銀の過去、それから黄金との未来
私、アリシア・エルトレーアはハイエルフである母、リースティア・エルトレーアと同じくハイエルフの父、マグサ・エルトレーアとの間に生まれた双子の一人である。姉のシンシア・エルトレーアと私は立派なハイエルフに育つようにと周りの支えもあって無事に年を重ね、成長していく事が出来ました。姉と私は魔力量が生まれた時から莫大であり、それぞれの固有能力も強力でした。いつかエルフ族のみんなを二人で引っ張っていき、守ってあげられるハイエルフになりたいと一途に思って厳しい修行にも耐えてきました。
しかし、年月が過ぎ私が18歳の時にそれは突如起こりました。ある日の朝、姉のシンシアと外で精霊と一緒に戯れていたら肌と髪の色が変色してきました。この事に姉と精霊たちは驚き、私から離れて行く末を見ていた。結局私は褐色の肌、金から銀へと変色した髪、この特徴からダークエルフになってしまいました。精霊たちは全力で逃げて行き、姉は何か恐ろしい物を見たような眼をしていました。私自身が一番驚いていました。
それからというとすぐに事の顛末が広まり、私は牢屋へ。お偉い人達は私への処罰のことで話し合っているのでしょう。ダークエルフとなった者は死刑、しかしハイエルフからダークエルフになる事は異例であり手間がかかっているのでしょう。
私は多分死刑になるだろうと予想がついていた。確かに異例ではあるが例外はない。私が偉い立場ならそうするだろう。
私は死ぬ前にこれまでの人生を思い返してみた。この世に生を与えられ、立派なハイエルフになるため姉と切磋琢磨した日々、精霊たちと遊んだ日々…今ぱっと浮かんだのはこれだけ。私の人生は私にとって幸せだと感じていた。しかし、こうして振り返ってみたが…なんというか面白くない人生であったと思えてしまう。後悔はしていないませんが…まだ何かをやりたかった。
そういえば、私と姉はいつか立派なハイエルフとなり皆に認められたなら一度でいいから森の外がどういう所なのか見てみたいと思っていましたっけ。森の外…見てみたかったです。
私はそんな風に思っていると何かの足音が近づいてきていることに気付きました。私たちエルフのものではなく、もっと重たい者の足音だと思っていた矢先扉が開いた。
そこにいたのは上半身だけ鎧を纏い、下半身を汚い布っ切れで巻いた鼻息を荒くしてこっちをギラギラと見る生物ーーーオークがいました。
私は本で読んだオークの特徴と合致したことによりある事を思い出した。女性のエルフとオークが交わったなら必ずエルフは孕み、オークの子を産むとーーー。
私は恐怖して動けませんでした。オーク達は私を見て少し戸惑ったが檻を破壊し外へと連れ出した。
そこには、捕らえられたエルフの女性、抵抗したが攻めきれなく死体となったエルフの男性、魔法でやられたとみるオークの死体。痛ましい戦いの傷跡があちらこちらにあった。
私はお母様やお姉様、お父様が助けに来てくれと、オーク達をやっつけてくれると思っていた。いや、願っていた。しかし、私たち女性のエルフ60名を助ける者は現れなかった。
私は思った。ーーー私がダークエルフなんかになってしまったからオークの襲来という最悪の災いを起こしてしまったのだと。もう、お母様やお姉様、お父様から必要とされていない事を。
私たちは荷車に乗せられ、運ばれた。私だけ見た目が違う事からオークの王に気に入れられ小さい荷車に一人で入れられた。私はもう何も考えられなかった。このままオーク達に犯され、犯され続け死んでいくんだと思った。
そのまま運ばれことに二日目が過ぎたある昼ごろ、急にオーク達の前進が止まり、食事の時間かと思っていましたがーーーその瞬間大気を震え、地響きがしました。遠くから何かの咆哮が聞こえ、その咆哮は圧倒的な力を感じさせるものでありました。
中からでは外の様子が全く分からず耳を頼りに外の様子を伺いました。次に聞こえてきたのはオークの王と誰かの話し声でした。しかし、それもつかの間すぐに戦いが始まりました。
