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皇宮女官は思ったよりも忙しいけれど、割と楽しくやってます!  作者: 大橋和代


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第六十二話「先触れ」

第六十二話「先触れ」


「計画が始動して半月、南風の恵み亭が忙しくなる前に、そろそろ二手目の実働準備に手を付けたいところね」


 クレメリナ様も含め、紅葉の間で午後のお茶を囲みながら、皆で頭を寄せて指示書の下書きを作っていた時だった。


「失礼致します、レナーティア様」

「あら、セレン?」


 ご学友のお仕事がない普段は、柏葉宮内の連絡係――メッセンジャーガールを担当することが多いセレンである。


 たくさん歩いて誰かとお話するお仕事なので、学ぶのにも丁度いい。 


 ぴんと姿勢を正したセレンに、皆が注目する。


「レナーティア様、明日、宮内府までお越しいただきたいそうで、先触れの侍従様がいらっしゃっています。お持ちになられたお手紙の差出主は、翠泉(すいせん)宮のグラブッリ様だとお伺いしました」

「……翠泉宮?」


 聞き覚えのない離宮の名に、皆で顔を見合わせる。


 流石に内宮離宮ぐらいは全部覚えているけれど、それで足りるはずもない。


「こういう時は……シウーシャ先輩!」

「お爺ちゃんに聞いてくるわ!」

「レナ、あなたはご挨拶の用意よ!」

「はいっ! クレメリナ様、失礼します!」

「いってらっしゃい!」


 シウーシャ先輩の祖父、園丁頭のゾマールさんは、かつて造園監として宮内府が管理する全て(・・)の離宮の庭を監督する立場にあった人である。


 名前ぐらいは知ってらっしゃる可能性が高い。


「レナ、大変!」

「どうしたんですか!?」


 軽く身だしなみを整えて髪を結いなおす時間で、珍しくも慌てた様子のシウーシャ先輩が、文字通り駆け戻ってきた。


「いい、落ち着いて聞きなさい!」

「は、はい!」

「その離宮もグラブッリ様も要注意だって、お爺ちゃんが!」


 先輩の方が慌ててる気がするけれど、茶化せるような雰囲気でもない。


「翠泉宮は先帝陛下のご隠居先! グラブッリ様は先代の侍従長様! ……理解できた?」

「へ!? ……あ!」


 なんで……と思いかけて、心当たりがありすぎることに気づく。


 先帝陛下はもちろん、先代の皇帝陛下でもあるけれど。


 リュードさんの、お父様なのだ。




「遠路、お疲れ様でございました」

「明日の件、よしなに願いますぞ」


 先触れの侍従殿は、幸いにしてグラブッリ様ご本人じゃなかったし、ご用件も明日の訪問時間のお話だけで済んでいた。


 気疲れは多少以上に感じていたけど、明日のことを考えれば、このぐらい、まだましな方だろう。


 幸い、いらっしゃるのはグラブッリ様だけのようで……まあ、お話の内容はリュードさんとの婚約とか結婚のこと、グラブッリ様は先帝陛下の代理で皇宮まで足を運ばれるんだろうって想像がついた。


 貴族同士の結婚は、古式ゆかしい手続きながら家同士がまず挨拶を交わし、幾度かの儀礼的行事を挟んで婚約、その後にようやく結婚という、ありがちな段階が踏まれる。


 それだけに、緊張こそしてしまうものの、避けて通れないのもまた事実だ。


 リュードさんも修行中の身だし、私もまだ、奉職して数ヶ月。


 時期を考えると、家同士が話し合う為の前交渉とか、そのあたりだろうと思える。


 ふうとため息をついて紅葉の間に戻れば、クレメリナ様を筆頭に、目をらんらんと輝かせた皆さんが私を待ち構えていた。


「た、ただいま戻りました……」

「レナ、何か知ってるよね?」

「洗いざらい、吐いちゃいなさい」

「でないと、助けてあげないわよ」

「う……」


 先ほど、先帝陛下と聞いて心当たりに行き着いた私の表情を、しっかり見られていたに違いない。


 事情を知るキリーナ先輩は困った顔をしてるけれど、私も全部口にしていいものかどうかは……。


「えっと……セレン、騎士リュードと騎士マッセンを呼んできて!」

「はいっ、すぐに!」

「レナちゃん!?」

「どうして騎士リュードと騎士マッセンを呼ぶの?」

「一度聞いたら、後戻りはできませんからね」


 私は指を一本立てて、すまし顔で先輩方を牽制した。

 



