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Decadent blue spring  作者: 吉戒 湖業
邂逅・覚醒
7/11

7





ジェーンの車の助手席に乗り込むと、淡は鼻をひくつかせた。





「なんだこの臭い?」





そこは線香に似た何かの臭いで満たされていた。





反対側からジェーンが扉を開けて乗りこむ音が聞こえる。




扉を閉める音が聞こえて、少しして今度は車のエンジンが唸りをあげた。




その音を聞いた淡は口笛を鳴らした。





窓を開けて、ジェーンは外にいる女に言った。





「大丈夫だとは思うが、念のため暫く連絡はしない。お前は一週間潜伏してその後、いつもの方法で連絡してこい」





「りょーかい、りょーかい。いつものね~」まるで、遊ぶ約束をしたかのような軽さで女は答えた。





「けど、いいの? 二人っきりになると子犬ちゃんジェーンのこと殺しちゃうかもよ」




と問う女の口調には友達を気にかけるような調子を含んでいた。





「どのみちこの車には二人しか乗れない、それに――――」





少し笑ってから彼女は




「―――こいつに女は殺せない」




はっきりとそう断言した。




「ふーん、そう」女はそう言うと、それ以上何も言い返すことはなかった。








カチッ




ライターが鳴った。



ジェーンが紫煙をはきだすと、車内に線香の様な臭いが充満した。




こびりついていた臭いの原因はこれに違いないだろう。




どこかへ電話を掛けたらしい、電子音が聞こえてきた。

三コールの後に通話を始めた





「......ああ、私だ。ターゲットを確保したが、代わりに私の隊から死者が出た。処理を頼む。......それと私の隊に、集合をかけておいてくれ」





ピッ




電話を切ると同時に車が動き出した。




スピードが徐々に加速していくのが、音で感じられた。




乗り込む前に見た車は、よくハリウッドの俳優が乗っていそうな黒いスポーツカーだった。





そのためか普通の自動車よりもエンジンの音はすさまじい重低音だ。





「ウオー!エンジン音すげー!! なあアイマスク取ってくれよ~。手錠は着けたままでいいからさ!」



思い返しても一般的な乗用車にしか乗ったことのない淡は心底嬉しそうな声をあげる。




その姿は、まるで子供のようだった。





「アイマスクは規則みたいなもんでね、我慢してくれ。あとその手錠だが―――」





「俺があんたを殺さないってこと分かってるんだろ?」





突如として口調が殺人犯のそれに変わる。





「....ああ。だが、他の連中を殺されると面倒だからな」



死体をゴロゴロ作られても困る。




「ちぇ、わかったよ」




淡は拗ねた様に口を尖らせた。









それから沈黙が続いた。





だが、淡はなおも楽しげに体を左右に揺らしている。




高速道路にでも入ったのかスピードが上がり、照明灯の明かりが



何度もアイマスクの上を通りすぎていった。






「君に説明しておく事がある」





先に沈黙を破ったのはジェーンだった。






「これから君はある訓練施設に行くことになっている」





「訓練施設?自衛隊にでも入れるのか?」





淡の頭の中では、屈強な男たちが汗を垂らして訓練にいそしんでいる姿が見えた。






「いや、違う。だが軍という点では正しい。例えるなら影の軍隊といったところかな」





「影の軍隊?」





と面白そうな話に淡はおもわず食いついた。



「そうだ。暗殺、強襲、毒殺、国が出来ないことを代行する表舞台には立たない非正規軍。

正確には、大日本帝国と呼ばれていた時代に設立された部隊が起源だが...いやよそう」




ジェーンは長くなると思ったのか途中でぶつ切りにした。





「これから入るのは、その影の軍隊の訓練所だ。君にはそこで四年ほど在籍してもらう」




ジェーンはタバコの煙をはいた。





「カッケエけど、四年か~。家には帰れるのか?」





淡は殺風景な我が家を思い出していた。




あれ、鍵かけたかな。





「いや、君はそこで四年間は衣食住をすます。外出は例外的に認められることはあるが、まず帰れないな」





「そっか」淡はいつになく悲しそうな声で返事をする。





「おいおい、もうホームシックか?」




ジェーンが言った。





「いや、四年間も筋肉もりもりの暑苦しいやつらと汗水垂らして訓練して、衣食住ともにすると考えるとね」





頭の中では屈強な男たちが淡の回りをぐるぐると回っていた




それを聞いたジェーンは笑い声がをあげて言った。





「君よく人からズレてるって言われないか?」





「言ってくれるようなやつが、俺にいると思う?」





「いや」ジェーンは笑いながら否定した。




即答かよ。





「ともかく私からは以上だ、疑問があったらあとで紹介する奴に聞いてくれ」






後で紹介するやつ?




