タイトル【主人公の誕生日】
「アッハッハ面白い顔してるなぁ、君。話に聞いていたよりもずっと楽しませてくれそうだけれど、あぁ僕が誰かって?なになに、名乗るほどのモノじゃあないさ。いまこの瞬間君が見ているのは夢にすぎない!夢にしてはやけにリアリティのある夢だって?だって現実だもの!俺が君と今話をしている!それだけでいいんだよ!……やけに名前を聞きたがるなぁ、しょうがない。私はA。一人称?うーん、じゃあ僕にするよ。そっちの方が話しやすいでしょ?君の本質にも近いでしょ?では改めましてはじめまして。とある君に依頼を受けて君を誘拐しにきましたぁ!あぁ、僕以外の人間の見分けがつかないから全部君なんだけれど、いやそれだったら君が見つけられてるのはおかしいかな?うん、どうでもいいね!」
僕は声が出なかった。
「と言うわけで他の君たちに感づかれる前に、とっとと君をここから連れ出して綺麗さっぱり面倒ごとをなくしたいわけよ!君はもう十分成長した。依頼を受けた君に言われた期限も近い。僕が僕や俺や私でなくなるときも近い!期限っていうのは面倒だよね!守るなんてそんなことしたくないけれど、これは仕方がないね!けど、その顔は面白いけれど僕は嫌いだな」
この人が言う顔が分からない。
「そうだ!好き嫌いは置いといて君は行きたいところとかある?誘拐した後のことは特に聞いてないから別に放置でもいいんだけれどそれじゃあ後味が悪いし、まぁ忘れれば済むけれど!忘れて済むならこんな面倒な依頼なんて受けてないしね!」
僕が行きたいところ?
あるわけがない。
「んで?僕がAと名乗ったのなら君も名乗るべきだろう?それとも喋れないとか戯言を吐くつもりかな?あ、吐けないか、喋れないからね!それめっちゃ面白い!さすが“自動人形”!!君には人を笑わせる才能があるよ!」
そうだ僕は、
「そんな君にぴったりの命令だ!!【声を出せ】」
「ぁ…」
声が出る。出すのなんて、生まれて初めてだ。この人はなんなのだろう?
「君の名前は?」
「なま、えは、ない」
「……不便!!!!!何?!名前もないくせして僕に名乗らせたの??君の心すご過ぎじゃない?!」
「こ、ころ、?」
「だって君は“自動人形”である前に、“名無しのオートマタ”である前に、人間じゃないか!!」
あぁ、そうか、僕は人間なのか。
ここは、どこだろう、怖いなぁ。
「さてと!君に名前がないのなら僕がつけてあげよう!……めんどくさいから赤ね!!ほら、言ってみ?」
「あか、」
「よろしいでしょう!!」
体が浮いた。
僕は赤。
赤って何だろう。
なんでもいいか。
この人は僕を持ってどこに行くんだろう。
周りがうるさいな。
「勘付かれたねぇ。仕方ない。適当なところに落とすから君は自由に生きてみなよ!!!君は僕のお気に入りとして特別に覚えておいてあげるからさ!!」
髪が勝手に揺れた。
天井が眩しい。色んなものがキラキラしてる。
僕は赤。
僕は人間?心がある?
はじめまして。世界。今日からよろしく。