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4.港町リーヴァエラ

「……ここが、港町リーヴァエラか……」


 歩き詰めの足が熱を持ち、慣れないブーツにかかとが痛くなってきた頃、俺はその町に到着した。

 町を取り囲むのは、人の二、三人分はあるだろう高さの壁だ。石造りの立派なもので、大きな川を迎え入れる水路と、農民たちが朝に出てくるのだろう門が取り付けられている。門番は居ないようだ。

 見張りも居ないなんて不用心だな、と思いつつ、畑を抜けて門をくぐろうとすると、


「ああ、アンタ待ちなさいな。どっから来たのか知らないけど、こっちはこの町の人間専用だよ。ここから入ったってロクな店もありゃしないし、素直に正門からお入んなさい」


 という女性の声が、畑の方から聞こえた。どうやら、この恰幅の良い女性はしゃがんで作業をしていたみたいだ。通りで人の姿が見えないと思った。ここの人達はしゃがんで農作業をしていたようだから、丈の高い草に紛れて見えなかったんだろう。


「これはどうも、すみません。正門ってどちらですか?」


「どちらって、アンタねぇ……普通に、どっちからでも行ったら良いじゃないか。この町に続く道なんて二つしか無いんだから、どちらもあちらもありゃしないだろうに」


 そう言うと、女性は畑仕事に戻って行く。……まあ、ここは素直に正門とやらから行くのが賢明だろう。どっちからでも行けるらしいしな。それに、別にここから入る事にこだわってるわけじゃないし。


 ともかく、俺は町の壁に沿って、川から見た左側に歩いて行った。流石に壁の周辺は畑も無く、もともとの地質であろう草原が広がっていて歩きやすい。肩のフィーは鼻歌だかなんだか良く分からないものをご機嫌に奏でているし、見知らぬ農民に声を掛けられる事もない。実に平和なものだった。


「……そういえば、なんでこんなに大きな壁を作ってるんだろうな」


 歩きながら、ふと疑問が湧いた。こんなに見晴らしの良い草原(と言っても、そこそこある丘や窪地のおかげで凹凸はそれなりにあるし、隠れようと思えば隠れられるだろうが)に、果たしてここまで立派な壁を築く意味があるのだろうか……


「……魔導書にあった、”狂獣(きょうじゅう)”って奴の対策とか? あるいは、単に権力や財力の象徴かな」


 ……あまり考えても仕方ないか。案外、単純な理由かもしれないし。というか必要なければ作らないだろうから、それなりの理由があるんだろう。素人には分からないが。町の中でなら何か分かるかもしれないな。







「……今度こそ、やっとリーヴァエラか……」


 とても、とても疲れた声で俺は独り言を吐き出す。町の中には様々な露店が並んでいた。絨毯に商品を並べた簡単な露店から、不思議な模様の垂れ幕を持った木製の店舗。通りを歩く人々は、黒髪黒目、黒い肌にベールを付けたエキゾチックな美人や、二足歩行の獣みたいな戦士、貴族のように豪奢な服を纏ったイケメンなど、これまた多種多様だ。


 俺は、そんな混沌とした通りを、いくつもの呼び声と人波に流されながら歩いていた。何語か分からない、謎のビンを手にした老婆の大声。香ばしい香りを振り撒きながら声を張り上げる屋台の店主。こうも騒がしいと歩くだけで疲れてしまうが、俺がヘトヘトなのはその理由だけではない。


 正門の方は、裏門と大違いの厳しい警備で、入国待ちのながーい列に並んだ挙句、ポケットの中身を全てひっくり返す羽目になったのだ。ローブの隠しポケットは数え切れず、自分でも覚えてない数の素材を適当に突っ込んだから、どれがどんなものかを判別して説明するのは酷く大変な作業だった。のんきにはしゃいで飛び回っているフィーが羨ましい。


