとそのまま裏手にまわされた。そこには多分大型だろう馬車が用意されている。言われるがままに乗り込むと、そこには複数の冒険者だろうか。やや窮屈そうに座っていた。



「あの・・・ あなた方は?」


「おう 俺達はお前の護衛だ 事情はギルド長から聞いている」


「護衛? 確かにこれから向かうのは貴族街ですが・・・ちょっと大袈裟過ぎません?」


「どうかな 最近の私兵は見境が無くなってるし 何よりギルド長はそう思ってねぇ この馬車にしたって商人のものだ それくらい警戒してるって事だ」


「そう・・ですか ランドルフさんはバウゼン伯爵と会った時に何かを感じ取ったのかもしれませんね」


「バウゼン・・・奴か だったらなおの事警戒するにこした事はない お前が盲目の冒険者なんだろ? だったらバウゼンには近付かない事だ 貴族は総じてマイナス等級を嫌ってるからな どう言うちょっかいを掛けてくるのか分かったものじゃねぇ 奴にとってはちょっとした事でも こっちにしてみればいい迷惑だからな」



 彼も冒険者の端くれ。貴族には思うところがあるのだろう。護衛の冒険者達と軽い挨拶を交わし馬車は町を抜け長い道のりを貴族街へと向けて進んでいった。しばらくすると速度が下がりゆっくりと左折する。別邸は比較的外側にあるのか馬車はゆっくりと止まった。



「おい どうした」


「タイミングが悪い 領主の家の門の手前に馬車が止まってるんだが その家紋がバウゼンのものだ」



 冒険者の呼び掛けに前の小窓を少し開けた一人が答えた。上級貴族に挨拶しに来る事は何の不思議もないけれど、それがバウゼン伯爵ともなると目を細めてしまうのは仕方ない。



「それで? ここまで来た訳だが これからどうするんだ?」



 どうする・・・僕は単純に「会えないかな」程度にしか考えてなかったけど、まさか当日になって冒険者の護衛が数名つけられるとは思っても見なかった。つまりは大事になるとは思わなかった。でもランドルフさんがここまでするって事は「会ってこい」と暗に言ってるのと同じだよね。



「すいません 僕はここで降ります」


「ここでって・・ どうするつもりだ そのまま乗り込むのか? 一応ギルドからの挨拶って体で職員と会いに行く手筈だろ」


「いえ 乗り込むのではなく忍び込みます だって領主様とバウゼン伯爵が何を話しているのか 気になりませんか?」


「そりゃ・・・ そうだが 無謀だ お前は目が見えないのだろう?」


「ただ見えないだけなら 僕は冒険者にはなっていません それに耳は結構良いんですよ?」



 それだけ言い残すと冒険者達の制止も聞かずに僕は馬車から降りた。後ろから囁くように呼び戻す声が聞こえるけどもう遅い。そのまま敷地のフェンスまで急いだ。伯爵の馬車があるって事は門に近い場所の筈。そこには背の高い植物が植えられていて僕の姿を隠してくれる筈だ。


 オマケに貴族街は町の大通りのように人でごった返してはいない。むしろ「閑静な」と言う言葉がピッタなり程人の往来が無いのだ。お陰で僕みたいな怪しい人物が比較的簡単に近付けたりする。



「盲目さん 僕達に誰か意識を向けていないか見張りをお願い」

『分かった~』



 このままフェンスを登る。さすがに無謀だろうか。でも大丈夫と信じてる。だって長距離狙撃主の意識を“盲目さん”は遠距離から察知できたんだ。誰かが僕達に気付けばその意識をすかさずキャッチしてくれる。


 幸いな事に“盲目さん”からの注意はない。第一関門のフェンスはこれでクリア。お次は屋敷までの道のりだ。別邸とは言え公爵家ともなればここもそれなりだったりする。それなりと言うのは広さも然る事ながら庭園も設えてあると言う事。つまりは絶好の隠れスポットが存在してる事になる。有難い。


