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飴と1号と麻子とビール

鼻ピー事件から数日、更衣室から出ると後ろから大きな声が聞こえビクッとする。


「忍法【百発百中の術】~!!」

「やめてくださいよ、麻子先輩。」


嬉しそうに俺の後ろで忍法を使う麻子先輩がいた。


「猿君、今日、手裏剣小屋?」

「はい、そうですよ。その忍法、誰から聞いたんですか?」

「田中君事件でしょ?一部始終お土産屋さんのおばちゃんがみてたんだって。なんかすごい褒めてたよ。『忍法使っておしおきしてたわよー。』って。」


あぁぁぁぁ恥ずかしい...。ただでさえ『ござる』の件で目立っちゃったのに...。


「ねーねー猿君。他にどんな忍法つかえるの?ふふっ。」

「あれは師匠から教えていただいた忍法ですよ。」

...嘘は言っていない。ただ勝手に見て盗み、勝手に名前はつけたけど。

「えっ、佐藤さん?意外だねー。子供っぽいところあるんだね。」

日頃の恨みじゃないが、このまま押し付けてしまおう。

それにあの人は十分子供だと思う。うんうん。



今日は一人で手裏剣小屋なので途中、麻子先輩と別れる。

やはりあの人はマスクをしていると、美人だ。


他の場所と違い、手裏剣小屋はパークのオープン前だとたいして準備がなく、結構暇だ。

ぼーっとしていると道の向こうから、おばちゃんが走ってきた。


「はぁはぁ、身体重いから腰にくるわぁ。はいこれあげるわね。じゃあね。」


挨拶する間もなく飴をおいて、またドタドタと帰っていった。

なんだったんだ?理由は数日のうちに判明する。

ようは鼻ピー事件以来、気に入られたらしい...。


その日から少しずつ、おばちゃんと仲良くなっていった。

名前は熊田幸子くまださちこさん。

今までいっぱいいるおばちゃん達は心の中で番号をつけて呼んでいた。

ちなみに熊田さんは、おばちゃん1号。

仲良くなっても結局おばちゃんって呼ぶのは変わらないけどね。



そんな風に人間関係を広げつつ、忍者な日々を過ごしている中で仕事終わりに隆史が家まで愚痴りに来た。


「お前はいいよなぁ。にんにん言ってたら金もらえんだから。」

「もらえねーよ!」

疲れているが取り合えずつっこむ。

「なんか言ってたじゃん。裏マニュアルに載ったって。」

『ごさる』のことかと思ったが、説明が面倒くさいから黙る。


その後も隆史の絡みや愚痴は酒の力も加わってグダグダと長~く続いたが、忍者のバイトを紹介してくれた恩もあったので適当に、時折意識を飛ばしつつ相づちをうち、愚痴大会に付き合った。

隆史の話をまとめると、労働環境に文句はないが人付き合いで苦労しているらしい。

確かに、鼻ピーなんかが仕事仲間にいたら俺も苦労していたかもしれない...。ゾッとする。

一通り愚痴り倒したのか、遅くまで悪ぃな。じゃっ帰るわ!とややすっきりした顔で隆史は退場していった。

遅くまでって、もう朝ですが!


隆史が帰った後で少し不思議に思う。

今のバイトを始めるまでの俺は就職している隆史に対して表には出さないが劣等感を抱いていた。

あいつの仕事の話なんかを聞いているのはもっと精神的に苦痛を感じていたはずだ。

けれど今思っているのは『隆史、話なげーよ。』とか、『うわぁ、それは辛いな。』とかで、どうせ俺は...みたいな卑屈感はあまり感じていない。ゼロとは言い切れない辺りカッコ悪いが。


まぁでも、忍者修行を通して俺も日々進歩しているということだろ!





「二個めの信号のとこだからねー!」

麻子先輩が叫ぶ。

「名前、鶴吉ですよねー!」

俺も叫ぶ。

先程から似たようなことを何度も繰り返す。

今日は飲み会があるのだ。

メンバーは、師匠、麻子先輩、順ちゃんさん、俺。


順ちゃんさんは正式名称、野田順のだじゅんと言い、別シフトの忍者だ。

麻子先輩と仲が良く、俺も二~三回話した事がある。

別シフトとは何人かで回すシフトの別グループであり、あまり遭遇率は高くない。

ちなみに俺のグループは師匠と麻子先輩。

鼻ピーが後任を探さなかった為、人数が少ない。


今回の飲み会は麻子先輩の緊急召集だ。

取り合えずのビールを頼み、早速、順ちゃんさんが本題に入る。

 

「麻子ちゃん、俺も聞いた話だから...」

歯切れが悪い。

早くしろとばかりに、麻子先輩が睨む。

観念したように順ちゃんさんが続ける。

「はぁ~。あのさ、熊田さんっておばちゃんが辞めさせられるらしいよ。」


熊田...熊田?

あーーー!おばちゃん1号!!

 

突然の話に俺と師匠はびっくりする。

麻子先輩はこれを聞いて召集をかけたのだ。

びっくりした喉に流し込む冷えたビールは最高だった。


 

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