「あんまり遠くまで行って迷子になるなよー……」


 まるで疲れた親がはしゃぎ回る子供に言うようなセリフだな、と言ってから思う。実際そんなに間違ってないかもしれないが。

 しかし、フィーが夢中になって辺りを回るのも分かる。町の中は驚くほど賑やかで、串焼き肉を売るおっちゃん、怪しげな効果を謳うアクセサリー商、神秘的な仮面を身に付けよく分からないものを売る人などなど、どれも興味深くて面白そうだ。疲れてなければ俺も一緒になって見て回っていただろう。新鮮だし物珍しい。なにせ、現実ではこんなファンタジーな場所なんて来たこと無いし、海外に行った事も無く、国内旅行の経験も大してないからな。


 特にあの魔術店とかいうのが怪しい。魔術に使う素材だと言って並べているのは、干からびた獣の死体や、赤と茶色のひもに色付きの石を挟んで作られた民族品らしき輪っか、毒々しい緑色や鮮やか過ぎる黄色をした粉末などだ。どんな風に使うのかとても気になる。もし魔術に使うなら、アレがこうなって、ここをこうして……などと考えながら、しばらく目を奪われる。そして何気なく顔を上げると、フィーが見つからない。


「おーい、離れるなって。ほら、戻ってこい」


 目を離していた隙に、フィーは手の届かない所まで行ってしまっていた。それでも、呼び止めればちゃんと戻って来る。渋々ながらといった感じだが。

 改めて肩に止まったフィーはなんとも不満そうな顔で、一人でも行動できるのに、という気持ちをありありと込めて俺の頬を突っついてくる。


「いや、お前ならこう、魔力とかなんとかで探って俺を見つけられるのかもしれんが、俺はお前を探せないからな。ここは一つ、俺のためと思って一緒に動いてくれないか? ちょっと宿かなんかで休んだら観光に付き合うからさ」


 そう説得すれば、仕方ないなー、みたいなドヤ顔でふんぞり返るのだった。人の肩の上でやってもあまり説得力が無いと思うんだが。……というか、今のは適当に言っただけなんだが、本当に俺を発見できる能力があるのか? 水晶の森で、前に一度会っただけの俺を見つけた事から、何かしらの知覚能力はありそうだが……ま、離れ離れになってまで確かめる必要はないか。聞けたらそれで良いんだが、フィーが話せるのかも良く分からんし。


「ふう……さて、じゃあ宿屋の場所でも聞いて、あと仕事も探さないと」


 さて、いつまでもだらけていては仕方がないし、行動するとしよう。宿屋と仕事、あとは今の持ち物を換金できるとなお良い。もろもろを考えると、やはり露店の人に聞くのが一番か。地元の人間であれば更にグッドだ。


 そういった視点で露店を見て歩くと、少しして丁度良さそうな店が見つかった。地元、つまりここで採れた魚が自慢だというサンドイッチ? の屋台だ。前掛けを付けた青年が、網の上に魚の切り身を置いてジュウジュウとやっている。傍らのパンの山から切れ込みの入ったパンを取り出し、慣れた手つきで野菜と魚を挟むと、茶色いソースをさっと掛けてこちらに突き出し、


「へい兄ちゃん! この町自慢の魚を使ったパニーニだよ! 1個2リエル! 昼の腹ごしらえに一つどうだい?」


 ……俺に言ってるのか? そんなにじっと見てただろうか。いや、フィーがガン見してたのかな。


「えっと……じゃあ一つ、じゃなかった二つください。ちょっと手持ちが心もとないんですけど、これで交換できますか?」


 そう言いながら、ポケットに手を突っ込んで安い水晶を取り出す。透明度も低いし、カットも粗雑な安物だ。見るだけなら綺麗で良いが、魔術にはあまり使えない宝石で、町の門で確認した時から換金用にしようと思っていた奴だ。