戦闘は音だけでも大体分かりました。聞こえてきたのはオークの悲鳴、何かの咆哮、地面に叩きつけられる音、焼かれる音、潰される音などオーク達が一方的に倒されているのが分かります。
そして、何か大きな存在が圧倒的な存在感を持つ者にやられたのが分かりました。そして、戦闘が終わったと告げるような静寂。焼かれたような臭さがここまで来ました。
私は絶望の中から希望が生まれかけたがすぐに消えた。私は生きていることで他人へと迷惑をかけ、これからもずっとずっと災いを齎すのだと。考えただけで涙が溢れそうになりました。
その時、扉が急に開きました。そこにいたのは、黄金の鎧を全身に纏った高身長の人がいました。眼は見えませんが、異常さえ通り越えた存在がそこにいました。私たちハイエルフが持っているスキルの一つに精霊王の眼というものがあり、対象の魔力や生命力が分かるスキルである。目の前の対象は私たちハイエルフさえも赤子に見えるほど凄まじいものでした。
しかし、私は一瞬驚いたが眼を伏せました。希望を抱いてもまた絶望になるだけと考えたからです。
外へと出るよう言われますが私は悲しみからか動くことが出来ませんでした。それに今は一人になりたかったかもしれません。
しかし、鎧の人は私を抱きかかえ外へと連れ出しました。最初は何が起こったか分からなかったが絵本で読んだことがある王子様がお姫様にする抱っこ、通称お姫様抱っこをされていることに気がついた。私は心臓の鼓動が速くなっていること、顔が熱くなっていることに気付きなんとか収めようと試みますが変わりません。私は恥ずかしくなったため身体を縮こませ顔を俯かせました。
しかし、向かった先は私以外の捕らわれたエルフたちがいました。私は真っ赤な色が真っ青な色へと顔色が変わりました。殆どの人が泣いたためか眼が赤くなっており、私を睨めつけている。
鎧の人とエルフの女性が話し始め、何故こうなったか説明し私のことを伝え始めました。それは恨みの感情が出ており、私は責任を感じ耐えられなく泣いてしまいました。私のせいで皆さんに迷惑をかけてしまったこと。これからの自分の人生のこと。家族に捨てられたこと。様々なことが頭をよぎり抑えられなくなり眼から大粒の涙が止まらなくなりました。
ーーーしかし、鎧の人から発せられた怒りのオーラにより時間が止まったかのように思えた。私を含めエルフの皆は震えが止まらなく生きている心地がしませんでした。
鎧の人は私を抱えたまま移動し、少し離れた場所で降ろしてもらい初めて対面しました。その鎧の人を一言で言うなら『王者』。そう私は思った。
鎧の人は優しく私が思っていることを話すよう促した。私は抑えられなくなりありのままの自分を、心にある本音を目の前の人にぶつけました。今までないぐらい感情的に。最後に私の心の声を聞いてくれる人がいて嬉しかったです。なかなか言えないものですからね。
私は感傷に浸っていたら、いきなりそれは起きました。目の前の鎧の人の鎧が消え去り、中から男の人が現れました。エルフ族よりも輝く逆立った金髪、鋭くも優しさが感じられる爛々とした紅い眼、恐ろしい程整った顔立ち、見た事もない服の下にある鍛え抜かれた肉体、これら全てを持ち合わせた完璧な人物が目の前にいた。眼が離せませんでした。いや、離したくなかったのかもしれません。私よりも高い身長のため軽く見上げないと顔が見えません。私は目と目が合うと顔が熱くなるのを感じ、無性に恥ずかしくなってきました。心臓はかつて類を見ないくらいバクバクしています。真っ直ぐと私を見る男の人で頭が一杯になり混乱してきました。
更に追い討ちをかけるような発言を男の人はしました。
ーーー これからはお前の居場所は俺の隣だ。俺の家族に…伴侶になってくれ、と。
