冬と、春。
なななんさまの活動報告から。
お題「触覚(さわる感覚)を使って一場面作ってみましょう」
頬へ小さな冷たさを感じて、私は顔を上げた。
空からは、ほろり、ほろりと白い破片が舞い降り、露出した肌に触れては儚くも溶けゆく。
流れる吐息は視認できる。じんと痛む鼻、突き刺す冷気に瞳が潤む。
木々は白の花を咲かせ、雲に覆われた空と、銀の大地は境界線すらおぼろだ。
凍てつく大地を踏みしめる足は、本当についているのだろうか。
感覚が消えそうな自身の足を見るために、首を下へ向ければ。
ふわり、温かいものに包まれた。
「そんな恰好で雪に魅入られていたら、雪だるまになってしまうよ」
笑いを含む声は、一足早い春色で。
「今の私はもう、雪だるまだわ」
溶かされそうな冬は唇を尖らせて、春に密やかな抗議をする。
首に巻かれたマフラーと、コート、おまけに彼自身の少し高い体温に包まれる。
春よ、その熱で私を溶かさないで。
溶けて消えたら、貴方の大きな手や筋張った体を感じられないから。
ただ白に赤をたらして欲しい。
そうしたら私は淡く色づいて、貴方と共にいられるから。
願いを口にしたわけでもないのに、頬へと口づけが落とされた。
唇から頬へたらされた、柔らかく優しい赤。
ああ、冬の白に赤が混じる。
ゆっくりと世界は、色をつけてゆくのだ。
※※※※
粉雪が降る寒い冬だというのに、彼女は鼻の頭を赤くして、空を見上げている。
何もかもが凍りつき、吐く息さえも白に染まる世界で、彼女だけが浮き上がって見えた。
白い頬に落ちた雪が水になったから、雪よりも温かいのだろうけど。
冷たく氷像のように綺麗な女を人間に戻したくて。
彼女の視線が空から足元へ移った時、僕は彼女の口元まで覆うようにマフラーを巻いた。
「そんな恰好で雪に魅入られていたら、雪だるまになってしまうよ」
笑いを含む僕の言葉に返る声は、冷たく美しい冬色で。
「今の私はもう、雪だるまだわ」
六花のように可憐な唇を尖らせる冬の抗議は、火傷しそうな僕を冷やす。
マフラーとコート、おまけに僕自身で包めば、ひんやりと心地いい。
冬よ、僕の熱でどうか溶けないで。ただ春の色に染まって欲しい。
溶けて無くなってしまったら、君を抱き締められないから。
ただ、白に赤をたらしたい。
そうしたら僕は、僕の色で染まった君と共にいられるから。
ねだってくれればいいのにと、君の頬へ口づけを落とす。
美しく清らかな白へ、唇からぽたりとたらす赤。
ああ、白に僕の赤が混じる。
ゆっくりと世界が、色をつけ始める。
春の視点を加筆しました。
いつも楽しいお題をありがとうございます。