「おお! こいつは水晶か。ああ、足りる足りる、そんな心配そうな顔すんなって。これなら釣りが出るくらいだ。ちょいと待っとくれよ、今ざっくり見るから」


「あ、はい、お願いします」


 しばらくして、屋台裏から銀貨を2枚と銅貨を4枚、そして焼き網の脇からパニーニとかいうサンドイッチを持ってくると、両方ともこちらに渡してくれる。


「ほい、この宝石がだいたい30リエル、パニーニが二個で4リエル、換金手数料で2リエル、占めて 釣りが24リエルってとこだ! キリの良い数字に変えちまったし、素人目だから多少安くなっちまったかもしれんが、文句があるなら本職に頼んでくれよ」


「いえいえ、ありがとうございます」


 俺はコインをポケットにしまい、パンを受け取りながら訪ねる。


「あと、一つ聞きたいんですけど、この町でオススメの、できれば安い宿屋ってどこにありますか? あと、流れ者でもできるような仕事ってありませんか?」


 屋台の青年は少し驚いたような顔をする。これは変な行動なのだろうか……? 常識が分からないというのはつくづく厄介だな。


「ほーう……兄ちゃん、旅人かい? 俺はてっきり、魔術師の弟子が師匠の目を盗んで遊びに来たのかなんかだと思ってたんだが……」


 ……なるほど? つまり、今の俺が魔術師の弟子に見えるから、宿の場所なんかを聞くのはおかしいと思ったのか。どうおかしいのかは良く分からないが。子供っぽく見えるって事か?


「まあ、間違ってはないですね。魔術が使えるのは確かです。師匠とかはいないですけど」


 未熟な魔術師だという点ではあながち間違ってもないし、似たようなもんだろう。師匠は(ふところ)の魔術書だが。


「ふん? ま、良いや。宿屋だったな。それならまず、この通りをずっと行って、町の中心にある広場まで行くと良い。そこからなら、宿屋通りまでの道もすぐに分かるだろ。相場は、そうだなぁ、だいたい一泊が15リエルってとこか? あまり高い宿に泊まりたくないってんなら、中心の広場から北の方向、この道から見て右か。その辺の道に入ってずっと行けば、おんぼろ宿やインチキ(ぐすり)、信頼もできねぇ魔術だか呪術だかの道具がひしめく通りに出る。そこなら一泊5リエルもかからんぜ。……治安は保障できねぇんだけどな」


 うーん……15か。高いのか安いのかあまり分からないな。しかし治安の悪い所はちょっと止めたほうが良さそうだしなぁ。えーっと、パンのような食べ物一個が2リエルだから? うーん……1リエルが100円くらいで良いのかな。物価とか大分違いそうだけど。

 しかし、桁が小さくて不便な単位だ。150円くらいの物も200円か100円の物扱いになるんだから。もっと細かい方が使い易いだろうに……まあ良いや。


「そうなんですか、ありがとうございます。……あと、さっきも言ったんですけど、仕事とかってあります? できれば肉体労働じゃない感じのものが良いんですけど」


「はっはっは、兄ちゃん、見るからに運動なんかできそうにねぇからな。もっと肉付けたが良いぞ、骨みたいだぜ? しかし、仕事かぁ……ふむ……造船の手伝いとか、船の漕ぎ手とか、人手の居る奴はもう余るくらいあるんだけどな……そうだな、兄ちゃん、魔術師なんだろ? なら、冒険者の宿に行くと良いんじゃないか? この町は大きいからな。依頼もたっぷりあるだろう」


 ……冒険者の宿? ゲームに良くある冒険者ギルドみたいな感じの施設だろうか。というかそもそも冒険者ってのが居るのか。


「そうですね、じゃあちょっと高い方の宿に行って見る事にします。どうもありがとうございました」


「おう、じゃあまたなっと」


 俺はそこで会話を打ち切り、パンを持って人混みの中に戻って行った。先程まで火の近くにあったからか、パン自体がほかほかと熱を持っている。俺は歩きながら、パンのうち一つを肩のフィーに渡し、もう一つを口に運ぶ。

