居酒屋の王様
この間、大学の時の友達と遊んだ。
...正直、楽しくなかった。
仕事の話がどうとかそんな事ではなく、今までどう接していたかわからなくなった。本当に友達だったっけ?そんな薄情な事を考えてしまうような不思議な感覚だった。
理由はたぶん、自分が変わったからだ。学生時代、本音でぶつかかることは避けてきた。素の自分をもし否定されたら?だから、あいつらの中の俺は、俺が作り上げた偽者がいる。
今からでも遅くはないのだろうが、みんなを見てるとダサかった自分を思い出す。今の自分を見てもらうにはまだ勇気が足りない。
自分を偽らずに生きていきたいと思えるところまでは来れたと思う。ただ、もう少し時間は欲しい。
家にいると余計な事ばかり考えて気持ち悪くなってきた。かといって、外に出てやりたい事もない。
そんな時、師匠の言葉を思い出す。
『俺の誕生日まで、あと七日~。』
...毎日カウントダウンされている。
よし、誕生日パーティーでもしよう。ワイワイ騒いで、楽しんで、そしたらまた毎日頑張れそうな気がする。
師匠の誕生日当日、準備は万端。居酒屋の個室も予約しておいた。麻子先輩と順ちゃんさんにも声を掛けてある。うむ、師匠よ。俺プロデュースのパーティーを思う存分楽しむがいい。
「私このお店はじめてー。」
「雰囲気いいよね。」
出だしはなかなか好評でホッと息をつく。
座布団を二枚重ねた特等席を作ると、いそいそと師匠が座る。肩からたすきをかけてあげる。もちろん、たすきには金色の文字で『あなたが主役』と書かれたものだ。玩具の王冠をかぶせ、先っぽに『う○こ』のついたステッキを持たせる。
取り合えずのビールを運んできた店員さんが、一瞬固まるが俺と師匠は気にしない。全てが師匠のツボを突いたものを用意した。
うん。ここまでは完璧だ。
「「「おめでとうございまーす!!」」」
楽しい時間は過ぎるのが早い。自分が開いたパーティーでみんなが笑ってくれている事が単純に嬉しい。そしてついにこの時が来た。プレゼント贈呈だ。
麻子先輩はお店に許可をとり、手作りのケーキを用意していた。
順ちゃんさんは師匠の好きなお酒。
...ふっ。みんな分かっていない師匠の事を。
俺のプレゼントの袋を師匠がはがす。そして師匠が爆笑する... はずだった。
「猿君、いくら俺でもこれはいらん。」
「ぇえぇぇぇぇ... 」
目が飛び出し、羽根をむしられ、蝶ネクタイをしたゴムのにわとりが『プピィー♪』と音を出しながら、師匠の手からぶら下がっている。まさか、すべるとは思わなかった...。
だが師匠はいらねーわーと言いながら『プピィ~♪プピィ~♪』といじっている。主役の機嫌はいい。
パーティーは成功したと言ってよさそうだ。うむ。
次の日、村長に呼び止められた。麻子先輩とカフェのシフトだったが、からくり屋敷のヘルプを頼まれた。忍者の仕事の中でも楽チンな仕事だ。入り口でチケットを受けとり、いってらっしゃいするだけだ。
からくり屋敷で引き継ぎをする。お客さんが来なければただただ暇だ。このからくり屋敷は一見行き止まりの部屋から隠れている道を見つけたり、錯覚を起こさせる作りの廊下やトリックアートなどが楽しめる。おすすめの遊び方は、忍者村にある忍者・侍・お姫さまの三種類の貸し出し衣装を着て、トリックアートなどを使い写真を撮る。するとなかなか面白い写真が出来る。よくSNSなんかにもアップされている。
俺自身はこのからくり屋敷、楽しいのは楽しいのだが昔から三半規管が弱く、色んなものに酔いやすい為、初めて入った時はクラクラと倒れそうになった思い出がある。
バイト上がりのおばちゃん1号が立ち寄り、飴をくれた。
「はい、猿本君。飴あげる、アーメーン」
いや、アーメンだろ。と思いながら飴を受け取り、おばちゃんの後ろ姿を見送る。もらった飴を見ると『味噌ラーメン味』。誰が考えたのか、なぜ買おうと思ったのか謎だった。
バイトが終わり、更衣室で恐る恐る飴を舐めてみる。
「うまっっ!」
思わず声が出た。飴一粒で新たな感性が生まれるとは素晴らしいなぁと感じながら帰り道、コンビニへと向かう。お弁当をかごに入れレジに向かう途中、発見するラーメンキャンディー。
そっとかごに入れた。
ちなみにラーメンキャンディーは、味噌味、醤油味、しお味、の三種類だ。