どんなマッスルメンなんだろうか?





昔、映画館で見たアーノルドなんとかさんの肉体と顔が思い浮かんだ。その人は溶鉱炉に沈むようなことにならなきゃいいけど。











それから一時間ほど走り続けたあとに、車は停車した。






「さあついたぞ」






ジェーンが言った。


どうやら目的地に到着したようだ。




ジェーンが車を降りてすぐに、右側の車の扉が開いて、誰かに腕を捕まれた。




「降りろ」




右から男の低い声が聞こえた。




男は後ろ手に手錠をかけられた淡の右腕を引っ張ると、無理やり車からおろした。





「いってぇ!もうちょっと優しくしろよ!」





声があたりに反響した。





「................」



男は無言のまま腕を掴み歩き出した。




その歩調にはブレがなく、まるで機械のように前へと進んでいく。




街灯が無いのか辺りは真っ暗だ。




淡は鼻をひくつかせた、期待した土や木々の香りはせず




香ったのはわずかな埃の臭いだった。





すぐに目の前で扉が開く音がした。





それは重々しい音ではなく、どちらかと言うと電子機器が鳴るような音だった。




再び男に腕を引っ張られ扉の中へと入ると、すぐに後ろで扉が閉まった。





「ハン、そいつのアイマスクをとってやれ」





腕を掴んでいる男が手を離すと、淡のアイマスクを取った。




久しぶりに目にした明かりに、淡は思わず目を細めた。




目が明るさに慣れてくると、あたりがはっきりと見えてきた。



すぐ側にはハンと呼ばれた男がいた。



身長は平均的な身長の淡の頭一つ分ほどの高さで、体は軍人らし


く引き締まっているようだった。





あたりは床から天井に至るまで、全て打ちっぱなしのコンクリートでできていて、扉はすべて自動ドアのようだった。





そして視線を目の前に戻すとジェーンがいて、その後ろには廊下がずっと続いているのが見えた。




ジェーンは口を開いた。




「ついてこい淡島 淡。これから会議室でミーティングを始める。

ハン、手錠もはずしてやれ」




手錠が手首から外される、こわばった筋肉をほぐすために腕を伸ばし、ジェーンの後ろについていった。





「ミーティングって何をするんだ?」





淡は言った。





「まあ新入りの顔合わせみたいなものだ」





ジェーンは答えた。




なら、なにか自己紹介を考えておかなきゃだ、こういうのは最初がカンジンだからな。




廊下の壁には等間隔に扉があり、さらに奥へと進むと突き当たりにエレベーターらしき扉があった。




三人が乗り込むとハンが5のボタンを押す。階層のボタンは全部で六つあった。




エレベーター独特の落ちるような感覚の後に扉が開くと、そこには先程と似たコンクリートで作られた廊下が続いていた。





「ハン、ここまでで良い。後は彼と二人でいく」






「......」



一人を残して二人はエレベーターをおりた。





二人以外には誰もいない廊下を歩き、そのうち一つの扉の前で止まった。





「ここだ、淡島 淡」



と彼女が言った。




それから少しして淡が言った。





「あのさぁ、いい加減フルネームで呼ぶのやめねぇ?」





呼ぶ方もめんどくさいだろ。





その提案にジェーンはめんどくさそうに答えた。





「なら、何がいい? アワイン●ンタムシ? それともアワビ君とかか?」





「明確な悪意で俺を攻撃している!?」





まだ出会って数時間だよ。





淡は頭を掻いた。






「普通に淡でいい」





「じゃあ、淡。中に入った瞬間から、君は私の隊の一員だ」




ジェーンの長い赤髪が視界で揺れた。




何かに属するのは初めてのことだけれど、それが楽しいものになるのなら、悪くないのかもしれない。





扉が開く一秒前、淡の心の中では、新しい環境への期待を抱く自分と、そして自己紹介に使うギャグを必死に探している自分がいた。








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