神の降臨
厨房から顔だけだし、師匠とヒソヒソはなす。
「相手どんな人ですかね?」
「麻子ちゃん、スタイルと性格はいいからな。」
失礼かと思いながらも同意する。
まだ朝早く、他にお客さんはいない。
カフェの扉が開き、麻子先輩が立ち上がる。
「こっちだよー。おはよー。」
「なんだ、女の子じゃん。」
師匠が残念そうに言う。しかし、俺はそれどころではない。未知なる麻子先輩の彼氏よりよっぽど驚いた。
「えっ、なんで、環ちゃん!?」
驚きすぎて、思わず心の中でしか言ってなかった環ちゃん呼びまで披露してしまった。
その環ちゃんはというと、俺の声にビックリしてあうえうと変な声を出しながら縮こまっている。
そこへ麻子先輩の助けが入った。
「こら猿君、ビックリさせないの。環ちゃんが忍者村に興味があるって言ったから、私が誘ったのよ。ふふっ、可愛い女の子とのデート、羨ましいでしょ。さっ、行きましょ。」
まるで携帯電話のストラップのように引き摺られていく環ちゃん。すでに興味を無くした師匠は厨房へ戻っていく。
俺はただただその場で呆然と見送るのだった。
後で麻子先輩から聞いた話によると、前回忍者村に遊びに来ていた環ちゃんのハムスター的小動物ぶりにノックアウトされた麻子先輩は、その場で速攻、電話番号を交換したらしい。ナニソレウラヤマ。メールだとスムーズに会話をこなす環ちゃんと交流を深め、デートをするまでに至ったそうだ。
さすがは麻子先輩、すぐ人との距離を縮める。
テレビで見た闇鍋を師匠がしたいと言い出したので、俺は今スーパーで鍋の材料を買い出し中だ。参加者はいつもの四人だが、皆さん仕事のため俺が準備することになった。
肉と白菜、ネギに人参をかごに入れ、このままだとただの鍋になってしまうなとにやける。
今日やるのは闇鍋だ。鍋奉行いや、全ての材料は俺次第。これは、神だ。鍋神様の誕生である。にやにやが止まらない。
夜、みんなが俺の家に到着したのだが、ここで予想外の出来事に混乱する。
「師匠と麻子先輩と、なんで?環ちゃん??」
麻子先輩が言うには順ちゃんさんが来れなくなったので環ちゃんを誘ったらしい。
固まっていると師匠がせかす。
「早くやろうぜ。や、み、な、べ。」
とりあえず、座ってもらうと待ちきれない師匠がしきりだす。
「渉、俺たち材料見れないし、作って持ってきてー。その間ルール説明しとくから。」
今回の闇鍋開催費は全て師匠持ちだ。さすが師匠、太っ腹!!そんな師匠に敬意を表していそいそと働くことにする。
環ちゃんサプライズを引きずりつつも悪魔の鍋をつくる。子羊たちよ手の平の上で踊るがいい...と鍋神様は思っていたが、あることに気が付く。俺も食べるんだった......後の祭りだ。
鍋を作っている間、師匠がこちらにも聞こえるようにルールを説明してくれている。
出来上がった鍋を暗闇の中に置いてからフタをとる。一人づつ順番にトングで具材をつかみお皿へ、つかんだものは必ず食べる。食べたら次の人に順番が回るというルールだ。
材料を知っている俺は少し優位だ。
ついに電気を消す。暗闇の中麻子先輩が不安そうに口を開く。
「なんかちょっと怖いね。食べれるもの...なんだよね?」
師匠が笑ながら答える。
「さすがに自分も食べるのに、そこまで冒険はしないよなぁ?」
少し間をおき頷く俺。
(......ごめんよ、みんな。すまなんだぁぁぁぁぁ。)
そこに鍋神様の姿はなかった。ただ四匹の子羊が悪魔の鍋を囲むのだった。
一周したら鍋にフタをして取り分けた具材を食べていくことにした。まずは師匠から始まった。
「なんか凄いみずみずしいな、食えないこともないがうまくないなぁ。はい次の人。」
次は麻子先輩。
「んんっ?変な食感だと思ったけど、鳥肉かなぁ美味しい。違ったら怖いんだけど。はい猿君。」
次は俺の番。
「うへぇ、なんか甘いです。」
最後は環ちゃんだ。
「は、葉っぱ系です...かね?た、食べれます。」
電気をつけてそれぞれが食べた食材を見てみる。
師匠はきゅうり、麻子先輩は鳥肉、環ちゃんは白菜、俺はマンゴーだった。
なかなかドキドキして楽しい。美味しくはないが、二週目がスタートした。
まず師匠。
「また野菜だな。これはわかるぞ!ネギだ!ほい、麻子ちゃん。」
「佐藤さん、グイグイいきますね。怖くないんですか?」
「ほっほっ。弟子を信用しているからね。」
麻子先輩が食べる。
「あっ私もネギっぽい。」
俺にトングが廻る。
「肉、ですかね?」
見えないと怖い。環ちゃんにトングを渡す。
「んっ、なんか大きくて、ん~、か、固い。」
環ちゃんなんてこと言うんだ!急いで電気をつける。
「ストップ!!環ちゃんそれだめ!師匠用のやつ!」
部屋が明るくなる。環ちゃんが骨のような物をかじっている。
「猿君、何それ。」
「犬のおやつです...。」
師匠が吠える。
「俺用ってなんだ!!おい、弟子ーー!!」
女性陣のありえないという視線を感じながら、楽しい闇鍋は夜更けまで続いた。
体調崩しまくりで、間が空いてしまいました。
すいませんっっ。




