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さよなら、わたしのラプンツェル  作者: 新井すぐ
1 カロリーゼロ
3/41

003 桜ヶ丘結奈3

 「そういうわけで、ラプンツェルの映画を撮ることになったよ」


 カフェテリアのパスタをくるくる巻きながら、奏乃ちゃんがわたしの話にへー、とうなづく。わたしは冷やし天ぷらうどん。奏乃ちゃんの前には、大きめサイズのトマトクリームパスタと鶏の照り焼き。

 休みの日はよく一緒に晩ごはんを食べる。奏乃ちゃんはいつも数人前の食事をぺろっと平らげてしまうから、桜花寮ではちょっとした有名人だ。わたしはいっぱい食べる奏乃ちゃんを見るのが好きだった。


「ラプンツェルって、読んだことある?」

「映画見たついでに、読みましたよー」

 ほえー。ハナタカさんだ。マイナー童話なのに。


「ラプンツェルの王子さまって、あんまかっこよくないですよね」

「え? そう?」


 いいんちょが急いで印刷してきたラプンツェルを見ても、王子さまがかっこ悪いとは、別に思わなかったけど。


「だって、頼んでもないのによじ登ってきたかと思ったら、今度は自殺しちゃうんですよ?」

「……言われてみると、たしかに」


 白雪姫やシンデレラの王子さまは、お姫さまの命を助けたり、探して救い出したりしてくれるけど、ラプンツェルの王子さまはその前に自殺しようとしてしまう。結局自殺は失敗しちゃったけど、王子さまにしてはメンタルが弱いかも。


「ふふ。まあでも、先輩たちの作品なら、見に行きます」

「ありがと」

 自分たちが作ったものを知っている人に見られるのは、ちょっと面はゆいものがある。奏乃ちゃんが来るって言うなら、わたしも彼女たちの出し物を見たい。


「奏乃ちゃんたちのクラスは?」

「お化け屋敷ですよー」


 そう言って、奏乃ちゃんはこぼれるくらいシルバーに巻き付けたパスタをひとくちで食べてしまう。フードファイターみたいだ。


 お化け屋敷かあ……。

 わたしが何とも言えない表情をしているのに気付いたのか、意地悪な笑みを浮かべた。


「もしかして、先輩、お化け怖いんですか?」

「べ、べつに(こわ)ないし!」

「えーほんとですかー? 今度、夜中にトイレついてきてーって言っても、ついて行ってあげませんよ?」

「そんなこと言った覚えないよ!?」


 お化けが怖いというか……お化けも怖いんだけど、人がお化けになって驚かせてくるのはもっと怖い。わたしがびっくりするように出てくるから、びっくりするに決まっている。


 いくら奏乃ちゃんのクラスとはいえ、お化け屋敷はなあ、と少し迷う。


「……もし行けたら行くよ」

「それ来ないやつじゃないですか! あ、そうだ、じゃあ前売り交換しときましょ? そうしたら、先輩も来てくれますよね」

「えー……」


 退路を塞がれてしまった。

 でも、奏乃ちゃんもお化けの役をするなら、絶対見たい。仮装しているだろうから、奏乃ちゃんだって分かるかは微妙だけど。

 それに後輩の作品を見に行くのは、先輩としての義務でもある。わたしもたまには先輩っぽいことをするのだ。


「奏乃ちゃんもお化け役するの?」

「しますよー」

「うーん……。じゃあ、前売りもらったら一枚は奏乃ちゃんに渡すね」


 誰かと一緒に入れば、怖さも半減する、と思う。奏乃ちゃんもシフトじゃない時があるだろうから、ついてきてもらってもいいかも。

 でもそれじゃ、奏乃ちゃんのお化けが見られなくなってしまう。それはもったいない。


「やった」

 まあ……ルームメイトの後輩のためなら、ちょっとくらい怖い思いをしてもいいかな、とか、思わなくもなかった。

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