 喋らずに黙々と口を動かしていると、暇になった頭が無駄に思考をし始めた。そう言えば、このパン料理はパニーニという名前だったか。詳しくは分からないけど、現実の方で聞いた事がある。しかし、この世界にたまたま同じ名前の料理があるというのはどうにも納得しづらい。ここが夢の世界だから、記憶の奥にある名前をとってるのか? いやいや、そもそもここって本当に夢の世界なのか? というか、なんで言語が分かるんだっけ? ……ああ、言葉が分かるのは魔導書を初めて読んだ時に脳へ焼き付けられたからか。いやそうじゃなく、重要なのはこの世界がなんなのかという事で、いやそんなに重要か? 夢だろうと本当の異世界だろうと、どうにかして帰るには変わりないんだし。いや重要だろう。夢だったら起きるだけだが、本当の異世界なら帰る方法がどうなるか──


 適当に思考を巡らせているうち、気づけば手の中は空になっていた。ちょっと勿体なかったな、と思う。フルーティーなソースとか、こんがり焼かれた魚とか、結構旨かったように思えるんだが。うっすらとした記憶しかない。


「……なあ、フィー。もし余ってたら一口分けてくれたりしないか?」


 返答は頬に向かって気合の入ったキックだった。お前の胃袋は異次元か何かか。







「いらっしゃいませー! "(ふくろう)の瞳"亭へようこそ! お泊りですか? お食事ですか? お食事は向こうの酒場でどうぞ!」


「あー……えーっと、泊まりでお願いします。名前は喫夏です」


 宿屋は木造の立派な造りで、入ってすぐの正面にはポニーテールの女の子がカウンター越しに立ち、左手には隣り合った酒場に続くだろう扉がある。右の方には、二階に続く階段と、奥の部屋に続くだろう扉が取り付けられているようだ。明るいベージュ色の木で造られた内装は、なんとなく温かみを感じさせるようで、少し落ち着いた気分になった。カウンターの奥の壁、天井の近くに取り付けられているのはこの宿のシンボルだろうか。フクロウの羽を円形に並べ、その中にフクロウの顔を半分だけ掘ったような図柄だ。ちょっとユーモラスだな。


 俺の言葉を聞いた女の子は、茶髪を揺らしながら、羽ペンで台帳に何か記入し、こちらに質問してくる。


「はいはーい、キッカさんですね。大部屋が10リエル、個室が30リエルになりますがどちらにします? 料金は先払いですけど」


「えっと、大部屋でお願いします」


 そう言いながら俺は銀貨を1枚カウンターに出す。多分これで合ってるよな?


「はいなー」


 少女は料金を回収すると、カウンターの引き出しから銅のタグみたいなものを取り出し、こっちに渡してくる。


「はーい。じゃあこれどうぞー。この識別証に書かれてる番号……お客さん、数字は分かりますよね? まあ、分かんなくても良いんですけど。とりあえず、この番号に書かれてる一階の大部屋に入ってください。二階は個室なんで入らないでくださいね。大部屋に入ったら、部屋の棚に布団とか枕とかあるんで、まあ、適当にやってください。あ、あと明日の朝にこの札回収するんで、無くさないようにしてください。無くした場合は1000リエルの罰金ですから、お気を付けをー」


「は、はい」


 テキパキとこちらに説明する少女。やっぱり慣れてるんだろうな、と思わせる手際だ。


「で、受け付けは夕方になったら閉めるんで、それまでに宿には入ってくださいよ。まあちょっと遅れたくらいなら開けますけど、めんどくさいんで」


「あ、はい、分かりました。どうも……あ、そうだ、冒険者の宿ってどこにあるのか教えて貰えませんか?」


「いいですよー」


 少女は快諾し、道順を丁寧に説明し始めた。







 木製の扉をガチャリと開けると、若干薄暗い店内に、いくつもの丸テーブルと切り株のような椅子がある。店内の調度品や床、天井などは全て黒く艶めいた木で作られており、なんだか夜っぽい雰囲気を感じた。奥の方には、厳つい大柄なおっさんが、何かを熱心に読みながらカウンターに座っている。カウンターの裏には酒樽(恐らく)やビンの詰まった棚が並んでいて、ちょっと高級そうな感じが漂っていた。

