合法ドラッグ
危険だ。
慢性的な中毒症状が出ている。まさか、自分に限ってこんなことになるなんて。全ては師匠のせいだ。
いつも通り師匠とじゃれている時それは生まれた。
「ふうっふぅー。」
そう言いながら師匠が俺の尻を鷲掴みにした。また小学生みたいなと思いながらもやり返す。
「ふうっふぅー。」
師匠の尻を揉む。
「おい!俺は掴んだだけだぞ!揉むなよ、ルール違反だ。」
ルールが存在したのか。
それからというもの基本は尻を掴むが、ありとあらゆる『ふうっふぅー』が開発される。師匠が新『ふうっふぅー』を出せば、ならばこっちはと新たな『ふうっふぅー』を出す。
しかしここまでは良かったんだ。
ある程度出し尽くすと一周まわって普通の『ふうっふぅー』に戻った。普通バージョンは手軽さが売りだ。おはようの代わりにお疲れ様の代わりに『ふうっふぅー』と言いながら自然と尻を掴み合う。生活の中へと浸透するのに時間はかからなかった。
このとき俺たち二人は気付いていなかった。『ふうっふぅー』に侵され始めている事に。
ある時、師匠が焦りながら俺の所に来て『ふうっふぅー』したあとに言った。
「あぶねー、なんも考えず麻子ちゃんに、『ふうっふぅー』しそうになったわ。」
俺も頷く。
「わかります。俺も村長とかに無意識でやりそうになりました。」
二人で真剣に話し合った結果、危険だということで、『ふうっふぅー』を封印することにした。
しかし、いざ封印してみると、ピクッと手が動いたり、お疲れ様に物足りなさを感じてしまう。落ち着かない。...まるで話に聞くいけない薬のようだ。
けれど二人とも努力を重ね、少しづつ更正の道へと進んでいくのであった。
いつもの四人でまた飲み会があった。順ちゃんさんの言葉に、忘れていた気持ちが顔を出す。
「俺んとこのシフトグループさぁ。バイトが就職でやめてさぁ。」
そのあとの会話はあまり覚えていない。
今が楽しくて忘れていたが、俺はバイトで一生このままではいられないことを思い出す。生きていれば金も使うし、年もとる。ずっと避けてきたが、将来と向き合い、働いていくことについて考える必要がある。フリーターという現状ですら、なかなか受け入れがたかった以前の俺からすれば、向き合おうとするだけでも少しは進歩しただろうか...。
そんな俺のシリアスな空気はガン無視で飲み会はどんどん進んでいく。
しばらくして麻子先輩の発した言葉に耳を疑った。
「最近あれしてないね?『ふうっふぅー』ってやつ。あれ羨ましいなぁ。」
...えっ!麻子先輩、尻を揉まれたかったのか!?と思っていると、師匠が出てくる。
「なんだ、麻子ちゃん揉んでやろうか尻。」
順ちゃんさんは訳わからんな顔をしている。
麻子先輩が慌てながら弁明する。
「違いますよ!違います!!なんか仲良さげでいいなーって思ったんですよ。」
いつでもいくぞ!とばかりに師匠が目の前の空気をにぎにぎしている。
だめだこの人もう酔っている。
師匠はあまりお酒に強くない。かといってベロベロになる事もないが、悪のりは大好物な人だ。
飲み会が終わり、同じ方向へ帰る師匠にそれとなく聞いてみた。
「なんで、忍者してるんですか?」
師匠の事だから、きっと格好いいドラマがあると期待したんだ。
「別に何となくだよ、何となく。何個か面接受けて何となく選んでた所に運よく受かって、そのまま忍者やって。やってみたら良いことばっかじゃないけど楽しいし、段々好きになっていくしな。だから続いてる。なんで、なんて考えてねーな。やって見なきゃわからんことの方が多いんだからさ、今楽しくて、その為に一生懸命ならいいだろ。」
何だろう。なんか心が軽くなった。やっぱ師匠すげー。
「ふうっふぅー!」
師匠の尻を思い切り鷲掴む。
「いっってーー!お前それ封印しただろー!!」
ヘッドロックされる。
麻子先輩なら間違って尻を揉んでも許してくれそうな気がした。
数日後、バイトに行くと想像の斜め上をいくことが起こっていた。いや、起こったあとだった。リアルタイムで見ることは出来なかったが、師匠が教えてくれた。
なんと以前、一日でキレて帰ったバイトの太っちょ君が一日分の給料を請求しに来たのだ。
「すげーよな、ありえるか?しかも途中帰ってんのに。」
正直、俺には理解が出来なかった。
「村長は、たまにそんなやつもいるようなこと言ってたけどな。」
世の中には色んな人がいるもんだと思った。




