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一瞬の攻防

掲載日:2017/04/10

 ついに魔王との直接対決の時が来た。

 ここまでくるのに十年もの長い年月を捧げてきた。

 長かった......仲間の死も何度となく乗り越えてきたし、ここで負けるわけにはいかない。

 絶対に勝って世界に平和を取り戻す。

 俺はそう誓い剣を抜いた。

 魔王は思ったよりも小さく、人の姿をしている。

 黒いマントを羽織り、こちらを見て不気味に笑った。

「うおおおおおおおおおお」

 俺は剣を構え、魔王に向かって走り出す。

 このまま、一太刀であのにっくき魔王を切り裂いてやる。

 そう思った。

 しかし、走りながらも、ふと疑問が浮かぶ。

 このまま一直線に魔王に切りかかったとして、奴はすんなりと切り裂かれてくれるのだろうか?

 いいや、それは無理というものだ。

 あいつは今まで世界を暗黒の闇に包み、人々を恐怖で震え上がらせてきた魔王だぞ。

 そんなにやすやすと一太刀でくたばるわけがない。

 そう考えると、このまま走って真正面から切りかかっても、避けるか防がれてしまうだろう。

 ええいそれなら、奴の裏をかいて左のほうに回り込んで切りかかったほうがいいのではないか?

 そうだ、そうしよう。

 あの魔王さえも予想だにしないトリッキーな動きで、一撃をお見舞いするのだ。

 そうと決まればこの交互に動かしている足を、少しずつ左のほうに......

 いや、待てよ。

 そういえば、前に古い書物で「人は無意識に左方向を選んでしまう」というのを見たことがある。

 今俺が向かっているのは魔王の左側。

 ということは、あの書物は間違っていなかったということか。

 ん? そうなると、話は変わってくる。

 十年で世界のほとんどを暗黒の闇に包み込んでしまったあの魔王だぞ。

 そうとうな計画力とたぐいまれなる知能を持たなければ、十年で世界を暗黒の闇に包み込むなど不可能だ。

 そんなインテリな部分も持ち合わせた魔王が、古い書物の一冊や二冊、読んでいないわけがない。

 危なかった。敵をただの筋肉バカだと決めつけて、油断していた。

 奴は裏の裏をかいて、左側から攻めてくる俺を返り討ちにするだろう。

 フフフ、甘いな。俺はその裏を読むのだ。

 つまり、右側に回り込み、奴に民の祈りがこもった聖なる剣を突き刺してやるのだ。

 そう決心すると、俺は左のほうへ向けていた足を少しずつ右にずらす。

 その時だった。まるで雷が体に落ちてきたような衝撃が俺を襲う。

 そう、俺の右は魔王にとって左側なのだ。

 それはまずい。

 もしも魔王があの古い書物を読んでいなかった場合、俺の裏を読んだ魔王は左から襲ってくると考えるはずだ。

 そうなると裏の裏の裏を読んだと思って、うれしそうに切りかかってくる俺を、余裕の笑みで返り討ちにしてくることだろう。

 危なかった。もう少しで犬死にするところだった。

 待てよ。もうそうなったら、どの方向から切りかかればいいのだ。

 奴を確実に仕留める方向がわからなくなってきた。

 もうこのまま真正面から切りかかってみるか?

 いやいや、それはダメだと思ったからこんなにも考えを巡らせているのだろう。

 左も危険、右も危ない.......

 ダメだ。八方塞がりだ。

 奴に死角などないというのか......

 さすがは魔王だな。フフフ、おもしろい。

 やはり最後の戦いはこうでなくてはな。

 いいだろう。受けてたってやる。

 俺は走りながらもニヤッと笑った。

 そして魔王の近くで地面を蹴り上げ、空高く飛び上がる。

「右も左も正面もダメなら、上からだ!」

 そう叫び剣を頭の上から振り下ろす。



 ばん



 俺は見えない壁に当たり、そのまま地面へと急降下を始めた。

 やはり、魔王は俺の裏の裏の裏の裏をかいていたようだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)とても面白い作品だと思います。勇者である主人公のカッコつけるけど、何だか優柔不断な感じがツボでした。本人にそういうこと言ったら怒るんでしょうけどね(笑)言葉のスパイスがよく効いていた…
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