 店内には人気が無く、がらんとしている。俺がしばらく周囲を見ていると、大柄なおっさんが顔を上げ、こっちを見て少し眉をひそめながらこう言った。


「なんだぁ? 坊主。ここはお前みたいなガキンチョが来るような場所じゃないぞ。ここは冒険者の宿。血生臭いおっさんや、明日の金に困る貧乏人の溜まり場だ」


「えーっと……何か、自分にもできる依頼がないかな、と思いまして……」


 おっさんは途中まで聞いた時点で目線を下に戻す。


「おう、そういうのはもうちょっと育ってから来い。お前さんみたいな子供だったら、孤児院か協会にでも行ったらどうだ? 家事かなんかでも手伝えば、菓子やパンが貰えるだろうよ」


 完全に馬鹿にした様子である。これには流石に少しイラっと来た。


「いや、あの、自分、魔術師なんです! ちょっと旅の路銀を稼ぎたいので、何かできる仕事でも無いかと思って来たんですが。虫除け、病の治療、傷の回復、大体の事はできますよ」


 俺の言葉を聞いたおっさんが少し視線を上げ、疑わしそうな目でこっちを見る。……大体の事って言うのはちょっと盛り過ぎかもしれないが、本当に大体の事はできるのだ。……素材と魔力が足りれば。


「ほーん……まあ、坊主が仮に魔術師だったとしてだ。虫除けは悪いが馴染みの薬屋がいるんで間に合ってる。病はウチの扱う領分じゃないし、傷の治療はそれこそ協会にでも行ったら良い。以上だ」


 ……くそっ、駄目か。正直なにも言い返せない。こうなったら薬屋に直接売り込みに行ったり、怪我してる人を見つけて薬を売りつけるとかしかないか?


 考え込む俺を見て、おっさんが溜息をつく。


「……あのなぁ。これは親切心から言うが、はっきり言ってお前が薬を売ろうとしたり、魔術を売りに出そうとしても無駄だ。第一、信用がない。見知らぬ子供がいきなりやってきて、僕、魔術師なんです! と言ったところで、いいとこ笑って放り出されるくらいだろう」


 ……ぐっ。


「その様子じゃあギルドに入ってないんだろう? 薬の市場は薬師ギルドが取り仕切ってる。ギルドに所属してない野良の薬師なんて誰が雇うんだ? 荒事ができる魔術師なら需要もあるだろうが……お前さんが狂獣を駆除できたり他人と戦えたりするような人間には見えんな」


 戦う、か。いや、確かに攻撃的な魔術は使える。だが、動いてる的に当てたり、こちらが殺されそうな時でも冷静に魔術を使えるのかと言ったら、……難しいかもしれない。そもそも、俺は他人を躊躇なく攻撃できるんだろうか。おっさんは考え込む俺を笑っているように見えた。さっさと返れ、ここはお前の来る場所じゃないと。その目に反抗するように、虫のいい事を言う。


「……じゃあ、信用がなくてもできる、筋力も必要ない、闘いに明るくない人間でもできる簡単な仕事はありませんか」


 にやりとおっさんが笑う。


「んな都合の良い仕事なんぞない。……と言いたい所だが、残念ながらある。肉体労働っちゃあ肉体労働だが、そこまで力もいらん。だが、誰もやりたがらねぇ、めんどくさくて旨みもねぇ仕事だ。はっきり言って勧められるもんじゃねぇ。それでもやるか?」


 帰る方法を調べるにしても、生活の基盤を整えるにしても、先立つものがなければなんにもならない。ここは頭を下げてでも仕事を貰うべきだ。このおっさん凄いムカつくけど。


「……やらせてください」


 おっさんは笑みを深くし、読んでいたものから何枚か紙を抜き出して言う。


「いいだろう。さて、ここに塩漬けになってる依頼のリストがある。ドブ掃除から厄介な植物の採取、高所での作業、比較的安全なタイプである植物型の狂獣の駆除、変人と噂の錬金術師の手伝い……選り取り見取りだな。さて、順々に説明していくとしよう。まず一件目の説明だが──」

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