011 桜ヶ丘結奈11
冷房の温度をいつもより低めにして、二段ベッドの上に入る。何のためらいもなく、奏乃ちゃんがはしごを上ってくる。
「……まくらは?」
「一緒に使いましょうよ」
「使わないよ!」
冗談ですって、と言いながら、奏乃ちゃんは水玉模様のまくらをわたしのと並べて置いた。わたしのベッドにはない、ベイビーブルーの彩りが加わる。
慣れない二人分の重みに、脚が少しきしんだ。大丈夫かな。一緒に寝るにしても、下のほうがよかったかもしれない。……いや、それだと、また奏乃ちゃんのベッドで寝ることになっちゃうから、ダメだ。
奏乃ちゃんがリモコンで照明を落とす。ふたりで布団に入っても、暑苦しいってことはない。いったい、奏乃ちゃんのからだのどこに、あの量の食べものが消えてしまうんだろう。
向かい合って寝るわけにもいかないので、壁のほうを向いて目を閉じた。
「……おやすみ」
「おやすみですー」
何も見えないせいで、奏乃ちゃんの匂いや息づかいを近くに感じる。華やかで、でもちょっと苦いきんもくせいの匂い。わたしよりもゆっくりした呼吸の音。
奏乃ちゃんが寝返りを打って、わたしのおなかに手を回す。抱きつかれるようなかっこうになっても、あんまりびっくりしなかった。
やわらかい奏乃ちゃんのからだを背中じゅうに感じる。意識も感覚も、とろけていく。久しぶりに心地よい眠りに落ちそうになって、まだいけない、と重いまぶたを持ち上げた。
……わたしも、気づかないほどバカじゃない。
奏乃ちゃんがいきなりあんなことを言い出したのは、わたしのためなんだ。
奏乃ちゃんは、わたしがここのところよく眠れていないのを知っている。自分が明日から寮にいなくなるのにも負い目を感じているかもしれない。わたしが部屋にひとりだと、よけいに眠れなくなるんじゃないか、なんていうふうに。
だから、奏乃ちゃんなりに考えてくれたんだろう。わたしの不安を取り除いて、不眠を解消してしまう方法を。それが、一緒に寝るってことだった。
そして、奏乃ちゃんは、わたしのためだって気づかれないように、自分のわがままっていう形で取りつくろおうとした。
……後輩に心配かけて、しかもこんなことまでさせてしまうなんて、ほんとに情けない。
「……起きてる?」
「起きてますよー」
わたしには、奏乃ちゃんのために、何か行動してお礼することなんてできない。それでも、ことばくらいなら。
「……ありがと」
言うと、奏乃ちゃんの息が乱れる。おなかに回された手がこわばった。
……やっぱり、そうなんだ。
「なに誤解してるのか知らないですけど、あたしはお礼されるようなことなんて、ひとつも……」
ふーん。そういうこと言っちゃうんだ。ならいいけど。
奏乃ちゃんのからだに背中を押し付ける。
「………」
無言の要求にこたえるように、奏乃ちゃんの腕に力がこもる。
眠りたくない気がした。
眠らないまま、ずっと明日が来なければいいのに。