 控えの間でリュードさんを迎え、キリーナ先輩と騎士マッセンに人払いを頼む。


 リュードさんとは、警備のシフトのお陰で三日に二回、顔を合わせるけれど、最近は二人で話す機会なんてほとんどなかった。


「それで……どうかしたのかい、レナ?」

翠泉宮(・・・)グラブッリ(・・・・・)様が明日、宮内府に来られるんです」

「……ああ、そういうことか」


 リュードさんはその名を聞いて、すぐに納得の表情になった。 


「それで、先輩達に何処までお話していいのか、リュードさんにお伺いしておきたかったんです。リュードさんを呼んだ時点で、気づいてるかもしれませんけどね」

「そうだなあ……」


 キリーナ先輩やセレン、騎士シェイラは口が堅いと思うけど、私があからさまにリュードさんを呼んじゃったからね。


 しばらく思案顔をしていたリュードさんは、いい時期かなと、頷いた。


「レナが背中を任せてる子達なら、先に教えておいてもよかったかもね」

「そうなんですか?」

「少なくとも、ゾマール元造園監とグートルフ司厨長は、僕のことを知っているよ」


 あらら。

 そこまで秘密にこだわる必要、なかったのかな?


 でも、私が勝手にリュードさんの秘密を話して回るのもなんだかおかしいので、毎回きちんと確認するぐらいで丁度いいのかもしれない。


 さあ、行こうと背を押され、二人で紅葉の間に戻れば、緊張と期待がない交ぜになった雰囲気が漂っていた。


「お待たせしました」

「……」


 多少緊張が見えるシウーシャ先輩とホーリア先輩は、翠泉宮とリュードさんに何か関係があるって、気づいてると思う。


 他の皆さんは、楽しそうだったり、不思議そうだったりだ。


 騎士マッセンはにやにやしてるけど……この人は、真面目な時とそうでない時の切り替えが上手いんだろうなあ。


「リュードさん」

「ああ、うん」


 私に小さく頷いたリュードさんが、一歩前に出てくれた。


「では、改めて。皇弟リュード・アウスタイラス・レム・ガリアスだ」

「えっと、そういうわけなんです」

「!!」


 一拍置いて、全員が跪いたことは言うまでもない。もちろん、クレメリナ様もである。


 いつぞやのように、男子は一度自活させよという皇帝家の家法の説明があって、今はただの騎士リュードだと、リュードさんは肩をすくめた。


「明日のグラブッリ訪問は僕も聞いてなくてね。可能なら、レナの護衛という名目で、傍にいたいと思う。マッセン」

「はっ、手配しておきます!」

「言い回られても困るけど、知っている人は多いからね。そこまで深刻にならなくていいよ。それから……」


 リュードさんは、まだかちんこちんに固まっていたクレメリナ様の手を取った。


「ご挨拶が遅れた上に、無駄に緊張させて申し訳ありません、クレメリナ姫」

「い、いえ、大丈夫でございます!」

「それから、レナと仲良くしてくれて、ありがとう。姫の話をする時のレナは、いつも楽しそうなのです」

「レナ!?」


 ちらっと睨まれたので、にこっとかわす。

 このお姫様と知り合ってこの方、波乱万丈すぎる女官生活になってしまったけれど、楽しいことも沢山あった。




「レナのこと、いつもありがとう。これからもよろしく」


 そう言い残したリュードさんが、詰め所の控え室に戻ってしばらく。


「……今日は一日、休憩にしましょう」

「それが宜しゅうございますわね」

「レナちゃん、お茶淹れてー」

「はーい」


 クレメリナ様以下、お茶を片手にだれていた柏葉宮侍女衆である。


 秘密を共有する仲間が増えて気が楽になったキリーナ先輩と、以前から知っていたセレンだけは、いつも通りだったけどね。


 申し訳ないような、そうでないような。


 逆の立場なら、私も似たような感じになると思うので、今日のところはお茶係を引き受けておくことにした。


「それにしても流石は内宮、油断ならないわね」

「レナちゃんが、皇弟妃殿下かあ」

「嫁ぐ先の領地とか、決まってるの?」

「いえ、まだ何も話し合っていないんです」


 修業期間が終わって皇族に復帰後、内外の状況や能力と照らし合わせて皇帝陛下が判断を下されるから、本当に決められないのである。


 よくある皇族男子の就職先(・・・)は、重要度が高い遠隔地の総督や都市代官、帝政府の閣僚、帝国軍人だけど……。


 ふふ、何があろうと、どこでもついてくけどね!


「……ねえ、レナ」

「はい、クレメリナ様?」


 茶杯越しながら、意外と真剣な眼で見つめられたので、姿勢を正す。


「レナが出してくれた出資金、もしかしなくても、皇帝家の……」

「いえ、あれは正真正銘、私個人の財産です」

「そ、そう……」


 クレメリナ様からは、はふうと大きなため息を向けられた。


「でも、お若くて驚いたわ」

「えっと、そうですね。ポーリエ様とは同い年と、伺ってます」


 もちろん、理由があるんだけどね。


 ただ、私から言うべきじゃないのも、間違いなかった。



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