 普段であるなら管理してる人が手入れなんかをしてるんだろうけど、館の主が来ている今、そんな事をする筈もない。なので聞こえてくるのは100パーセント自然の音色だけ。


 でもそんな楽園もいつまでも続かない。次からいよいよ本番だ。



「さて どうするか・・・」



 都合よく窓でも開いててくれればいいんだけど。でも僕ではそれを確認しようがない。友達に会いに行く感覚で扉をノックすれば入れてもらえるだろうか。それはないない。そう言えば・・・


 屋敷の出入り口と思しき場所から人が往復する足音が聞こえている。それは重い音なのでたぶん大きな物を出し入れしてると思われる。その際に扉の開け閉めする音が聞こえてこない。つまりは開きっぱなし・・・これはツイてる。


 更に幸運な事にその持ってるものは大切な物らしく運び手はかなり神経を使ってる点だ。落としたら割れる花瓶とかだろうか。ともあれ壊れ物に集中してる人の後をこっそりつけて、まんまと屋敷に侵入する事に成功した。


 僕は急いで頭の中の地図を開くと玄関ホールの中央に位置する登り階段の陰に身を潜めた。なぜ屋敷の中の地図を頭に持ってるかと言うと、ランドルフさんと話をした時に屋敷内部の間取りを事細かく叩き込まれたからだったりする。


 個人的に目の不自由な僕に対する親切心だと信じたい・・・


 そう言う訳で人の足音に注意しつつ隠れられる場所を描きながら領主様のいる部屋まで慎重に進む事にした。


 地図によると廊下の柱はちょうど人が隠れられる程のサイズがあるようだ。実際触って確かめてみると情報通り。逆に言えば筒抜けと言う事にもなるんだけど・・・ とは言え過信は禁物。そこは絶対見付からない場所ではない。


 近くにある部屋の扉に耳をつけて中の音に集中する。そして「コンッ」と一回軽く叩いてみた。


 ・・・・・・・無音。



『何も届かないよ~』



 音をたてるとか一見無謀かもしれないけどこれには理由がある。それは“盲目さん”のスキルだ。僕のと違って彼は意識自体を認識してるので近間であるなら扉越しにも意識をキャッチできるのだ。それが無いと言う事はここは空き室。隠れスポット1つ発見だ。


 僕は荷物を運ぶ人の後を追うとプツリと色が途絶えた。きっと曲がり角を曲がったんだろう。そこから聞こえる足音も変わった。階段を登る特有の音だ。領主様にお届け物だろうか? そのまま案内してくれると助かるんだけど。


 2階に到達。さて領主様はどの部屋に居るか。ランドルフさんによると各部屋は用途に合わせて設えてあるので変更は無いとの事。となるとバウゼン伯爵が来ている今なら応接室に居る筈だ。


 応接室はここから4部屋先。荷物持ちの人はどの部屋に用事なんだろうか。ドキドキしながら後を追っていると手前から別の足音が微かに聞こえ始めた。どうやら前方から別の誰かが来るらしい。このまま進むと鉢合わせる。急いで部屋の中に身を隠すか柱に隠れるか。


 悠長に選んでる暇はなさそうだ。僕は咄嗟に近くの部屋の中に入る事にした。当然慎重な確認などしていない。やっぱり無謀だったかな。でもその判断は間違いじゃなかった。幸い部屋は無人。前方から来ていた人も部屋を素通りしていく。



「・・・ ・・・ はぁ~~~~~」



 心臓に悪い。今になってドキドキしてきた。地図によると応接室2部屋先。僕は静かになった廊下を確かめ、隣の部屋の扉を「コン」してから忍び込んだ。人をあまり連れてきてないと言うのも本当のようで、屋敷は無人に近い状態だ。僕としては助かるんだけど逆に無防備過ぎない?


 さてさて件の部屋は隣の筈だけど、普通に壁に耳を押し当てても喋り声は聞こえない。なので部屋の窓をそっと開けて外から聞こえやしないかと試みた。それが正解だったのか大きくはないけれど会話らしき音が僕の耳まで届いてきた。どうやら向こうも窓を少し開けてるらしい。

 


「────・・─────・・」 


「・・────・・─────」



 間違いない。この声には覚えがある。1人はバウゼン伯爵ともう1人はベルリンド・コルティネリ公爵。


 ミストリアのお父さんだ。





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