020 ラプンツェル3
次の日、王子さまは、プロポーズの返事を聞くために、ラプンツェルのいる塔へと向かいました。
「ラプンツェル、髪を下ろしてくれ」
王子さまは、いつもの通り、黄金色の髪の毛を辿って塔を上りました。しかし、その先には、もうあの美しい少女はいませんでした。かわりに、若い魔女が、あの含んだような笑みをたたえて待っていました。魔女は王子さまをおびき寄せるため、切り取ったラプンツェルの髪を梁にくくりつけたのです。
「ラプンツェルはどこにいる?」
王子さまが尋ねると、魔女はひとしきりあざわらってから、のんびりとした口調で言いました。
「きみはあのかわいい娘を連れに来たのかい? けれど、あの小鳥は、もう巣の中で歌ってはいないよ。あれは、猫がさらっていってしまったのさ。もうきみのものではないんだよ。きみは、もう二度と彼女に会うことはできない」
王子さまは、膝をついて崩れ落ちてしまいました。彼にはもう、彼女の美しい歌声を聞くことも、彼女とことばを交わすこともできません。なぜなら、魔女が連れ去ってしまったから……。
「なんということだ……」
王子さまはさめざめと涙を流しながら嘆きました。そんな彼の耳元で、魔女がささやきました。
──気をつけたまえ。今度は、猫がきみの目玉をかきむしってしまうよ。
王子さまは、塔の上の大きく開いた窓からその身を投げてしまいました。悲しみのあまり、生きる意味を見出せなくなってしまったのです。
幸い、彼は一命をとりとめましたが、落ちた時にいばらが目をひっかいて、視力を失ってしまいました。
盲目となった王子さまは、それから、来る日も来る日も真っ暗な森の中をさ迷い歩きました。木の根や草の実を食べて、なんとか命をつなぎながら、ラプンツェルのことを思い続けました。美しい歌声や、金色に輝く長い髪を思い出しては、悲嘆に暮れるのでした。
そうして、途方もない年月が過ぎていきました。彼は、もう一つの国の王子さまだと思えないほどにやせ衰え、身なりもぼろぼろになっていました。
それでも、あてどなく歩き続けました。森を抜け、水辺をわたり、ふたたび森を抜けると、やがて乾いた土地にたどり着きました。
すると、彼の耳に可憐な歌声が聞こえてきたのです。聞き間違えるはずもない、あのかわいい姫の歌声でした。
「ラプンツェル! 君なのか!」
歌声の少女は、誘われるようにして歩いてきた王子さまを見つけ、駆け寄り、抱きしめました。
「ええ、王子さま! わたし、ラプンツェルよ!」
彼女の瞳からは、喜びの涙が溢れました。そのしずくが王子さまの閉じたまぶたに落ちると、たちまち彼の目にふたたび光が舞い戻ったのです。
国に戻ったふたりは、ひとびとにたいへん祝福されました。それから、王と王女となり、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
さて、あの若く恐ろしい魔女はどこへ行ったのでしょう。それを知る者は、誰もいません。