ヤルキマンマンマン
スタイル抜群。顔は目以外隠れているが大きくて可愛い目をしている。
藤木村長から紹介されたそのくの一は美しく、漫画の世界から出てきたかのような、いかにもな忍者の格好をしていた。
吉田麻子さん、俺の教育係になるらしい。
「吉田麻子です。よろしくね。」
声まで可愛い。
その一言で、俺はヤルキマンマンマンに変身してしまった。
じゃあよろしく、と藤木村長に促され麻子先輩と別の部屋に移動する。
「男の人は、ここね。ハイこれ。」
麻子先輩の声でハッと我に返る。
危ない。くの一の忍法【巨乳の術】に精神を持っていかれるところだった。
そして、反射的に出されたものを受けとる。
「とりあえず、着替えてきて。」
「はい。」
たいして考えもせず返事をするあたり、すでに彼女の術中なのかもしれない。
更衣室らしき所で渡された物に着替える。
「まじかー。」
思わず声が出る。鏡が置いてあるので自分を見てみる。
完全に忍者だった。
よくよく考えればもっと早く気付きそうなものだ。忍者村でくの一の部下になるのだから。
更衣室から出てすぐ、「これって着ないとだめなんですよね?」とわかっていながらも麻子先輩に聞いてしまう。
「なんで?忍者なんだから忍者の格好しなきゃでしょ、サイズきつかった?」
普段なら忍者の格好なんて恥ずかしすぎるからと、何とかそこから逃れるために俺の頭の中のスーパーコンピューターが周りに、そして自分に【言い訳バリアの術】を使う所だが、色々ありすぎて出た言葉は、
「いえ、大丈夫です。」
だった。
言うなれば、隆史の【ギリギリまで教えないの術】にしてやられた感じだ。
しかし、はなから忍者になるなんて言われていたら内心は別として、予防を張ったり色々言っていただろう。
隆史の事を面倒なやつと思っていたが、もしかしたら隆史の方が俺の事を面倒なやつと思っていたのかもしれない。
辞めた所で何があるわけでもない今は、【巨乳の術】にかかっておくことにするか、と自分に言い聞かす。
歩きながら麻子先輩に説明をしてもらう。
隣で指導に入れるのはとりあえず今日だけだと。要は今、全部覚えろということらしい。
たらりと汗が流れる。
本気で言っているだろうとわかるからだ。
「麻子先輩、ムチャ過ぎませんか?」
「大丈夫よ。今日から一週間の研修期間中は基本的に同じ場所で簡単な仕事だけだから。...ほらココよ。」
しゅり…けん?
数字の書かれた的に向かい、お客さんが手裏剣を投げている。
時代劇のような服装をしたおばちゃんに先輩が声をかけている。
「おばちゃんお疲れ様!代わりますね!あと、この子新人さんです。」
おばちゃんの視線が麻子先輩に促されてこちらを向く。
「はじめまして、猿本渉です。よろしくお願いします。」
「はいはいはい、よろしくね。おばちゃんよ。」
おばちゃんよって...と仲良くなったら突っ込もうと思いつつ、スルーした。
「おつかれ、カツカレー。」
と陽気におばちゃんは帰っていった。
「今の人は…?」
「いつもは向かいのお土産屋さんに入ってるバイトのおばちゃんなんだけど、ここにヘルプで入ってもらってたの。さぁ、はじめるわよ。」
麻子先輩の言った通り仕事はとても簡単だった。
まず、この忍者村は入園料がない。ただで誰でも入れる。
そしてアトラクションを利用したい時には、至る所にある販売機でお客さんが自分でチケットを買う。
それを各場所で渡すシステムだ。
俺の仕事はチケットを貰って五枚の手裏剣を渡す。
それをお客さんが投げ、刺さった点数ぶんの景品を渡す。
たまに手裏剣をひろう。これだけだ。
一度教えてもらってからは、最後まで一人で出来てしまった。
「お疲れ様!研修中はこの時間だから上がって。後は代わるから。」
「はい、お疲れ様です。」
「明日から問題なさそうだね。」
「多分、大丈夫だと思います。」
接客が苦手な俺でも、このくらいなら大丈夫だろう。
「なんかあったら近くのおばちゃんに聞けばいいよ。みんなベテランだから。」
「はい。」
とりあえず、疲れたから帰るか。