俺はアリシアに向かって人生、いや龍生?初めての愛の告白をした。アリシアはポカンとした顔をしており、思考が停止しているようだ。俺は少し悪戯をしてやろうと頬に手を当て……抓った。
「いひゃいッ!いひゃいへすッ!」
そう言うと俺はパッと手を離し、様子を伺った。
「で、返事は?はい、それともイエスか?どっちでもいいぜ?」
「選択肢が肯定しかありませんが…それよりも何故抓ったのですがッ⁈」
「愛情表現と捉えてもいいぜ。愛あるスキンシップだよ、アリシア。」
俺が名前を呼ぶと顔を真っ赤にし、こちらを睨んできた。あらやだ、可愛い子ね。
「いきなり名前で呼ぶなんて……先の発言といい今の発言といい何なんですかッ⁈」
「俺はお前に一目惚れに近い感情を抱いた。ただそれだけの事だ。アイ、ラブ、ユーーーッ⁉︎」
途中まで聞いて湯気が出るほど赤くなり照れていたが最後の発言で真顔に戻ってしまった。失礼な奴だ。
「…正直今頭の中が混乱していてどう返答するばいいのか分かりませんが……本当に言ってますの?私はエルフではなくダークエルフですよ?」
「それがどうした?ダークでもレインボーでも構わんよ。俺はお前が手に入るのなら何だって出来る。疫病?全部跳ね除けてやる。魔物の襲来?全滅させてやる。災い?来れるものなら来い。なんたって俺はーーー最強だからな。」
私は男の人が嘘を言っている風には見えなかった。そこには確かな実力と自信があると分からされる。こんな姿になった自分を受け入れてくれる人がこの世界にまだ残されているのが奇跡と思ってしまう。嬉しくて、ただ嬉しくて涙が出てきた。
「わ、私は…生きてもいいのですか?」
「あぁ、俺と共に生きようぜ。色々なところを回ったり、馬鹿みたいに遊んだり、がっつり金稼いだり、美味い飯をたらふく食べたり、腹が壊れるぐらい笑おうぜ。ーーーもちろん、子供も作ろうぜッ!」
「な、な、何てことを言うのですかあなたはッ!!感動と喜びで心が満たされていたというのに、最後に冗談を言うなんてッ。第一エルフはエルフとしか子は宿らない体質なんです。例外の魔物は置いとくして…。」
「あぁ、言っていなかったか?俺は半分魔物なんだ。だからねっ!」
俺はそう言うと親指を立てて、グッチョブサインをした。
「…本当なのですか?それだと貴方はオークやコボルト、ゴブリンですか?すみません私自信が無くなってきましたさようなら。」
「安心してくれ。後で正体を見せる。ヒントは最強の魔物とだけ言っておこう。さてと、そろそろあちらのエルフの女性たちを待たせるわけにはいかない。返事をくれ、アリシア。俺と共に生きるか、一人で生きるかを。」
「私は…ダークエルフになってしまい貴方と生きたなら確実に不幸にしてしまいます。で、でもッ、我儘を言うと貴方とい、いき、生きたいですッ!!」
真っ赤な顔だが真っ直ぐと俺の眼を見て告げるアリシアは真剣である。俺は嬉しくなり、アリシアの手を掴み抱き寄せた。柔らかく温かい身体を抱きしめた。
「俺がいつまでも一緒にいるから安心してくれ、アリシア。お前を絶対に一人にしない。お前の前に立ち塞がるものは俺が全て薙ぎ払う。だから、俺の最初の『家族』になってくれ。」
アリシアは小さく震えた声で「は、はい…。」と言いながら抱きしめ返した。俺は胸の中にいるアリシアが愛おしくて次の行動に移った。身体を少し離し、頬に手をあて上を向かせる。整った優しそうな顔、上気した頬、真っ直ぐに流れる銀髪、潤んだ翠眼、全てが欲しくなった俺はアリシアと唇を重ねた。柔らかく少し冷たく甘い唇。自然の香りが俺を包むような感じで時間は経った。そして、唇を離しお互いに見つめあった。
「私、アリシア・エルトレーアは一生貴方の隣にいます。不束者ですがよろしくお願いします!」
弾ける笑顔が俺の心を満たしていく。プ、プライスレス。
「俺のことはリュウと呼んでくれ。よろしくな、俺の嫁さん。」
俺は一人目の家族ができ、泣きそうになった。
ーーー爺さん、やったぜ俺ッ!