005 桜ヶ丘結奈5
日曜日。わたしは、朝からエアコンの効いた室内で、ローテーブルに向っている。夏休み最大の落とし穴ともいうべき宿題を片づけるためだ。休暇を満喫するためにも、文化祭の準備に集中するためにも、早めにやっつけておくに越したことはない。
って、わたしは思っているんだけど、ルームメイトは、そうじゃないみたいだった。
「せんぱーい」
ぴとっと奏乃ちゃんのふくらはぎに足先が触れる。わたしよりも彼女の肌の方が冷たかった。
奏乃ちゃんの両足の間につかまえられて、おなかに手を回される。後ろから抱かれているようなかっこうになった。
「なにー?」
シャーペンを止めて聞き返す。奏乃ちゃんのおさげが肩に触れてこそばゆい。
「ひまです」
「うーん……わたしに言われてもね……。奏乃ちゃんも宿題やったら? 暇つぶしにはなるよ」
「そんな暇つぶしつまんないですよ。あたしはもっと楽しいことがしたいんですー」
つまんなくてもやらなきゃいけないものは仕方がない。
奏乃ちゃんも宿題は出ているだろうけど、まだこの部屋で机に向かっているのを一度も見かけていなかった。大丈夫なのかな。最終日に慌てるようなことにならなきゃいいんだけど……。
「どっかいきませんかー。どっか、そと」
「広すぎだよ……」
考えなしにこの部屋から出ると大変なことになる。太平洋側ということもあって、夏の昼間はかなり蒸し暑い。蒸発して帰ってこられなくなっちゃうかも。
「えーっと、じゃあ、なにか食べたいものある?」
「いまですか?」
「うん。いま」
ノートと問題集を閉じた。ちょうどいい。正午を回ったころだし。
奏乃ちゃんはわたしの腰から腕を離して、今度は自分のおなかをさすった。
「抹茶パフェ、とか?」
わたしはお昼ごはんのつもりで聞いたんだけど……。まぁいいや。
「抹茶パフェね……。じゃあ、カフェいこっか。おなかすいちゃった」