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スーパーヒーロー

今日は一人で手裏剣小屋だ。業務自体はもう慣れてきた。

あとは、自分がどれだけ忍者として行動できるかだ。

佐藤先輩のようにはいかないが、なるべくお客さんとコミュニケーションもとっていこうと思っている。

アレしてみようかな、コレやってみたらいいかもなんていうのは中学生以来なかった気がする。

ここ数年の自分はカッコ悪くならないよう、傷つかないよう、無難にその他大勢に埋没することばかり選択してきたからだ。

緊張しつつも少しわくわくするこの感じがちょっと嬉しい。


試行錯誤しつつも順調に仕事をしていると、少し派手な感じのカップルのお客さんがやってきた。


それが事件の始まりだった。





「チケットは一枚でござるよ。こちら手裏剣でござる。」

女性はチケットを出しながら笑っている。

自分の行動に返してくれるリアクションを嬉しく思っていると女性の横からなかなか強烈な視線を感じた。

極悪な顔。噂に聞くメンチをきるってやつだ。

てめぇ目立ってんじゃねーよ!とメッセージを受信する。


「てめぇ、ござる、ごさる、ってなめてんのか?」

彼女の方はやめなってばーと小さい声でとめている。

彼女頑張って!もっと大きな声で!と心の中で結構必死に応援してみる。


「シカトしてんじゃねーよ!!」


大層ご立腹でござるな、如何いかがした。なんて少し現実逃避もしてみる。

「申し訳ありません、マニュアル...」

「ぁあ~!」

こっちのセリフを遮る派手彼氏。まだしゃべってる途中でしょうが!と思いながらもクレームに発展していることに気づく。


「申し訳ございませんお客様、他の...」

「うるっせー!!てめぇ勝負しろ!!」


だから喋ってる途.....勝負??え?何の??

...手裏剣?手裏剣で!?

この派手彼氏さん手裏剣しちゃうの!?そんなにメンチ切りながら??

頭の中ではやや混乱しつつも何とかこの場を納めようと努力してみる。


「いえ、他のお客様の...」

「どけっっ!」

一言叫ぶと男は回りのお客さんを乱暴にどかしはじめてしまった。彼女の方はもう諦めた様子だ。

というか人の話は最後まで聞いてほしい。切実に。



そんな混乱の中、一人の子供が転んでしまった。

慌てて自分が駆けつける前に、騒ぎを聞き付けて集まってきた他の忍者に助け起こされていた。

怪我は無さそうだったが、男の自分勝手な行動が招いた事態に今更ながら腹が立ってくる。


頭の中に佐藤先輩の言葉が響く。



『忍者として、出来る事』



「わかりました。手裏剣勝負をしましょう。私が勝ったら他のお客様のご迷惑にならないよう、大人しくしていただけますか。」


ーー勝負ってどこの少年漫画だよ。と以前の自分が突っ込みを入れてくるが、修行中の忍者な自分としては負けられない戦いである。


「はっ!負けたら裸で俺に土下座しろよ!!」


いやいや。リスクでかすぎるから。

けれど後悔してももう後には引けない。

いつの間にか周りには人だかりができている。ワクワクしてる人、不安そうな人それぞれだ。

極悪チンピラ派手彼氏は鼻にピアスをしているので鼻ピーと呼ぼう、心の中で。


鼻ピーがここに来て後出あとだしをしてきた。

「お前見ねー顔だな。隆史の代わりか?少なくとも俺がやめた後だよな?」


...ん?


そう言えば、佐藤先輩が隆史と同時に止めた人がいるって言ってたような...だから人が足りないって。

まさか!元忍者!?

「しっかり後輩の教育してやるよ!ほら、おまえから投げろ。」 


ひぃぃ!お手柔らかにお願いしゃっす!

心臓がバクバクしている。先程のやる気というか使命感のようなものや自信なんかが鼻ピーの後出しのせいで揺れに揺れている。ぐらんぐらんだ。

しかしやるしかない。ここでやっぱ止めますはさすがにカッコ悪いだろう。

自分に暗示をかけるのは元々得意だ。


俺は忍者。俺は忍者。俺はスーパー忍者ー!!!

転んだ子供の声が都合よく聞こえる。心の中で。

『頑張れ、忍者!僕のスーパーヒーロー!』

『ありがとう少年!』



手裏剣を五枚持ち、頭の中でスイッチが入った音がした。

そして大きな声で叫ぶ。


「うぉぉー!!!!!忍法!【百発百中の術】!」


スカカカカカン!


一瞬の静寂、そして歓声があがる。

五枚ともど真ん中に突き刺さっていた。

自分でやっておきながらも、暗示が解けたのかボケっとしてしまう。まじか。

いつの間にか登場していた佐藤先輩がその場を仕切り始めた。


「田中お前の番だけど、どーすんの?」

やはり知り合い?田中は多分、鼻ピーの事だろう。

「さ、佐藤さん、俺は客だぞ!」

「お客様、勝負の途中ですがいかがされますか?」

「くっ!」


てっきりオボエテローとか言うかと思ったが、鼻ピー、もとい田中さんはそそくさと帰っていった。

オーディエンスの拍手とともに現実に戻る。

無事襲撃は回避したことがわかり、ぐったりする。


「師匠、いたんなら助けて下さいよ。」

「あれで外したらどーすんのかな?と思ってさ。」


面白いものを見た、そんな顔をしている佐藤先輩。

そうだ!転んだ子供!エールを送ってくれた(心の中で)少年!

最後に格好よくあの子に声でも掛け...おぅ、全然見てねーじゃねーか!完全にフランクフルトに夢中じゃないか!

なんか物凄い疲れたなー、慣れないことはするもんじゃないなーなんて思っているうちに騒ぎは佐藤先輩が納めてくれていた。


後で聞いたら鼻ピーはバイト時代も中々やんちゃでトラブルメーカーだったらしい。

ただ何故か佐藤先輩にはあまり強く出れなかったみたい。

謎だ。

あー修行してて良かった。




拙い小説を読んでくださった方ありがとうございます。しばらくは頑張って更新していきたいと思います!

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